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数日後の夜、街は静かに眠りつき、ネオンの光だけがちらちらと瞬いていた。サトルはスーツの上にコートを羽織り、葵から渡された紙を折り潰さないようにポケットにしまってホテルへと向かった。指定された場所に近づくにつれ、彼の心臓は少しずつ早く打ち始めた。ホテルの外観を見た瞬間、サトルは目を丸くした。それは普通のホテルではなく、派手なピンクと紫の照明が輝くラブホテルだった。
「…ここ、か?」
と呟きながら、サトルは喉を鳴らし、緊張を押し殺して中へと押しを踏み入れた。
ロビーは甘い香水の匂いが漂い、鏡張りの壁が妙に現実感を薄れさせていた。サトルはフロントで部屋番号を確認し、エレベーターに乗った。金属の扉が閉まる音が耳に響き、彼の心に微かな不安と期待が混じり合った。
「葵…どんな気持ちで俺を待ってるんだろう」
と考えると、優しい性格のサトルは少しだけ胸が締め付けられる思いだった。エレベーターが止まり、長い廊下を抜て指定された部屋の前に立つ。サトルは深呼吸をして、ドアをノックした。
「….葵、いるかい?」
と柔らかな声で呼びかけると、事はないものの、ドアが僅かに開いていた。部屋に入ると、薄暗い照明がベッドを照らし、カーテンが風に揺れていた。しかし、葵の姿はない。サトルは少し戸惑いながら、
「遅かったかな…?」
と呟き、ベッドの端に腰を下ろした。スーツのネクタイを緩め、緊張を解こうと深く息を吐く。その時、シャワールームから水音が聞こえてきた。サトルがそちらに目を向けると、ガラス戸が開き、湯気と共に葵が姿を現した。仮面を外し、濡れた髪が肩に張り付き、タオルで体を隠している。普段の色気あるポールダンサーとは違い、素顔の葵は驚くほど無防備で可愛らしかった。
「サ、サトルさん!?い、いつから…!?」
葵は目を丸くして声を上げ、慌てて顔と体を隠そうとした。サトルは反射的に手を顔に当て、
「あ、ごめん!見ないよ、見ないから!」
と慌てて目を逸らした。葵は仮面を外すと、舞台上の大胆さが消え、恥ずかしがり屋な本性が顔を出すのだ。部屋中を見回し何か顔を隠せるものを探したが、見つからず、結局ベッドに飛び込んで布団に潜り込んだ。
「す、すみませんでした…!私、こんな姿で…」
と布団の中でモゾモゾしながら言う声は、小さく震えていた。サトルは目を隠していた手を下ろし、布団にくるまる葵を見て、驚きと同時に温かい気持ちが湧いた。
「いや….驚いたけど、すごく可愛いよ、葵」
と優しく笑う。葵は布団の隙間からサトルをチラリと見て、
「来てくださって…ありがとうございます…」
と囁いた。その声には感謝と緊張が混じり、葵の心を柔らかく揺さぶった。
「こんな場所で会うなんて…俺と、ヤるつもり…だったのかい…?」
とサトルが冗談めかして聞くと、葵は布団の中で体を縮こまらせ、
「そ、その…えっと….////」
と震え声で答えた。サトルは少し考え、ベッドサイドに置かれたバスローブを手に取った。
「とりあえず、これ着なよ。寒いだろ」
と優しく渡すと、葵は布団の中でモゾモゾしながらそれを受け取り、着替えた。サトルは背を向けて待つ間、葵はバスローブに袖を通し、布団から顔を覗かせて、
「サトルさん….///」
と呟いた。その言葉に、サトルは振り返って微笑んだ。
「そんなに緊張しなくていいよ」
二人はベッドに並んで座り、ぎこちない沈黙が流れた。葵は膝を抱え、
「私、こういう場所には慣れてるはずなのに…サトルさんといると、緊張してしまって…」
と打ち明けた。サトルはそっと手を伸ばし、葵の肩に触れた。
「緊張するのは俺も一緒だよ。でも、こうやって話してるだけで、嬉しいんだ」
と言うと、葵は目を上げ、サトルの優しい視線に触れて少し笑顔を見せた。
「私も…サトルさんと話してると、安心します…」
その笑顔に、サトルの心は温かくなった。
「お風呂でも入ってくるよ」
とサトルが立ち上がると、葵が慌てて袖を掴んだ。
「あ、あの…一緒に、入ってもいいですか…?」
その声は小さく、顔は真っ赤だった。サトルは一瞬驚いたが、
「…いいよ。一緒に温まろうか」
と柔らかく頷いた。二人はバスルームへ向かい、湯気が立ち込める中、服を脱いで湯船に浸かった。サトルは葵の体をそっと観察した。細い腰、華奢な腕、長い脚ーーまるで女性のように美しい曲線が、湯の中で揺れている。顔は仮面のない素顔で、長いまつ毛が濡れて下がり、頬がほのかに赤い。サトルは息を呑み、
「君…本当に綺麗だね」
と呟いた。葵は恥ずかしさで顔を隠し、
「サ、サトルさんにそんな風に見られると…恥ずかしくて…」
と小さな声で言った。サトルは笑い、
「ごめん、つい見惚れちゃって。でも、無理に何かするつもりはないからね」
と優しくフォローした。二人は湯船で体を温め合い、時折目を合わせては微笑み合った。お風呂から上がると、バスローブに着替え、再びベッドに並んで座った。葵は膝に手を置き、
「私、男性経験は何度もあるんですけど…未だに慣れなくて…」
と打ち明けた。サトルは少し驚きながら、
「そうなのか。でも、無理しなくていいよ。俺は君とこうやって過ごすだけで十分だから」
と答えた。葵はサトルに襲われるのをどこかで待っていたが、サトルはただ穏やかに話し続け、やがて
「少し眠くなってきたな」
とベッドに横になった。
「おやすみ、葵」
と呟くと、そのまま目を閉じてしまった。葵は一瞬がっかりしたが、サトルの寝顔を見つめているうちに、心が温かくなった。
「今までの人とは…全然違う…」
と呟きながら、そっとサトルのベッドに近づいた。躊躇いながらも布団に潜り込み、サトルの背中にそっと寄り添った。サトルの体温が伝わり、葵の心は初めて感じる安心感に包まれた。
「サトルさん…ありがとう…」
と囁き、目を閉じる。部屋には二人の静かな寝息だけが響き、夜は穏やかに更けていった。