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#オリジナル
めんだこ
風が、やわらかくなっていた。
戦いの痕は、まだそこかしこに残っている。
抉れた大地。
砕けた花。
そして――動かなくなった花人たち。
「……運ぼう」
アルトが、静かに言う。
誰に向けたわけでもない。
でも、その声に、皆が頷いた。
ひとり、またひとりと。
動かなくなった花人たちを抱え、丘へと運ぶ。
そこは、フィリアがよく空を見上げていた場所。
風が通る、静かな場所。
リュシアが、そっと膝をつく。
「……ここなら、いいかな」
誰に聞くでもなく呟く。
ノクスは何も言わず、ただ土を掘る。
その手は、いつもより少しだけ丁寧だった。
クレハも、無言で運び続ける。
傷だらけの身体で。
それでも、止まらない。
フィリアは、その様子を見ていた。
そして、そっと歌い始める。
あの歌。
旋律に、言葉を乗せて。
静かに、優しく。
風に溶けるように。
アルトが、それに重ねる。
声はまだ少し掠れている。
それでも、しっかりと。
歌は、広がっていく。
この場所に、残すように。
すべてを埋め終えた頃。
空は、夕焼けに染まっていた。
赤く、やさしく。
アルトは、少し離れた場所へ歩く。
そこには――
何もない空間。
でも。
確かに“いた場所”。
「……ここでいいか」
ぽつりと呟く。
クレハが、隣に立つ。
「……いいわ」
短く、答える。
その声は、もう震えていない。
アルトは、膝をつく。
手を、地面に触れる。
「……シオン」
名前を呼ぶ。
風が、少しだけ強く吹く。
返事はない。
でも――
もう、それでいいと思えた。
「……ちゃんと、終わったよ」
小さく言う。
「だから」
少しだけ、笑う。
「これからは、俺たちでやる」
クレハが、目を閉じる。
「シオンの思いを継ぐわ」
ぽつりと呟く。
「今度は、ちゃんと壊さないように守るから」
その言葉に、ほんの少しだけ棘があって。
でも。
それは確かに――
前を向いていた。
夜が、ゆっくりと降りてくる。
焚き火が、小さく揺れる。
リュシアとノクスは、少し離れたところで話している。
フィリアは、空を見上げている。
アルトが、その隣に座る。
「……静かだな」
フィリアが言う。
「うん」
アルトも頷く。
しばらく、何も話さない。
ただ、星が増えていくのを見ている。
「……ねえ」
フィリアが、ぽつりと。
「これから、どうするの」
アルトは、少し考える。
そして、息を吐く。
「……生きるよ」
それだけ。
でも、十分だった。
フィリアは、小さく頷く。
「うん」
同じ言葉を、胸の中で繰り返す。
壊れた世界は、元には戻らない。
失ったものも、戻らない。
それでも。
ここに残ったものがある。
繋いだ声。
残した歌。
触れた温もり。
そして――
これから、選ぶ未来。
風が吹く。
どこかで、小さな花が揺れる。
それは、誰にも気づかれないくらいささやかで。
でも確かに――
そこに、咲いていた。
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