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めっっっちゃいい展開すぎる!!! てか、私今まで中村嶺亜君知らなかったんですけど、かっこよすぎません??どゆこと、、…😇
食後。
テーブルの上が少し片付いて、部屋にまたゆるい空気が戻る。
〇〇はソファに寝転びかけて、そのままスマホを開く。
〇〇「ねぇ見てこれ」
北斗「ん」
ソファの背にもたれたまま、北斗は横目で見る。
画面にはインテリアアプリ。
ベッドの一覧、ソファの一覧、サイズ比較まで出ている。
〇〇「これとかどう?」
画面を指でスワイプしながら、
〇〇「これ大きいよね」
北斗「デカすぎだろ」
〇〇「え、いいじゃん」
北斗「部屋埋まる」
〇〇「埋まるくらいがいいの」
北斗「何がいいんだよ」
〇〇「落ち着く」
北斗「意味わかんねぇ」
〇〇は楽しそうにどんどんスクロールする。
〇〇「ソファもさ」
〇〇「L字とかいいよね」
北斗「テレビ屋かよ」
〇〇「ゴロゴロできるじゃん」
北斗「今でもできるだろ」
〇〇「もっと」
北斗「欲張りだな」
〇〇「快適は大事」
北斗「急に生活のプロみたいなこと言うな」
〇〇「プロだよもう」
北斗「どこが」
〇〇「住んでるから」
北斗「雑」
でも北斗は止めない。
ただ見てる。
〇〇「これとかどう?」
また画面を見せる。
北斗「……悪くはねぇけど」
〇〇「でしょ?」
〇〇「じゃあ候補」
北斗「勝手に決めんな」
〇〇「一緒に決めるって言ったじゃん」
北斗「言ってねぇ」
〇〇「言った」
北斗「言ってねぇ」
〇〇「今決まった」
北斗「今じゃねぇ」
〇〇「じゃあ今から」
北斗「強引」
〇〇は楽しそうに笑う。
〇〇「ねぇさ」
北斗「ん」
〇〇「こうやって選ぶの普通に楽しいね」
北斗「……そうかよ」
短く返す。
でも少しだけ目線が柔らかい。
北斗(ほんと全部生活にしてくるな)
ソファ、ベッド、空間、距離。
全部を“普通”にしていく感じ。
〇〇はさらに画面を見ながら、
〇〇「これベッドの色どうする?」
北斗「白でいいだろ」
〇〇「えーつまんない」
北斗「無難だろ」
〇〇「じゃあちょっと木目入れる」
北斗「好きにしろ」
〇〇「やった」
即決。
北斗「ほんと即決だな」
〇〇「決断力あるって言って」
北斗「言ってねぇ」
〇〇は笑いながら、スマホを操作し続ける。
北斗はその横で、
特に止めるでもなく、ただ見ている。
いつの間にか、
“同じベッドかどうか”の話は消えていて、
代わりに“どういう部屋で暮らすか”だけが残っている夜。
〇〇「……よし、決めた」
スマホをパタンと置いて、満足そうにソファに沈み込む。
北斗「早」
〇〇「もうこれでいい」
北斗「絶対まだ変えるやつだろ」
〇〇「変えない」
北斗「信用ねぇな」
〇〇「ほんとにこれ」
画面には、ベッドとソファの最終決定画面。
サイズも色も、全部〇〇がノリでまとめた感じなのに、なぜか統一感だけはある。
北斗「で、いつ届くんだよ」
〇〇「えっとね」
ちょっと画面をスクロールして、
〇〇「1週間後」
北斗「……早」
〇〇「早い方がいいじゃん」
北斗「部屋の準備考えろよ」
〇〇「もう考えてる」
北斗「今?」
〇〇「今」
北斗「適当すぎ」
〇〇「効率」
北斗「またそれかよ」
〇〇は満足そうに伸びをする。
〇〇「じゃあ1週間後から新しい感じだね」
北斗「“新しい感じ”って何だよ」
〇〇「生活アップデート」
北斗「ゲームかよ」
〇〇「でも楽しみじゃない?」
北斗「……まぁな」
一瞬だけ間。
北斗は視線を落として、
北斗「悪くはねぇ」
とだけ言う。
〇〇「でしょ」
嬉しそうに即返し。
ソファの上でごろっと横になる。
〇〇「なんかさ」
北斗「ん」
〇〇「ほんとに“住んでる”って感じしてきた」
北斗「最初から住んでるだろ」
〇〇「違う違う」
〇〇「“作ってる”感じ」
北斗「……」
北斗はその言葉に少しだけ黙る。
〇〇は天井を見ながら続ける。
〇〇「今までって借りてるだけだったけど」
〇〇「今はちゃんと自分の場所になってる感じ」
北斗「……お前のな」
〇〇「うん」
北斗は小さく息を吐く。
北斗「まぁ好きに作れよ」
〇〇「え、許可?」
北斗「最初からそうだろ」
〇〇「やさし」
北斗「うるせぇ」
でも声はいつもより少しだけ柔らかい。
夜の部屋は静かで、
1週間後に届く新しい家具の話だけが、
ゆっくり現実になっていく感じで残っている。
時計を見ると、もう24:00。
さっきまでソファでスマホをいじっていた〇〇が、ふわっと伸びをする。
〇〇「……さすがに眠い」
北斗「お前今日ずっと動いてたからな」
〇〇「うん、限界」
素直に頷いて立ち上がる。
リビングの空気が一気に“夜の終わり”に寄る。
〇〇「じゃあ寝る」
北斗「おう」
北斗もスマホを置く。
少しだけ間。
〇〇は歩きかけて、ふと振り返る。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「せっかくだしさ」
北斗「……」
〇〇「慣れるために、一緒に寝る?」
一瞬、空気が止まる。
北斗「……は?」
短い。
それだけで十分な反応。
〇〇「だってベッド変えるんでしょ?」
北斗「変えるけどな」
〇〇「じゃあ今から慣れといた方がよくない?」
北斗「論理が飛んでる」
〇〇「え、普通じゃない?」
北斗「普通じゃねぇ」
〇〇「でもさ」
軽く笑いながら続ける。
〇〇「別に変な意味ないよ?」
北斗「それは分かってる」
即答。
でも次の言葉が出ない。
〇〇はそのまま、当たり前みたいな顔で立ってる。
〇〇「ただ一緒に寝るだけ」
北斗「……」
北斗は軽く視線をそらす。
北斗(こいつほんとに無意識すぎるだろ)
北斗「別でいいって言ったろ」
〇〇「でもさ」
〇〇「最初って大事じゃん?」
北斗「何の話だよ」
〇〇「慣れ」
北斗「寝ることに慣れって何だよ」
〇〇「一緒に寝るのに慣れる」
北斗「意味わかんねぇ」
〇〇「やってみればいいじゃん」
さらっと言う。
その軽さが一番厄介。
北斗「……お前な」
〇〇「ん?」
北斗「ほんとに悪気ないのが怖いんだよ」
〇〇「褒めてる?」
北斗「違う」
〇〇「じゃあなに」
北斗「危ない」
〇〇「何が」
北斗「全部」
