テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,419
コメント
2件
待ってましたっ!!
23:40。
ソファ。
〇〇は完全に寝落ち。
クッション抱えたまま、静かな寝息。
北斗「……」
しばらくそのまま見てる。
北斗(起こすか…?)
一瞬考えるけど、
無理だと分かる。
北斗「絶対起きねぇな」
小さく呟く。
〇〇「……ん…」
少しだけ動くけど、起きない。
北斗、軽く息吐く。
北斗「……しょうがねぇ」
ゆっくり立ち上がる。
ソファの前にしゃがむ。
北斗(これ、やるのかよ)
一瞬だけ迷う。
でもこのまま寝かせるわけにもいかない。
北斗「……」
そっと手を回す。
背中と膝裏。
できるだけ起こさないように、
静かに——
持ち上げる。
〇〇「……」
少しだけ体が寄る。
北斗の胸に顔が近づく。
北斗(軽…)
思わず思う。
さっきも感じたけど、
やっぱり軽い。
北斗(細すぎだろ)
でも今はそれどころじゃない。
起こさないことに集中。
ゆっくり立ち上がる。
〇〇は完全に無防備。
腕も力抜けてる。
北斗の服を少しだけ掴む。
無意識。
北斗「……」
一瞬だけ動き止まる。
北斗(ほんとやめろって)
小さく息吐く。
そのまま寝室へ。
足音をできるだけ立てないように。
静かに、ゆっくり。
ベッドの前まで来て、
少しだけ屈む。
北斗(起きるなよ)
心の中で思いながら、
そっと降ろす。
〇〇「……」
少しだけ動くけど、起きない。
北斗、布団を引っ張って、
軽くかける。
北斗「……」
そのまま一瞬だけ見下ろす。
寝顔。
完全に安心してる顔。
北斗(……こんな顔すんなよ)
思わず目逸らす。
北斗(守るって決めたのは俺だけど)
北斗(これはきついだろ)
小さく苦笑。
〇〇「……北斗」
寝言みたいに呟く。
北斗「……」
一瞬止まる。
〇〇「……いかないで」
ぼそっと。
完全に無意識。
北斗は少しだけ目閉じる。
北斗(……行かねぇよ)
声には出さない。
でも——
そのままベッドの横に座る。
立ち去らない。
北斗「……」
静かな部屋。
さっきまでの賑やかさはもうない。
北斗(……どうすんだろうな)
廉のこと。
自分のこと。
全部頭に浮かぶ。
でも——
北斗(今はいいか)
ゆっくり息吐く。
目の前の〇〇を見る。
その寝顔がある限り、
離れる理由はなかった。
ーーーー
深夜。
北斗の部屋。
電気は消えてる。
ベッドに横になってるけど、目は開いたまま。
ドア一枚向こう、別の部屋に〇〇。
静かすぎる夜。
ブーブー……
スマホが震える。
北斗「……」
画面を見る。
北斗「……恭平」
少しだけ間を置いて、通話に出る。
北斗「……もしもし」
恭平『起きてた?』
北斗「起きてる」
恭平『そっか』
少し沈黙。
恭平『〇〇、寝た?』
北斗、ドアの方を見る。
北斗「寝てる」
恭平『……そっか』
少しだけ安心したような声。
でもすぐに、
空気が変わる。
恭平『なぁ、北斗くん』
北斗「ん」
恭平『ちょっと真面目な話していい?』
北斗「……急だな」
恭平『急やけど、今やないとあかん気して』
北斗「……何」
少しだけ警戒。
恭平、少し間を空けて——
恭平『北斗くんさ』
北斗「……」
恭平『〇〇のこと、どう思ってる?』
ストレート。
北斗「……は?」
一瞬、止まる。
北斗「何だよ急に」
恭平『誤魔化さんでいい』
北斗「……」
恭平『俺さ』
北斗「……」
恭平『だいぶ前の飯会の時』
北斗の指、少し止まる。
恭平『気づいてたで』
北斗「……何に」
分かってるのに聞く。
恭平『北斗くん、〇〇のこと好きなんやろって』
――沈黙。
北斗「……」
否定の言葉が出ない。
恭平『あの時からやろ』
静かに言う。
恭平『ずっと変わってへんやろ』
北斗「……」
天井を見る。
北斗(……バレてたのかよ)
小さく息吐く。
北斗「……なんで今それ言う」
恭平『確認したかった』
北斗「何を」
恭平『今もそうなんかって』
北斗、目閉じる。
数秒。
逃げようとするけど——
無理だと分かる。
北斗「……」
小さく息吐く。
北斗「……そうだよ」
低く。
短く。
認める。
恭平『……やっぱりな』
静かな声。
驚きはない。
恭平『やと思ってた』
北斗「……」
恭平『でもさ』
北斗「……何」
恭平『それ、〇〇は知らんやろ』
北斗「当たり前だろ」
即答。
恭平『やろな』
少し苦笑。
恭平『あいつ気づいてなさそうやし』
北斗「気づくわけねぇだろ」
恭平『それもそうやな』
少しだけ空気が緩む。
でもすぐ戻る。
恭平『でな』
北斗「……」
恭平『もう一個ある』
北斗「まだあんのかよ」
恭平『ある』
少し真面目なトーン。
恭平『ジュニアでさ』
北斗「……」
恭平『〇〇のこと好きなやつおるで』
――一瞬、止まる。
北斗「……は?」
恭平『ガチで』
北斗「誰」
即答。
恭平『名前は言わんけど』
北斗「言えよ」
少し強め。
恭平『言ったら余計めんどくなるやろ』
北斗「……」
恭平『でも結構本気っぽい』
北斗、無言。
恭平『最近も普通に話しかけにいってるし』
北斗「……」
頭の中で勝手に想像が浮かぶ。
北斗(誰だよ)
少しイラつく。
恭平『あいつは気づいてへんやろうけど』
北斗「……だろうな」
恭平『でも周りは分かるで』
北斗「……」
恭平『北斗くんも、その一人やけどな』
北斗「……は?」
恭平『気づかれてるってこと』
北斗「……」
言葉詰まる。
恭平『隠してるつもりでも』
恭平『出てるで』
静かに刺す。
北斗、目閉じる。
北斗(……めんどくせぇ)
恭平『やから言った』
北斗「……何を」
恭平『ちゃんと考えた方がええでって』
北斗「……」
恭平『そのままやと』
恭平『どっちも中途半端になる』
北斗「……」
言い返せない。
恭平『あいつも、北斗くんも』
北斗「……」
長い沈黙。
北斗は小さく息吐く。
北斗「……言っとくけど」
恭平『ん』
北斗「何もするつもりねぇよ」
低く言う。
北斗「今は守るだけだ」
恭平『……』
少し間。
恭平『ほんまにそれでいくんや』
北斗「……あぁ」
恭平『後悔せん?』
北斗「……」
一瞬だけ詰まる。
でも—
北斗「しねぇよ」
言い切る。
恭平『……そっか』
静かに返す。
恭平『ならええ』
でも完全には納得してない声。
恭平『ただ』
北斗「……」
恭平『ジュニアのやつは普通に来るで』
北斗「来させねぇよ」
即答。
恭平『それな』
少し笑う。
恭平『北斗くんらしいわ』
北斗「……」
恭平『ごめんな、夜にこんな話』
北斗「別に」
恭平『ほな』
北斗「おう」
通話が切れる。
――静寂。
北斗はそのまま動かない。
天井を見る。
北斗(……好き、ね)
自分で認めた言葉。
今さらすぎるのに、
やけに重い。
視線がドアの方へ向く。
その向こうに〇〇。
何も知らずに寝てる。
北斗(……守るだけ)
そう決めたはずなのに——
北斗(……ほんとかよ)
小さく自問する。
答えは出ないまま、
夜だけが静かに深くなっていく。
ーーーーーーーーー
☀️翌朝。
カーテン越しの光。
〇〇の部屋。
ゆっくり目を開ける。
〇〇「……ん」
少しだけぼーっとしたまま起き上がる。
その時——
ピロン
スマホが鳴る。
〇〇「……?」
手に取って画面を見る。
マネージャーから。
〇〇、すぐ開く。
マネ
『おはよ』
マネ
『ちょっと連絡』
〇〇「……」
静かに読み進める。
マネ
『最近さ、例の件』
マネ
『動きないから』
マネ
『一回家戻っても大丈夫そう』
〇〇「……え」
少しだけ目が止まる。
マネ
『服とか必要なもんあるだろ』
マネ
『取りに行っていいよ』
マネ
『その代わり俺ら付き添いな』
マネ
『警備もつける』
〇〇、スマホ見たまま固まる。
〇〇(……帰れるんだ)
マネ
『時間はちゃんと決めて動く』
マネ
『勝手には行かせないから』
〇〇、少しだけ息吐く。
すぐ返信。
〇〇
『おはよ』
〇〇
『今日でもいける?』
既読つくの早い。
マネ
『いける』
マネ
『いつがいい』
〇〇、少し考える。
〇〇(人少ない方がいいな)
〇〇
『昼過ぎがいい』
マネ
『OK』
マネ
『じゃあ14時で動くか』
マネ
『後で詳細送る』
〇〇
『ありがと』
やりとり終わる。
スマホ下ろす。
〇〇「……帰るか」
ぽつっと呟く。
自分の家。
自分の空間。
少し安心する気持ちと—
〇〇(……大丈夫かな)
ほんの少しの不安。
でも—
〇〇「まぁ、マネいるし」
軽く言う。
そのまま視線がドアへ向く。
〇〇(……北斗んち)
ずっといる場所。
なんだかんだ落ち着いてた。
〇〇「……」
少しだけ考えて、
でもすぐ立ち上がる。
〇〇「とりあえず言っとこ」
ベッドから降りて、
軽く伸びして、
ドアへ向かう。
外から微かに物音。
北斗、起きてるっぽい。
〇〇「……」
ドアノブに手かけながら、
少しだけ間。
でも—
そのまま開ける。
今日、
少し動く日になる。
ドア開く音。
〇〇「北斗、起きてる?」
リビング。
北斗はもう起きてて、スマホ見てる。
北斗「起きてる」
〇〇「おはよ」
北斗「おはよ」
〇〇、そのまま近くまで来てソファ座る。
少し間。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇、スマホ軽く見せる。
〇〇「マネから連絡きた」
北斗「……あぁ」
〇〇「家、戻っていいって」
北斗の視線が一瞬止まる。
北斗「……そうか」
〇〇「最近動きないから、って」
〇〇「服とか取りに行っていいらしい」
北斗「付き添いは」
〇〇「ある」
〇〇「マネと警備」
北斗「なら問題ねぇだろ」
淡々と返す。
でも—
〇〇「……うん」
少しだけ歯切れ悪い。
北斗「なんだよ」
〇〇「いや」
少し視線落とす。
〇〇「……ちょっと怖いかも」
小さく言う。
北斗、黙る。
〇〇「大丈夫って分かってるけど」
〇〇「なんかさ」
北斗「……」
〇〇「一回あったじゃん」
北斗「……あぁ」
それだけで通じる。
少し間。
北斗「じゃあやめとけ」
即答。
〇〇「でも行きたい」
北斗「……」
〇〇「必要なもんあるし」
〇〇「長くいないから」
北斗「……」
少し考えてから——
北斗「俺も行く」
〇〇「え」
顔上げる。
〇〇「いいの?」
北斗「いいも何も」
北斗「一人で行かせる気ねぇし」
〇〇「一人じゃないって」
北斗「同じだろ」
〇〇「……」
少しだけ表情ゆるむ。
〇〇「じゃあ一緒に来て」
北斗「最初からそのつもりだろ」
〇〇「バレた?」
北斗「顔に出てる」
〇〇「出てた?」
北斗「出てた」
〇〇、小さく笑う。
〇〇「ありがと」
北斗「別に」
短く返す。
〇〇「でさ」
北斗「ん」
〇〇「取りに行ったら、そのまま戻るから」
北斗「……戻る?」
〇〇「ここ」
北斗を見る。
〇〇「また北斗ん家帰ってくる」
