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ブーンと羽音をさせて慌ててコユキから距離を取ったアルテミス、ベル・ゼブブ。
コユキはスプラタ・マンユの面々に向けて聞いたのであった。
「いいのん?」
「「「「「「「モチロン!」」」」」」」
声が揃っている、どうやら一点の曇りもない世紀末覇者終焉時の気分、状態、らしい。
ならば、コユキも遠慮することは無い、そう判断してスキルを口にしたのである。
「『加速(アクセル)』」
プスッ!
一瞬で追いついたコユキは銀色に輝く巨大な蝿、ティンバーフライを手にしたカギ棒で刺し貫いたのであった。
久々に流れ込むメモリー。
兄や姉たちから数々のスキルを教えて貰い、その事を嬉しそうに報告する美しい銀色の悪魔、天使の笑顔が記憶の中で弾けた。
残念ながらムキムキマッチョでは無く、類を見ない程見目麗しい女性の姿をした彼女は、控えめにチリンチリンと鳴る可愛らしい声でコユキと善悪の根源たるルキフェルに自分の将来について語っていたのである。
曰く、運命の人に出会った時、その相手の為にここまで必死に覚えて来た兄姉(きょうだい)のスキルを駆使して役に立ちたいと、そして永遠に仲良く添い遂げたいのだと。
幼さを僅かに残した美しい娘はチリンチリンを早めて、照れ臭そうに俯きながら告げていた。
美しい狼と出会った、彼の傍(そば)で力を尽くしたい、スプラタ・マンユとして生きるのではなく、あの立派な神狼に嫁ぎたいのだと……
そこで、記憶の流入は途切れたのである。
コユキは掌(てのひら)に残った赤い石、ベル・ゼブブの魔核を見つめながら言葉を掛けた。
「アルテミスちゃん、心配しないで、アンタん所の宿六(やどろく)、あそこの坊主のお寺で確保してるからね! 絶対添い遂げさせてあげるから! どんと任せて置きなさいよ! アタシはアンタの味方だからね!」
掌の中の赤い石が、激しく明滅して喜んでいるかに見えたのであった。
「バッカ! グスッ」
オルクスがらしくない事に涙ぐんでいる。
モラクスが兄の言葉を引き継いだのであった。
「コユキ様、ありがとうございました、こんな馬鹿な妹ではございますが、ずっと心配な、どうしようもなくも、可愛い…… ワアァン! おーいおいおいおいおーいおいおいおい!」
珍しい事にいつも冷静なモラクスが泣いちゃった、のである。
他の五人も余程心配をしていたのであろう、揃って目尻を拭っていたのであった。
「僕チンの出番が無いのでござる……」
感動しているコユキと違い、善悪は不満そうな表情を隠す気も無いのであった、やれやれ。
兎も角、ビッグネームの一角、実の所半分、いいやガッツリ身内であったベル・ゼブブに完全勝利を果たした一行、『聖女と愉快な仲間たち』の面々はもうすっかりカイムや三頭の巨熊の事などあずかり知らぬ態(てい)で歩を進めたのである。
足元のグズグズしていた湿地帯は、いつの間にか乾ききった荒野の様な、岩と砂だけが敷き詰められた殺伐とした風景に変わっていたのであった。
ズズズズ、ズッズッズズズっぅ!
砂地の中から浮き上がって行く手を阻んだのは人骨、いいや骨の王、そんな感じの存在であったのである。
深紅のマントをその背に纏い、王冠を戴いたその骸骨は、手にした笏(しゃく)の先端に『栄者(アジア)』の証、深紅のルビーを煌かせ(きらめかせ)ながら尊大な声を届けるのであった。
「よくぞ来た、愚かな勇者たちよ、ここから先は何者も踏み込む事を許されぬ、『神』の領域である! 汚(きたな)らしく汚(けが)らわしい蝿に勝ち驕り(おごり)高ぶる弱者よ、今すぐ踵(きびす)を返し、惨めな人の生に戻るがよい! これは私の与える最後の恩寵(おんちょう)、そなたらに与える最後の哀れみであることを知れ! 我名はイーチ、闇を統べる死者の奏者、ベル・ズール・イーチであるっ!」
コユキは思わず声に出してしまうのであった。
「なんか大仰(おうぎょう)な奴が出てきちゃったわよ! ねえ、どうすんの、これ? どうすんのぉ? アタシから行こうか? なんかムカつくし!」