〇〇「大げさ」
軽く笑う。
そしてそのまま、
〇〇「じゃ、決定ね」
北斗「決定じゃねぇ」
〇〇「はい決定」
北斗「おい」
〇〇はもう歩き出してる。
寝室の方へ。
北斗は一拍遅れて立ち上がる。
北斗「……ほんと勝手だな」
〇〇「今さら?」
振り返って笑う。
その顔はいつも通り軽いのに、
北斗の方だけ少しだけ止まる。
北斗「……」
(またかよ)
ため息ひとつ。
でも結局、
何も言い切れないまま後ろについていく。
夜はそのまま、
静かに寝室へ流れていく。
寝室。
照明は落ちていて、部屋全体が少し柔らかい暗さに包まれている。
北斗がいつも使っているベッドは整っていて、シンプルなままの空気。
その空間に——
〇〇「わっ」
勢いそのまま、ベッドにダイブ。
ふわっ、とマットレスが沈む。
〇〇「うわ、やばい気持ちいい」
そのまま転がって、枕を抱える。
〇〇「これずるい」
北斗「……おい」
入口で立ち止まってる北斗。
完全に想定外の光景。
北斗「普通に入れよ」
〇〇「入ったよ」
北斗「ダイブは入った扱いじゃねぇ」
〇〇「気持ちよかったからいいじゃん」
そのままゴロゴロ横に転がる。
完全にくつろぎモード。
北斗「人のベッドだぞ」
〇〇「今さらでしょ」
北斗「今さらだけどな」
呆れながら近づく北斗。
ベッドの横に立つと、〇〇が上を向く。
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「ここ、やっぱ落ち着くね」
北斗「知ってる」
〇〇「ずるいな」
北斗「何がだよ」
〇〇「これ一人で独占してたでしょ」
北斗「普通だろ」
〇〇「普通かぁ」
笑いながら、枕に顔を埋める。
北斗はその様子を見て、軽く息を吐く。
北斗「ほら、端行け」
〇〇「やだ」
即答。
北斗「やだじゃねぇ」
〇〇「だって広いし」
北斗「広く使うな」
〇〇「じゃあ一緒に使う?」
北斗「……」
一瞬止まる。
〇〇は悪気なく、当たり前みたいに言う。
〇〇「せっかく来たし」
北斗「だからそれが問題だっての」
〇〇「何が?」
北斗「お前の“せっかく”基準」
〇〇「いいでしょ別に」
そのまま横向きになる。
完全にリラックスしてる。
北斗はしばらく黙って見ていたけど、
結局小さくため息をついてベッドに腰を下ろす。
北斗「……今回だけな」
〇〇「さっきも聞いたそれ」
北斗「うるせぇ」
〇〇「ふふ」
〇〇はそのまま少しだけ距離を詰めてくる。
北斗「動くな」
〇〇「寝るだけ」
北斗「それが怖ぇんだよ」
〇〇「なんで」
北斗「無自覚すぎる」
〇〇「なにそれ」
笑いながら目を閉じる。
北斗は少しだけ視線をそらして、
同じベッドの上で距離を取ったまま横になる。
静か。
夜の部屋に、二人の呼吸だけが落ちる。
北斗(……ほんとに寝るだけだよな)
そう思いながらも、
すぐ隣にいる気配だけは、やけに近く感じている。
〇〇「……」
数分もしないうちに、もう寝ている。
北斗「早っ……」
思わず小さく声が出る。
さっきまで普通に喋ってたのに、切り替えが雑すぎる。
北斗(ほんと一瞬で寝るなこいつ)
横を見ると、〇〇は枕に顔を埋めたまま完全に無防備。
でも問題はそこじゃなくて。
少し時間が経つと、じわじわ動き出す。
〇〇「……ん」
ごそっ。
北斗「……」
北斗の方に少し転がってくる。
北斗「おい」
返事なし。
また少し時間が経って——
今度は足。
ぐいっと布団の中で動いて、北斗の脚に当たる。
北斗「……動くなって言っただろ」
当然聞こえてない。
〇〇はそのまま、さらに自然に距離を詰めてくる。
北斗(寝相悪いのかよ)
少し体をずらすと、今度は反対側に転がる。
北斗「いや忙しいな」
小声で呟く。
でも〇〇は完全に夢の中。
またしばらくすると——
今度は肩に軽く当たって止まる。
北斗「……」
一瞬だけ動きが止まる北斗。
横を見ると、〇〇は完全に安心しきった顔で寝ている。
北斗(……無防備すぎだろ)
少しだけ息を吐く。
いつもなら距離を取るはずなのに、
結局そのまま動かずにいる。
〇〇はまた小さく動いて、今度は落ち着いたのか、
そのまま北斗の方に軽く寄りかかる形で止まる。
北斗「……」
何も言わない。
言う必要もないのか分からないまま、
ただ天井を見上げる。
静かな部屋。
たまに聞こえる〇〇の寝息。
北斗(ほんと自由だな)
そう思いながらも、
結局そのまま、少しだけ体の力を抜く。
夜はそのまま、ゆっくり深くなっていく。
ーーー
☀️朝。
カーテンの隙間から、薄い光が差し込んでいる。
北斗はゆっくり目を開ける。
北斗「……」
一瞬、天井を見て状況を思い出す。
(そうだ、昨日の夜——)
視線を横にずらすと。
〇〇「……すぅ」
まだ普通に寝てる。
しかも、昨夜のまま少しだけ北斗の方に寄りかかった状態。
北斗「……ほんとにそのままかよ」
小さく呟く。
少しだけ体を動かそうとするけど、〇〇の腕が軽く引っかかっていて動きづらい。
北斗「おい……」
軽く肩を揺らす。
北斗「起きろ」
〇〇「……んー」
反応はあるけど起きない。
寝相はそのまま、少しだけ位置がズレるだけ。
北斗「……」
(昨日の夜もそうだったけど、こいつほんと自由すぎる)
もう一度、今度は少し強めに。
北斗「起きろって」
〇〇「……ん」
ようやく目が少し開く。
ぼーっとした顔のまま、北斗を見上げる。
〇〇「……おはよ」
北斗「おはよじゃねぇよ」
〇〇「まだ朝?」
北斗「朝だ」
〇〇「ふーん……」
またそのまま目を閉じかける。
北斗「寝るな」
〇〇「あと5分」
北斗「昨日と同じこと言うな」
〇〇「昨日?」
北斗「覚えてねぇのかよ」
〇〇「うーん……」
少し考える顔をしてから、
〇〇「寝た」
北斗「それは見てた」
〇〇「ならいいじゃん」
北斗「よくねぇ」
でもそのやり取りも、どこかゆるい。
〇〇はようやく体を少し起こして、伸びをする。
〇〇「……あ、ほんとだ朝だ」
北斗「今気づくな」
〇〇「ぐっすりだった」
北斗「そりゃそうだろ」
〇〇「なんか安心したかも」
北斗「何が」
〇〇「よく寝れた」
その言葉に、北斗は一瞬だけ黙る。
北斗「……それは、まぁ」
小さく視線をそらす。
北斗「よかったんじゃねぇの」
〇〇「うん」
にこっと笑う。