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
〇〇「まださ」
〇〇「完全に一人で戻るのは無理かも」
〇〇「だから、とりあえず必要なもんだけ持って」
〇〇「またこっち来る」
北斗「……そうか」
短く。
でも否定はしない。
〇〇「ダメ?」
北斗「ダメなわけねぇだろ」
〇〇「よかった」
素直に笑う。
北斗「時間は」
〇〇「14時」
北斗「まだあるな」
〇〇「うん」
少し間。
〇〇「なんか変な感じ」
北斗「何が」
〇〇「久しぶりに家帰るの」
北斗「……だろうな」
〇〇「ちょっと楽しみだけど」
〇〇「ちょっと怖い」
北斗「……」
北斗「すぐ戻るだろ」
〇〇「うん」
〇〇「すぐ戻る」
その言い方、
もう決めてる感じ。
北斗は小さく息吐く。
北斗「準備しとけ」
〇〇「はーい」
軽く返して立ち上がる。
そのまま部屋戻ろうとして、
少しだけ振り返る。
〇〇「北斗」
北斗「ん」
〇〇「一緒に来てくれてありがと」
北斗「……だから別に」
〇〇「それでも」
少し笑う。
北斗はそれ以上何も言わない。
ただ軽く手振る。
〇〇はそのまま部屋戻る。
北斗、一人残って
小さく息吐く。
北斗(……また戻ってくる、か)
当たり前みたいに言われたその言葉が、
少しだけ残る。
でも—
悪くないと思ってる自分もいる。
ーーー
リビング。
少し落ち着いた空気。
〇〇はソファでスマホいじりながら、
ふっと顔上げる。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「今日さ」
北斗「……あぁ」
〇〇「夜から仕事じゃん」
北斗「そうだな」
〇〇「私も」
北斗「知ってる」
〇〇「だからさ」
少し体伸ばして、
〇〇「14時までめっちゃ暇」
北斗「……」
その言い方に少しだけ呆れる。
北斗「だから何」
〇〇「何しよ」
北斗「知らねぇよ」
〇〇「冷た」
北斗「事実だろ」
〇〇「一緒に決めてよ」
北斗「なんでだよ」
〇〇「だって暇じゃん」
北斗「俺は別に困ってねぇ」
〇〇「私は困ってる」
北斗「知らねぇ」
〇〇「ひど」
でもちょっと楽しそう。
〇〇「寝るのはなしね」
北斗「なんで」
〇〇「もったいない」
北斗「何が」
〇〇「時間」
北斗「別にいいだろ」
〇〇「だめ」
北斗「強制かよ」
〇〇「うん」
即答。
北斗「……」
少しだけ笑いそうになるのを抑える。
〇〇「どっか行く?」
北斗「外はやめとけ」
〇〇「だよね」
すぐ引く。
〇〇「じゃあ家でなんかする」
北斗「ざっくりすぎる」
〇〇「いいじゃん」
北斗「……」
少し間。
〇〇「映画とか?」
北斗「朝からか」
〇〇「朝だからじゃない?」
北斗「意味分かんねぇ」
〇〇「じゃあ北斗決めて」
北斗「なんで俺」
〇〇「優柔不断だから」
北斗「自覚あんのかよ」
〇〇「ある」
北斗「……」
少し考える。
北斗「適当に時間潰せばいいだろ」
〇〇「雑」
北斗「事実」
〇〇「ちゃんとしたい」
北斗「何を」
〇〇「時間」
北斗「……」
言い方がちょっとだけ引っかかる。
〇〇「せっかくだし」
北斗「何がせっかくなんだよ」
〇〇「こうやっているの」
北斗「……」
一瞬止まる。
でもすぐ、
北斗「じゃあ適当に飯でも作るか」
話変える。
〇〇「え、いいの?」
北斗「どうせ暇なんだろ」
〇〇「やる」
すぐ立ち上がる。
北斗「お前料理できんのか」
〇〇「できる」
北斗「怪しいな」
〇〇「できるって」
北斗「じゃあ任せる」
〇〇「え」
北斗「やるんだろ」
〇〇「……補助して」
北斗「最初からそれ言え」
〇〇「一人は無理」
北斗「だろうな」
少し笑う。
〇〇「一緒にやろ」
北斗「はいはい」
立ち上がる。
キッチンへ向かう二人。
14時までの時間。
特に意味はないけど、
なんとなく一緒に過ごす時間が始まる。
キッチン。
〇〇、やる気だけはある顔で立ってる。
〇〇「よし」
北斗「そのテンション大丈夫か」
〇〇「大丈夫」
北斗「信用ねぇ」
〇〇「ひど」
でも気にしてない。
〇〇「で、何作る?」
北斗「お前が決めろよ」
〇〇「無理」
北斗「即答かよ」
〇〇「だってレパートリーない」
北斗「どんくらいだよ」
〇〇「卵焼き」
北斗「それだけかよ」
〇〇「あと……焼く系」
北斗「雑すぎるだろ」
〇〇「でも頑張る」
ちょっとドヤ顔。
北斗「頑張りの方向間違えんなよ」
〇〇「じゃあ簡単なのがいい」
北斗「最初からそう言え」
〇〇「簡単で美味しいやつ」
北斗「注文多いな」
〇〇「だって食べるじゃん」
北斗「当たり前だろ」
〇〇「じゃあちゃんとしたい」
北斗「……」
少し考える。
北斗「じゃあ、オムライス」
〇〇「……」
一瞬止まる。
〇〇「難しくない?」
北斗「難しくねぇよ」
〇〇「卵焼きしかできないって言ったじゃん」
北斗「それできるならいける」
〇〇「ほんと?」
北斗「俺が見てるから」
〇〇「……」
少し安心した顔。
〇〇「じゃあそれにする」
北斗「材料あるしな」
〇〇「よし」
腕まくりする。
北斗「やる気だけは一丁前だな」
〇〇「うるさい」
〇〇、冷蔵庫開ける。
〇〇「……」
中見て止まる。
〇〇「何使うの」
北斗「今さら?」
〇〇「うん」
北斗「お前ほんとにやる気あるか?」
〇〇「ある」
北斗「じゃあまず米」
〇〇「ある」
北斗「チキン」
〇〇「あるっぽい」
北斗「“っぽい”ってなんだよ」
〇〇「それっぽいのある」
北斗「ちゃんと見ろ」
〇〇「はい」
ちゃんと取り出す。
〇〇「これ?」
北斗「それ」
〇〇「よし」
ちょっと嬉しそう。
北斗「まず切るぞ」
〇〇「包丁か」
北斗「その反応やめろ」
〇〇「怖い」
北斗「小学生か」
〇〇「違う」
でも持ち方ちょっと怪しい。
北斗「……貸せ」
後ろから軽く手添える。
〇〇「え」
北斗「こうだろ」
〇〇「……近い」
北斗「うるせぇ、集中しろ」
〇〇「はい」
少しだけ真面目になる。
〇〇、ぎこちなく切る。
トン……トン……
北斗「遅ぇ」
〇〇「うるさい」
トン……トン……
北斗「危なっ」
〇〇「大丈夫!」
北斗「大丈夫じゃねぇよ」
〇〇「できてる」
北斗「ガタガタだけどな」
〇〇「味変わらないからいい」
北斗「まぁな」
少しだけ笑う。
〇〇「次は?」
北斗「炒める」
〇〇「それはできる」
北斗「ほんとかよ」
〇〇「任せて」
フライパン持つ。
火つける。
〇〇「……」
止まる。
北斗「どうした」
〇〇「油どれ」
北斗「そこ」
〇〇「あ、これ」
少しずつ進む。
北斗「ほら入れろ」
〇〇「はい」
ジュッ
〇〇「おぉ」
北斗「リアクションいらねぇ」
〇〇「楽しい」
北斗「楽しんでんな」
〇〇「うん」
素直。
そのまま炒め始める。
〇〇「……これで合ってる?」
北斗「だいたいな」
〇〇「よし」
だんだん慣れてくる。
でも—
〇〇「あっ」
北斗「どうした」
〇〇「ちょっと焦げた」
北斗「見りゃ分かる」
〇〇「大丈夫?」
北斗「大丈夫だろ」
〇〇「ほんと?」
北斗「気にすんな」
〇〇「よかった」
安心してる。
北斗「……ほんと適当だな」
〇〇「いいじゃん」
〇〇「美味しければ」
北斗「それな」
少し笑う。
不器用だけど、
ちゃんとやろうとしてるのは分かる。
北斗(……こういうとこだよな)
思いながら、
そのまま横で見てる。
フライパンの前。
〇〇、真剣な顔で炒めてる。
〇〇「……」
北斗はそのすぐ横。
ほぼ隣。
距離、近い。
北斗「火強すぎ」
〇〇「え」
北斗、手伸ばしてコンロ調整する。
その瞬間——
肩、軽く当たる。
〇〇「……」
一瞬だけ止まる。
北斗「ほら」
何事もなかったみたいに戻る。
〇〇「……ありがと」
少しだけ声小さい。
そのまままた炒める。
〇〇「これくらい?」
北斗「もうちょい弱くていい」
〇〇「難しい」
北斗「感覚だろ」
〇〇「その感覚がない」
北斗「だろうな」
〇〇「ひど」
でもちょっと笑ってる。
フライパン振ろうとして—
〇〇「あ」
北斗「無理すんな」
後ろから手伸ばして支える。
自然に、距離がさらに近くなる。
〇〇「……」
北斗「こう」
軽く動かす。
〇〇「……できた」
北斗「今のはな」
〇〇「じゃあもう一回」
北斗「一人でやれ」
〇〇「え」
北斗「やれるだろ」
〇〇「……たぶん」
少しだけ不安そう。
〇〇、ゆっくり振る。
カンッ
〇〇「できた」
北斗「ギリな」
〇〇「できたからいい」
北斗「まぁな」
少し笑う。
そのまま炒め終わる。
〇〇「次」
北斗「卵」
〇〇「来た」
ちょっと気合い入る。
ボウル取って卵割る。
コンッ
……ぐしゃ
〇〇「……」
北斗「下手すぎだろ」
〇〇「ちょっと失敗しただけ」
北斗「最初から失敗してる」
〇〇「次はできる」
コンッ
今度はちゃんと割れる。
〇〇「ほら」
北斗「普通だな」
〇〇「成功」
〇〇、ちょっと嬉しそう。
混ぜる。
〇〇「これ楽しい」
北斗「単純だな」
〇〇「いいじゃん」
〇〇、フライパンに流す。
じゅわっと広がる。
〇〇「……どうするんだっけ」
北斗「もう忘れてんのかよ」
〇〇「さっき聞いたのに」
北斗「貸せ」
北斗、後ろから手伸ばす。
フライパン持つ手に重なる。
もうほぼ背中合わせじゃなくて、
ぴったり後ろ。
〇〇「……近い」
北斗「集中しろ」
低い声。
〇〇「してる」
でもちょっとだけ意識してる。
北斗「火弱めて」
〇〇「うん」
北斗「端寄せて」
〇〇「こう?」
北斗「そう」
そのまま、
北斗の手が〇〇の手を軽く動かす。
距離、ほぼゼロ。
〇〇「……」
北斗「いい感じ」
〇〇「ほんと?」
北斗「まぁな」
そのまま包む。
少し形崩れる。
〇〇「あ」
北斗「いいだろ別に」
〇〇「オムライスじゃなくなった」
北斗「味は同じだ」
〇〇「それはそう」
少し笑う。
でも—
まだ距離近いまま。
お互い少し動けない。
〇〇「……」
北斗「……」
ほんの一瞬、
静かになる。
〇〇「……できたね」
北斗「……あぁ」
少しだけ離れる。
〇〇「よし」
皿に乗せる。
ちょっと崩れてるけど、
形にはなってる。
〇〇「どう?」
北斗「……普通」
〇〇「またそれ」
〇〇、笑う。
でもその顔、
ちょっと満足そう。
北斗はそれ見て、
小さく息吐く。
北斗(……近すぎだろ)
さっきの距離思い出して、
無意識に視線逸らす。
〇〇は何も気にしてないまま、
〇〇「食べよ」
って普通に言う。
その温度差が、
また少しだけ残る。
〇〇、皿を両手で持ったまま歩く。
〇〇「よいしょ」
慎重にリビングへ。
その少し後ろ、
北斗もついてくる。
北斗「落とすなよ」
〇〇「落とさない」
でもちょっと不安定。
北斗「もう危ねぇ」
〇〇「大丈夫だって」
そのまま歩いて——
急に、
ピタッと止まる。
北斗「……おい」
〇〇、動かない。
北斗「どうした」
その瞬間、
