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『杏』での仕事を終え、買い物をしてマンションに帰った。
でも、今までとは違う。
ここは、祐誠さんのマンション。
こんなところに自分が住めるなんて夢にも思わなかったのに、なのに……
今、私は広すぎるリビングにいる。
「あっ、雨……」
6月に入り、少し雨が多くなってきた。
うちには無かった乾燥機があるから、洗濯物もすぐに乾く。
キッチンに立って、料理をする。
いろいろ考えて、今日はグラタンにしようと思う。
難しい料理は無理だって言ったら、祐誠さんは「雫の作るものなら何でもいい」って、私を甘やかすんだ。
だから、あんまり肩肘張らずに少しずつ頑張って勉強しようと思ってる。
「よし!」
私は、1人、気合いを入れて料理のアプリを見ながら美味しいグラタン作りに挑戦した。
もちろんグラタンは何回も作ってるけど、人のためとなるとちゃんとしないとって思う。
特に祐誠さんは、きっと普段から美味しいものを食べ慣れてるだろうし、何でもいいわけないもんね。
ここで一緒に過ごして、そろそろ1週間が経つけど、私を気遣って家事も手伝ってくれるし、料理もちゃんとほめてくれる。
緊張もするし、祐誠さんがいる日常はやっぱり不思議だ。
でも、何とか自分らしくいられてるって思う。
「ただいま」
祐誠さんを迎えるためにドアまで急いだ。
「おかえりなさい」
嘘みたいに美しい顔が私の目に飛び込んでくる。
「美味しそうな匂いがする」
「今日はグラタンです。祐誠さん、好きって言ってたから……」
「嬉しい。早く食べよう」
スーツを預かり、祐誠さんは洗面台へ。
両親が毎日してた当たり前のやり取り。
まさか自分が、こんな素敵な人とすることになるなんて。
うちの父はいつも「風呂~メシ~」なんて、色気のない人だけど、母は嬉しそうだったな。
見てて微笑ましかった。
今、2人はちょっと離れたところで静かに暮らしてるけど、今も仲良くしてくれてる。
普通の家庭に育った自分がこんな生活をするなんて、初めはドキドキだったけど、祐誠さんは本当に気取らない「普通」もわかる人だから。
一緒にいても疲れなかった。
こんなに優雅な暮らしをしていても、こんな感覚を持ってるって本当にすごい。
全然ケチじゃないし、だけど「普通」をバカにしない。
そんな人柄にますます魅力を感じてる。
食事を終えて、私は片付けを始めた。
「雫……」
流し台でお皿を洗っていたら、後ろから祐誠さんに抱きしめられた。
「ちょっ、ダメです。お皿割れちゃいます」
洗いかけのお皿を私の手からそっと外す祐誠さん。