TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する





四 : 微 か に 赤 い 目 元 を 隠 す




カーテンの隙間から漏れる光で

朝を迎えた事を理解した 。


眠気眼でカーテンと窓を開け

パジャマから制服に着替える 。


夏休みに制服を着るのは少し違和感があるが

学校につけばそんな事気にならなくなるだろう 。


そう思い乍 冷えて少し固まったゼリーを咥えて

すぐに溶けてしまいそうな程暑い外に出た 。








外よりは比較的涼しい廊下を歩く 。

けれどやはり暑い事には変わりなく 、

少し歩いただけで流れるように汗が出てくる 。


それを少し強引に服で拭って

人気のない旧校舎の教室の扉を開けた 。



「 おっ 、来た 」


いつも通り1番に反応する佐藤 。

微笑み乍小さく手を振る山口 。

目線だけ此方に向ける田中 。


そんな 、普段と何一つ変わらない光景に

胸を撫で下ろした 。


「 今日来ないかと思ってた 、大丈夫? 」


「 うん 、平気 」


山口は僕の様子を確認した後 、

田中や佐藤と同じようにスマホに視線を向けた 。


円にして並べられた椅子に腰をかけ 、

そんな様子を黙って見る 。


「 今な! 夏休み何するか決めてんの! 」


そんな僕を見てか 、

佐藤は近くの机にあった紙を僕に見せた 。



夏祭りに行きたい 。

線香花火がしたい 。

都会の方へ行きたい 。

家で勉強会をしたい 。

虫取りがしたい 。

海に行きたい 。(ここは内陸)



個人個人がやりたいであろう事が書かれていた 。


改めて字や内容を見ると

誰が書いたか笑いが漏れる程よく分かる 。

虫取りってなんだ 。佐藤は小学生か 。


「 お前も書けよ 」


何処か不機嫌そうに紙を指差す田中 。

田中の性格からして 、無理やり佐藤達に書かされたんだろう 。


「 .. 道連れ? 」


「 正解 」


溜息を必死に堪えて近くにあった

鉛筆を持ち乍 頭を悩ませる 。


都合が無ければ素直に提案していただろう 。

けれど今年は学問の事や将来の事で積み重なっている状態で

遊びたくても遊べないのが現状だ 。



それに 、



何故か頭から離れないんだ 、



「 .. ごめん 」


「 他に 、1人で 、やりたい事があるんだ 」


頭を小さく下げ乍 席を立つ 。

その儘扉の方へ身体を向けると右手首を掴まれた 。


「 用事あんのは仕方ないし 、やめろとは言わないけど ちょっと時間取れたりしない? 」


佐藤の説得する声に耳を傾ける 。


「 お前だけ書かないとか狡いだろ 、書いてから帰れ 」


田中の言葉に頷く2人を見て

もう1度席に座る 。


少し考え 、鉛筆を持って丁寧に文字を書く 。



暇な日 、皆と会いたい 。



鉛筆を置いて紙を皆の方に向ける 。

紙に皆の視線が集まってなんとなく照れ臭くなり 、

早めに席を立ち 、扉へ手をかけた 。



「 田中もあざとテク身に付けたら? 」


「 山口うるせぇ 」



「 まぁこのテク私が教えたんだけどね 」


「 えっ 、そうなの? 」


「 嘘 」


「 佐藤は何回引っかかんだよ 」


味気ないが何処か幸を感じる佐藤達の会話を聞いて

小さく微笑み乍 教室を出た 。


「 またなー!!! 」と 、

まだ目の前の廊下に居るのに2階迄

聞こえそうな程大きな声で言う佐藤に眉間を顰める田中と山口を最後に





僕は意識の矢先をかけた 。








山の方へ近付くにつれ

建造物や人が減っていく 。


それでも僕は足を止める事をやめない 。



無性にあの屋敷に行きたいと思ってしまう 。

10分も経っていないであろうあの時の記憶がこびり付いて離れない 。


「 .. 雪那 、 」


彼女が最後に名乗ったこの名前 。

普段は聞かない 何処か上品さを帯びたその名前は僕が言うと少し違和感を覚える 。

それと同時に彼女の顔がボヤなく鮮明に脳に映し出される 。


あの世から舞い降りてきた様なその容姿と

普通の子供の様な無邪気さを兼ね揃えたあの声を

見たくて 、聞きたくて 、


頭の中で抑えられない程に感情が湧き出てくるんだ 。


1度は躊躇したが 、感情に操作される事にした 。



筋肉痛で鈍くなった足取りで1人 、屋敷に向かう 。

途中に虚しくもなるが無我夢中に足を動かした 。


この行動が今迄の僕にとって異常で 、

肯定出来る様な事じゃないことも解ってる 。


認めたくないけれど 、彼女に対して恋に近い感情を抱いているんだろう 。

あの短い時間で 、腹が立つ程心奪われたんだろう 。


そうでなければこんな事する訳が無い 。

元々人が苦手だし 、人の為に行動した事なんて

片手で数えられるくらいだ 。


そんな僕が馬鹿みたいに山へ登っている 。

唯 、彼女に会いたくて 。




「 はっ 、はっ 、 」


太陽が昇っている日中に見る屋敷は

夜とは違ってそのみすぼらしさが伝わり易い 。


2階の大きな窓を見た 。

彼女は今日も彼処に居るだろうか 。

そんな事を思い乍 屋敷の扉に手をかけた 。


ガチャ 、と音が鳴り

屋敷の中に足を踏み入れる 。


散乱したゴミ 。

天井にある大きな蜘蛛の巣 。

きっともう光る事のないシャンデリア 。


かつての姿が壊れかけ乍も残っている様子は

少し虚しくも 、哀しくも感じた 。


一通り見渡して 、階段を上る 。

彼女が居るかもしれないというのに酷く落ち着いている 。

その自分の様子が 、昨日と酷似していた 。


赤紫色のアサガオの姿を目視して

窓から外を見下ろす 。


振り向く時 、視界の端に真っ白なものが映った 。

一瞬 、乱れかけた息を整える 。


瞼を下ろして静かにそれに近付いた 。

そして 、ゆっくりと瞼を開く 。






“ 彼女 ” だ 。


金色の瞳は閉じられているが

肌と髪は何時以下なる時もその名に負けない程 、白く輝いている 。


こんな煙臭い廊下で倒れる様に寝転ぶ彼女に

不安を炊かれ 、しゃがみ込んで震える手を伸ばした 。



その時 、金色の瞳が姿を現した 。



「 っ 、! 」


伸ばした手を引っ込めて後退りをした 。

彼女が簡単に折れてしまいそうな細い腕で身体を起こす姿を

無意識に息を止め乍 見つめる 。


乱れた髪の隙間から彼女の瞳が僕を静かに捉える 。


「 っ雪 、那? 」


試している様な 、不安がってる様な視線に

耐えられなくなり彼女の名を呼んだ 。


一瞬 、彼女の瞳が大きく揺れて

何処か安心した様に微笑み返してくれた 。





next ↪︎ ♡ 1000

👋


雪は 溶けて 消え逝くもの 。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

1,021

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