〇〇がくるっと振り返る。
距離、ほぼない。
〇〇、少し上見上げる。
身長差。
自然と北斗が見下ろす形。
北斗「……」
〇〇「……ね」
ニコニコしてる。
無邪気な顔。
〇〇「めっちゃ美味しそうじゃない?」
嬉しそうに言う。
北斗「……」
一瞬、言葉止まる。
さっきまでの距離より、
今の方が近く感じる。
北斗「……自分で言うな」
少し遅れて返す。
〇〇「だってほんとに」
〇〇「見た目いい感じじゃん」
北斗「ギリな」
〇〇「ひど」
でも全然気にしてない。
〇〇「でも絶対美味しい」
〇〇「私作ったし」
北斗「さっきまで不安そうだっただろ」
〇〇「今は自信ある」
北斗「急だな」
〇〇「いいじゃん」
そのまま、
少しだけ距離近いまま立ってる。
北斗「……」
〇〇はただ嬉しそうにしてるだけ。
何も意識してない。
北斗(……ほんと無防備)
一瞬だけ目逸らす。
〇〇「早く食べよ」
ってまた前向く。
何もなかったみたいに歩き出す。
北斗「……」
少し遅れてついていく。
さっきの一瞬だけ、
妙に残ったまま。
テーブル。
〇〇、オムライスをそっと置く。
〇〇「よし」
北斗も向かいに座る。
〇〇「……」
ケチャップ手に取る。
そのまま固まる。
北斗「どうした」
〇〇「何書くか悩んでる」
北斗「書く前提かよ」
〇〇「オムライスって書くもんじゃない?」
北斗「別に書かなくていいだろ」
〇〇「やだ」
即答。
北斗「なんでだよ」
〇〇「ちゃんとしたい」
北斗「さっきからそればっかだな」
〇〇「いいじゃん」
〇〇、真剣に考え始める。
〇〇「……何がいいと思う?」
北斗「知らねぇよ」
〇〇「候補出して」
北斗「めんどくせぇ」
〇〇「いいから」
北斗「……」
少し考える。
北斗「“うまい”とかでいいだろ」
〇〇「普通」
北斗「普通でいいだろ」
〇〇「つまんない」
北斗「じゃあハートでも描いとけ」
〇〇「……」
一瞬止まる。
北斗「なんだよ」
〇〇「それいいかも」
北斗「は?」
〇〇「ハート描く」
北斗「やめとけ」
〇〇「なんで」
北斗「なんでもいいだろ」
〇〇「じゃあ決まり」
迷いなし。
北斗「……」
止めても無駄なやつ。
〇〇、ケチャップをそっと絞る。
ぷるっと震えながら—
〇〇「……」
慎重に描く。
〇〇「むず」
北斗「だろうな」
〇〇「黙って」
北斗「はいはい」
ゆっくり、
歪なハート完成。
〇〇「……できた」
北斗「歪んでるな」
〇〇「いいの」
〇〇「手作り感」
北斗「言い訳な」
〇〇「違う」
でもちょっと満足そう。
〇〇、少し顔上げて
〇〇「どう?」
北斗「……まぁ」
少し間。
北斗「いいんじゃねぇの」
〇〇「でしょ」
嬉しそうに笑う。
そのままスプーン持つ。
〇〇「いただきます」
北斗「いただきます」
一口。
〇〇「……」
止まる。
北斗「どうだ」
〇〇「……」
少しだけ間あって——
〇〇「美味しい」
北斗「ほんとかよ」
〇〇「ほんと」
〇〇「普通に美味しい」
北斗「普通かよ」
〇〇「いい意味で」
北斗「はいはい」
北斗も食べる。
北斗「……」
〇〇、じっと見る。
〇〇「どう?」
北斗「……まぁ」
〇〇「なにその間」
北斗「ちゃんと美味い」
〇〇「やった」
一気に笑顔。
〇〇「私やればできる」
北斗「サポートありきだろ」
〇〇「それも実力」
北斗「違うだろ」
少し笑う。
そのまま二人で食べ進める。
さっきまでの近さも、
少しだけ残ったまま。
でも今は、
それよりも—
〇〇「これまた作ろ」
北斗「気が早ぇよ」
〇〇「いいじゃん」
そんな空気の方が強くて、
ゆるく時間が流れていく。
テーブルの上、ほとんど空。
〇〇、スプーン置く。
〇〇「……はや」
北斗「何が」
〇〇「時間」
スマホちらっと見る。
〇〇「13時」
北斗「もうそんなか」
〇〇「あと1時間じゃん」
北斗「だな」
〇〇、ソファにごろんと倒れる。
〇〇「早すぎ」
北斗「お前がゆっくりしてただけだろ」
〇〇「してない」
北斗「してた」
〇〇「してないって」
でも否定弱い。
〇〇「……なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「こういう時間、あっという間じゃない?」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「まぁな」
短く返す。
〇〇「ね」
〇〇、天井見ながらぼーっとする。
〇〇「もうちょいゆっくりでもいいのに」
北斗「そのうち嫌でも長く感じるだろ」
〇〇「それはやだ」
北斗「わがままだな」
〇〇「いいじゃん」
少し笑う。
でも—
〇〇「……14時か」
現実に戻る感じ。
北斗「行く準備しとけ」
〇〇「うん」
でもまだ動かない。
〇〇「……」
北斗「何」
〇〇「ちょっとだけこのまま」
北斗「……」
北斗も特に何も言わない。
ソファの端に座る。
〇〇はそのまま寝転がってる。
距離、近い。
静かな時間。
〇〇「ね」
北斗「ん」
〇〇「帰ったらさ」
北斗「……あぁ」
〇〇「すぐ戻るから」
北斗「分かってる」
〇〇「絶対」
北斗「はいはい」
〇〇「ほんとに」
北斗「しつこい」
〇〇「だって」
少しだけ笑う。
でもその言葉、
ちゃんと本音。
北斗は軽く息吐く。
北斗「1時間しかねぇんだろ」
〇〇「うん」
北斗「なら無駄にすんな」
〇〇「……どう使うの」
北斗「知らねぇよ」
〇〇「またそれ」
北斗「お前が決めろ」
〇〇「じゃあ」
少しだけ考えて—
〇〇「ここでゆっくりする」
北斗「結局それか」
〇〇「いいじゃん」
北斗「まぁな」
否定しない。
そのまま、
二人とも特に動かず。
ただ同じ空間で過ごす。
あと1時間。
短いのに、
妙に濃い時間がゆっくり流れていく。
〇〇、天井見ながらぽつっと。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「初めて会った時さ」
北斗「……いつの」
〇〇「デビューしてちょっとくらいの時」
北斗「……あぁ」
〇〇、くすっと笑う。
〇〇「覚えてる?」
北斗「まぁな」
〇〇「私さ」
少し体起こして、北斗の方見る。
〇〇「絶対仲良くなれないと思ってた」
北斗「……は?」
〇〇「だってさ」
〇〇「めっちゃ暗いし」
北斗「おい」
〇〇「全然喋んないし」
北斗「……」
〇〇「目も合わせないし」
北斗「……」
〇〇「何考えてるか分かんないし」
北斗「言いすぎだろ」
〇〇「ほんとだって」
〇〇「“あ、この人無理だ”って思った」
北斗「ひでぇな」
〇〇「ほんとに思った」
〇〇、ケラケラ笑う。
北斗「最悪じゃねぇか」
〇〇「だって!」
〇〇「挨拶してもさ」
〇〇、真似するみたいに少し俯いて
〇〇「……あ、どうも」
北斗「やめろ」
〇〇「こんな感じだったじゃん」
北斗「覚えてねぇよ」
〇〇「絶対嘘」
〇〇「しかもさ」
〇〇「会話続かないの」
北斗「お前が振らねぇからだろ」
〇〇「振ったよ!」
〇〇「“最近どうですか?”って」
北斗「……」
〇〇「“まぁ…普通です”」
〇〇「終わり」
北斗「それ以上何話すんだよ」
〇〇「いっぱいあるでしょ」
〇〇「広げてよ!」
北斗「無茶言うな」
〇〇「ほんと無理だと思った」
北斗「何回言うんだよ」
〇〇「でもさ」
少しだけ笑いながら、
〇〇「今こうなってるの不思議じゃない?」
北斗「……」
少し間。
北斗「まぁな」
〇〇「ね」
〇〇「普通に家いるし」
北斗「確かにな」
〇〇「しかもさ」
〇〇、ちょっとニヤッとする。
〇〇「髪乾かしてもらったり」
北斗「……」
〇〇「マッサージしてもらったり」
北斗「やめろ」
〇〇「料理も一緒にして」
北斗「……」
〇〇「めっちゃ仲良くなってる」
北斗「お前が距離詰めてきただけだろ」
〇〇「そうだよ」
即答。
北斗「開き直んな」
〇〇「でも正解だったでしょ」
北斗「……」
少しだけ目逸らす。
〇〇「ね」
北斗「……まぁ」
小さく。
〇〇、満足そうに笑う。
〇〇「最初の印象、最悪だったのにね」
北斗「今も大して変わってねぇだろ」
〇〇「変わってるよ」
北斗「どこが」
〇〇「優しいとこ」
北斗「……」
一瞬止まる。
〇〇「あとちゃんと面倒見てくれる」
北斗「気のせいだ」
〇〇「気のせいじゃない」
〇〇「だって今もそうじゃん」
北斗「……」
言い返さない。
〇〇「だからさ」
少しだけ柔らかい声。
〇〇「仲良くなれてよかった」
北斗「……」
短く息吐く。
北斗「俺は最初から普通だったけどな」
〇〇「絶対嘘」
北斗「ほんとだ」
〇〇「じゃあなんであんな喋んなかったの」
北斗「……人見知り」
〇〇「知ってる」
少し笑う。
〇〇「でもさ」
〇〇「今はちゃんと喋るじゃん」
北斗「お前だからだろ」
〇〇「……」
一瞬だけ止まる。
北斗「……」
自分でも言ってから気づく。
〇〇、少しだけ目逸らして
〇〇「……そっか」
小さく笑う。
さっきまでの軽さのままじゃない、
ほんの少しだけ静かな空気が落ちる。
でも—
〇〇「まぁいいや」
すぐ戻る。
〇〇「あと1時間しかないし」
北斗「切り替え早ぇな」
〇〇「大事だから」
北斗「何が」
〇〇「時間」
北斗「……」
また同じこと言ってるのに、
今度は少しだけ違って聞こえる。
そのまま、
二人の間に
静かでやわらかい時間が流れる。
ーーーー
キッチン。
シンクの前に並ぶ二人。
〇〇「じゃあ自分のやつね」
北斗「最初からそうだろ」
〇〇「たまには分担」
北斗「はいはい」
水出す音。
シャーッ
〇〇、スポンジ持つ。
〇〇「……」
北斗、横で普通に洗い始める。
手慣れてる。
〇〇「早」
北斗「普通だ」
〇〇「もう終わりそうじゃん」
北斗「お前が遅いだけ」
〇〇「そんなことない」
でも明らかに遅い。
〇〇「……」
ちょっと雑にこする。
キュッキュッ
北斗「力入れすぎ」
〇〇「いいの」
北斗「皿割るなよ」
〇〇「割らない」
そのまま続ける。
ふと—
〇〇、横を見る。
北斗の方。
視線上げる。
身長差。
結構ある。
〇〇(高…)
ぼーっと見上げる。
北斗「……何」
〇〇「いや」
〇〇「やっぱ背高いなって」
北斗「今さらかよ」
〇〇「並ぶと分かる」
北斗「前から分かるだろ」
〇〇「こうやって横並びだとさ」
〇〇「差すごい」
北斗「……22くらいだろ」
〇〇「そんなある?」
北斗「ある」
〇〇「へぇ」
また少し見上げる。
北斗「見すぎだろ」
〇〇「別にいいじゃん」
北斗「手動かせ」
〇〇「あ、はい」
また洗い始める。
でも—
〇〇「なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「安心するね」
北斗「何が」
〇〇「こういうの」
北斗「皿洗いがか」
〇〇「違う」
〇〇「並んでる感じ」
北斗「……」
少しだけ手止まりかける。
〇〇「なんか普通じゃん」
