賑やかな居酒屋。
カウンターに近いテーブルには、メンバーやスタッフが笑い声を交わし合いながら座っていた。
皿の上に積まれた唐揚げやポテトはすぐになくなり、次々と注文が飛ぶ。
グラスの氷がカランと鳴る音が響くたび、ほろ酔いの熱気が空間を満たしていた。
 
 
 
 「おい、若井、飲みすぎだって!」
 
 
 
 大森が笑いながら声をかける。
けれど、若井は赤らんだ顔で「大丈夫、大丈夫!」と返しては、またグラスを空にする。
普段なら絶対にセーブしているはずなのに、今日はなぜか調子に乗っていた。
 
 ――いや、違う。
 
 酔いが進むほど、若井自身も気づいていた。
胸の奥に妙な熱を抱えていたからだ。
大森が笑うたび、無意識にそちらを見てしまう。
冗談を言っては周囲を和ませるその姿に、どうしようもなく心臓が高鳴っていた。
酒で顔が赤いのか、それとも別の理由なのか、自分でも分からなかった。
 
 
 
 「ほら、枝豆食べろよ。飲んでばっかじゃ、倒れるぞ」
 
 
 
 気遣うように差し出された小皿。
大森の手がすぐそばにある。
それだけで若井の喉が渇いた。
 
 
 
 
 宴は賑やかに続き、終電の時間が迫る。
スタッフたちが会計を済ませ、みんなぞろぞろと店を出た。
夜の街は涼しい風が吹いている。
夏の熱気を含んだ居酒屋から一歩出た途端、若井は「ふぅ……」と大きく息を吐いた。
 
 
 
 「顔、真っ赤だな」
 
 
 
 後ろから肩を叩かれる。
振り返れば、少し笑った大森がいた。
 
 
 
 「……ちょっと、風に当たってくる」
 
 
 
 若井はそう言って、ふらふらと細い路地へと歩き出す。
 
 
 
 人通りの少ないその道は、街灯がところどころに灯るだけで静かだった。
花壇の縁に腰を下ろし、壁にもたれて夜風を浴びる。
ようやく酔いが冷めてくると思った矢先。
 
 
 
 「……隠れるみたいにして、何やってんの?」
 
 
 
 声に顔を上げると、大森が立っていた。
手にはまだ飲み残しの水のペットボトル。
心配して追いかけてきたのだ。
 
 
 
 「別に……ただ、ちょっと頭冷やしたくて」
 「ふーん。じゃあ隣、いい?」
 
 
 
 当たり前のように隣に腰を下ろす。
肩と肩が少し触れ合う。
若井の心臓が跳ねた。
 しばらくは何も話さず、夜風だけが2人の間を通り抜けていった。
だが、沈黙を破ったのは大森だった。
 
 
 
 「……そういえば、この前の“キス未遂”、まだ覚えてる?」
 
 
 
 若井の呼吸が止まる。
酔いが一気に冷めたように背筋が伸びた。
 
 
 
 「なっ……そ、それは……」
 「顔、真っ赤。やっぱり覚えてるんだ」
 
 
 
 わざと挑発するような声。
口角を上げて、目を細めて見つめてくる。
 
 
 
 「……忘れるわけ、ないだろ」
 
 
 
 ようやく絞り出した声は震えていた。
大森はわざとらしく小さく笑った。
 
 
 
 「へぇ。じゃあ、もしあの時……ホントにしてたらどうなってただろうな?」
 「っ……」
 「ま、俺は別に嫌じゃなかったけど」
 
 
 
 軽く言うその口調が、若井の胸をさらにかき乱す。
冗談だと分かっているのに、心臓は痛いほど鳴り響いていた。
 
 
 
 「……元貴」
 
 
 
 呼ぶ声は低く震え、抑え込んでいた何かが今にも溢れ出しそうだった。
 
 
 
 
 
 
コメント
4件
おお!!これは急展開∑(°∀°)まさかの質問!? 若井も覚えてたんだなー
あ…何だ、ただの尊い空間かぁ…。 お邪魔しましたぁ…。(待て待て待て) マジで尊すぎで、家で発狂未遂しました…! 次も楽しみにしています😊