テラーノベル
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ジェラールが、あの教会の男をもっと詳しく調べると言った。それも、国から許可がないと行えない、特別な尋問方法を使って。
なぜ、あの洞窟から男は逃げることが出来たのか?
どうやってフランツに接触し、洞窟に入れたのか?
誰の指示によるものだったのか?
その他、諸々……知りたいことが沢山ある。
ジェラールは、リーゼロッテのやらかし――宮殿に地震のような揺れを起こしてしまった事を、あの男が関連しているかもしれないと、報告するつもりのようだ。
知り得た情報は、特殊な魔道具を使ってリーゼロッテに共有すると約束した。
――そして。
何やら閃いたらしいジェラールから、ある提案をされた。
「リーゼロッテ、聖女候補にならないか?」
「……はぃぃ?」
理解出来ずに間の抜けた返事をしたリーゼロッテは、コテンと首を傾げる。
「勿論、ただの候補だ。この国は、聖女を守護の象徴として讃えていながら、実際は軟禁状態。教会と王族の権威を守る為、少女をお飾りにしてバランスを取るやり方には――もう、うんざりだ。だから、この制度を壊す」
「……壊すって? まさか、国王にでもなるつもり?」
冗談めかして聞いたが、ジェラールはニヤリと笑っただけだった。
「リーゼロッテが、聖女候補になってその力を見せれば、教会の上の奴等が目を付ける。聖女がお飾りでなくなるのだ。王族よりも、教会が優位に立てるチャンスだと考えるだろう。政治に介入してくる枢機卿辺りが、すぐに動く筈だ」
「では、アニエス様は?」
「癒しを使える貴重な存在である事には変わりないが。上手く降格すれば……婚姻は無理でも、あの従僕とずっと一緒に居られるだろう」
(あ、バレてたのね二人の関係。……本当、侮れない王子だわ)
「ですが。私は絶対に、聖女にはなりませんよ」
胡乱げに、ジェラールを見た。
「だから、壊すと言っただろうが。……考えがある」
「わかりました……。私は、どの様に動けば良いですか?」
◇◇◇◇◇
辺境伯邸に戻るとすぐ、ルイスの執務室へ向かい、ジェラールからの提案と趣旨を伝えた。
「そうか……。私も気になる事があった」
とルイスは話し出す。
リーゼロッテとテオが王宮へ向かった後、屋敷の使用人を集めて、あの魔玻璃に触れさせたそうだ。
予想通り、魔石が埋め込まれていた者が数名いたらしい。
「共通点は、姉上の慈善活動で、一緒に教会や領地内の小規模施設をまわった者。それから、フランツを初めて礼拝に連れて行く時に一緒だった、ナニーもだ」
エディット付きだった侍女と、フランツのナニー、従僕と御者の計4人だった。
(慈善活動で教会……ね)
この国での慈善活動は、領地を治める者の妻の義務だ。
教会に寄付をしたり、孤児院や身寄りのない者を訪問し、施しを配ったりする。辺境伯領は、騎士として戦いに赴く者が多い為、どうしても身寄りのない者が他の領地よりも多いのだ。
「怪しいのは――やはり教会ですね?」
「……その感は否めない」とルイスは渋い顔をした。
「殿下の案で、動いても良いですか?」
「この領地内の教会だ。リーゼロッテ、私からも頼む」
ルイスから許可も出たので一安心だ。
(よーし! やるぞぉ!)
早速、リーゼロッテは準備を開始した。
本当は、平民のふりをして潜り込みたかったのだが――。それだと後々、身元を調べられたら困る。聖女候補なら尚更、誤魔化すことなど不可能だ。
だったら、最初から辺境伯令嬢として教会に目をつけられてしまえばいい。教会側からすれば、聖女と聖遺跡を一度に手に入れるチャンスになるのだから。
(ついでと言っては何だけど。ちゃんと領地の内情を把握する良い機会だわ)
この世界は、貴族と平民の差が激しい。
回復薬の流通事業でだいぶ潤っては来たが。まだまだ辺境伯領は裕福な地とは言えず、苦しい民もいる。
そんな平民の通う学校も見てみたかった。
エディットがやっていた慈善活動を引き継ぐていで、リーゼロッテと従者のテオが教会へ赴く。
(お母様の意思を継いで……。うん、名目としては十分よね)
善は急げとばかりにリーゼロッテは動く。
執事マルクに、エディットが今までしてきた活動と全く同じになるよう、施し用の品や寄付金の準備を頼んだ。
◇◇◇◇◇
――数日で全てが揃った。
リーゼロッテは、令嬢らしいが派手ではなく、しっかりと手伝いが出来そうな、動きやすいワンピースを選んだ。
それから、沢山の荷物を馬車に乗せて教会へと向かった。
教会は、邸宅からだいぶ離れた街の外れに建っていた。どうやら、孤児院は隣に併設されているようだ。
エアハルト家の馬車が教会の前に到着すると、中からバタバタと慌てたように人が集まって来る。
「うわぁっ! すっげぇ、綺麗な馬車だあ!」
元気よく一番に飛び出して来たのは、焦茶色の短髪の少年で、その後を追うように数人の子供と大人がやって来た。
「こらっ!! ラルフ、待ちなさいっ!!」
少年を叱るように呼んだのは、亜麻色の柔らかそうな髪を緩く後ろで束ねた、少し垂れ目の優しそうな美青年だった。
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