北斗「普通だろ」
〇〇「でも今の私には普通じゃない」
北斗「……」
〇〇「だからいいなって」
ぽつっと言う。
北斗は何も返さず、
水の音だけ続く。
シャーッ
〇〇「……」
自分の皿洗い終わる。
〇〇「終わった」
北斗「遅ぇ」
〇〇「ちゃんとやった」
北斗「俺もう拭けるぞ」
〇〇「早すぎ」
北斗、軽く笑う。
そのまま水止める。
一瞬静かになる。
横に並んだまま、
少しだけ距離近い。
〇〇「……ね」
北斗「ん」
〇〇「今日さ」
北斗「……あぁ」
〇〇「すぐ戻るから」
また言う。
北斗「何回目だよ」
〇〇「いいじゃん」
北斗「分かったって」
〇〇「うん」
少し笑う。
そのまま、
何も言わずに並んだまま立ってる。
さっきよりも少しだけ、
距離が自然に感じるまま。
ピロン
〇〇「……あ」
スマホ見る。
〇〇「マネ」
北斗「来たか」
〇〇「うん」
画面見ながら読む。
〇〇「もう着いてるって」
北斗「早ぇな」
〇〇「14時ぴったりくらい」
北斗「じゃあ準備だな」
〇〇「うん」
そのまま立ち上がる。
〇〇、自分の部屋じゃなくて—
そのまま北斗の部屋の方へ行く。
北斗「……おい」
〇〇「ん?」
普通にドア開ける。
〇〇「服借りる」
北斗「当たり前みたいに言うな」
〇〇「だってないもん」
クローゼット開ける。
慣れてる動き。
〇〇「これと…これ」
適当に引っ張り出す。
北斗「適当すぎだろ」
〇〇「いいの」
〇〇「着れれば」
北斗「サイズ考えろよ」
〇〇「考えてる」
北斗「絶対考えてねぇ」
〇〇「大丈夫」
そのまま体に当てる。
〇〇「いける」
北斗「いけてねぇだろ」
〇〇「いけるって」
普通に笑う。
北斗「……」
もう何も言わない。
慣れてる。
〇〇「じゃあ着替える」
北斗「俺も行くわ」
〇〇「うん」
〇〇はそのまま部屋使って、
北斗は別の部屋へ。
――少し後。
〇〇、着替えて出てくる。
オーバーサイズ気味。
袖ちょっと長い。
〇〇「どう?」
北斗、見る。
北斗「……でかいな」
〇〇「いいじゃん」
〇〇「楽だし」
北斗「まぁな」
〇〇「これ好き」
北斗「それ前も着てただろ」
〇〇「着やすい」
北斗「だろうな」
北斗も着替えて戻ってくる。
〇〇「じゃあ行こ」
北斗「鍵持ったか」
〇〇「持ってない」
北斗「だろうな」
鍵取る。
〇〇「お願いします」
北斗「最初から言え」
そのまま玄関へ。
〇〇、靴履きながら
〇〇「なんか久しぶり」
北斗「何が」
〇〇「外出るの」
北斗「大げさだな」
〇〇「ちょっとだけね」
ドアの前で一瞬止まる。
北斗「行くぞ」
〇〇「うん」
小さく頷く。
そのままドア開ける。
現実の空気に戻る感じ。
でも—
〇〇「すぐ戻るし」
北斗「分かったって」
その言葉、
また自然に出る。
二人で外に出る。
エレベーターを降りる。
扉が開く。
〇〇「……」
一歩外に出た瞬間、
空気が少し変わる。
エントランスの前。
黒い車。
その横に——
マネと、数人の警備。
〇〇「……来てる」
北斗「見りゃ分かる」
〇〇、少しだけ歩くスピード落ちる。
北斗「大丈夫か」
〇〇「……うん」
小さく頷く。
でも少しだけ緊張してるのは分かる。
マネが気づく。
マネ「お、来た」
軽く手上げる。
〇〇「おはよ」
マネ「おはよ」
北斗も軽く会釈。
マネ「準備いい?」
〇〇「うん」
マネ「じゃあさくっと行こう」
いつも通りのテンション。
でも周りの警備が現実感出してる。
〇〇、ちらっと周り見る。
〇〇「……思ったより多いね」
マネ「念のためな」
〇〇「そっか」
マネ「すぐ終わらせるから」
〇〇「うん」
北斗、横で様子見てる。
マネ、北斗の方見る。
マネ「一緒に来るんだろ?」
北斗「行く」
マネ「助かる」
軽く言う。
〇〇「……」
その会話聞いて、
少しだけ安心した顔。
マネ「じゃ、乗って」
後部ドア開ける。
〇〇、一瞬だけ空見てから—
〇〇「行こ」
北斗に小さく言う。
北斗「おう」
二人で車乗り込む。
ドア閉まる。
外の空気と切り離される感じ。
エンジンかかる。
〇〇「……」
少しだけ静か。
北斗、横からちらっと見る。
〇〇は窓の外見てる。
北斗「すぐ終わる」
〇〇「うん」
小さく返す。
でもその声、
少しだけ力入ってる。
車が動き出す。
久しぶりに向かう、
自分の家へ。
車内。
運転席にマネ。
助手席は空けたまま、
後部座席に〇〇と北斗。
ドア閉まる。
マネ「じゃ、行くぞ」
エンジンかかる。
〇〇「うん」
車がゆっくり動き出す。
バックミラー越しに、
マネがちらっと後ろを見る。
マネ「大丈夫そう?」
〇〇「……うん」
少しだけ間ある返事。
マネ「無理すんなよ」
〇〇「分かってる」
北斗は横で静かに座ってる。
そのまま車は外へ出る。
エントランス抜けて—
後ろ。
黒い車が一台、少し距離あけてついてくる。
北斗「……来てるな」
〇〇もミラー越しにちらっと見る。
〇〇「ほんとだ」
マネ「警備」
〇〇「ずっと?」
マネ「行き帰りはな」
〇〇「そっか」
マネ「現地でも一応つく」
〇〇「了解」
〇〇、少しだけ息吐く。
〇〇「なんかすごいね」
マネ「まぁな」
軽く返す。
北斗「慣れろ」
〇〇「無理」
即答。
マネ「無理でいい」
〇〇「え」
マネ「慣れたら危機感なくなるから」
〇〇「……」
少し納得。
〇〇「じゃあこのままでいいや」
マネ「それでいい」
会話、少し落ち着く。
車内に静けさ。
〇〇、窓の外見てる。
北斗はその横。
さっきまでのゆるい時間とは違う、
少し張った空気。
でも—
北斗「終わったらすぐ戻るぞ」
〇〇「うん」
短く返す。
〇〇「すぐ戻る」
また同じ言葉。
マネは何も言わず、
そのままハンドル握る。
前に進む車と、
後ろからついてくる警備車。
そのまま、
〇〇の家へ向かっていく。
車がゆっくり減速する。
マネ「着いた」
〇〇「……」
窓の外。
見慣れた景色。
でも—
少しだけ遠く感じる。
〇〇「……ここか」
小さく呟く。
北斗、横でそのまま外見る。
北斗「変わってねぇな」
〇〇「うん」
でも声は少しだけ静か。
車、完全に止まる。
後ろの警備車も少し遅れて停車。
マネ、エンジン切る。
マネ「行けるか」
〇〇「……うん」
でもすぐには動かない。
3ヶ月。
その時間が一瞬で戻ってくる感じ。
〇〇「……久しぶりすぎて」
マネ「まぁな」
軽く頷く。
北斗「行くぞ」
〇〇の方を見る。
〇〇、少しだけ息吸って—
〇〇「……うん」
ドア開ける。
外に出る。
空気が違う。
〇〇「……」
自分の家の前。
でも完全に“いつも通り”ではない。
マネも降りてくる。
警備も周りに配置つく。
マネ「短時間でいくぞ」
〇〇「了解」
〇〇、玄関の方を見る。
少しだけ足止まる。
北斗「……いる」
小さく言う。
〇〇、ちらっと見る。
〇〇「うん」
その一言で、
少しだけ力抜ける。
〇〇「行こ」
一歩踏み出す。
エントランス。
自動ドアが開く。
〇〇、ゆっくり中に入る。
〇〇「……」
変わらない空間。
でも少しだけ緊張する。
マネは後ろでスーツケース引いてる。
マネ「そのまま上な」
〇〇「うん」
北斗も隣。
警備は少し距離保って周りにいる。
エレベーター前。
〇〇、ボタン押す。
静かな待ち時間。
〇〇「……久しぶりだな」
北斗「だな」
マネ「3ヶ月か」
〇〇「うん」
扉が開く。
全員乗り込む。
最上階のボタン押す。
上昇。
数字が一つずつ増えていく。
〇〇、ぼーっと見てる。
北斗は横で何も言わない。
マネは後ろでスーツケース持ったまま壁にもたれる。
マネ「必要なもんだけな」
〇〇「分かってる」
マネ「長居はしない」
〇〇「うん」
チン
最上階。
扉が開く。
廊下。
静か。
〇〇、ゆっくり降りる。
自分の部屋の前まで歩く。
足、少しだけ止まる。
〇〇「……」
北斗、横に立つ。
何も言わないけど、
そこにいる。
マネ「大丈夫か」
後ろから。
〇〇「……うん」
バッグから鍵取り出す。
手、少しだけゆっくり。
カチャ
音がやけに響く。
〇〇「……開いた」
ドアノブに手かける。
一瞬だけ止まる。
でも—
そのまま開ける。
久しぶりの自分の部屋。
少しだけ空気が止まってる感じ。
〇〇、ゆっくり中に入る。
〇〇「……」
その後ろに北斗。
さらに後ろにマネ。
マネはスーツケースそのまま中へ運ぶ。
マネ「さくっといくぞ」
〇〇「うん」
でも〇〇は、
少しだけその場で立ち止まって
部屋の中を見渡してる。
3ヶ月ぶりの、
自分の空間。
部屋の中。
静か。
カーテンは全部閉まってる。
外の気配、ほとんどない。
〇〇「……」
ゆっくり中を見渡す。
少しだけ緊張してた表情が—
だんだん緩んでいく。
〇〇「……そのまんま」
小さく呟く。
北斗、少し後ろで様子見てる。
マネはスーツケースを部屋の端に置く。
マネ「時間あるうちにやるぞ」
〇〇「うん」
クローゼットに向かう。
扉開ける。
〇〇「……あ、懐かし」
服が並んでる。
〇〇、手に取る。
〇〇「これ好きだったやつ」
北斗「覚えてんのか」
〇〇「覚えてるよ」
少し笑う。
さっきまでの不安、
少しずつ消えていく。
〇〇「これも持ってく」
ポンポン選び始める。
マネ「詰めすぎんなよ」
〇〇「分かってる」
でも止まらない。
〇〇「これもいるし」
〇〇「これも」
北斗「絶対分かってねぇだろ」
〇〇「分かってるって」
軽く返す。
さっきより声、明るい。
〇〇、次は引き出し開ける。
〇〇「あ、これもあった」
コスメポーチ。
〇〇「忘れてた」
北斗「そりゃあるだろ」
〇〇「全部置いてったもん」
〇〇、どんどん詰めていく。
〇〇「やば、楽しい」
北斗「楽しいのかよ」
〇〇「うん」
素直に笑う。
さっきまでの空気とは別人みたい。
〇〇「宝探しみたい」
北斗「自分の家だろ」
〇〇「でも久しぶりだし」
〇〇、次は別の棚。
〇〇「あ、これも必要」
下着の引き出し開ける。
一瞬だけ手止まるけど—
〇〇「……よし」
普通に選び始める。
北斗は視線逸らす。
北斗「早くしろよ」
〇〇「今やってる」
でもちょっと楽しそう。
〇〇「なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「最初ちょっと怖かったけど」
北斗「……」
〇〇「今平気かも」
北斗「ならよかったな」
〇〇「うん」
〇〇「カーテン閉まってるし」
〇〇「なんか落ち着く」
マネ、後ろで頷く。
マネ「外からは見えねぇからな」
〇〇「うん」
〇〇、また服取る。
〇〇「これも持ってく」
北斗「持ちすぎだろ」
〇〇「いいの」
〇〇「どうせまた来るし」
北斗「……」
その一言、
軽く言っただけ。
〇〇はもう完全に普段のテンション。
〇〇「これ北斗似合いそう」
北斗「いらねぇよ」
〇〇「着てみてよ」
北斗「着ねぇ」
〇〇「絶対似合うのに」
楽しそうに笑う。