そのままベッドの上で少し動いて、完全に目が覚めてくる。
北斗はその様子を見ながら、軽く息を吐く。
北斗(ほんと、マイペースすぎるだろ)
でも不思議と、昨日より空気は軽いまま。
朝の光だけが、静かに部屋を満たしていく。
静かな朝。
〇〇がまだぼんやりしてる中で——
ピロン。
スマホが鳴る。
〇〇「ん……?」
手探りでスマホを取って画面を見る。
表示された名前。
中村嶺亜
〇〇「あ、嶺亜くんだ」
そのまま何も考えずに通話を取る。
〇〇「もしもし」
嶺亜『おはよー〇〇ちゃん』
〇〇「おはよー」
嶺亜『起きてた?』
〇〇「今起きたとこ」
嶺亜『タイミングよかった』
少し軽い笑い声。
嶺亜『今さ、ちょっと聞きたいことあって』
〇〇「うん?」
嶺亜『最近さ、北斗くんと一緒にいるって聞いたんだけど』
北斗「……」
名前が出て、北斗の視線が一瞬だけ動く。
〇〇「うん、いるよ」
〇〇は普通に答える。
〇〇「今も」
嶺亜『あ、やっぱり』
嶺亜『なんかさ、ちょっと気になって』
〇〇「なに?」
嶺亜『どういう感じなのかなーって』
〇〇「どういう?」
嶺亜『いや、そのまま』
嶺亜『普通に一緒にいるだけ?』
〇〇「うん、普通に」
迷いなく即答。
北斗「……」
横で黙って聞いてる。
嶺亜『そっか』
少しだけ間。
嶺亜『ならよかった』
〇〇「え、なにそれ」
嶺亜『いやなんかさ』
嶺亜『噂とかあると変に広がるじゃん』
〇〇「あー」
〇〇「あるね」
嶺亜『だから本人に聞いた方が早いかなって』
〇〇「なるほどね」
嶺亜『うん』
少し軽く笑う。
嶺亜『まぁでも元気そうでよかった』
〇〇「元気だよ」
嶺亜『なら安心』
〇〇「ありがと」
嶺亜『じゃあまた連絡するね』
〇〇「うん、バイバイ」
通話が切れる。
静かになる部屋。
〇〇「なんか確認だったらしい」
北斗「……みたいだな」
〇〇「噂とかあるんだって」
北斗「あるだろうな」
〇〇「めんどくさいね」
北斗「そうだな」
〇〇は特に気にしてない様子でスマホを置く。
〇〇「まぁいいや」
そのままベッドの上でまた伸びる。
〇〇「とりあえず起きよ」
北斗「ああ」
北斗は短く返す。
でも内心では——
(知られてない)
(まだ、全部)
そう確認するみたいに、
一瞬だけ目を伏せる。
何も言わないまま、
朝はそのまま静かに進んでいく。
ベッドの上。
〇〇はまだ少し眠そうなまま、髪をぐしゃっとかきあげる。
〇〇「嶺亜くんさ」
北斗「ん」
〇〇「年上なのにさ、ああいうとこちょっと軽いよね」
北斗「軽いっていうか」
北斗「距離感近いだけだろ」
〇〇「あーそれ」
〇〇「なんか普通に話しやすいんだよね」
北斗「まぁ分かる」
〇〇「先輩って感じあんまりしない」
北斗「本人がそうしてるんだろ」
〇〇「だよね」
ベッドの上で足をぶらぶらさせながら続ける。
〇〇「でもちゃんとしてるときはちゃんとしてるし」
〇〇「なんか不思議」
北斗「ちゃんとしてるだろあいつは」
〇〇「うん、ちゃんとしてる」
〇〇「でもたまに“それ聞く?”みたいなの急にくるじゃん」
北斗「さっきみたいなやつな」
〇〇「そうそう」
少し笑う。
〇〇「でも嫌じゃないんだよね」
北斗「……」
北斗は少しだけ黙る。
〇〇「むしろ楽かも」
〇〇「変に探られるよりさ、ああやって普通に聞いてくれる方が」
北斗「……まぁな」
短く返す。
〇〇はそのまま話を続ける。
〇〇「あとさ」
北斗「まだあんのか」
〇〇「ある」
〇〇「普通に優しい」
北斗「それはそうだろ」
〇〇「なんかさ」
〇〇「“見てる”感じする」
北斗「……」
その言葉に北斗の反応が少しだけ遅れる。
〇〇「さっきもさ、元気そうでよかったって言ってたじゃん」
北斗「言ってたな」
〇〇「ちゃんと気にしてくれてる感じ」
北斗「そういうやつだろ」
〇〇「うん」
少しだけ間。
〇〇はふっと笑う。
〇〇「でもさ」
北斗「ん」
〇〇「なんか北斗とちょっと似てるかも」
北斗「は?」
即反応。
〇〇「え、似てない?」
北斗「似てねぇよ」
〇〇「似てるって」
北斗「どこがだよ」
〇〇「ちゃんと見てるとこ」
北斗「……」
一瞬だけ言葉が止まる。
〇〇は何も気にせず続ける。
〇〇「あと、言い方は違うけど優しいとこ」
北斗「それはあいつだろ」
〇〇「北斗も」
北斗「違う」
〇〇「同じ」
北斗「違う」
〇〇「頑固」
北斗「お前がな」
軽く言い返す。
〇〇は楽しそうに笑う。
〇〇「まぁいいや」
〇〇「嶺亜くんは嶺亜くんで好きだし」
北斗「……」
その言葉にほんの一瞬だけ空気が止まる。
〇〇「人としてね」
すぐ付け足す。
北斗「紛らわしい言い方すんな」
〇〇「してない」
〇〇はケロッとしてる。
北斗は小さくため息をついてベッドから立ち上がる。
北斗「ほら、準備しろ」
〇〇「はーい」
そのまま〇〇も立ち上がる。
さっきの会話は軽く流れたはずなのに、
北斗の中だけ少しだけ残ったまま。
ベッドを出て、それぞれ準備を始める朝。
〇〇はクローゼットの前で服を見ながら、
〇〇「ねぇ」
北斗「ん」
北斗は鏡の前で髪を軽く整えてる。
〇〇「今日さ、事務所で会議あるんだけど」
北斗「俺も」
〇〇「え、同じ時間?」
北斗「たぶん」
〇〇「うわ」
少しだけ笑う。
〇〇「被るの珍しくない?」
北斗「まぁな」
〇〇「timeleszの方で呼ばれてる」
北斗「SixTONESも会議」
〇〇「じゃあ普通に同じとこ行くじゃん」
北斗「そうなるな」
〇〇「なんか変な感じ」
北斗「何が」
〇〇「一緒に家出て、別々のグループの会議行くの」
北斗「……まぁ」
北斗は少しだけ間を置く。
北斗「確かにな」
〇〇「でしょ」
〇〇は服を選びながら続ける。
〇〇「でもなんかさ」
北斗「ん」
〇〇「こういうのちょっと好きかも」
北斗「……」
北斗は鏡越しにちらっと見る。
〇〇「仕事は別だけど、スタート一緒みたいな」
北斗「……仕事だろ」
〇〇「そうだけど」
〇〇「なんかいいじゃん」
軽く笑う。
北斗「……」
少しだけ視線を逸らす。
北斗(ほんと、そういう言い方すんなよ)
でも否定はしない。
〇〇「何時に出る?」
北斗「余裕見て10時半くらい」
〇〇「同じくらい」
〇〇「じゃあ一緒に行く?」
北斗「別でいいだろ」
〇〇「なんで」
北斗「目立つ」
