テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「――彼女の望むようにしてやればいい」
ヴァン・エルダール城の執務室。
王都エスパハレから届いた書状を読み終えたランディリックは、さして迷うこともなくそう結論を出した。
手紙の差出人は、ウィリアム・リー・ペイン。
雪鷹ではなく、通常便――早馬――で届いたそれは、ここに届くまでに最低でも一日半は要しているはずだ。
返信を送る際、ウィリアムの邸宅とも雪鷹でやり取りができるよう、香印を送っておいた方が良いだろう。
(雪鷹なら半日で飛べるからな)
書簡には、マーロケリー国王太子妃候補として話を進めることをダフネが渋々ながらも了承したこと。
その代わりとして、嫁入り支度には最高級のドレスや宝飾品を揃え、移動に使う馬車まで豪華なものにしてほしいと要求していることが記されていた。
中でも馬車については、誰が見ても高貴な者が乗っていると分かるほど華美なものを望んでいるらしい。
もし、希望が通らない場合はこの話を受ける気はないとまで宣っているのだとか。
本人には、この話が国同士の政治的な色を多分に含んだもので、アレクト王太子殿下直々の話だと伝えているにも関わらず、と申し添えられていた。
「相変わらずだな」
ウィリアムの苦悩する様子が目に浮かぶようで、ランディリックは紙片を手にしたまま小さく吐息を落とす。
ダフネ・エレノア・ライオール。
養女という形を取ってはいるものの、彼女に対して父親らしい情を抱いたことなど一度もない。
そもそも彼女を養女に迎えたのも、リリアンナのため――ひいては、いずれ必要になるかもしれない〝駒〟として利用価値があると考えたからに過ぎない。
そして今、その役目を果たす時が来た。
ならば、望むものくらい与えてやっても構わないだろう。
ランディリックにとって、ダフネの嫁入り支度に掛かる費用など惜しむほどのものではない。
むしろ――。
「自分からそんな愚かな要求をするとは……。随分と都合がいい」
手紙を机へ置き、椅子の背へ身を預ける。
ウィリアムは、ダフネの要求をそのまま伝えてきただけではなかった。
彼自身は、あまりにも華美な馬車や大量の嫁入り道具を携えての移動には反対しておいた、と書かれていた。
王都を離れれば、街道のすべてが安全というわけではない。
ましてや一目で金目のものを大量に積んでいると分かる一行ともなれば、賊の目を引く恐れがある。
それは、長年この北の地を預かってきたランディリックにも、言われるまでもなく分かっていた。
(さすがはウィル。優しいね)
ランディリックにとって、ダフネは愛するリリアンナを虐げた、憎むべき相手である。
正直な話、彼女がどうなろうと知ったことではない。自ら危険を招くような真似をしたところで、それをわざわざ止めてやる義理などなかった。
「セドリック」
「はい」
傍らに控えていた執事が一歩進み出る。
コメント
2件
うわー、なんかランディ、怖いよ?
うわっ、今回のランディリック、マジで冷めてる……。ダフネの要求を「都合がいい」って笑うところ、ゾッとした。駒扱いしてるのがひたすら重くて、ウィリアムの苦労が報われてほしいなって切なくなった。次が気になる。
#ハッピーエンド
高瀬船
885
#溺愛
星キラリ

6,282
#異類婚姻譚
和泉
420