マネ「時間半分な」
〇〇「え、もう?」
マネ「思ったより早いぞ」
〇〇「やば」
でも焦りながらも—
どこか楽しんでる。
さっきまでの不安はもうほとんどなくて、
いつもの、
少し子供っぽい〇〇に戻ってる。
クローゼットの前。
床には服が少し広がってる。
〇〇「どれにしよ」
北斗「選びすぎだろ」
〇〇「だって全部必要」
北斗「絶対違う」
〇〇「いる」
真剣な顔。
でもどこか楽しそう。
〇〇「これも」
スーツケースに詰める。
パンパン。
北斗「閉まんねぇぞそれ」
〇〇「閉まる」
ぎゅって押す。
北斗「雑すぎ」
〇〇「大丈夫」
マネ「あと15分」
〇〇「え、早くない?」
マネ「だから言っただろ」
〇〇「ちょっと待って」
さらに動き早くなる。
引き出し開けて—
〇〇「あ、これも!」
北斗「まだ増えるのかよ」
〇〇「これ大事」
ポンっと投げるように入れる。
北斗「扱い雑だな」
〇〇「いいのいいの」
でもふと、
動きが少し止まる。
〇〇「……」
部屋見渡す。
ベッド、机、本棚。
全部そのまま。
〇〇「……変わってないね」
北斗「そりゃな」
〇〇「なんか不思議」
北斗「何が」
〇〇「時間止まってるみたい」
北斗「……」
少しだけ静かになる。
〇〇「でも私だけ進んでる感じ」
ぽつっと。
北斗「……進んでんだろ」
〇〇「……うん」
少しだけ笑う。
でもそのあとすぐ—
〇〇「よし」
切り替える。
〇〇「あと何入れよ」
北斗「まだ入れるのか」
〇〇「入るだけ」
北斗「無理だって」
〇〇「無理じゃない」
スーツケースの上座って押す。
北斗「壊れるぞ」
〇〇「壊れない」
ぐっと力入れる。
パチン
〇〇「閉まった!」
北斗「強引すぎる」
〇〇「勝ち」
北斗「何の勝負だよ」
〇〇、満足そう。
マネ「あと5分」
〇〇「え!?」
一気に焦る。
〇〇「どうしよ」
北斗「もういいだろ」
〇〇「まだある」
北斗「諦めろ」
〇〇「やだ」
でも少し迷って—
〇〇「……じゃあこれだけ」
最後に一着取る。
それだけ入れる。
〇〇「終わり!」
マネ「OK」
〇〇、部屋をもう一度見る。
さっきより落ち着いた目。
〇〇「……また来るし」
小さく言う。
北斗「……あぁ」
〇〇「今回はこれでいいや」
北斗「十分すぎるけどな」
〇〇「でしょ」
少し笑う。
マネ「行くぞ」
スーツケース持ち上げる。
〇〇「うん」
ドアの方へ向かう。
でも—
出る前に一瞬だけ振り返る。
〇〇「……」
自分の部屋。
そのまま軽く頷いて—
〇〇「行こ」
北斗の方見る。
北斗「おう」
三人で部屋を出る。
また、
北斗の家へ戻るために。
車内。
ドア閉まる音。
マネが運転席に座る。
エンジンかかる。
〇〇は後部座席、
スーツケースの横。
北斗はその隣。
少しだけ荷物で距離近い。
〇〇「……ふぅ」
小さく息吐く。
マネ「どうだった」
〇〇「思ったより平気だった」
マネ「ならよかった」
〇〇「最初ちょっと怖かったけど」
〇〇「途中から普通だった」
マネ「カーテン閉めてたの正解だな」
〇〇「うん」
少し頷く。
車がゆっくり動き出す。
バックミラー越しに、
後ろの警備車もついてくる。
北斗「持ちすぎだろ」
スーツケース軽く足でつつく。
〇〇「必要なやつ」
北斗「絶対いらねぇの入ってる」
〇〇「入ってない」
北斗「入ってる」
〇〇「入ってないって」
でもちょっと笑ってる。
〇〇「てかさ」
北斗「ん」
〇〇「楽しかった」
北斗「……は?」
〇〇「服選ぶの」
北斗「そこかよ」
〇〇「うん」
〇〇「なんか久しぶりだったし」
北斗「まぁな」
〇〇「でも」
少し窓の外見る。
〇〇「やっぱまだ一人で戻るのは無理かも」
北斗「……」
〇〇「今日行って分かった」
北斗「なら来なくて正解だろ」
〇〇「うん」
〇〇「だから」
北斗の方少し見る。
〇〇「また戻るね」
北斗「……分かってる」
〇〇「ちゃんと」
北斗「はいはい」
〇〇「ちゃんとってば」
北斗「しつけぇな」
でも少しだけ声柔らかい。
マネ、前で軽く笑う。
マネ「仲いいな」
〇〇「普通」
北斗「普通」
二人同時。
マネ「息合ってるじゃん」
〇〇「たまたま」
北斗「偶然だ」
マネ「はいはい」
車内、少し空気緩む。
〇〇、スーツケースに軽く寄りかかる。
〇〇「これ全部北斗ん家行くのか」
北斗「邪魔だな」
〇〇「ひど」
〇〇「ちゃんと片付けるし」
北斗「ほんとかよ」
〇〇「ほんと」
少し笑う。
〇〇「なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「戻る場所あるのいいね」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「あるだろ、お前も」
〇〇「あるけど」
〇〇「今はこっちの方が安心」
北斗「……」
何も言わない。
マネも特に口挟まない。
そのまま車は進む。
〇〇「早く帰ろ」
ぽつっと言う。
北斗「もう帰ってる」
〇〇「そっか」
少し笑う。
行きとは違う空気。
少し軽くなったまま、
車は北斗の家へ戻っていく。
車がゆっくり止まる。
マネ「着いた」
〇〇「……はや」
さっきまで話してたのに、
もう到着。
〇〇、窓の外見る。
〇〇「戻ってきた」
小さく。
北斗「当たり前だろ」
〇〇「でもなんか」
〇〇「ちょっとホッとする」
北斗「……」
短く息吐く。
北斗「ほら、降りるぞ」
〇〇「うん」
ドア開ける。
外に出る。
さっきよりも体が軽い。
マネも降りて、
すぐ後ろのトランク開ける。
マネ「これな」
スーツケース取り出す。
ガタン
〇〇「ありがとう」
マネ「いいよ」
警備の車も後ろで止まる。
周り軽く確認してから、
一人が頷く。
マネ「問題なし」
〇〇「……」
その言葉聞いて、
少しだけ肩の力抜ける。
北斗、スーツケース持つ。
〇〇「持つ」
北斗「いい」
〇〇「重いよ?」
北斗「分かってる」
そのまま持つ。
〇〇「ありがと」
北斗「別に」
マネ「そのまま上行っていいぞ」
〇〇「うん」
北斗と〇〇、
そのままエントランスへ向かう。
〇〇「なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「行く前より楽かも」
北斗「そりゃ行ったからだろ」
〇〇「かもね」
少し笑う。
エントランスのドア開く。
〇〇「ただいまって感じ」
北斗「お前の家じゃねぇだろ」
〇〇「でも戻ってきたじゃん」
北斗「まぁな」
そのまま中へ。
さっきとは違う、
落ち着いた空気のまま
二人でまたエレベーターへ向かう。
エレベーターの中。
数字が上がっていく。
〇〇、壁にもたれて
〇〇「……15:30か」
スマホちらっと見る。
〇〇「思ったより早かったね」
北斗「予定通りだろ」
〇〇「もっとバタバタすると思ってた」
北斗「お前がバタバタしてただけ」
〇〇「それはそう」
少し笑う。
スーツケースは北斗の足元。
〇〇「ありがとね」
北斗「何が」
〇〇「一緒に来てくれて」
北斗「……別に」
〇〇「でもいなかったら無理だったかも」
北斗「大げさだろ」
〇〇「大げさじゃない」
北斗「……」
少しだけ視線逸らす。
チン
扉が開く。
二人で降りる。
廊下。
さっきより気持ち軽い足取り。
〇〇「帰ってきたー」
小さく伸びする。
北斗「早く入れ」
〇〇「はーい」
玄関前。
鍵開ける。
カチャ
ドア開く。
〇〇、先に入る。
〇〇「ただいまー」
北斗「だから違うって」
後ろから入る。
スーツケースを中に入れる。
ガタン
〇〇、靴脱ぎながら
〇〇「なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「ほんとにこっちが落ち着く」
北斗「……そうかよ」
〇〇「うん」
そのままリビングへ。
〇〇「はぁ〜」
ソファにそのまま倒れる。
〇〇「疲れた」
北斗「何もしてねぇだろ」
〇〇「した」
〇〇「精神的に」
北斗「はいはい」
北斗はスーツケースを部屋の端へ。
〇〇、ゴロゴロしながら
〇〇「開けるのめんどい」
北斗「あとでやれ」
〇〇「やる」
でも動かない。
〇〇「……ね」
北斗「ん」
〇〇「今日夜仕事でしょ」
北斗「あぁ」
〇〇「私も」
北斗「知ってる」
〇〇「それまで何する?」
北斗「休めばいいだろ」
〇〇「寝る?」
北斗「好きにしろ」
〇〇「一緒に?」
北斗「は?」
〇〇「冗談」
くすっと笑う。
北斗「紛らわしいこと言うな」
〇〇「ごめんごめん」
でも楽しそう。
〇〇「でもちょっと寝たいかも」
北斗「寝ろ」
〇〇「起こして」
北斗「目覚まし使え」
〇〇「信用ない」
北斗「俺もねぇよ」
〇〇「じゃあ二重で」
北斗「勝手にしろ」
〇〇、目閉じる。
〇〇「……なんか安心した」
ぽつっと。
北斗「……」
少しだけそのまま見る。
さっきよりも、
完全に力抜けてる〇〇。
北斗「ならよかったな」
小さく言う。
〇〇「うん」
そのまま、
静かな午後の空気に戻っていく。
リビング。
〇〇、ソファでごろっとしたまま—
〇〇「……ねぇ」
北斗「ん」
〇〇、天井見たまま。
〇〇「部屋替えしたい」
北斗「……は?」
〇〇「荷物増えたし」
足元に置かれてるスーツケースちらっと見る。
〇〇「さすがにあの部屋だと狭い」
北斗「今さらかよ」
〇〇「今さら」
即答。
北斗「どこに変える気だよ」
〇〇、少し体起こして
〇〇「空いてる部屋あるでしょ」
北斗「あるけど」
〇〇「そこ使いたい」
北斗「……」
少し考える。
北斗「まぁいいけど」
〇〇「いいの?」
北斗「どうせ長くいるんだろ」
〇〇「うん」
迷いなく。
北斗「なら住みやすい方がいいだろ」
〇〇「やった」
すぐ嬉しそう。
〇〇「広いとこがいい」
北斗「わがままだな」
〇〇「大事」
北斗「はいはい」
〇〇、すぐ立ち上がる。
〇〇「どこにする?」
北斗「今決めんのかよ」
〇〇「今」
北斗「行動早ぇな」
〇〇「思い立ったらすぐ」
北斗「知ってる」
二人で廊下へ。
〇〇「ここは?」
ドア開ける。
少し広めの部屋。
〇〇「いいじゃん」
北斗「そこ客用」
〇〇「じゃあちょうどいい」
北斗「勝手に決めるな」
〇〇「ここにする」
北斗「……」
もう止めない。
北斗「好きにしろ」
〇〇「やった」
そのまま部屋の中入る。
〇〇「広い〜」
くるっと一周。
〇〇「ベッドも置けるし」
〇〇「服も置ける」
〇〇「完璧」
北斗「まだ何もしてねぇけどな」
〇〇「これからする」
〇〇「荷物持ってくる」
北斗「今やるのかよ」
〇〇「やる」
北斗「寝るって言ってただろ」
〇〇「やっぱこっち優先」
北斗「……」
苦笑い。
〇〇「手伝って」
北斗「なんで」
〇〇「一人だと無理」
北斗「さっきまで元気だっただろ」
〇〇「それとこれ別」
北斗「……はぁ」
ため息。
北斗「今回だけな」
〇〇「またそれ」