〇〇「確かに」
即納得。
北斗「だろ」
〇〇「じゃあ時間ずらす?」
北斗「そうしろ」
〇〇「えー」
少し不満そう。
〇〇「せっかく同じなのに」
北斗「せっかくの使い方おかしい」
〇〇「いいじゃん別に」
北斗「よくねぇ」
〇〇「じゃあちょっとだけずらす」
北斗「それがいい」
〇〇「分かった」
渋々頷く。
でも表情はそこまで嫌そうじゃない。
〇〇「じゃあ先行くね」
北斗「ああ」
〇〇「後でね」
北斗「……おう」
その一言だけで、
なんとなく繋がってる感じが残る。
同じ家から出て、
別々のグループの会議へ向かう朝。
距離はあるのに、
どこか同じ線の上にいるみたいな、
そんな不思議な空気のまま時間が進んでいく。
昼。
会議が終わって、少しだけ気が抜けた時間。
〇〇は廊下を歩きながら、
〇〇「ちょっとなんか飲も」
そのまま事務所の中の自動販売機の方へ向かう。
人通りはそこそこあるけど、さっきまでの会議の空気よりずっとラフ。
ガタン。
ボタンを押そうとしたその時——
「あれ、〇〇ちゃん?」
聞き慣れた声。
振り返ると、
中村嶺亜が立ってる。
〇〇「あ、嶺亜くん」
嶺亜「やっぱり」
少し笑いながら近づいてくる。
その後ろには自分たちよりも下のジュニアたちが数人。
〇〇「あれ、今日来てたんだ」
嶺亜「うん、仕事でね」
嶺亜「そっちは会議?」
〇〇「そうそう、今終わった」
嶺亜「おつかれ」
〇〇「嶺亜くんも」
軽く会話してる横で、
ジュニアたちはちょっとざわついてる。
「え、〇〇ちゃんだよね」
「普通にいる…」
小声でひそひそ。
〇〇は気にしてない様子で、自販機の前に戻る。
〇〇「どれにしよ」
嶺亜「悩むタイプ?」
〇〇「めっちゃ悩む」
嶺亜「意外」
〇〇「優柔不断なんだよね」
嶺亜はその様子を見ながら少し笑う。
嶺亜「さっきさ」
〇〇「ん?」
嶺亜「朝ありがとね」
〇〇「あー、電話?」
嶺亜「うん」
〇〇「全然いいよ」
嶺亜「なんか急に聞いちゃってごめん」
〇〇「全然」
〇〇「嶺亜くんそういうのストレートだよね」
嶺亜「まぁね」
軽く笑う。
その空気は自然で、距離も近い。
ジュニアたちはさらにざわざわ。
「普通に話してる…」
「距離近くない?」
その中で、ひとりがぼそっと。
「〇〇ちゃんのこと好きって言ってたの誰だっけ…」
小さな声。
でも完全には消えてない。
〇〇は気づいてない。
嶺亜は一瞬だけそっちを見るけど、すぐ戻る。
嶺亜「決まった?」
〇〇「まだ」
嶺亜「遅いな」
〇〇「大事じゃん」
嶺亜「確かに」
少しだけ笑い合う。
その空気はいつも通り。
でも周りから見ると、少しだけ特別に見える距離感。
そしてその場所には——
まだ北斗はいない。
自販機の前。
〇〇はまだボタンを見ながら悩んでる。
〇〇「これか…これか…」
嶺亜「まだ?」
〇〇「まだ」
嶺亜「長いな」
〇〇「大事なんだって」
嶺亜は少し笑いながら、横の壁にもたれる。
嶺亜「じゃあ俺先に選ぶわ」
ガコン。
迷いなく押す。
〇〇「早っ」
嶺亜「直感タイプ」
〇〇「いいなそれ」
嶺亜「真似すれば?」
〇〇「無理」
即答。
嶺亜「知ってた」
二人で軽く笑う。
周りのジュニアたちは少し離れた位置で様子見。
でも視線は完全にこっち。
〇〇はようやく一本選んで、
ガコン。
〇〇「決めた」
嶺亜「おめでとう」
〇〇「ありがとう」
〇〇、飲み物を取りながらそのまま横に立つ。
〇〇「今日さ」
嶺亜「ん?」
〇〇「ジュニア多くない?」
嶺亜「今日はまとめて仕事だからね」
〇〇「あーなるほど」
嶺亜「久しぶりに来た?」
〇〇「うん、こういう時間帯は久々」
嶺亜「そっか」
少しだけ間。
嶺亜が〇〇を見る。
嶺亜「ちゃんと休めてる?」
〇〇「うん、まぁ」
嶺亜「“まぁ”か」
〇〇「でも前より全然」
嶺亜「ならいいけど」
〇〇「嶺亜くんってさ」
嶺亜「ん?」
〇〇「そういうとこほんとちゃんとしてるよね」
嶺亜「どういうとこ」
〇〇「ちゃんと見てるとこ」
嶺亜「……」
少しだけ笑う。
嶺亜「それ北斗くんにも言ってた?」
〇〇「え、なんで知ってるの」
嶺亜「なんとなく」
〇〇「言った」
嶺亜「やっぱり」
〇〇「似てるって思ったもん」
嶺亜「似てないでしょ」
〇〇「似てる」
嶺亜「どこが」
〇〇「そういうとこ」
嶺亜「ざっくりすぎ」
〇〇「いいの」
また笑う。
嶺亜も少しだけ肩をすくめる。
嶺亜「でもさ」
〇〇「ん?」
嶺亜「北斗くん、ちゃんとしてるけどさ」
嶺亜「結構抱えるタイプじゃない?」
〇〇「……」
一瞬だけ考える。
〇〇「まぁ、そうかも」
嶺亜「でしょ」
〇〇「でも言わないよね」
嶺亜「言わない」
〇〇「分かる」
少しだけ真面目な空気。
でもすぐに〇〇が戻す。
〇〇「まぁでも元気そうだよ」
嶺亜「ならいいか」
軽く頷く。
その距離は変わらず自然で、
お互いに無理してない空気。
少しだけ沈黙が流れても、気まずくない。
嶺亜「午後どうすんの?」
〇〇「まだちょっと時間ある」
嶺亜「じゃあ少し話せるね」
〇〇「うん」
〇〇はそのまま自販機の横に寄りかかる。
ジュニアたちの視線はまだ続いてるけど、
二人は気にせず、普通に会話を続ける。
〇〇「それ絶対嘘でしょ」
嶺亜「嘘じゃないって」
〇〇は飲み物を持ったまま、嶺亜と笑ってる。
〇〇がそのままツッコミみたいに嶺亜の腕を軽く叩く。
〇〇「いやいやないって」
嶺亜「あるって」
その距離は自然と近いまま。
嶺亜はそのまま少しだけ視線を落として、〇〇を見る。
嶺亜「〇〇ちゃんさ」
〇〇「ん?」
嶺亜「ほんと変わんないよね」
〇〇「え、何が」
嶺亜「その感じ」
〇〇「どの感じ」
嶺亜「無防備なとこ」
〇〇「またそれ」
笑いながらもう一回軽く押す。
嶺亜は少しだけ笑うけど、その目はちゃんと〇〇を見てる。
嶺亜「いい意味でね」
〇〇「ほんと?」
嶺亜「ほんと」
少しだけ間。
嶺亜「だからさ」
〇〇「ん?」
嶺亜「周り、結構振り回されてると思うよ」
〇〇「え、誰が」
嶺亜「色々」
少し曖昧に笑う。
〇〇はよく分かってない顔。
〇〇「ふーん」
そのまま飲み物を一口。
嶺亜はその様子を見ながら、ほんの少しだけ視線を柔らかくする。
嶺亜(ほんと気づいてないな)
その空気の中で——
廊下の向こうから足音。
