鈴木彩加(32) with 柳原正弘(42)
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『こんばんは~』
『こんばんは』
『今日は何してますか?』
『もちろん、飲んでますよ』
『どうせ飲むなら一緒に飲みませんか?』
『子供たちの面倒をちゃんと見てやりなさい』
『今日はパパの家にお泊りです』
『へえ』
『せっかく近所に住んでるんだから、たまには緒に飲みましょうよ』
『ここら辺、飲み屋ないじゃん』
『私の家に決まってるじゃないですか』
『マジで』
『マジです』
『酒あんの?』
『ビールとストロング系の酎ハイなら』
『わかった。適当に買ってく。30分後な』
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「マジか」
鈴木彩加(さやか)は思わず立ち上がって部屋を見回した。
横転している段ボールのバス。
散らばっている色鉛筆。
ところどころに落ちている袋詰めの飴。
開いたままの絵本。
海に行って膨らましたままの浮き輪。
「来んの?この部屋に?」
持っていたストロング系の酎ハイを傍らに置くと、彩加はまずテーブルに置いてある、お昼ごはんに食べさせたうどんのお椀を台所に片付けた。
飲んだ牛乳の線が付いているコップを水につける。
振り返って今度はオモチャを両手に抱える。
普段はミカちゃん人形と、シルバリアファミリーと、トニカは違う箱なのだが、今日はいっしょくたに近くにあるオモチャ箱に詰め込む。
散らばるDVDを拾いケースに入れてテレビの下のボードに入れる。
「げ。最悪だ」
油性ペンで、男性器が書かれている。
「トモキ~」
息子の名前を呟きつつ、試しに布巾で拭いてみるが、全く消えない。
(いいや、できることを!)
慌てて洗面所をチェックする。
よし。髪の毛は落ちてない。
トイレを見る。
昨日掃除したばかりだが、トモキの失敗がないか念入りにチェックし、一応トイレクイクルで全体的にふき取った。
「あとは…」
腰に手を当てながら部屋を一周見渡す。
ピンポン。
(え。もう?!)
彩加は大きく深呼吸をしてから髪を手櫛で整えた。
自分の姿を見下ろす。
タオル生地の部屋着。
ピンクと白のボーダー。
短パンは膝上10cmくらい。
自分でも白いと思う太腿に、緑色の血管が浮いている。
女として“悪くはない”はずだ。
彩加はドアを開けた。
「……よう」
そこには、Tシャツに短いジーンズを履き、ビーチサンダルをつっかけた、会社で見るときよりもだいぶ若く見える上司が、コンビニ袋を片手に立っていた。
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