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#自作小説
びゃ
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#自作物語
びゃ
130
活動休止中に書き溜めしてたやつです。
前置き短いほうがいいのかな?
それでは、幻想的な世界へいってらっしゃいませ
第2章・第2話:魂の品書きと英雄の拒絶
館の中に一歩足を踏み入れると、そこは外の土砂降りが嘘のような、静謐で豪奢な空間だった。
高い天井からは、幾千もの紫色の宝石が埋め込まれたようなシャンデリアが吊り下げられ、深い闇を淡く照らしている。
「……ここが、レストランだっていうのか?」
レンは傷ついた体を引きずりながら、案内されたベルベットの椅子に深く沈み込んだ。
「ええ。ですが、ここでお出しするのは、飢えを満たすためのありふれた食事ではありません」
ヴァレンシアは流れるような所作でレンの前に立ち、銀のトレイから一冊のメニューを取り出した。
「この『ソウル・グランデ』は、魂喰い……あちら側の住人の方々をもてなす場所。そして、ここへ辿り着いたあなたのような方は、料理を注文する『客』であると同時に、彼らに捧げられる『極上の食材』でもあるのです」
ヴァレンシアの言葉に、レンは乾いた笑いを漏らした。
「……食材、か。似合いの最後だな。正義だなんだと喚き散らして、結局は化け物の餌か」
「自虐はおやめなさい。あなたの抱える絶望は、我々にとっては何物にも代えがたい香辛料なのですから」
ヴァレンシアは冷徹なほどに美しい微笑を浮かべ、レンの瞳を覗き込んだ。
「瀬戸レン様。あなたは先ほど、あの公園の橋から身を投げようとしていた。……いいえ、正確には、もう飛び降りていたのですよ」
レンの心臓がどくりと跳ねた。
そうだ。足元の感覚が消え、視界が逆さまになった瞬間……自分は確かに死を確信したはずだ。
「ここは生と死の境界線。あなたの命、あなたの『魂』と引き換えに、私はこの世で不可能な『最期の願い』を一つだけ叶えましょう」
ヴァレンシアから差し出されたメニューには、残酷なまでの誘惑が並んでいた。
・闇に溶けるコンソメスープ(特典:全記憶の抹消)
・深紅のボロネーゼ(特典:裏切り者たちへの鉄槌)
・冷たいフォンダンショコラ(特典:真実の証明)
「……真実の証明」
レンはその項目を震える指でなぞった。
「これを選べば、俺を嵌めた組織の悪行が暴かれ、俺の無実が証明されるのか?」
「ええ。組織は崩壊し、あなたは『悲劇の英雄』として永遠に人々の記憶に刻まれるでしょう。あなたが何よりも望んでいた『名誉』が、あなたの死と引き換えに手に入ります」
ヴァレンシアが指差した影の向こう。そこには、数多の「魂喰い」が、よだれを垂らし、今か今かとレンの魂を喰らい尽くそうと待ち構えているのが見えた。
レンは奥歯を噛み締めた。
無実を証明したい。自分を裏切った奴らを地獄へ叩き落としたい。
だが――その時、脳裏にこびりついて離れないのは、自分を「裏切り者」と蔑み、泣き崩れていた妹・結衣の顔だった。
たとえ自分の無実が証明されたとしても、組織との泥沼の抗争に巻き込まれた事実は消えない。自分が死んだ後、彼女は「悲劇の英雄の妹」として、また別の好奇の目に晒されることになるのではないか。
どれだけ名前が清廉になったとしても、奪われた彼女の平穏な日常は戻ってこない。
「……いや。そんなものは、もうどうでもいいんだ」
レンは自嘲気味に笑い、メニューの隅に書かれた、注文する者などいないであろう小さな項目を指差した。
・エスプレッソ(特典:名もなき安寧)
「……これにする」
ヴァレンシアは一瞬、意外そうに眉を動かした。
「おや。それはあなたの存在そのものを、世界から『最初からいなかったこと』にするものですよ? あなたの功績も、罪も、そして兄としての絆も……すべてが消えてなくなる。誰の記憶にも残らない、完全なる無です」
「それでいい」
レンは静かに目を閉じた。
「俺という存在がいなければ、結衣が『裏切り者の身内』として石を投げられることも、『悲劇の遺族』として憐れまれることもない。……あいつが、ただの普通の女の子として、誰にも邪魔されずに笑って生きていけるなら……俺なんて、最初からいなかった方がいいんだ」
「……自己犠牲、ですか。皮肉なものですね」
ヴァレンシアは嘆息するように言った。
「正義を捨てた男が、最後に最も正義らしい選択をするとは。人間の魂とは、実に不可解で……そして美しい」
ヴァレンシアは恭しく一礼すると、カウンターへと向かった。
「かしこまりました。極上の『自己犠牲』を添えたエスプレッソ、ただいま」
レンは背後に迫る化け物たちの息遣いを感じながら、静かに、本当に静かにその時を待った。
自分を消すことが、自分が妹にできる、たった一つの、そして最後の手向けだと信じて。
(第2章・第2話 完)
【第3話(最終話)の予告】
世界から「瀬戸レン」という存在が消えた日。妹・結衣の日常から兄の記憶は剥がれ落ち、平和な時間が戻る。しかし、彼女の心の片隅に残った、説明のつかない「喪失感」の正体とは。そして、レストランに響く新たな足音――。
コメント
1件
あっ、やばい…この話、心臓ぎゅってなった😭💔「真実の証明」じゃなくて「名もなき安寧」のエスプレッソ選ぶとこ、レンの結衣への想いが切なすぎて泣ける…自分を消すことが最大の愛って、尊すぎて叫びたくなっちゃったよ🥺✨ヴァレンシアのミステリアスな雰囲気も素敵で、幻想的なレストランの情景が浮かんでくるようだった!次で最終話なの寂しいけど、結衣の喪失感どう描かれるのか楽しみすぎる…!!