会議終わりの人の流れ。
そこに——
SixTONESの6人。
高地「お、〇〇じゃん」
樹「ほんとだ」
ジェシー「元気?」
きょも「久しぶりだね」
慎太郎「相変わらずだなー」
一気に賑やかになる空間。
〇〇「みんなお疲れー」
いつも通りのテンションで手を軽く上げる。
北斗「……」
一歩後ろ。
静かにその場にいる。
嶺亜はその空気を一瞬で読む。
(あ、なるほどね)
ほんの少しだけ口元が上がる。
嶺亜「〇〇ちゃん、さっきの続きだけど」
〇〇「ん?」
自然に、でもわざと距離をもう一歩詰める。
嶺亜「それ絶対無理でしょ」
〇〇「えーできるって」
軽く笑いながら、また〇〇が嶺亜の腕を叩く。
嶺亜はそのまま、軽く〇〇の手首を掴んで止める。
嶺亜「いやいや無理」
〇〇「離して笑」
〇〇は普通に笑ってる。
完全にじゃれ合いのテンション。
でも——
北斗の視線が一瞬だけ止まる。
樹「……」
横で気づいてる。
ジェシー「仲良いねー」
何も考えずに言う。
嶺亜「そうですね」
さらっと返す。
そのまま自然に手を離すけど、
距離は近いまま。
しかも、嶺亜の視線が一瞬だけ北斗に向く。
完全に“分かってる”目。
北斗「……」
何も言わない。
でも空気が少しだけ固くなる。
〇〇は気づかないまま。
〇〇「そういえばさ」
嶺亜「ん?」
〇〇「さっきの話ほんとに無理じゃないって」
嶺亜「いや無理」
また軽く笑い合う。
慎太郎「なんの話?」
〇〇「くだらないやつ」
きょも「気になる」
高地「教えてよ」
〇〇「えー」
そのまま会話は広がる。
でも嶺亜はさりげなく、
また〇〇の肩に軽く触れる。
嶺亜「ほら、こういうとこ」
〇〇「なにそれ」
〇〇は笑うだけ。
無防備。
北斗の視線がそこに落ちる。
(やってんな…)
樹が横で小さく息を吐く。
樹(完全にわざとだろあれ)
ジェシーは気づいてない。
きょもは少しだけ察してる。
慎太郎は普通に見てる。
高地は空気を読んで静かにしてる。
その中で——
北斗だけが、何も言わずに立ってる。
嶺亜はもう一度だけ、
北斗の方を見る。
軽く、ほんの一瞬。
挑発みたいな視線。
北斗「……」
視線を逸らさない。
でも何も言わない。
言えない。
〇〇だけが変わらず、
その場の中心で笑ってる。
何も知らないまま。
自販機前の空気はそのまま、ゆるく賑やか。
〇〇「でさ、それ絶対いけるって」
嶺亜「無理だって、〇〇ちゃん」
軽く笑いながら、嶺亜が〇〇の手にツッコミみたいに触れる。
〇〇「やってみなきゃ分かんないじゃん」
嶺亜「じゃあ今度やってみれば?」
〇〇「やる!」
即答。
嶺亜「ノリ軽いなほんと」
そのまま肩に軽く触れて笑う。
距離は自然に近いまま。
〇〇も気にせず、そのまま嶺亜の腕を軽く引く。
〇〇「嶺亜くんもやるの」
嶺亜「巻き込むなって」
笑いながらも離れない。
そのやり取りを——
少し後ろで見てるSixTONES。
ジェシー「めっちゃ仲良いじゃん」
慎太郎「普通に距離近いな」
きょも「まぁ仲良いもんね」
高地「……だね」
樹は何も言わず、横目で北斗を見る。
北斗「……」
無言。
でも視線はずっとそっち。
嶺亜はそれに気づいてる。
(分かりやすいな)
少しだけ、わざとらしく。
嶺亜「〇〇ちゃん、髪ついてる」
〇〇「え、どこ」
嶺亜が自然に手を伸ばして、
〇〇の髪を軽く払う。
指先が少し触れる距離。
〇〇「どこどこ」
嶺亜「ほらここ」
少し顔も近い。
〇〇は普通にそのまま。
〇〇「取れた?」
嶺亜「うん、取れた」
そのまま軽く笑う。
北斗「……」
空気がほんの少しだけ重くなる。
樹(あーやってるわ)
高地「優しいね嶺亜」
嶺亜「そうですかね?」
さらっと返す。
さらに、
〇〇が笑いながら嶺亜の肩に軽く寄る。
〇〇「ありがと」
嶺亜「どういたしまして」
完全に自然な流れ。
でも——
北斗の指先がわずかに動く。
何も言わない。
ただ見てる。
嶺亜はもう一度だけ北斗を見る。
一瞬だけ、挑発みたいな目。
北斗と視線がぶつかる。
数秒。
何も言わないまま。
逸らすのは嶺亜の方。
また〇〇に戻る。
〇〇「ねぇさ」
嶺亜「ん?」
〇〇「ほんとにできると思うんだけど」
嶺亜「だから無理だって」
また軽く腕を押す〇〇。
嶺亜も笑いながら受ける。
距離は、さらに自然に近くなっていく。
周りはもうほぼ確信してる空気。
樹(完全に火つけてんな)
でも誰も止めない。
止められない。
北斗だけが、
何も言わずにその場に立ってる。
静かに、
でも確実に温度を上げながら。
それに気づかない〇〇はまだ話す。
〇〇「だからさ、それほんとにいけるって」
嶺亜「無理だって」
また軽く腕が触れる。
その瞬間——
「〇〇」
後ろから声。
振り返ると、timeleszのメンバーのしの。
しの「次の仕事、そろそろ移動だって」
〇〇「あ、もうそんな時間?」
しの「うん、マネも呼んでる」
〇〇「了解」
〇〇はすぐに反応して、嶺亜の方を見る。
〇〇「ごめん、行かなきゃ」
嶺亜「うん、仕事優先で」
〇〇「またね」
嶺亜「また」
軽く手を上げる。
〇〇はそのまましのの方に寄っていく。
しの「飲み物買ってたの?」
〇〇「うん、今ちょうど」
しの「早く行こ」
〇〇「はーい」
そのまま歩き出す。
去り際、振り返って
〇〇「みんなもお疲れー」
ジェシー「おつかれー!」
慎太郎「頑張ってなー!」
きょも「またね」
高地も軽く手を上げる。
樹は少しだけニヤッとして
樹「いってらっしゃい」
北斗は——
北斗「……おつかれ」
短く一言。
〇〇は気にせず、いつも通り笑って去っていく。
その背中が見えなくなると、
空気が少しだけ変わる。
静かに残るのは、
SixTONESと嶺亜。
樹「……」
一拍置いて、
樹「お前さ」
嶺亜「?」
樹「分かりやすいことするな」
嶺亜は少し笑う。
嶺亜「何のことですか」
樹「とぼけんな」
ジェシー「え、なに?」
慎太郎「なんかあった?」
樹は軽く肩をすくめる。
樹「まぁいいけど」
そのまま横に視線を流す。
北斗。
北斗「……」
無言。
でもさっきまでとは明らかに空気が違う。
嶺亜はその北斗を見る。
一瞬だけ。
嶺亜「……」
小さく息を吐く。
嶺亜(ちゃんと反応するじゃん)
北斗と視線がぶつかる。
