パパイア 様より、どろどろ帝日
※旧国
本日の日本は、いつもの数倍忙しかった。
風邪だかなんだかの感染症が流行しており、社内全体で蔓延中なのだ。
そのため日本を含む残っている社員たちは馬車馬の如く働かされ、常に書類がデスクを埋め尽くしている。
目がまわるような仕事量を死に物狂いでこなしていれば、当然残業もあるわけで。
帰る時間は遅くなり、日本が帰宅した頃には深夜0時を過ぎていた。
「…た、ただいま帰りました…」
コソコソと扉を開けて鍵をかけ直して、バレぬうちに部屋へ行こうと靴を脱ぐ。
「おかえり、日本」
返ってきて欲しくない返事をもらい、血の気が引いた。
思わず肩が跳ね、背筋がシャンと伸びる。
「なぁ…どうして門限の一つも守れないんだ?私はとても悲しい」
ぬぅっと絡みつくように日本の頬を触り、猫撫で声で囁く。
「私はお前が心配なんだ…わかるだろう?」
「ひっ…は、はい…ごめん、なさい…」
絞り出した言葉は目の前の人物の望むものであり、嫌だともやめてとも言えない。
彼は日本の父である。
ギュッと抱きしめ、優しく声をかける姿は微笑ましく見えるかもしれない。
だが、その内側にあるのは歪んだ愛のみ。
束縛することでしか愛情を表せないのか、行動一つ一つに制限をかけ、日本に自身の望むカタチを押し付ける。
もし少しでも型から外れれば、心配と称した矯正が待っているのだ。
「日本、私の言いたいことはわかるな?」
すぅっと細められた赤い瞳。
握られた手に込められる力。
「はい…」
ニコリと笑って、父は次の言葉を待った。
「…父上、や、約束も守れない私に、教育を、お願い…します…」
俯きながら、震え詰まる言葉を吐く。
まるでキツネのような、物怪のような恐ろしいほど綺麗な顔で笑みをたたえ、手を引かれた。
普段は大日本帝国の部屋として使われている和室に連れられ、戸を閉める。
次の瞬間には床に倒れ伏し、大日本帝国に跨られていた。
筋肉があるせいで見かけよりも重く、圧迫されて息が苦しい。
「さて…賢いお前に、少し問題を出そうか」
「は、はい…」
「お前の門限は何時だ?」
「…18時、です…」
「今は何時かわかるか?」
「……1時、です…」
「流石は私の子だ、偉いぞ」
わしゃわしゃと乱雑に撫でられた。
褒める言葉と仕草に反し、その声はどこまでも冷たく甘く聞こえる。
「…では、お前は何時間門限を破ったことになる?」
「………」
答えれば日本の命が危ういことはわかっているのだ。
しかしながら、この質問に答えなくても危機は近づいてくる。
「どうした?お前ならすぐにわかるはずだ。答えてくれ」
「…ッ…な、7時間、です…」
「そうだよなぁ、7時間も遅れて帰ってくるとは、一体何を考えているんだ?」
首を触られる感覚がした。
脳が警鐘を鳴らしている。
「ひっ…ご、ごめんなさいっ!きょ、今日はほんとに忙しくてっ、か、帰る暇が、なくてっ」
「そうかそうか、忙しかったのか…それは大変だったな、日本 」
きゅーっ…と、首を触る手に力が籠り始め、 ゆっくりと空気の通り道狭くなっていく。
やがて、その細い首にある道は無理矢理封鎖された。
「か、ひゅ…ッ…ゃ、やめて゛、くださ゛… 」
「大人しくしなさい。お前から望んで教育を受けると言ったのだろう?口答えとは、まだまだ余裕そうだな」
更に強く絞められ、意識が飛びかける。
「ほら、頑張れ頑張れ。遅れた分、7秒耐えたら解放してやる」
いーち、にーい、とゆっくり数えられることにもどかしさを覚え、抵抗も呼吸もできないまま痙攣することしかできない。
「しーい、ごー、」
(後少しっ、後少しっ)
「ろーく」
(はやく!!!)