笑う。
〇〇「じゃあお願い」
北斗「しゃーねぇな」
そのまま二人でリビング戻る。
スーツケースのとこ。
〇〇「これ全部運ぶ」
北斗「重いぞ」
〇〇「知ってる」
北斗、持ち上げる。
〇〇「ありがと」
北斗「お前もなんか持て」
〇〇「これ」
小さいバッグだけ持つ。
北斗「軽すぎだろ」
〇〇「役割分担」
北斗「偏りすぎ」
〇〇、笑う。
そのまま新しい部屋へ。
〇〇「ここ私の部屋ね」
北斗「一応俺ん家だからな」
〇〇「知ってる」
〇〇「でも今はここ」
北斗「……」
その言い方に少しだけ間。
でも何も言わない。
〇〇、荷物置いて
〇〇「よし」
〇〇「なんか楽しい」
北斗「引っ越しかよ」
〇〇「そんな感じ」
〇〇「ちょっとワクワクする」
北斗「元気だな」
〇〇「さっきまでの不安どっかいった」
北斗「ならいいけど」
〇〇「うん」
〇〇、部屋見渡して
〇〇「ちゃんと住める感じにする」
北斗「好きにしろ」
〇〇「する」
そのまま
“仮の場所”だった空間が、
少しずつ“自分の場所”に変わり始める。
新しく決めた部屋。
スーツケース開けかけのまま、
〇〇、床に座って服広げてる。
〇〇「これどこ置こ」
北斗「クローゼットあるだろ」
〇〇「あとで」
全然“あとで”の顔。
そのまま部屋見渡して—
〇〇「……ねぇ」
北斗「ん」
〇〇、ふと思いついたみたいに顔上げる。
〇〇「さ」
北斗「何」
〇〇「せっかく住んでるんだしさ」
北斗「……」
〇〇「全部変えない?」
北斗「は?」
〇〇「この部屋だけじゃなくて」
〇〇「家全体」
北斗「……急だな」
〇〇「だって今ここで生活してるじゃん」
〇〇「だったらさ」
〇〇、立ち上がって軽く歩きながら
〇〇「もっと住みやすくしたい」
北斗「……」
〇〇「例えばさ」
少し楽しそうに指で空間示す。
〇〇「家具変えたり」
〇〇「配置変えたり」
〇〇「ベッドも大きくしてさ」
北斗「……」
〇〇「一緒に寝れるくらいのやつ」
さらっと言う。
北斗「……は?」
一瞬止まる。
〇〇は全く気にしてない。
〇〇「広い方が楽じゃん」
〇〇「どうせ夜も仕事で疲れるし」
〇〇「ゆっくり寝れる方がいい」
北斗「……」
〇〇「あとソファももうちょい大きいのがいいかも」
〇〇「二人でゴロゴロできるやつ」
北斗「……おい」
〇〇「ん?」
普通に振り返る。
北斗「今なんて言った」
〇〇「ソファ?」
北斗「その前」
〇〇「ベッド?」
北斗「……」
〇〇「大きい方がいいでしょ?」
本気で分かってない顔。
北斗「……」
一回目線逸らす。
北斗「お前さ」
〇〇「ん」
北斗「距離感バグってるぞ」
〇〇「え?」
〇〇「なんで?」
北斗「なんでじゃねぇよ」
〇〇「だって普通じゃない?」
北斗「普通じゃねぇ」
〇〇「え、そう?」
本気で首かしげる。
〇〇「一緒に住んでるし」
北斗「……」
〇〇「効率いいし」
北斗「効率で決めんな」
〇〇「だめ?」
北斗「だめだろ」
〇〇「えー」
ちょっと不満そう。
でもすぐまた切り替える。
〇〇「じゃあベッドは別でもいいや」
北斗「そこじゃねぇ」
〇〇「でも大きいのはいいでしょ?」
北斗「……まぁ」
〇〇「でしょ」
満足そう。
〇〇「あとさ」
まだ続く。
北斗「まだあんのかよ」
〇〇「ある」
〇〇「キッチンも使いやすくしたい」
北斗「お前料理下手だろ」
〇〇「練習する」
北斗「ほんとかよ」
〇〇「ほんと」
〇〇「だから環境大事」
北斗「……」
その理屈は一応通ってる。
〇〇「なんかさ」
少しだけ柔らかくなる声。
〇〇「ここ、ちゃんと“生活してる場所”にしたい」
北斗「……」
〇〇「今はまだ借りてる感じだから」
〇〇「もうちょいちゃんとしたい」
北斗「……」
さっきまでの無邪気さとは違う、
少しだけ真面目なトーン。
でも—
〇〇「で、どう?」
すぐまた軽く戻る。
北斗「……好きにしろ」
〇〇「いいの?」
北斗「俺ん家だけどな」
〇〇「知ってる」
〇〇「でもやる」
北斗「だろうな」
〇〇、嬉しそうに笑う。
〇〇「なんか楽しみ」
北斗「引っ越し気分だな」
〇〇「それ」
〇〇「ちょっとワクワクする」
北斗「……」
その無防備な笑顔見て、
小さく息吐く。
北斗(ほんと何も考えてねぇな)
でも—
嫌じゃないのも分かってる。
〇〇はもう次のこと考えてて
〇〇「まず何から変える?」
北斗「知らねぇよ」
〇〇「一緒に決めよ」
北斗「なんで俺もなんだよ」
〇〇「一緒に住んでるから」
北斗「……」
またそれ。
でも結局—
北斗「……後でな」
〇〇「はーい」
そのまま、
二人の“生活”が
少しずつ形を変え始める。
部屋の中。
家具の話で一通り盛り上がったあと、
〇〇「……じゃあさ」
北斗「ん」
〇〇、ソファに座り直して、軽く首かしげる。
〇〇「ベッドさ」
北斗「……」
〇〇「やっぱ一緒のやつにしない?」
北斗「は?」
一回出たその声、さっきより短い。
〇〇「だって大きいのにするんでしょ?」
北斗「それとこれとは別だろ」
〇〇「同じでしょ」
北斗「違う」
〇〇「えー」
納得いってない顔。
〇〇「でもさ、別々のベッドって逆に不便じゃない?」
北斗「不便じゃねぇよ普通」
〇〇「でも夜とかさ」
〇〇「呼ぶのめんどくさいじゃん」
北斗「呼ぶ前提で話すな」
〇〇「あとさ」
〇〇、全然気にせず続ける。
〇〇「ソファで寝落ちとかもあるし」
〇〇「そのまま運ぶのも大変だし」
北斗「お前前提で話すな」
〇〇「じゃあ効率で考えて」
北斗「またそれかよ」
〇〇「一緒の方が効率いい」
北斗「……」
一瞬黙る。
〇〇「広いやつならいいじゃん」
〇〇「普通に寝れるし」
北斗「……」
また無意識に押されてる。
〇〇「ね?」
北斗「……」
少しだけ目逸らす。
北斗(なんでこんな自然に言うんだよ)
〇〇はただ本気で便利だと思ってる顔。
それが一番厄介。
北斗「……好きにしろって言ったろ」
〇〇「じゃあいいの?」
北斗「勝手にしろ」
〇〇「やった」
即決。
〇〇「じゃあ発注ね」
北斗「誰が発注すんだよ」
〇〇「一緒に選ぼ」
北斗「一緒に、の範囲広すぎ」
〇〇「だって住むし」
北斗「……」
ため息。
北斗「ほんと勝手だな」
〇〇「褒めてる?」
北斗「違ぇよ」
〇〇「でもありがと」
北斗「礼言うとこじゃねぇ」
〇〇「じゃあ感謝」
北斗「同じだろ」
〇〇「うん」
楽しそうに笑う。
そのまま少し間。
〇〇「じゃあさ」
北斗「まだあんのか」
〇〇「今日からそれでいい?」
北斗「……今日?」
〇〇「うん」
北斗「早すぎだろ」
〇〇「早い方がいいじゃん」
北斗「準備とかあるだろ」
〇〇「ないない」
北斗「雑すぎ」
〇〇「だって寝れるし」
〇〇「それで十分」
北斗「……」
一拍。
北斗「……まぁ」
北斗「別にいいけど」
〇〇「ほんと?」
北斗「うるせぇな」
〇〇「やった」
また嬉しそう。
〇〇「決まった方が楽」
北斗「お前だけな」
〇〇「北斗もでしょ」
北斗「違う」
〇〇「同じ同じ」
北斗「勝手に決めんな」
でも完全に否定しきれてない。
17:00。
部屋の中が一気に動き出す。
〇〇「もうこんな時間か」
北斗「早いな」
マネ「出るぞ」
〇〇「うん」
さっきまでベッドの話してたのに、
一瞬で“仕事モード”に切り替わる感じ。
〇〇はスーツケースの片付け途中をそのままにして、
上着を羽織る。
〇〇「じゃあ行ってくる」
北斗「おう」
北斗も同じく準備してる。
北斗「俺も夜から」
〇〇「そっか、同じくらい?」
北斗「まぁな」
短いやり取り。
でももう慣れた空気。
マネ「送るぞ」
〇〇「お願いします」
玄関へ。
靴を履く音だけが響く。
〇〇「なんか今日ずっとバタバタしてる」
北斗「お前が動きすぎなんだよ」
〇〇「かも」
少し笑う。
ドアが開く。
外の空気が入る。
〇〇「いってきます」
北斗「いってら」
マネ「じゃあな」
軽く手を振って車へ向かう。
—
同じ頃。
北斗も別の車へ向かう準備で外へ出ている。
エントランス前。
警備が少し距離を保ちながらつく。
北斗「……」
スマホを見るでもなく、ただ一瞬空を見る。
北斗(あいつ今日ずっと騒がしかったな)
小さく息を吐く。
でもどこか、
いつもより“普通”に近い一日だった気もしている。
北斗「……行くか」
マネ車に乗り込み、
そのまま仕事へ。
—
〇〇は車の中。
窓の外をぼんやり見ながら、
〇〇「なんか落ち着くの早いな今日」
マネ「慣れだろ」
〇〇「慣れかぁ」
少し笑う。
さっきまでの家の空気がまだ少し残ってる。
でももう、
それぞれの仕事の時間へ戻っていく。
静かに一日がまた動き出す。
車内。
窓の外、ビルがゆっくり流れていく。
〇〇「……なんかさ」
マネ「ん」
〇〇「今日いろいろありすぎて、感覚バグる」
マネ「普通に濃い一日だな」
〇〇「だよね」
軽く笑う。
でも少しだけぼーっとしてる。
〇〇「部屋替えもしたし」
マネ「お前の気分でな」
〇〇「うん」
少し間。
〇〇「でもさ」
マネ「ん?」
〇〇「落ち着く場所があるのっていいね」
マネ「今さらかよ」
〇〇「今さら」
即答。
窓の外に視線戻す。
〇〇「前はどこも落ち着かなかったから」
マネ「今は?」
〇〇「今は……ある」
小さく。
マネ「それでいいだろ」
〇〇「うん」
短い返事。
車が信号で止まる。
赤。
静か。
〇〇「北斗も夜からって言ってたよね」
マネ「あぁ」
〇〇「ちゃんと寝れてるのかな」
マネ「寝てねぇだろあいつ」
〇〇「やっぱり」
少し笑う。
マネ「お前といると余計だろ」
〇〇「え、なんで」
マネ「知らんけど」
〇〇「適当」
マネ「事実だろ」
〇〇「どういう事実?」
マネ「自分で考えろ」
〇〇「はーい」
また軽く笑う。
信号が青に変わる。
車が動き出す。
—
一方その頃。
北斗。
現場前の車内。
スタッフと軽く打ち合わせしながらも、
少しだけスマホを見ている。
北斗(……)
特に連絡が来ているわけじゃない。
でもさっきまでの部屋の空気が、
まだ少し残ってる。
北斗「……」
小さく息吐く。
スタッフ「北斗さん、そろそろ入ります」
北斗「あぁ」
スマホをポケットにしまう。
北斗(あいつ今仕事か)
それだけ頭の隅に置いて、
仕事モードに切り替える。
—
〇〇の車。
現場が近づく。
マネ「ここから忙しくなるぞ」
〇〇「うん」
〇〇、少しだけ背筋伸ばす。
でも顔は落ち着いてる。
〇〇「行ってきますモードだ」
マネ「最初からそうしろ」
〇〇「無理だった」
マネ「知ってる」
車が止まる。
〇〇「じゃあ行ってくる」
マネ「おう」
ドアを開ける。
外の空気。
さっきとは違う“仕事の空気”。
〇〇、軽く一度だけ息吸って、
〇〇「よし」
一歩、現場へ入っていく。
それぞれが、
それぞれの場所で動き出す時間。
ーーーーーーーーー
北斗side
現場。
照明の熱と、人の声と、カメラのシャッター音。
