コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
・みせすの二次創作です
・腐要素なし
・完全初心者
»本人様及び関係者様とは全くもって関係ございません。«
レコーディングスタジオのトイレで一人、らしくもない深い溜息を零す。自身の下着の惨状を見るだけで更に下腹部痛が悪化していく気がした。痛々しいほど鮮やかな赤色に染まったそれはそこまで時間が経っていなくとも鼻をつんざくような嫌な臭いを放っていた。それを一秒でも長く視界に入れていたくなくて、慣れた手つきで速やかに処理する。もう何回目かの光景でも、それは決して見慣れなかったし何も感じなくなる訳でもなかった。レコーディングにも時間が掛かるし、何より自分が居なければまるで作業は進まない。メンバーにも関係者さんにも迷惑はかけたくないしかけられない。自分のせいで周りを困らせたくないという思いから、重い腰や痛む腹をなんとか持ち上げて急ぎ目にトイレから出る事にした。一歩、また一歩と足を踏み出す度にズキンズキンと内蔵が音を立てた。換えたばかりの生理用品が早くも汚れていく感覚に襲われる。まるで洗ったばかりのパレットに赤い絵の具を撒き散らすように、言語化しがたい不快感が下半身に静かに広がった。止まりそうになる足を気力だけで動かし何とか歩き続ける。普段は何とも感じなかったトイレからスタジオまでの廊下が今はとてつもなく長い道のりに感じた。何も考えずに歩いていれば、長かったのか短かったのか気付けばスタジオに着いていた。ドアの前で一度深く深呼吸をして、変わらず痛む腹に意識が行かないよう明るい表情を作るのに集中する。表情筋をよく動かして決して暗い表情は見せないように。不自然な言動はしないように。自分が今まで仕事をする時に必ず守ってきたことをもう一度頭の中で反芻した。そうやって頭で考えていると、少しだけだが痛みが半減する気がしたのだ。大丈夫、大丈夫と心の中で唱えてドアを開ける。戻りました、と部屋に居る人達に声を掛けていつものように作業に戻った。
しかし今回は自分が思っていたよりも重い日だったようで、完全に油断が仇となった。仕事がオフの日なら家で一人ゆっくりと過ごしていれば大したことが無かったように思えた今回の生理痛は、運悪くレコーディングの日と被ってしまった事で明らかに悪化してしまっていた。頭を使って曲の雰囲気やイメージなどを話す作業ではある程度体の不調は誤魔化せた。しかし問題はレコーディングの録音作業だった。自分の納得がいくまで録音するのはもちろん毎度のこと、サンプルの伴奏をよく聴き込みながらそれに合わせた歌声で歌うという工程は、ほとんどずっとヘッドフォンで音を聞いている状態になるのでもちろん頭痛は悪化していった。集中しなければならないのに、今日はヘッドフォンが頭を揺らす度その振動が脳内にまで響いて痛みを引き起こしているような感覚に陥り、全くもって集中など出来る状態では無かった。歌の入りがワンテンポ遅れたり集中が途切れて声が出なかったりと、いつもの様子では珍しくNGテイクを多く出してしまっていた。その時には既にメンバーだけでなく、プロデューサーやディレクターなども大森の不調に勘づいて心配していたが、大森自身にはその視線が他責的な意味が込められているような気がしてならず、不安や責任感に駆られていた。生理期間は身体的な症状だけでなく精神面にも影響が出るのが普通だ。大森自身もその例外ではなく、メンタル面でも特に今日は不調が目立っていた。少しの事で強い不安感を抱いたり劇的に悲しくなってしまったり。今日がその一例で、現在も相手に強い不安を抱いてしまいメンタルが不安定になっていた。無駄な場面で考えすぎてしまい勝手な思い込みで酷く落ち込み更にその気分は回復が難しい。自分でも後になると馬鹿らしいと反省するのだが、自律神経など生理の際のメンブレは自分でもどうしようも出来ない。でも決して仕事の妨げにはならないよう、人間関係がほつれたりしないよう、出来る限り感情的にならないよう細心の注意を払う事は忘れず接することを心掛けていた。今日はそれが上手くいったようで、一時は酷く落ち込んでいた気分もほとんど無理やりに上を向かせることでそこから更に下降することを防ぎ、特にこれといった大きな弊害も無くレコーディングを続ける事が出来たのだった。
──ありがとうございました!!
そしてレコーディング作業の全てが終わり、もう夜も更け始めたという頃。最終の作業をしていたスタジオでそれぞれ解散し、休憩室に向かう為メンバー三人で廊下を歩いていた。なんとか今日一日の作業もこれといった滞りが無く進められた。気持ちの問題だと自分に言い聞かせ続けていた為、終わった瞬間は一気にどっと疲れが出てきたが、終わらせられたからいいとしよう。早く帰ってしっかり休もう。そう思いながら三人で他愛もない雑談をしながら足を進めていた時。ふと先程まで感じていなかった腹痛や頭痛が今になって襲いかかってきた。それも一気にでは無く、足を一歩踏み出す度に体に少しずつのしかかってくるような重さを感じたものだった。歩きを進めていく度体が取り憑かれていくような、そんな感覚だった。流石に無理しすぎたか、と反省してももう遅かった。それらの痛みは留まること無く身体中を覆ってしまった。頭はガンガンと痛み腹はギリギリと絞り上げられているような感覚だった。確実にレコーディング中よりも悪化しているそれらを感じて途端に冷や汗が流れ出る。頭が真っ白になって二人の会話が聞こえなくなり始める。足も重く、段々と二人から遅れをとる。そしてその足が完全に止まった、その時だった。痛みでほとんど意識がなくなった体が軸を失いバランスを崩し始めた。急に立ち止まった大森に気付いた二人が振り返ると、下を向いて俯いたまま黙ったと思えば、その体は急に前へと倒れ始めた。流石に焦って駆け寄ると咄嗟に大森の体を支える。視界は見えにくくぼやけていたことから、大森は貧血を起こした事を漸く自覚する。二人に支えられ名前を呼ばれて倒れそうになったのだと気付いた。
「ごめんね、ちょっと疲れちゃってみたいで…笑」
と、咄嗟に笑顔を作り誤魔化そうとするが、そう言った後も二人は自分を支えている腕を離す気配が無かった。そのまま二人は大森の歩幅に合わせてゆっくりと休憩室まで支えて歩いてくれた。勧められて素直に休憩室の椅子に座って、お礼と謝罪を改めて二人に伝えると、ここに着くまでに溜まっていたのだろう二人の不満が一気に大森の耳の中に入ってきた。『何ですぐ言わなかった』『無理するなとあれ程言った』『ちゃんと相談しろ、休め』のような内容が殆どの言葉が飛び交った。そこから大森は十数分ほど二人から熱烈なお然りを受けた。
それから、二人に言われたのもあったがこれ以上心配を掛けてしまうのも申し訳ないと思い、しっかりと体調が悪い時は悪いと伝えるようにした大森と、そんな彼を全力で支えるようになった二人だった。