「なー、な」
「ッげほッ!!ひゅーッ…げほッ、ごほッ!」
約束通り彼基準の7秒で、手はパッと離された。
突然流れ込んでくる空気に咽せながら、なんとか生きていることを実感する。
まだまだ落ち着かない肺と横隔膜をフル稼働させ、あの世への橋を逆走した。
「意識を飛ばさなかったことは褒めてやる、流石私の息子だな」
「ぁ…ありがとぅ…ござい、ます…」
まだ腹の上に乗られていることが気がかりだが、優しく頭を撫でられたので笑みを返す。
「それでは、次も意識を飛ばさぬよう頑張ってくれ」
「ぇ」
視界の端に拳が見えたかと思えば、耳はさっさと鈍い音を拾った。
頬に音とは全く違う鋭い痛みが走る。
口を切ったのか、僅かに鉄の味がした。
「まずは1発。後6発だな」
「ぃ、あ…や、ゆ、ゆるして、くださッ…」
また、視界の中に拳が映り込んだ。
「ひゅー…ひゅー…」
「お疲れ様、日本。もう二度とこんなバカな真似はするんじゃないぞ?私はお前を愛している。心配で心配で堪らなくなってしまうから、きちんと門限通りに帰ってきてくれ」
「ぅ…わ、わかり、ました…ごめん なさい…」
「わかってくれたのならいい。もう夜も深い、早く寝なさい」
「はい…」
たった7発。されど7発。
大日本帝国は鬼と呼ばれるほどに力が強く、その名を馳せていた男である。
退役しているとしても、ただの社会人がその拳を受け止め切ることは決して容易くない。
腫れた頬を押さえながら、日本は自身の部屋へ戻って行く。
その弱々しい後ろ姿を眺め、大日本帝国は愛おしそうに口元を歪めるのだった。
「痛い…容赦なさすぎでしょう……うわ、首に跡ついてる…腫れも思ったより酷いし…明日、休んだほうがいいかな…でも、そうしたらみんなに迷惑かけるし…」
忙しかったからこのような目に遭ったのだから、休むとさらに負担が増えるだろう。
首を絞められて殴られた傷がひどいからって、同僚たちに負荷をかけるわけにはいかない。
首の跡は目が覚めたら治っていることに期待して、そのまま眠る。
もちろん治っているわけもない。
痛々しい跡と出社することになったが、跡はまるで首輪のように見えた。
prrrr…
初期設定から変わらない電子音が鳴り、日本の携帯が震える。
「?父上からだなんて珍しいな…」
仕事を中断し、父の番号からかけられた電話に出た。
『…もしもし、大日本帝国さんのご家族の方ですか?』
違う。
これは知っている声ではない。
「…はい、そうですが…もしかして、父に何かあったんですか…? 」
不思議と声が震えてくる。
『実はお父様が事故に遭われまして…入院のため、当病院にて手続きが必要なんです』
「事故…わ、わかりました!すぐに行きます!ば、場所は…」
『〇〇病院です、よろしくお願いします』
そこまで話して、日本は礼を言ってから電話を切った。
上司や同僚たちには『父が事故に遭って入院することになった』と説明し、最低限の荷物をカバンに入れて飛び出す。
急故にこの際金がかかっても良いとしてタクシーを呼び、少し離れた病院までかっ飛ばしてもらった。
タクシーの座席でそわそわと車窓の外を眺めたり、携帯を見たり、とにかく忙しなく体が動く。
あの人が事故に遭ったなんて、まさかトラックにでも轢かれたのか?多重事故の中心にでもいたのか?と頭の中では最悪の事態ばかり繰り返し上映される。
「着きましたよ、料金は…」
「これでお願いします!」
ぽんと出した一万円の釣り銭をポケットに突っ込み、車内から飛び出すようにして病院へ向かって走った。
受付から聞いた病室まで早足で行き、ドアを開ける。
「父上!!!」
最悪な姿を想像していただけに、つい声が大きくなってしまった。
「…日本、来てくれたのか?」
だが、想像は想像でしかないわけで。
足に包帯を巻き、固定されたまま小説を読む大日本帝国がベッドに寝ている。
「ぁ、よ、良かった…!」
「どうしたんだ?そんなに泣きそうな顔をして。おいで」
崩れ落ちそうな足をなんとか運び、真っ白なベッドで横になる父の元へ。
腕を広げ、親子はそのまま抱き合った。
よかったよかったとぽろぽろ涙をこぼす日本を宥めるため、優しく頭を撫でる。
足は折れてしまったが、上半身はなんら問題ない。
結局、日本は父親が生きていて安堵してしまったのだ。
いくら酷い傷を負おうが、束縛されようが。
事故に遭ったと聞いて、これまでにないほどの恐怖を感じた。
初めて父親に死んでほしくないと強く思い、会社を早退した。
ポーカーフェイスで感情をひた隠しにするのが得意な自分が、安堵して泣いた。
初めて、ろくに会話をする気にもなれない父親に甘えた。
