「……元貴」
 
 
 
 低く名前を呼ぶ声が、夜気に震える。
 居酒屋から離れた狭い路地。
街灯に照らされる大森の横顔は、挑発的に微笑んでいた。
いつものからかいだと分かっているのに、酔いも手伝ってか若井の胸の奥はざわついて仕方なかった。
 
 
 
 「そんなに睨むなよ。冗談だって」
 
 
 
 そう言いながらも、大森は目を逸らさない。
頬杖をつくように片腕を膝にのせ、視線はまっすぐ若井の奥を射抜く。
 
 
 
 「……ほんと、意地悪だよな」
 
 
 
 若井の声はかすれ、喉が渇いて息が荒くなる。
 
 
 
 「なぁ、もしさ」
 
 
 
 大森の声は少しだけ低くなった。
 
 
 
 「今、俺が“本気”でキスしてほしいって言ったら、どうする?」
 
 
 
 ――限界だった。
 若井は一瞬だけ目を閉じて深く息を吸い、次の瞬間、大森を反対側のビルの壁に追い込み、手をついて閉じ込めていた。
驚いた大森は少し目を見開く。
それでも逃げる様子はなく、むしろ挑発するように口角を上げる。
 
 
 
 「……なに? どうするの?」
 「……もう、からかうなよ」
 
 
 
 若井の声は切羽詰まっていた。
頬が赤いのは酒のせいか、それとも本音があらわになっているからか。
自分でも分からなかった。
ただ、心臓が張り裂けそうなほど高鳴り、呼吸がうまく整わない。
 大森はふっと笑う。
 
 
 
 「ふふ。顔、真っ赤。かわいい」
 
 
 
 その一言で、理性の最後の糸が切れた。
若井は衝動のままに顔を近づけ、唇を奪った。
 
 
 
 ――柔らかい。
 ――甘い。
 
 
 
 触れた瞬間、全身に電流が走ったようだった。頭が真っ白になる。
酒で火照った体温がさらに高まって、心臓の音しか聞こえない。
 大森は最初、驚いたように目を見開いていたが、すぐに瞳を閉じて受け入れる。
その瞬間、若井の世界は弾け飛んだ。
 
 
 
 「……っ」
 
 
 
 抑えきれない息が漏れる。
触れるだけじゃ足りない。
もっと深く、もっと強く。
若井は唇を押し付けるように重ね、舌先で大森の唇をなぞった。
 
 
 
 「んんっ……」
 
 
 
 かすかな声が返ってくる。
その声にさらに熱が上がる。
壁に押し付けたまま、唇を深く貪る。
舌が触れ合い、絡み合う。
アルコールの匂いと共に、大森の甘い吐息が混じってきた。
 
 
 
 「……わ、かい……」
 
 
 
 途切れ途切れの声で名前を呼ばれる。
唇が何度も重なり、舌が絡む。
若井の腕の中、声を奪われていく感覚に胸がざわめく。
——やばい。このままじゃ飲み込まれる。
ふと理性が顔を出し、大森は小さく肩を押して逃れようとした。
「……これ以上は……ほら、スタッフに見られでもしたら——」
だがその言葉は途中で途切れる。
若井の腕が強く腰を引き寄せ、耳元に熱い吐息が落ちた。
「逃げんなよ……元貴」
低い声に、背筋が震える。
「俺さ……お前の声、歌声も全部好きだけど……こうやってキスで漏れる声……俺だけのものにしたい」
顔を赤らめながら、それでも真剣に告げる若井。
大森は一瞬言葉を失い、次の瞬間ふっと笑った。
「……はは。何それ。欲張りだなお前」
挑発するように、首筋をさらして囁く。
「そんなに俺の声、聞きたい? じゃあ、もっと貪欲に奪ってみせろよ」
若井の目が、理性を手放す瞬間に赤く燃え上がった。
「……言ったな……」
再び口づけが深くなる。
「ん、んんっ……ふ……っ」
大森の瞳が潤む。
その声にますます昂ぶり、若井は頬や顎を執拗にキスでなぞった。
「っ、そんなに欲しいなら……ちゃんと捕まえてないと。俺、また逃げちゃうよ?」
挑発混じりの言葉に、若井の腕の力がさらに強くなる。
「絶対……逃がさねぇ」
壁に強く押しつけ、唇を奪い直す。
「……んっ……ふ、ふふ。かわいいな……必死すぎ」
大森はわざと意地悪に笑いながらも、結局その熱から逃げられなくなっていた。
「……元貴……もっと、欲しい……」
我慢できずに零れた言葉は、夜風にかき消されることなく響いた。
大森は壁に背を預けたまま、少し乱れた呼吸で若井を見上げる。
「……ほんと、酔うと大胆だな」
からかうような声色なのに、目は潤んでいる。
「酔ってなくても……」
若井の理性が完全に崩れ落ちていく。
 
 「……もう、止められない」
 
 
 
 荒い息の合間に零れる言葉。
大森は薄く笑う。
 
 
 
 「……止めなくていい」
 その許しに、若井は全身を震わせた。
大森の首筋を噛み、 耳の後ろ、鎖骨、肩口へと次々に熱を込めて吸い付く。
白い肌に赤い痕が強く刻まれていく。
 夜の狭い路地裏。
2人だけの世界に溶けていくように、激しくも切なく深いキスが続いていくのだった。
コメント
4件
オォ(*˙꒫˙* )すごいわかいもぐいぐいきた大森くんはなんかこれを求めてました感 両方かわいい((o(。・ω・。)o)) 若井がお酒飲んで素直なのもかわいい((o(。・ω・。)o))
ふぅ…。尊い。一瞬尊すぎて、天国の花畑にいるひいばぁちゃんが見えたような気がしたんですが…、きのせいでしょうか? こんなに神な作品が、無料で見れるのに、なんでレジ袋有料なんだ…? あ、次のお話も楽しみにしています😊