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rsli
『きっと、あの瞬間を青春と呼ぶんだ』
昇降口のガラス越しに、夕陽が割れてた。
廊下の床がオレンジ色で、そこをロゼが歩いてくる。
「帰るの、遅かったな」
俺は靴ひもを結びながら声をかけた。
「委員会。思ったより長引いてさ」
ロゼはため息混じりに言って、ネクタイを少しゆるめた。
その仕草だけで、胸の奥がちょっとざわつく。
どうしてか分からんけど、
“夕焼けのロゼ”は、反則みたいに綺麗やけん。
「んじゃ、いっしょに帰ろか」
「いいの?」
「いいに決まっとるやん…どうせ途中で自販機寄るけん」
靴を鳴らして歩き出す。
階段を下りるたび、ガラス窓に夕焼けが映って、
二人の影がゆっくりと並んでいく。
「……なぁ、らいと」
「ん?」
「お前って、いつも楽しそうだな」
「そげんことないって。たまには沈んどる日もある」
「じゃあ、今日も無理して笑ってた?」
「……なんで分かったと?」
「見てれば、分かるよ」
ロゼの声は静かで、風みたいにやさしかった。
心の奥に触れるような、そんな声。
「……ロゼ、ずるい」
「なんで?」
「そうやって何でも分かるくせに、黙っとくけん」
「話してくれるまで、待つよ。俺は急がない」
立ち止まった足音が、校門の前で止まる。
空はもう、茜から藍に変わってた。
沈む陽の中で、ロゼの瞳が、光を映して揺れてる。
「……なぁ、ロゼ」
「ん。」
「俺、今日な……授業中、なんかふと考えたんよ」
「何を?」
「“この時間、いつか終わるんやな”って」
ロゼは少しだけ目を細めて笑った。
「……俺も思った。たぶん同じこと」
「うそやん」
「ほんと。終わるって分かってるのに、
それでも今を好きでいたいって思う」
風が制服を揺らす。
言葉が喉の奥で熱を持つ。
どうしてこんなに、胸が痛いんだろう。
「ロゼ」
「うん」
「俺、今この時間めっちゃ好きやけん。……お前とおる時間も。」
「俺もだよ」
短く返されたその言葉が、
風よりもあったかくて、
どんな約束よりも確かだった。
――帰り道の景色なんて、
何度も見てきたはずなのに、
今日だけは、少し違って見えた。
それがきっと、
“青春”って呼ばれるものなんだろう。