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玄関のドアが勢いよく開く音と同時に、ズブ濡れの男が飛び込んできた。
「びっっっっっちょびちょなんやけど!!!」
「うるっさ!!何その濡れネズミ状態!?傘どうしたん!?」
「さっきの突風でぶっ壊れた!傘が裏返る音って心にくるよな……」
「それでなんでうち来んの!?自分ち帰れよバカ!」
「いや~、しょにだんちの方が近かったし?あと……ほら」
「……なに」
「寒い」
「知らんわ!!!!」
初兎は怒鳴りながらも、タオルを投げるように渡してくる。
いふはそれをキャッチして、にへっと笑う。
「やさし~~、しょにだ天使説」
「うるせえ!ソファ濡らすなよ!?ちゃんと玄関で拭いてよ!」
「わかってるわかってる、あと……着替え貸して?」
「お前、なんで当たり前の顔で言ってんの!?」
「いやさ、これ以上濡れたままでいると、風邪ひいちゃうやん?」
「……それはそうだけど」
「でしょ?だから……服、貸して?」
「はぁ~……シャツくらいならあるけど……」
そう言って初兎がクローゼットに向かおうとしたとき――
背後から「ずっ」といふが一歩近づく。
「……え、なに」
「いや、もうちょい濡れたままでいたらさ」
「?」
「“寒いからしょにだにくっついてた”って言い訳が使えるなって思って」
「お前、濡れた服のままで人に近づいてくんじゃねえ!!!!」
「いいじゃん、雨のせいやし!」
「それで許されると思うなーー!!!」
初兎の叫びはむなしく、ずぶ濡れいふはずんずん距離を詰めてくる。
そして――
「ほら、しょにだ、あったけぇ~」
「だから濡れてんだってば!!!体温じゃ相殺できねぇよ!!!」
それでも、ぐいっと抱き寄せられた瞬間、初兎は一瞬だけ動けなくなった。
雨で冷えた服越しに伝わる、意外に高い体温。
心臓が、跳ねる。
「……風邪ひいたら、しょにだが看病して?」
「はぁ?勝手に風邪ひけよ!絶対看病なんかしないから!!」
(でも、ちょっとだけ……この体温、嫌じゃなかった)
初兎は濡れたシャツのしわをぎゅっと握りながら、顔を隠すように下を向いた。