数秒。
言葉はない。
でも十分すぎる空気。
樹(うわ、めんどくせぇ)
ジェシー「とりあえず俺らも行く?」
慎太郎「だな」
きょも「うん」
高地「移動しよ」
流れで動き出すメンバー。
その中で——
北斗だけが一瞬だけ立ち止まる。
〇〇が去っていった方向を、ほんの少しだけ見る。
何も言わないまま。
そのあと静かに歩き出す。
ーーーー
廊下を歩き出したSixTONES。
さっきまでの空気を引きずったまま、少しだけ沈黙。
ジェシー「……なんかさ」
慎太郎「うん」
ジェシー「仲良かったね、さっきの」
樹「だろ」
軽く即答。
高地「普通に距離近かったよね」
きょも「うん、自然だったけどね」
慎太郎「でもあれ結構いってたよな」
ジェシー「腕とか普通に触ってたし」
樹「……まぁな」
ちらっと横を見る。
北斗。
北斗「……」
無言で歩いてる。
樹は少しだけニヤッとする。
樹「で?」
北斗「何が」
樹「何が、じゃねぇだろ」
北斗「別に」
即答。
樹「別に、ねぇ」
ジェシー「え、なに?」
慎太郎「なんかあるの?」
樹「いやーどうだろうね」
わざと濁す。
きょもは静かに口を開く。
きょも「嶺亜、わざとだったと思う」
高地「……だよね」
慎太郎「やっぱり?」
ジェシー「え、そうなの?」
樹「完全にそうだろ」
ジェシー「え、全然分かんなかった」
慎太郎「俺もちょっと思った」
北斗「……」
少しだけ歩くペースが変わる。
樹「お前気づいてたろ」
北斗「……まぁ」
小さく認める。
樹「だよな」
高地「なんか視線あったもんね」
きょも「北斗の方見てた」
慎太郎「うん、見てた」
ジェシー「え、こわ」
樹「で」
また北斗を見る。
樹「どうすんの」
北斗「何を」
樹「そのまま?」
北斗「……」
一瞬だけ間。
北斗「別に何もしねぇよ」
樹「ほんとに?」
北斗「ほんとに」
樹は少しだけ笑う。
樹「無理だろ」
北斗「……」
何も言い返さない。
その沈黙が答えみたいになる。
きょも「〇〇は気づいてなかったね」
高地「全く」
慎太郎「ほんとに気づいてない顔だった」
ジェシー「逆にすごい」
樹「だから厄介なんだよ」
ぽつり。
北斗「……」
樹「嶺亜は分かってやってる」
きょも「うん」
高地「完全にね」
慎太郎「しかも楽しんでた」
ジェシー「えー」
樹「で、〇〇は気づかない」
きょも「最悪のバランス」
北斗「……うるせぇ」
小さく言う。
でも強くはない。
樹は少しだけ優しくなる。
樹「まぁでもさ」
北斗「……」
樹「動かないと普通に持ってかれるぞ」
北斗「……」
一瞬だけ足が止まりそうになる。
でも止まらない。
北斗「別に」
北斗「〇〇が決めることだろ」
静かに言う。
きょもが少しだけ北斗を見る。
きょも「それはそうだけど」
高地「でもさ」
慎太郎「簡単に言うなってそれ」
ジェシー「うん」
樹は最後に一言。
樹「じゃあ見てるだけでいいなら、それでいいんじゃね」
北斗「……」
返事はしない。
ただ前を向いて歩く。
でもさっきよりほんの少しだけ、
表情が固くなってる。
さっきの自販機前の光景が、
まだ頭に残ったまま。
ーーーーーーーーー
🌙夜。
現場の合間、少しだけ空いたタイミング。
〇〇は楽屋の隅でスマホを手に取る。
〇〇(あ、連絡しとこ)
画面を開いて、そのまま北斗に電話をかける。
数コール。
北斗『……もしもし』
少し低めの声。
〇〇「もしもし」
北斗『どうした』
〇〇「今日さ」
〇〇「仕事ちょっと押してて」
北斗『……うん』
〇〇「帰るの遅くなるかも」
北斗『どれくらい』
〇〇「まだ分かんないけど、たぶん結構遅い」
北斗『……そっか』
短く返す。
〇〇「先寝てていいからね」
北斗『いや、起きてる』
〇〇「え、なんで」
北斗「別に」
〇〇「寝なよ」
北斗『眠くねぇし』
〇〇「嘘」
北斗『嘘じゃねぇ』
少しだけ間。
〇〇は軽く笑う。
〇〇「まぁいいけど」
北斗『……』
少し沈黙。
北斗『今日さ』
〇〇「ん?」
北斗『嶺亜と会ってたな』
〇〇「あー会った」
〇〇「ジュニアの子たちもいて」
北斗『……そうか』
〇〇「普通に喋ってただけだよ?」
北斗『別に何も言ってねぇよ』
〇〇「言ってないけど」
〇〇「なんか今の“そうか”怖い」
北斗『怖くねぇよ』
〇〇「ちょっと怖い」
北斗『気のせいだろ』
〇〇「ほんとに?」
北斗『ほんとに』
短い会話。
でも少しだけ空気が引っかかる。
〇〇はあまり気にせず、
〇〇「まぁいいや」
〇〇「とりあえず遅くなるから」
北斗『分かった』
〇〇「先ご飯とか食べてていいよ」
北斗『食う』
〇〇「えらい」
北斗『うるせぇ』
〇〇は少し笑う。
〇〇「じゃあまた後でね」
北斗『ああ』
〇〇「お疲れ」
北斗『お疲れ』
通話が切れる。
〇〇はそのままスマホを置いて、
また仕事に戻る。
一方で——
北斗はスマホを見たまま少しだけ動かない。
北斗「……」
さっきの言葉。
“嶺亜”
頭の中に少し残る。
北斗(普通に喋ってただけ、ね)
小さく息を吐く。
でもそのまま何も言わず、
ソファに体を預ける。
静かな部屋。
帰りを待つ時間だけが、ゆっくり過ぎていく。
ーーーー
23:00。
マネの車が静かに止まる。
マネ「着いた」
〇〇「ありがと」
ドアを開けて外に出る〇〇。
その耳には——
スマホ。
通話中。
リビング。
ドアを開けた瞬間——
北斗がいる。
ソファに座って、電気もつけたまま。
起きてる。
〇〇「……あ、起きてた」
そのまま普通に入ってくる〇〇。
スマホはまだ耳に当てたまま。
嶺亜『帰った?』
〇〇「うん、今家」
北斗「……」
その一言で分かる。
“電話してる相手”。
視線だけが、少しだけ向く。
〇〇は気づかない。
靴を脱いで、そのままリビングへ。
〇〇「今日ちょっと長引いた」
嶺亜『お疲れ』
〇〇「ほんと疲れた」
ソファの近くまで来る。
北斗の横を通る。
距離は近い。
でも〇〇はそのまま。
嶺亜との会話が優先。
嶺亜『ちゃんと休めよ』
〇〇「はーい」
軽く笑う。
北斗「……」
無言。
でも空気は静かに重い。
〇〇はそのままソファの反対側に座る。
嶺亜『まだ起きてる?』
〇〇「うん、さっき帰ってきたとこ」
嶺亜『そっか』
〇〇「嶺亜くんは?」
嶺亜『俺もさっき終わった』
