ケンジさんはこれまで関係を持った男性と比べて、ちょっとだけどこかズレているところがある気がした。
まぁ何を基準にして普通と言っていいのか分からないところがあるし、こういうことをしている私自身も、相当変なヤツだと称されてもおかしくない。
「……綾香さん、お待たせしました」
ケンジさんは恐るおそるバスルームから顔を出して私を見たあとに、躰を小さくしながら出てきた。真っ白いバスローブを身にまとい、興奮を必死に抑えた表情を浮かべて腕を伸ばす。
私はわざとその腕に捕まって、目を閉じながら顔を寄せてキスをした。触れるだけのキスを深いものにしようと、ケンジさんが顔の角度を変えたのを見、慌てて両手で躰を強く押し退ける。
ここでさらに続きをしようと力技を行使する男に対しては、危険度が必然的に上がる。それを確かめるためのモーションだった。
だけどケンジさんは、私を抱きしめていた両腕を空中で彷徨わせるだけで、近づこうともしなかった。危険度は低めといったところだろう。
「ちょっとの間だけ我慢してね。私もシャワーを浴びたいから」
「あ、すみませんでした。先走ってしまって……」
「いいの。すぐに済ませるから待っていてね」
にこやかにフォローをする言葉を告げて、逃げるようにバスルームの中へと逃げ込む。