5分ほどそうしていると医師が入ってきて、手続きで書類やらなんやらを書くことに。
その日は急いで帰って、入院の支度を整えてから戻ることになった。
暗い院内で、大日本帝国は瞼を閉じて考え事をする。
今の私は足が折れ、このベッドの上から動けない。
日本がその気になれば、すぐさま身を隠し、私から逃げられたはずだ。
そうしなかったということは
「…やはり、あの子は私の息子だな」
昨夜の同じ頃、自分は息子のことを散々に殴りつけていた。
泣き喚くことはなかったものの、恐怖に染められた瞳には不可思議な魅力が詰まっていて、危うく嗜好目的になりかけたのだ。
だというのに、自分が事故に遭ったというだけで全速力でここまで来て、無事だとわかれば安堵に涙を流し、初めて日本から抱擁を返してきた。
適当に歩いていたら事故に遭っただけだ。
避けられはしたが、面倒だから当たっただけ。
有責はあちらであり、息子の愛情を確かめることができた。
大日本帝国にとってはこれ以上ない幸せな終わり、日本にとっては最悪な終わり。
大日本帝国がいなくなることを誰よりも望んでいるのは日本なのに、いざその時になればあの態度。
もう離すことも、離れることもできない。
我々は相思相愛なのだから。
コメント
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本当にそうですね(笑) 余計なことをしなければ望みはあったものを…。調子乗って煽り散らかすところに血の濃さを感じます。 どれだけ頭が良くてもそういう抜けてるところは経験の浅さというか平和に育った弊害というか年の若さを感じますね。今まで高みの見物をしてきたところを一気に落とされて独露さんたちと同じ境遇になる日さん誰も擁護できないくらい自業自得過ぎる。
わぁ〜〜〜〜っ!!! 本当ですかっ!?有難う御座います!えっとですね、では遠慮なく語らせて頂きますね? まず前提としてですね、今回のは日本さんは『部外者』です。 縁も血の繋がりもない只の一般人(再婚相手の連れ子つまり義兄)としてまだ学生で女で血が薄いけどにゃぽんちゃんがクソみたいに作られた子供らの中で比較的マシだったため当主になっちゃたんですね。でも頭の出来があんりよくなくていつもアたオカな御先祖様達にボロボロにされてるにゃちゃん。日さんは頭は良かったけどそもそも血が繋がってないので空気。そんなかわいそうなにゃとかたまーに会合やらで他の旧国達に連れられて集まる他の子孫たちを見てかわいそーだなー、あー俺ホントこんなクソみたいな家に生まれなくてよかったなーあんなキ✕ガ✕な奴らの血持ってなくてほんとによかったー、てか前世でどんだけ悪行犯したらあんなのの子孫になるわけ(笑)?とか同情こそすれど我関せずでだから何?俺はかんけーないし、とか言ってふつーに卒業したら妹を見捨てて屋敷を出る気満々だった日さん。(表では猫かぶってる)そして卒業間際事件は起こる。家を出るために荷物を整理してると押し入れの奥底からとっくの昔に死んだ母の私宛に書かれた手紙が見つかる。そこには、実は日さんが前当主(にゃぽんの父)との間の子だということが書かれていた。つまりにゃと腹違いの兄。まさかの下手なホラー映画より鳥肌物な事実に絶句。しかし流石というべきか妹を自由にしてやろうなんて考えるわけもなくこれを燃やして隠滅しこの事実を永遠に闇の中に葬ることを決意。しかし、流石はあのキ✕ガイ先祖の血を色濃く継ぐ日さん。家さえでてしまえばこっちのものだと最後の最後に血を継いでいることを暴露して尚且つ長々と煽り文句を書き連ねた手紙を置いて、そして同じ境遇の子孫たちにも暴露し憐れみの言葉と煽りの言葉を送りつけてそして、何事もなかったように『部外者』として家を出て無事勝ち逃げハッピーエンドを手に入れましたとさ。めでたしめでたし。 …で、終わるわけがなくご都合逆行。今回はどーしよっかなぁ〜とか思ってたらしかし、まさかの全員に(にゃちゃん以外)記憶ありだったっていうね。それからはにゃちゃんと立場逆転…というよりにゃちゃんのときより嬉嬉と(虐✕)スパルタ教育をされるし構われるし鬼畜理不尽過ぎる扱いを受ける日さん。めっちゃ愛されてますね。足首とかに鈴とかくくりつけられててしゃらしゃらなってどこにいても場所がバレるし呼ばれたら10秒以内にいかないといけない。因みににゃちゃんは養子にいって幸せになるっていうね?つまり、極論結局自業自得な猫かぶりクズ日さんと今までの分までしっっっかり血が濃い孫を可愛がる平安鎌倉室町(アタオカランキングトップスリー)を筆頭にしたアタオカご先祖様達が欲しいです。 どうかお願いいたします🙇 めっちゃ長くなりましたすみません