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亮平くんと付き合いはじめて、3ヶ月ほど経った。
亮平くんと一緒にいるようになってからは、帰り道に視線を感じることも郵便受けに手紙が入っていることもなくなり、私の周囲には平和が訪れていた。
元々呑気な私は、実害がなくなるとストーカー事件自体を忘れかけていたけれど、亮平くんは私に防犯ブザーや護身用のスプレーを持たせたり、どうしても仕事帰りの私を迎えに来れない時はなるべく人通りが多くて明るい道を選んで帰ってくるよう言い含めるなど、過保護すぎるくらい心配してくれていた。
そんな彼の行動に、心配性すぎるよと呆れつつも、愛されているなと嬉しくもあって。
今日も、亮平くんの仕事が長引いて一緒には帰れなかったけれど、代わりにメッセージが届いていた。
『”今日は一緒にいられないけど、ちゃんと気をつけて帰るんだよ。無事に部屋入って鍵かけたらメッセージ入れて”』
亮平くんの声で脳内再生余裕な愛に溢れたメッセージを読んでニヤけながら、マンションのエントランスをくぐる。
そして郵便受けから郵便物を取り出した瞬間、衝撃を受けてその場にへたりこんでしまった。
「な、なんで……なんで、」
そこには……またあの手紙が入っていたのだ。
”ねえ、この男誰?”
”もしかして付き合ってるの?〇〇ちゃんには僕がいるのに?”
”僕だけのものになってくれない〇〇ちゃんなんて嫌い”
”君を殺せば永遠に僕だけのものでいてくれるよね?”
手紙の束の一番下から出てきたのは、私と亮平くんが2人で歩いているところを写した写真。
それは私たち2人を分断するように真っ二つに破られていて、私の顔の部分は画鋲か何かで幾つも穴が開けられていた。
「やだ……怖い……こわい、っ」
私は震える手で亮平くんとのトークルームを開き、メッセージを送信した。
「”亮平くん、たすけて”」
『〇〇っ……!』
あの後何とか立ち上がって自分の部屋まで戻り、ソファの隅で小さくなっていると、やがて亮平くんが帰ってきてくれた。
床に散らばる手紙を見て、愕然とした表情を浮かべて立ち尽くす亮平くん。
『来るの遅くなってごめん。……また、あの手紙来たんだ……』
「しかも、今度は私のこと殺すとか書いてあって……怖くて……っ」
亮平くんに縋りつきたい衝動を必死に堪えて、私は膝を抱えて背中を丸めた。
正直、怖くて一人で外はもう歩けそうにない。でもそんなことを言い始めたら、仕事も生活も成り立たなくなる。亮平くんにはただでさえものすごく心配と迷惑をかけているのに、これ以上甘えるわけにいかない。
それに……何より、今は私だけに向けられているストーカーの殺意が、いつか亮平くんにも向くかもしれない。
だから……
「今まで、散々迷惑かけてごめん。私と───」
『……別れてください、は聞かないよ?』
「……え?」
どこか冷たい響きをもって放たれた亮平くんの言葉に恐る恐る顔を上げると、亮平くんは貼り付けたような笑みを浮かべていた。
笑っているはずなのに、何だか怖い。
『俺たちさ、一緒に暮らさない?
ここに住み続けるのは怖いから引っ越して……俺、〇〇を養えるくらいの甲斐性はあるつもりだから、仕事も辞めたいなら辞めていいよ。だから〇〇は、家で俺の帰りを待っててくれるだけでいい。
どこにも行かないで、俺の傍にいてくれればいい』
「り、亮平、くん……?」
亮平くんが笑顔を浮かべたまま近づいてくる。私の中に、次第に強烈な違和感が湧き上がってくる。
もしかして、という言葉が、頭の中でぐるぐる回る。どこか遠くから、逃げろ、という声が聞こえてくる気がする。
亮平くんが、私の頭を撫でようとして手を伸ばす。
……でも彼は、私に触れなかった。
私に触れかけた手を引っ込めて、亮平くんは辛そうに目を伏せた。
「亮平くん……?撫でてくれないの?」
『……〇〇、今、俺のこと怖がってるから』
「……!」
そんなことない、と否定しなくちゃいけないのに、私は言葉に詰まってしまう。
その反応で図星だったと確信したらしい亮平くんは、寂しそうに笑ってみせた。
『ごめん。俺、〇〇がいなくなっちゃうかもって思ったら怖くなって、つい我を失ってた。挙句に〇〇のこと怖がらせて……これじゃ、本当にストーカーとやってること同じだよね』
「違う……同じなんかじゃないよ。亮平くんは、ストーカーとは違う」
どうして一瞬でも疑ってしまったのだろう。こんなにいつでも私のことを気遣ってくれている人が、ストーカーなんてするわけがないのに。
私は立ち上がって、亮平くんに抱きついた。
「亮平くん、大好き。
私、これからも亮平くんの傍に居てもいいの?」
『俺が、〇〇に傍にいてほしいの。
……怖い言い方になっちゃったけど、さっき言ったことは本気で思ってるから。〇〇がもし外に出るの怖くなっちゃったなら、それもありかなって』
「……うん。もう外出るの怖い。私、亮平くんとずっと一緒にいる」
『ん、わかった』
亮平くんに抱きついた腕の力を強めると、彼もぎゅっと抱きしめ返してくれる。
『〇〇、愛してるよ。
俺が一生、守ってあげる』
亮平くんの優しい声を聴きながら、私は心が温かさで満たされていくのを感じた。