北斗は台本を片手に立ち位置へつく。
北斗「……」
セリフを頭でなぞる。
でも少しだけ集中がズレる。
スタッフ「北斗さん、お願いします」
北斗「はい」
返事はいつも通り。
動きも問題ない。
それなのに。
北斗(……)
ふと、
昼の部屋が浮かぶ。
〇〇がスーツケースの上で笑ってた顔。
「一緒のベッドにする?」って、
何も考えずに言ってた声。
北斗「……」
一瞬、目線が落ちる。
スタッフ「北斗さん?」
北斗「あ、すみません」
すぐ戻す。
北斗(やめろ)
自分に言い聞かせる。
カメラ回る。
北斗は役に入る。
表情も声も問題ない。
でも——
カットがかかるたびに、
少しだけ戻る。
北斗(部屋、広くしてたな)
北斗(荷物、全部持ってった)
北斗(あのまま普通に住む気だろ)
何も特別なことじゃないはずなのに、
やけに残る。
スタッフ「OKです!」
次の準備。
北斗は移動する。
歩きながら、
ポケットの中のスマホを一瞬触る。
でも見ない。
北斗(連絡来てるわけでもねぇのに)
それでも頭にいる。
〇〇が、
ソファで「落ち着く」と言ってた顔。
マネに軽く笑ってた声。
北斗「……」
息を吐く。
北斗(意識すんなって)
そう思ってるのに、
意識してることに気づいてる。
—
休憩。
楽屋。
北斗は椅子に座る。
スタッフの話は耳に入ってくるけど、
どこか遠い。
北斗(今日やたら騒がしかったな)
北斗(なのに……)
少しだけ間。
北斗(変に落ち着いてた)
自分でもよく分からない感覚。
スマホを見る。
開かない。
閉じる。
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗(何考えてんだ俺)
でも、
昼の〇〇の顔が一番最後に残る。
無邪気に笑って、
「ベッド一緒でいいじゃん」って言ってた声。
北斗「……」
指で軽く額押さえる。
北斗(あいつほんと何も考えてねぇな)
でも、
それが一番厄介だとも思っている。
スタッフ「そろそろ戻ります!」
北斗「はい」
立ち上がる。
もう一度現場へ向かう。
歩きながら、
北斗(まぁいいか)
小さく自分に言う。
北斗(今考えることじゃねぇ)
そうやって一度だけ、
意識を仕事の方へ戻す。
でもその奥のどこかで、
〇〇の存在だけは、
まだ静かに残っているまま。
ーーーー
夜。
仕事を終えた〇〇は、マネの車に乗り込むとそのまま深く息を吐いた。
〇〇「……終わった」
マネ「おつかれ」
〇〇「今日はちゃんと疲れた気がする」
マネ「毎回言ってるな」
〇〇「今回はほんと」
少し笑いながら、バッグを探る。
指先に当たる小さな金属。
〇〇「あった」
合鍵。
軽く握り直す。
〇〇「帰れる」
マネ「帰る場所できたな」
〇〇「うん」
素直に頷く。
車が静かに動き出す。
窓の外は夜の街。
明かりが流れていく。
しばらくして。
マンション前。
車が止まる。
マネ「着いたぞ」
〇〇「ありがと」
ドアを開けて外へ。
少し冷たい空気。
〇〇「ただいまって感じ」
マネ「もう完全に住民だな」
〇〇「そうかも」
軽く笑う。
そのままエントランスへ。
エレベーターに乗る。
静かな上昇。
〇〇(今日いろいろあったな)
少しだけぼーっとする。
チン。
最上階。
ーーー
玄関前。
〇〇、合鍵を見てからドアを開ける。
カチャ
中は明るい。
そして——
リビングの奥から水の音。
〇〇「……」
ゆっくり中へ入る。
「ザァ……」
風呂の音。
〇〇(あ、いる)
靴を脱ぐ。
そのとき。
風呂から上がったばかりの北斗が出てくる。
髪はまだ少し濡れていて、
首元から水滴が落ちてる。
〇〇「おかえり」
北斗「おう」
タオルで軽く頭拭きながら。
Tシャツの上からでも分かるくらい、
腕や肩にうっすら筋肉が浮いている。
〇〇「……」
一瞬だけ見てしまう。
〇〇「なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「普通に風呂上がりなのに怖いんだけど」
北斗「意味わかんねぇ」
北斗、タオルで髪を拭きながらキッチンへ行く。
〇〇、ついていく。
〇〇「ちゃんとトレーニングしてるでしょ」
北斗「仕事だろ」
〇〇「でも分かるよそれ」
北斗「何が」
〇〇「肩とかさ」
〇〇「ちょっと違う」
北斗「見んな」
〇〇「見てない」
即答。
北斗「見てただろ」
〇〇「たまたま」
北斗「はいはい」
冷蔵庫開ける。
水飲む。
北斗「お前は?」
〇〇「飲む」
北斗「はい」
コップ渡す。
〇〇「ありがと」
水を飲む〇〇。
その横で北斗はまだ髪を拭いている。
静かな夜。
でも昼のバタバタとは違う、
落ち着いた空気。
〇〇「なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「帰ってきた感じする」
北斗「最初からここだろ」
〇〇「でも違う」
北斗「……」
〇〇「今日ちゃんと戻ってきた感じ」
北斗「……そうかよ」
短く返す。
でも少しだけ目線が柔らかい。
〇〇「ね、北斗」
北斗「ん」
〇〇「お風呂上がりでその感じやめて」
北斗「どの感じだよ」
〇〇「普通にかっこいいやつ」
北斗「知らねぇよ」
〇〇「ほんとに」
北斗「うるせぇ」
でも少しだけ、いつもより静かな夜。
外はもう完全に暗い。
二人の“日常”がまた、ここから続いていく。
ーーーー
リビング。
〇〇「じゃあ私も風呂入る」
北斗「おう」
軽く返事が返る。
北斗はソファでスマホを見ていて、視線は画面のまま。
〇〇はキッチン横の収納を開けて、自分の下着と部屋着を取り出す。
〇〇「これとこれと…」
タオルの上にまとめていく。
北斗「ちゃんと持ってけよ」
〇〇「持ってるって」
北斗「今の動きは落とすやつだろ」
〇〇「落とさないし」
北斗「信用ねぇな」
〇〇「大丈夫だから」
軽く笑って、そのままバスルームへ向かう。
〇〇「いってきます」
北斗「はいはい」
扉が閉まる。
カチ、と音がして空気が少し静かになる。
北斗は一人ソファに残る。
スマホを軽くスクロールするけど、あまり頭に入ってこない。
北斗「……」
さっきまでの〇〇の動きが少しだけ残ってる。
(ほんとに普通にここで生活してんな)
そんなことを思いながら、水を飲む。
—
バスルーム。
〇〇「ふぅ……」
カーテンを閉めてお湯を出す。
シャワーの音が広がる。
〇〇「今日ほんと濃かった」
小さく笑いながら服を脱いでまとめる。
湯気が立ち込める。
〇〇「落ち着くなぁ」
湯船に浸かると一気に力が抜ける。
肩まで沈んで、天井をぼんやり見る。
〇〇(戻ってきた感じする)
さっきまでの慌ただしさが少し遠くなる。
〇〇「明日もこんな感じかな」
ぽつりと呟く声は軽い。
—
リビング。
北斗は立ち上がって水を飲み、またソファに座る。
北斗「……遅いな」
特に急かすわけでもなく、小さく呟く。
腕を組んで天井を見る。
静かな時間。
ただそれだけの夜が流れていく。
ーーー
バスルームのドアが開く。
「カチャ」
〇〇「……ふぅ」
湯気を少しまとったまま出てくる。
髪はタオルで軽くまとめられていて、いつもよりふわっとしてる。
そして今日は——
自分の服。
少し大きめのトップスで、柔らかい素材がゆるく身体に沿ってる。
下は膝より少し上の短いズボン。
〇〇「なんかこれ久しぶりかも」
小さく自分で笑いながら髪を拭く。
リビングに戻ると、
北斗がソファでスマホを見ていた。
北斗「おう」
〇〇「出た」
北斗「遅い」
〇〇「普通だし」
北斗、ちらっと見る。
一瞬だけ視線が止まる。
北斗「……」
〇〇「ん?」
北斗「いや」
すぐ目を逸らす。
〇〇は気づかずに冷蔵庫へ向かう。
〇〇「なんか飲も」
北斗「水あるだろ」
〇〇「違うのがいい」
北斗「わがまま」
〇〇「たまにはいいでしょ」
軽く笑う。
コップを取りながら、
ふわふわした服の裾が少し揺れる。
北斗はスマホを見てるふりをしているけど、
さっきから画面はほとんど進んでいない。
北斗(……)
一瞬だけ、さっきの姿が頭に残る。
(普通に家着かよ)
そう思うのに、
なぜか目線だけ一度戻ってしまう。
北斗「……」
すぐ逸らす。
〇〇は気づかないまま水を注ぐ。
〇〇「ふぅ、生き返る」
ソファの方へ戻ってくる。
北斗「髪ちゃんと乾かせよ」
〇〇「あとでやる」
北斗「絶対やらねぇやつ」
〇〇「やるって」
北斗「信用ねぇな」
〇〇「さっきからそればっか」
軽く笑う。
ソファの横に座る。
少し距離は近い。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「今日さ」
北斗「うん」
〇〇「ほんと忙しかったけど」
〇〇「なんか落ち着いてる今の方が好きかも」
北斗「……そうかよ」
短く返す。
でも少しだけ声が柔らかい。
〇〇はコップを持ったまま、ぼんやり前を見る。
〇〇「こういうの、悪くないね」
北斗「……」
北斗は何も言わない。
ただソファに座ったまま、
少しだけ天井を見る。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
スマホから目だけ上げる。
〇〇「夜ご飯どうする?」
北斗「……今?」
〇〇「うん」
北斗「作る気?」
〇〇「ちょっとはある」
北斗「ちょっとかよ」
〇〇「ちょっとはあるでしょ」
北斗「まぁな」
少しだけ間。
北斗「買いに行くか?」
〇〇「え、でも外出るのだるい」
北斗「だろうな」
〇〇「出前?」
北斗「それが一番現実的」
〇〇「何頼む?」
北斗「お前何食いたいんだよ」
〇〇「うーん……」
ソファにだらっと寄りかかる。
〇〇「軽いやつ」
北斗「軽いって何」
〇〇「サラダとか」
北斗「足りねぇだろ」
〇〇「あとおにぎり」
北斗「小学生か」
〇〇「バランスいいじゃん」
北斗「どこがだよ」
軽くため息つきながらも、北斗はスマホで注文画面を開く。
北斗「肉系いれるぞ」
〇〇「えー」
北斗「えーじゃねぇ」
〇〇「じゃあ任せる」
北斗「最初からそうしろ」
〇〇「優しさで言ったのに」
北斗「どこが」
〇〇「心」
北斗「適当すぎ」
〇〇は笑いながらコップを置く。
〇〇「じゃあさ、からあげ系?」
北斗「それでいいだろ」
〇〇「賛成」
北斗「即決だな」
〇〇「お腹すいたもん」
北斗「さっき水飲んでただろ」
〇〇「別腹」
北斗「意味違う」
注文を進めながら、北斗は少しだけ横を見る。
〇〇はソファで足を伸ばして、完全にリラックスしている。
北斗(ほんと切り替え早いな)
でもその様子に変な緊張はもうない。
北斗「あと何かいる?」
〇〇「ポテト」
北斗「子供か」
〇〇「いる」
北斗「はいはい」
注文を確定させる。
北斗「30分くらいだな」
〇〇「ちょうどいい」
〇〇はソファにごろんと倒れる。
〇〇「今日はゆっくりできる日だね」