〇〇「おつかれ」
嶺亜『〇〇ちゃんも』
そのやり取り。
柔らかい声。
自然な距離。
全部がそのまま流れる。
北斗はそれを横で聞いてる。
何も言わない。
でも、
北斗「……」
ほんの少しだけ視線を落とす。
〇〇はまだ気づかない。
〇〇「ねぇ」
嶺亜『ん?』
〇〇「さっきの続きなんだけどさ」
楽しそうに話し出す。
嶺亜『まだ言う?』
〇〇「言う」
嶺亜『負けず嫌いすぎ』
〇〇「違うし」
また笑う。
その笑い声が部屋に広がる。
北斗は静かにそれを聞いてる。
何も言わずに。
ただ、
ほんの少しだけ手を握る。
力が入る。
でも言葉は出ない。
〇〇はそのまま話し続ける。
嶺亜と。
目の前で。
同じ空間で。
距離は近いのに——
一番遠い場所にいるみたいな空気の中で。
〇〇「だからさ、それほんとにできるって」
嶺亜『無理だって』
少し間。
嶺亜『ねぇ』
〇〇「ん?」
嶺亜『顔見て話す?』
〇〇「え、いいよ」
軽いノリ。
何も考えずにそのまま画面をタップ。
通話が——テレビ電話に切り替わる。
ピッ。
画面に嶺亜の顔が映る。
嶺亜『お、映った』
〇〇「ほんとだ」
〇〇もスマホを少し上げて、自分の顔を映す。
〇〇「今日のビジュ最悪なんだけど」
嶺亜『全然』
即答。
〇〇「絶対嘘」
嶺亜『ほんとに』
軽く笑う。
そのやり取り。
距離感。
全部そのまま。
北斗「……」
すぐ横。
同じソファ。
その画面が視界に入る位置。
嶺亜の顔。
〇〇の顔。
並ぶ距離感。
嶺亜『今日さ』
〇〇「ん?」
嶺亜『あの時さ、北斗くんいたじゃん』
北斗「……」
名前が出る。
〇〇「あーいたね」
嶺亜『なんか空気ちょっと変じゃなかった?』
〇〇「え、そう?」
嶺亜『うん』
〇〇「全然分かんなかった」
嶺亜『だろうね』
少し笑う。
その目は、どこか分かってる感じ。
〇〇「なにそれ」
嶺亜『いや、いいや』
〇〇「絶対よくないやつじゃん」
嶺亜『そのうち分かるって』
〇〇「またそれ」
軽く笑う。
北斗はその会話を全部聞いてる。
何も言わない。
でも視線だけが少し下がる。
嶺亜『てかさ』
〇〇「ん?」
嶺亜『今家?』
〇〇「うん」
嶺亜『一人?』
一瞬。
空気がわずかに揺れる。
〇〇「……いや」
〇〇は普通に答える。
〇〇「北斗いる」
嶺亜『あー』
少し間。
嶺亜の視線が、画面越しに少しだけ動く。
嶺亜『そっか』
軽く笑う。
嶺亜『じゃあ邪魔してる?』
〇〇「全然」
即答。
〇〇「普通にいるだけだし」
北斗「……」
その言い方。
嶺亜はそれを聞いて、ほんの少しだけ表情を緩める。
嶺亜『ならよかった』
〇〇「うん」
〇〇は気にせず、そのまま画面に近づく。
〇〇「でさ、さっきの話なんだけど」
嶺亜『まだやる?』
〇〇「やる」
また笑う。
その距離感。
画面越しでも近い。
北斗はその横で、
何も言わずに座ってる。
でも——
北斗「……」
ほんの少しだけ顔を背ける。
音は聞こえる。
笑い声も。
会話も。
全部。
でも入っていかない。
同じ空間にいるのに、
完全に外側にいるみたいな感覚のまま、
夜が静かに進んでいく。
そのまま少し沈黙ができて——
〇〇がふと、画面を見ながら言う。
〇〇「……てかさ」
嶺亜『ん?』
〇〇「嶺亜くんって普通にかっこいいよね」
一瞬。
時間が止まる。
嶺亜『……え?』
〇〇「いや、なんか今思った」
嶺亜『急だな』
少し笑うけど、どこか照れた感じ。
〇〇「だってさ」
〇〇「今日も普通にかっこよかったし」
嶺亜『それ今言う?』
〇〇「今思ったから」
嶺亜は少しだけ視線を逸らして、笑う。
嶺亜『ありがと』
〇〇「どういたしまして」
完全に軽いノリ。
何も深く考えてない。
その一言。
でも——
横。
北斗「……」
動きが止まる。
表情は変わらない。
でも空気だけが一瞬で変わる。
嶺亜はそのまま画面越しに〇〇を見る。
そして、ほんの少しだけ。
嶺亜『〇〇ちゃんに言われると嬉しいわ』
わざと少し柔らかく言う。
〇〇「でしょ」
〇〇は普通に笑う。
〇〇「ほんとだよ?」
嶺亜『分かってる』
そのまま少しだけ間。
嶺亜の目が、一瞬だけカメラ越しに横へ流れる。
まるで——
“そこにいる誰か”を分かってるみたいに。
北斗「……」
視線は落ちたまま。
何も言わない。
何も言えない。
〇〇は気づかないまま、
〇〇「なんかさ」
〇〇「嶺亜くんってちゃんと“かっこいい人”って感じ」
嶺亜『それどういう意味』
〇〇「そのまま」
嶺亜『雑すぎ』
少し笑う。
でもその空気は、さっきより少しだけ違う。
北斗の中だけ。
静かに、
でも確実に何かが引っかかる。
北斗(……マジかよ)
心の中でだけ、そう思う。
それでも何も言わず、
ただその場に座ったまま、
テレビ電話越しの会話を聞き続けるしかない。
嶺亜『でさ、それ絶対——』
〇〇「んー……」
返事が少し遅れる。
さっきまで普通に喋ってたのに、声がだんだんゆるくなる。
北斗「……」
横で気づく。
〇〇の頭が、少しだけ揺れる。
〇〇「ん……聞いてる……」
嶺亜『絶対聞いてないでしょ』
〇〇「聞いてるって……」
でも声がもう眠い。
スマホを持つ手も少し下がってくる。
嶺亜『今日遅かったもんね』
〇〇「うん……」
うとうと。
完全にまぶたが重い。
〇〇「ねむい……」
そのまま背もたれに寄りかかる。
スマホの画面が少し傾く。
嶺亜『〇〇ちゃん、もう寝そうじゃん』
〇〇「寝ない……」
言いながら、目はほぼ閉じてる。
北斗「……」
静かに見てる。
〇〇「まだ……話す……」
嶺亜『無理でしょそれ』
〇〇「いける……」
でも次の瞬間、
コクッ。
小さく頭が落ちる。
完全に限界。
嶺亜『ほら』
少し優しく笑う声。
嶺亜『もう寝な』
〇〇「んー……」
返事になってない返事。
〇〇はそのまま、完全に寝かけてる。
静かになる部屋。
〇〇はそのままソファでうとうと。
北斗は少しだけため息をついて、
北斗「……ほんと自由だな」
小さく呟く。
でもそのまま、
〇〇の方を見て——
ゆっくりと体を動かす。
ソファ。
〇〇はもうほぼ寝てる。
手からスマホが滑りそうになった瞬間——
北斗が支える。
北斗「……」
そのまま画面を見ると、嶺亜。
一瞬だけ目が合う。
嶺亜『……寝ちゃいました?』
少し落ち着いた声。
