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「花蓮? 常連客の今野 花蓮か?」
「……恐らく、そうだと思う」
「そうか、分かった」
「――礼さん」
「どうした?」
「……真美の事も、そうなんだけど……花蓮の事も、あまり大事にはしないでやって欲しい」
「何言ってんだよ? お前、死にかけたんだぞ?」
「……確かに、そうだけど……でも俺は生きてる。それにさ、こうなったそもそもの原因は、俺にあるんだ。自業自得なんだよ」
「お前はホストだ。女に楽しい時間を提供するのが仕事だろ? 別にお前は間違ってねぇ」
「……だとしても、それ以上の事をしてたのは事実だ。その気にさせてたのも。利用するだけ利用して、本命が出来たから、切り捨てた。向こうからしたら、いくら俺がホストだと分かってても、面白くねぇよ。だから頼むよ……」
こんな事で許されるとは思ってないし、こんな甘い事言ってると、またいつか同じ結末を迎えるかもしれない。
だけどそれでも、俺は彼女たちの様々な想いを、受け止めなきゃいけない気がする。
すると、俺と礼さんのやり取りを聞いていた環奈が、
「礼さん、私からもお願いします。どうか、万里さんの言う通り、大事にはしないであげてください」
そう言いながら礼さんに頭を下げた。
「おいおい、環奈まで何言ってんだ? 野放しにしておいたら今度はお前まで刺されるかもしれねぇんだぞ?」
それには驚いたのか、明石さんまでもが話に加わってくる。
「……これはあくまでも勘ですけど、真美さんも花蓮さんも、きっと、後悔してると思うんです。万里さんの事が好きだからこそ、こんな事をしてしまって、一番傷ついていると思うんです。だから、きちんと話をすれば、分かってもらえると思うんです……」
まるで俺の気持ちをそのまま代弁してくれているかのように、俺が思っていた事を礼さんたちに伝えてくれる環奈。
そんな彼女の熱意に負けた礼さんは、
「……分かったよ。ひとまずこっちで今野 花蓮と接触をして話をする機会を作る。それでいいか?」
半ば呆れながらも俺と環奈に確認を取ってくれる。
「ありがとう、礼さん」
「ありがとうございます、礼さん。良かったですね、万里さん」
「ああ、ありがとう、環奈」
まるで自分の事のように喜び微笑み掛けながら再び手を取ってくる環奈。
そんな彼女の手を握り返しながら俺は、環奈にだけは敵わねぇなと密かに思っていた。
まだ安静は必要だが、幸い傷もそれ程深くなく処置が早かった事もあって俺は二週間程で退院した。
それから暫くは以前と変わらず引きこもる生活が続いていた。
あの一件からひと月が過ぎた、ある日の事。
「万里、ようやく今野 花蓮があの日の事を認めた。本人は自首しに行くと行っているが、お前の気持ちは変わらねぇのか?」
花蓮が俺を刺した事を認めたと礼さんが伝えに来て、今一度俺の意思を確認する。
真美の件も厳重注意で済ませてもらい、あれ以降店に姿を見せる事も無くなったという。
花蓮の方も同じような対応をしてもらう為、俺は礼さんに再度頼み込む。
「いいんだ。今回の事は全て俺に原因がある。だから、大事にはしないでやってよ」
「……分かった。それじゃあ、また来るわ」
礼さんは未だ納得のいっていない表情を浮かべていたものの、俺の意思を尊重してくれたようで頷いてくれた。
「……万里さん」
「ん?」
「……これから、どうしましょう?」
「そうだな……」
礼さんが帰り、環奈と二人ソファーに並んで座りながら、今後の事を話し合う。
俺自身については、ホストを辞めて、裏方として店を支えていこうと考えていた。
それというのも、近々系列店で新店舗出店の計画が出ているらしく、そこのオーナーをやらないかという話を貰っているからだ。
場所もHEAVENやreposから近く、慣れ親しんだ場所での勤務とあって、俺としては申し分の無い話だった。
しかし環奈の方が問題で、彼女は兼ねてからHEAVENを辞めて就職活動をしようと思っているらしいが、俺としてはそれに納得がいっていない。
正直、俺の手の届かないところへ行ってしまうことが、怖い。
だからと言ってキャバ嬢を続けて欲しい訳じゃねぇけど、だったらどうすればいいのか、俺の中ではずっとモヤついていた。
(つーかやっぱり俺は、環奈には働いて欲しくねぇ。俺の知らない世界へ、行って欲しくねぇ)
正直、ここまで環奈に依存して束縛をしてしまう自分にドン引きしてるところもあるけど、それでも、やはり傍に置いておきたいくらい、大切で愛おしい存在なんだ。
「――なあ、環奈。やっぱり俺は、お前には働いて欲しくねぇ。金の事は心配しなくていい。お前を養うくらい、どうって事ない」
「駄目です……そんなの……」
「俺は、環奈との将来を真剣に考えてる。今だって、すぐにでも一緒になりたい」
「…………それは、私もですけど……」
「そう思ってくれてるなら、先延ばしにしなくてもいいじゃねぇか? なあ環奈、俺ら、結婚しようぜ」
「で、も……私たち、付き合っている期間も短いですし……」
「そんなの、関係ねぇだろ?」
そう、付き合う期間なんて、関係無い。
俺は今もこの先も、環奈への想いは変わらない。
環奈もそうだと言ってくれた。
それなら、迷う事なんてないんだ。
俺は環奈との出逢いは運命だと思ってるから、彼女を誰よりも幸せにする自信がある。
「環奈、もう一度言う。俺と結婚して欲しい。そして、俺にお前を養わせて欲しい。男として、格好つけさせてくれよ。な?」
無理強いはしたくないけど、やっぱりこれだけは譲れないんだ。