北斗「お前のせいでゆっくりじゃなかったけどな」
〇〇「それ褒めてる?」
北斗「違う」
〇〇「でも楽しかったでしょ」
北斗「……」
少しだけ黙る。
北斗「まぁな」
短く返す。
ソファ。
〇〇は足を伸ばしたまま、天井を見てぼんやりしている。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
スマホから目を上げる。
〇〇「私もジム行こうかなって思うんだけどさ」
北斗「……急だな」
〇〇「うん、思っただけ」
即答。
北斗「思っただけかよ」
〇〇「でもさ」
少し起き上がって、
〇〇「体動かした方がいいじゃん?」
北斗「まぁな」
〇〇「でもしんどいの無理」
北斗「最初から終わってるじゃねぇか」
〇〇「でしょ?」
誇らしげに言う。
北斗「褒めてねぇ」
〇〇「知ってる」
北斗「……」
少しだけ間。
〇〇「たぶん行ってもさ」
〇〇「2回目くらいでサボる」
北斗「確定してるな」
〇〇「でしょ?」
〇〇「そしたら風磨に怒られる」
北斗「なんで風磨なんだよ」
〇〇「ジム系うるさいじゃんあいつ」
北斗「あいつはな」
〇〇「絶対言うもん」
〇〇「“またサボってんの?”って」
北斗「言うわ」
〇〇「やだー!!」
急にソファに倒れ込む。
〇〇「絶対怒られるのやだ」
北斗「行かなきゃいいだろ」
〇〇「でも行きたい気持ちはある」
北斗「一番厄介なやつ」
〇〇「そうなの」
またごろっと横になる。
〇〇「でもさ」
北斗「ん」
〇〇「風磨ってさ、なんかこう…」
〇〇「ちゃんとしてる人には厳しいよね」
北斗「お前ちゃんとしてないだろ」
〇〇「そこは違う話」
北斗「雑だな」
〇〇「でもさ、優しいんだよね」
北斗「まぁな」
〇〇「怒るけどちゃんと見てるっていうか」
北斗「見てるな」
〇〇「だから余計に嫌」
北斗「矛盾してるな」
〇〇「うん」
即答。
北斗「自覚あるんだな」
〇〇「ある」
また普通に笑う。
北斗はスマホを置いて、少しだけ背もたれに寄りかかる。
北斗「ジムはやめとけ」
〇〇「え、なんで」
北斗「続かねぇから」
〇〇「ひど」
北斗「事実だろ」
〇〇「でもさ」
〇〇「ちょっとだけはやるかもよ?」
北斗「“ちょっとだけ”で終わるやつだろ」
〇〇「うん」
北斗「認めんなよ」
〇〇「でも無理なもんは無理」
北斗「開き直りすぎ」
〇〇「だってしんどいの嫌い」
北斗「知ってる」
少しだけ沈黙。
そのあと北斗がふっと息を吐く。
北斗「まぁ今のままでいいだろ」
〇〇「え?」
北斗「別に無理して変える必要ねぇし」
〇〇「……ふーん」
少しだけ目を瞬かせる。
〇〇「優しいじゃん」
北斗「うるせぇ」
〇〇「今のちょっと好き」
北斗「はいはい」
北斗はまたスマホに視線を戻すけど、
口元だけほんの少し緩む。
そのタイミングでインターホンが鳴る。
ピンポーン。
〇〇「あ、来た」
北斗「飯な」
〇〇「お腹すいた!」
インターホンが鳴ってから、空気が一気に“現実のご飯モード”になる。
〇〇「行ってくる!」
北斗「転ぶなよ」
〇〇「もうそれ言わないで」
玄関へ小走りで向かって、受け取る〇〇。
袋を両手で持って戻ってくると、すでにいい匂いが部屋に広がってる。
〇〇「きたきた!」
北斗「遅い」
〇〇「早い方でしょ」
テーブルに広げると、からあげ・ポテト・ごはん系が並ぶ。
〇〇「優勝じゃんこれ」
北斗「言い方」
〇〇「いただきます!」
北斗「はいはい」
二人で食べ始める。
最初はただの無言の食事。
でも数分後、〇〇がポテトをつまみながらふと思い出す。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「昼のベッドの話なんだけどさ」
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
〇〇「やっぱあれさ、我ながらいい案じゃない?」
北斗「どこがだよ」
〇〇「だってさ」
ポテトを咥えたまま続ける。
〇〇「広いし楽だし、一緒に使えるし」
北斗「そこだよ問題は」
〇〇「何が?」
北斗「“一緒に使える”の意味」
〇〇「普通でしょ」
北斗「普通じゃねぇ」
〇〇「なんで?」
北斗「距離感」
〇〇「距離感ってなに」
北斗「お前の基準バグってんだよ」
〇〇「えー」
全然納得してない顔。
〇〇「でもさ」
〇〇「ソファも大きくするって言ったじゃん」
北斗「それはいい」
〇〇「でしょ?」
〇〇「じゃあ同じじゃん」
北斗「違う」
〇〇「同じ」
北斗「違う」
またいつものやり取り。
〇〇は笑いながら唐揚げを食べる。
〇〇「でもさ」
北斗「ん」
〇〇「なんかさ、前よりちゃんと“生活”してる感じする」
北斗「……」
手が少し止まる。
〇〇「今までってさ、部屋って感じだったじゃん」
〇〇「でも今は、ちゃんと“家”って感じ」
北斗「……お前のせいだろ」
〇〇「え?」
北斗「勝手に物増やしてるし」
〇〇「いいじゃん」
北斗「まぁな」
短く返す。
〇〇は満足そうに笑う。
〇〇「じゃあベッドは?」
北斗「まだ言うのかよ」
〇〇「大事じゃん」
北斗「どこが」
〇〇「だって寝るとこだよ?」
北斗「別でいい」
〇〇「えー」
〇〇「でも広いのにするんでしょ?」
北斗「するけど」
〇〇「じゃあ一緒でいい」
北斗「理屈が飛びすぎ」
〇〇「いいじゃん別に」
北斗「……」
北斗は唐揚げを一口食べてから、軽くため息。
北斗「お前さ」
〇〇「ん?」
北斗「ほんとに無自覚だな」
〇〇「何が?」
北斗「なんでもない」
〇〇「えー気になる」
北斗「気にすんな」
〇〇「気になるって」
北斗「うるせぇ」
でも少しだけ視線をそらす北斗。
〇〇は全然気づかずにポテトを食べ続ける。
〇〇「まぁいいや」
〇〇「とりあえず楽しそうだからいっか」
北斗「雑だな」
〇〇「人生そんなもん」
北斗「誰のだよ」
軽い食事の音だけが続く。
〇〇「同じベットで寝るの何がそんなにも嫌なの?」
テーブルの上で、箸が一瞬止まる。
〇〇の声はいつも通り軽いのに、その質問だけ少しだけ空気の温度が変わる。
北斗「……嫌っていうか」
一口飲んでから、視線を落とす。
北斗「普通は別だろ」
〇〇「普通ってなに」
即返し。
北斗「距離とかさ」
〇〇「距離?」
北斗「そう」
少しだけ間を置く。
北斗「寝るとこ一緒って、普通は気使うだろ」
〇〇「気使わないけど」
北斗「お前の話してねぇ」
〇〇「していいじゃん」
北斗「……」
軽くため息。
北斗「寝てる時って無防備だし」
〇〇「うん」
北斗「変に近いと落ち着かねぇだろ」
〇〇「え、でも逆じゃない?」
北斗「逆?」
〇〇「近い方が安心するじゃん」
北斗「しねぇよ」
即答。
〇〇「そうなの?」
北斗「そうだ」
〇〇は納得いってない顔のまま、ポテトをくるくる回す。
〇〇「でもさ」
北斗「ん」
〇〇「私、別に気使わないけど」
北斗「それが問題なんだよ」
〇〇「なんで」
北斗「お前が気使わないのが一番怖い」
〇〇「失礼じゃない?」
北斗「事実」
〇〇「ふーん」
でも怒ってない。
むしろちょっと笑ってる。
〇〇「じゃあさ」
北斗「まだあんのか」
〇〇「嫌っていうより、慣れてないだけ?」
北斗「……」
その言い方に少しだけ詰まる。
北斗「まぁ……そうかもな」
〇〇「でしょ」
嬉しそうに即反応。
〇〇「じゃあ慣れたらいいじゃん」
北斗「簡単に言うな」
〇〇「簡単だよ」
北斗「どこがだよ」
〇〇「一緒に寝るだけ」
北斗「その“一緒”が問題だろ」
〇〇「何がそんなに気になるの?」
少しだけ真正面から見てくる。
北斗「……」
また一瞬黙る。
北斗(説明しづれぇなこれ)
北斗「まぁ」
北斗「普通に、落ち着かねぇだけ」
〇〇「ふーん」
〇〇は唐揚げを口に入れながら、
まったく悪気なく言う。
〇〇「じゃあ落ち着けばいいんだ」
北斗「そう簡単にいかねぇ」
〇〇「やってみないと分かんないじゃん」
北斗「お前が言うと怖いんだよ」
〇〇「なんで」
北斗「全部自然に距離詰めてくるから」
〇〇「えー」
軽く笑う。
でもその笑いは本気で否定してない。
北斗はそこでようやく唐揚げを一口食べる。
北斗「……まぁ」
小さく呟く。
北斗「慣れたら、かもな」
〇〇「でしょ」
満足そうに頷く。
〇〇「じゃあ決まり」
北斗「決めんな」
〇〇「もう決まってる」
北斗「勝手だなほんと」
でもそのやり取りはもう、さっきほど強い拒否じゃない。
唐揚げを口に入れたまま、北斗が少しだけ固まる。
〇〇の言葉は軽い冗談みたいなのに、タイミングだけ妙に鋭い。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇、箸をくるくる回しながらニヤっとする。
〇〇「まさかさ」
北斗「……」
〇〇「いやらしいこと考えてないよね?」
北斗「は?」
即答。
〇〇「え、違う?」
北斗「違うだろ」
〇〇「ほんとに?」
北斗「ほんとに」
北斗は即否定するけど、ちょっとだけ視線が泳ぐ。
〇〇はそれを見逃さない。
〇〇「今ちょっと間あった」
北斗「ねぇよ」
〇〇「あった」
北斗「ない」
〇〇「ふーん」
完全に面白がってる顔。
北斗「やめろその顔」
〇〇「だってさ」
〇〇、ソファに寄りかかって足を組む。
〇〇「一緒に寝る=そういうのって思われがちじゃん?」
北斗「誰が思うんだよ」
〇〇「普通は?」
北斗「普通って何回言うんだよ今日」
〇〇「だって普通大事じゃん」
軽く笑う。
〇〇「でもさ」
少し真面目っぽくなる。
〇〇「私そういうの全然ないよ」
北斗「知ってる」
即答。
〇〇「え、知ってるんだ」
北斗「見てりゃ分かる」
〇〇「へぇ」
〇〇は納得したように頷く。
〇〇「9歳からこの事務所いるからさ」
〇〇「そういうの全部“生活の延長”なんだよね」
北斗「……」
〇〇「一緒に寝るとか、同じ部屋とか」
〇〇「普通に“当たり前”すぎて逆に何も思わない」
ポテトを一つ口に入れる。
〇〇「だからさっきのも別に変な意味で言ってない」
北斗「分かってる」
〇〇「でしょ」
〇〇はケロッとしている。
北斗は少しだけ間を置く。
北斗「お前はな」
〇〇「ん?」
北斗「そういうとこが一番ややこしい」
〇〇「え、褒めてる?」
北斗「違う」
〇〇「じゃあなに」
北斗「無防備」
〇〇「よく言われる」
北斗「だろうな」
〇〇は笑って、からあげをもう一つ取る。
〇〇「でも安心していいよ」
北斗「何が」
〇〇「そういうのはないから」
北斗「……」
〇〇「ほんとにただ生活してるだけ」
さらっと言う。
北斗は一瞬だけ視線を落とす。
北斗「……まぁ、それは分かってる」
〇〇「ならよし」
満足そうに頷く。
空気はまた普通に戻っていく。
でも北斗だけが少しだけ、
“普通”の意味を考え直している感じのまま、
黙ってご飯を食べ続ける。