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10 - 大切さ. II

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2025年03月15日

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あれから数日が経った。何をするにも君のことが頭に過ぎって全てが上手くいかない。恋の病、なんて言葉を聞いたことがあるが、もし存在するとしたなら今の状態を示してそうなくらいだ。

「…………会いたい。」

そんな弱々しい言葉を呟いた時、机の上に置いておいたスマホが震え出した。画面を見てみればどうやら元貴からの電話のようで、直ぐに応答する。

「もしもし若井ー?」

「誰のスマホだと思ってかけてきたの?」

「もちろん若井!」

先程までの暗い気持ちを吹き飛ばすような明るい声色に表情が自然と緩む。

「今何人かと飲んでるんだけどさ、暇なら来てよ。」

「あー……。うん、行く。」

悩んでいる時はぱーっと飲むのが良いのかもしれない。楽しそうな誘いに快く了承する。

「じゃあ〜……あ、ちょっとごめん。」

そう言い残した元貴の声が電話口から遠くなっていく。代わりに聞こえたのは、スマホを机に置く音と周囲の騒がしい声だけだ。

「ーーーちゃん!……ぎ……じゃない?」

微かに元貴の声が聞こえる。電話をしている相手を放置するとは何事かと思ったが、大人しく待つことにした。

「ごめんごめん!この前行ったお店に居るから!じゃあね!」

「え、ちょ」

程なくして帰ってきた元貴が早口でそう伝え、電話を切られてしまう。音の無くなった空間に響く通話の切れた音にため息をつく。何だか最近は自分の中の幸せが逃げていってる気がする。そういえば、「ため息つくと幸せ逃げちゃうよ!」なんて涼ちゃんがよく言っていた。

無意識にそう考えていてしまった自分にはっ、とする。今日は涼ちゃんのことを忘れて沢山飲もう、そう自分に言い聞かせた。


「若井来たー!!!ほら、イケメンでしょ!」

「えー、やば。めっちゃ私のタイプかも〜。」

お店に入るや否や、既に出来上がっている元貴に大声で呼ばれる。元貴が居るテーブルには何人か女の人が居て、いかにも合コンという感じの雰囲気だった。何だかこの前のインスタの写真と似ている、そんなことを考えながら席に向かうと、ちょうど死角になっていた席に座っている人と目が合う。

「…涼ちゃん。」

うっすらと頬を赤く染めた見慣れた顔に思わずそう呟いてしまう。涼ちゃんが居るという可能性を完全に忘れていた。何も言わずに逸らされてしまった目線に、これからどういう顔をすればいいのかと頭を悩ませる。

「若井さーん!あたしの隣来てくださいよ〜!」

長い髪の毛を金髪に染めている女性に手を引かれる。騒がしいノリはあまり好きではないが、飲む分には問題はないだろう。

「まじ、いいの?あ、すみません、生一つ。」

女性の隣の席に座り、ちょうど通りかかった店員に声を掛けて自身の飲み物を注文する。

注文が終われば、さっきの女性が直ぐに話題を持ちかけてくれた。

「下の名前なんて言うの〜?」

「滉斗だよ。」

「滉斗!下の名前で呼んでいー?」

思っていたよりもいい子そうで何気ない会話が弾む。少しだけ距離感は近い気がするが、楽しく飲めそうだ。

「お待たせしましたーこちら生ビールでーす。」

「どーも。ね、乾杯しない?」

机上に運ばれてきたビールのジョッキを片手に、既に何杯か飲んでいるであろう彼女に声を掛ける。

「せっかくなら皆で乾杯しよー!!ほら元貴達も!」

凄く性格が明るくて、場の雰囲気がとても和む。人は見かけで判断するのは良くないな、なんて考えていれば、1人の不機嫌そうな声が場に響いた。

「ねえ〜、藤澤さん達。2人でずっと飲んでんのやめてよ。」

声を発したのは、茶髪のボブの女性で、何だか少し性格がキツそうに見える。口調も強いし、さっきまで明るかった場の空気が一気に凍ってしまった。

「ぁ…ごめん、?」

弱い口調で言葉を紡いだ涼ちゃんを初めてまじまじと見た。照明の当たり具合かどうかは分からないが、赤く染まった頬に、いつもより潤っている瞳。伊達に長く一緒に居たわけじゃない、かなり酔っていることくらいはよく分かる。

「まあまあ、そんな強く言わなくてもいーじゃん!ほら、2人もグラス出して〜!」

完全に気まずいムードが漂っていた場を変えたのは、やはり金髪の彼女だった。

「気取り直して、かんぱーい!!!」

元貴のテンションの高い掛け声で、乾杯をする。グラスがぶつかり合う軽い音を耳に、口元に運んだジョッキを傾けてビールを流し込む。少し飲んだだけで火照った身体に、自分の酒の弱さを再認識させられた。

楽しそうに話をしてくれる彼女の話に耳を傾けながら、涼ちゃんの様子を伺う。なんだか雰囲気が似ている女性と一緒に話していて、凄く楽しそうだ。少しだけ嫉妬するな、なんて思ってしまった自分の彼氏ズラに嫌気が差す。また憂鬱な気持ちが襲ってきた時、涼ちゃんのグラスが空になった。

「藤澤さん、もう一杯飲みますか?」

「ん!まだ飲みたいかも。」

「じゃあ、頼んでおきますね。」

ありがとう、と微笑んだ涼ちゃんの顔が酷く優しかった。心做しか女性の頬も赤くなっていて、イチャイチャを見せつけられている気分だ。もう見ないでおこう、そう思い視線を逸らした時、涼ちゃんのビールを頼んだ女性が店員に何か耳打ちをしているのが聞こえてしまった。

「あ、レモンサワー1つお願いします。……あの、さっきと同じようにできるだけ濃いめで。」






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