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「ごきげんよう、皆様」
馬車から降りたリーゼロッテは、和かに挨拶をした。
キラキラと揺れる金髪に、瑠璃色の瞳の華やかな少女を初めて見た子供達は、一瞬ポカ〜ンとした。
13歳の少女ではなく、大人が降りて来ると思ったらしい。
「あっ! リーゼロッテお嬢様、ようこそお越しくださいました!」
垂れ目のイケメンは、慌てて挨拶をする。それを見た子供達も真似をした。
「「「おじょうさまー、ようこそぉ!!」」」
(ぶっ! 可愛いっっ!!)
「初めまして、よろしくねっ」
リーゼロッテが、小さな子に目線を合わせるようにしゃがんで言うと、子供たちは嬉しそうに笑う。
令嬢らしからぬ仕草に周りの大人は驚いていたが、そんなことは気にしない。
転生前は、甥っ子や姪っ子と遊ぶのが、唯一の癒しだった。
「私は司祭をしております、ラシャドと申します」
子供たちの後ろから話しかけて来たのは、人の良さそうな中年の男性だった。ちょび髭を生やしたら、喫茶店のマスターの方が似合いそうな風貌だ。
「こちらの青年は、助祭をしておりますユベールです。主に、孤児達の面倒を見ております」
紹介された美青年ユベールは、改めてリーゼロッテに挨拶し、丁寧にお辞儀をした。
そして、今度はユベールが、その場に居た子供たちを紹介してくれる。
ひと通りの紹介と挨拶が終わった頃合いで――。
「荷物はどちらに運んだらよろしいですか?」
従者らしく振る舞うテオが、馬車から荷物を下ろし、ユベールに尋ねた。
人間の姿であっても、テオはフェンリル。力もあれば魔法も使えるので、大量の荷物を軽々移動させる。
イケメン二人が並んで歩く姿は、絵になる事この上ない。
ようやく全てが運び終わると、リーゼロッテは大きな箱の中から、ある物を出すようにテオに言った。
「司祭様、あれを孤児院に飾ってもらえませんか?」
「あ、あれは、一体……?」
「王都で買ったお土産です! 可愛いでしょう? 撫でると良い事があるそうなんですよ」
ふふっ、と無邪気に可愛い笑みを浮かべてお願いする。
狛犬ならぬ、可愛くキャラクター風にデフォルメしたフェンリル像だ。言わずもがなリーゼロッテ作である。
素材は勿論、洞窟の石英を加工した物で、像の土台部分に魔力を込めて魔玻璃にして、その上から魔法で塗装してある。
像に触れるには、必ずその土台に手をつくように設計した。大切なのは土台の方。上の像は、ただのカモフラージュだ。
孤児院の子供たちに、魔石が埋められて利用されないようにする為の物。ある意味お守りだ。
教会ではなく、孤児院に置けば、教会の上の者がやってきても気づかれにくい。
「「きゃー、かわいいっ!」」
フェンリル像を見た子供たちは、大喜びしている。
「設置してよろしいですか?」
領主の娘の頼みを、断れる訳などないとは分かっているが、再度確認した。
「も、勿論です! リーゼロッテ様、ありがとうございます」
リーゼロッテはその言葉にニッコリ頷くと、テオに設置を促した。
テオはヒョイッと軽く持ち上げ、ユベールの指示で孤児院の入り口付近に置いた。
リーゼロッテは、設置した像にこっそり重力魔法をかけておく。魔玻璃とバレても、誰も持ち逃げ出来ないように。リーゼロッテ自身が魔法を解かない限り、1ミリも動かすことは出来ないだろう。
「子供たちが登っても、倒れないようにしてありますので。もし、移動させたい場合はご連絡くださいませ。重いので、テオしか運べませんので」
リーゼロッテの言葉に、ユベールを目を見開いた。
「それでは、申し訳ありませんから。移動する時は私がやりますよ。これでも、なかなか力はあるのです!」
見目麗しい笑みを浮かべたユベール。
「まあ凄い! ですが、本当に重いのですよ」
「では、試しに少しだけ……ふんっ!」
ユベールは像を持ち上げようとしたが、ピクリともしない。
顔を真っ赤にしながら、何度も試すが無理だった。
(でしょうねぇ)
「……ざ、残念ながら無理なようです」
ユベールは肩で息をしながら、ヒョイヒョイ持ち上げていたテオに、尊敬の眼差しを送る。
「私は、かなり鍛えておりますので」と、テオはいけしゃあしゃあと言って退けた。
それから――。
持ってきたお菓子を一緒に食べたり、本の読み聞かせをしたり。たくさん遊んだおかげで、リーゼロッテはすっから子供たちに懐かれた。
良い意味で、貴族らしくない気さくな振る舞いと、見た目や年も子供たちに近いことも功を奏したのだろう。
更には、人見知り時期の1歳の女の子を、リーゼロッテがあやしながら抱っこしていた姿には、皆驚きを隠せなかった。
「きゃっきゃっ」と笑いながら、リーゼロッテの頬をペチペチしてくる。
(なっ、何て天使みたいに可愛いのぉ!!)
姪っ子を思い出し、つい頬擦りしてしまう。
「お嬢様は、まるで聖女様のようですね」とラシャドとユベールは言った。
(へ? まだ癒しとか見せてないけど?)
リーゼロッテは首を傾げた。
そんなこんなで、あっという間に時間は過ぎ、他の施設を回るのは後日になった――。
持ってきた食べ物は、教会から身寄りのない家へ配ってくれるそうだ。
リーゼロッテは近いうちにまた来ると約束をして、邸宅へと馬車を出発させた。
「今日会えた人たち全員に、魔力を流してみたけれど……誰も、魔石を埋め込まれていなかったわ」
馬車の中でリーゼロッテはテオに言う。
「教会も、孤児院の方も、変な魔力の流れは感じなかったぞ」
(……てことは。怪しい人間は、他からやって来る者なのかしら? まぁ、まめに通えば、そのうち会うでしょ!)
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