北斗「……ほぼな」
短く返す。
〇〇は横で、完全に力が抜けてる。
嶺亜『すみません、長く話しちゃって』
北斗「別に」
嶺亜『今日も遅かったみたいなんで』
嶺亜『たぶん限界ですね』
北斗「……だろうな」
少し間。
静かな空気。
画面越しに、視線が合う。
嶺亜『じゃあ、切りますね』
北斗「……ああ」
嶺亜『あの』
北斗「……?」
嶺亜『ちゃんと寝かせてあげてください』
丁寧な言い方。
でもどこか分かってるトーン。
北斗「……言われなくてもやる」
少しだけ低い声。
嶺亜は小さく笑う。
嶺亜『そうですよね』
嶺亜『お願いします』
北斗「……」
返事はしない。
でも視線は逸らさない。
嶺亜『じゃあ、おやすみなさい』
北斗「……おやすみ」
ピッ。
通話が切れる。
部屋が一気に静かになる。
〇〇はそのまま、ソファでうとうと。
北斗はスマホをそっとテーブルに置いて、
〇〇を見る。
北斗「……」
少しだけ息を吐く。
さっきまでの空気が、まだ残ってる。
でも今は——
目の前で眠りかけてる〇〇。
北斗はゆっくりと立ち上がる。
そしてそのまま、
静かに〇〇の方へ手を伸ばす。
〇〇はソファで完全に力が抜けてる。
北斗はゆっくり近づいて、
少ししゃがむ。
北斗「……起きないよな」
小さく確認するみたいに呟いて、
そのまま腕を回す。
背中と膝裏に手を入れて——
ふわっと持ち上げる。
お姫様抱っこ。
〇〇「……ん…」
少しだけ反応。
でも目は閉じたまま。
北斗はそのままゆっくり歩き出す。
その途中——
〇〇「……れいあくん…」
小さな寝言。
北斗の足が止まる。
一瞬。
空気が固まる。
〇〇「……それ…できるって……」
続く寝言。
さっきまでの会話の続き。
完全に無意識。
北斗「……」
何も言わない。
でも腕に入る力が、ほんの少しだけ強くなる。
〇〇は気づかないまま、
北斗の胸に軽く顔を寄せる。
〇〇「……ねむい……」
かすれた声。
北斗「……」
少しだけ目を閉じる。
北斗(よりによって今それ言うかよ)
小さく息を吐く。
でも——
そのまま歩き出す。
静かに。
ゆっくり。
寝室の方へ。
〇〇は完全に安心しきったまま、
北斗の腕の中で眠りに落ちていく。
北斗は何も言わず、
ただそのまま運び続ける。
さっきの寝言を、
頭のどこかに残したまま。
寝室。
静かにドアを開けて、そのままベッドの方へ。
北斗は足音を立てないように近づく。
腕の中の〇〇は、完全に寝てる。
規則的な呼吸。
力も抜けきってる。
北斗「……」
ゆっくりと体をかがめて、
ベッドに下ろそうとする——その瞬間。
〇〇「……っ」
ぎゅっ。
服を掴まれる。
北斗のシャツ。
しっかりと。
北斗「……は?」
一瞬止まる。
〇〇は目を閉じたまま。
でも手だけは、離さない。
〇〇「……いかないで……」
小さな寝言。
無意識。
北斗の動きが完全に止まる。
北斗「……」
少しだけ目を細める。
〇〇はそのまま、ぎゅっと握ったまま。
離す気配がない。
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗(ほんとに無自覚だな)
でも無理に離すこともできず、
そのまま少し体勢を変えて、
できるだけゆっくりベッドに下ろす。
〇〇は手を掴んだまま、
少しだけ体を寄せる。
北斗の服を引いたまま。
北斗「……離せって」
小さく言うけど、
もちろん届かない。
〇〇はそのまま安心したみたいに、
また深く眠る。
北斗は少しだけ困った顔で立ったまま。
自分の服を掴まれたまま動けない。
北斗「……はぁ」
小さくため息。
でも——
無理に外すことはしない。
そのまま少しだけしゃがんで、
〇〇の手の位置を見ながら、
静かにその場に残る。
掴まれたまま、
離れられない距離で。
ベッドの横。
北斗はまだ、〇〇にシャツを掴まれたまま動けない。
北斗「……」
小さく息を吐いた、その時——
〇〇「……ん」
寝返り。
ぐいっと体が動く。
その勢いで——
北斗の方に引き寄せられる。
距離が一気に縮まる。
顔、すぐ近く。
北斗「……っ」
思わず止まる。
〇〇は目を閉じたまま、
完全に無防備な寝顔。
呼吸がかかるくらいの距離。
しかも手はまだ、しっかり掴んだまま。
〇〇「……ん……」
小さく動いて、
さらに少し近づく。
北斗「……ちょ、」
声は出るけど、小さい。
起こさないように。
北斗(近すぎだろ…)
でも動けない。
下手に離せば起こす。
そのまま、固まるしかない。
〇〇は安心しきった顔で、
北斗の方に少し寄ったまま眠ってる。
北斗はほんの少しだけ視線を逸らす。
でもまた戻る。
近い。
近すぎる。
北斗「……」
何も言えない。
ただその距離のまま、
静かに時間が流れる。
〇〇は何も知らないまま、
穏やかに眠り続ける。
北斗だけが、
その近さに慣れないまま。
顔の距離がほとんどないまま、固まる北斗。
北斗「……」
息も少し抑える。
〇〇は完全に寝てる。
でも——
〇〇「……ん」
また少し動く。
その瞬間、
ぐいっ。
掴んでたシャツを引っ張る。
北斗「っ…!」
バランスが崩れる。
支えようとした手も間に合わず——
ドサッ。
ベッドに倒れ込む。
〇〇のすぐ横。
というか、ほぼ同じ高さ。
顔の距離、さらに近い。
北斗「……は?」
一瞬状況が分からない。
でも〇〇はそのまま、
無意識で腕を少し回す。
北斗の服を掴んだまま、
引き寄せるように。
〇〇「……あったかい……」
寝言。
北斗「……」
完全に動けない。
起こすのも躊躇う。
距離も近い。
しかも逃げ場なし。
北斗(最悪だろこれ)
でも声には出さない。
〇〇はそのまま、
北斗に少しだけくっついた状態で眠る。
呼吸も落ち着いてる。
安心しきってる。
北斗はゆっくり天井を見る。
北斗「……」
長く息を吐く。
でも——
無理に離れることはしない。
できない。
そのまま静かに、
〇〇の隣で固まるしかないまま、
夜が少しずつ深くなっていく。
ベッドの上。
北斗は動けないまま固まってる。
〇〇は完全に寝てるのに、
無意識で距離だけが近い。
北斗「……」
そっと離れようと、少しだけ体をずらす。
その瞬間——
〇〇「……やだ」
ぎゅっ。
今度は腕。
北斗の腕を抱き込むみたいに掴む。
北斗「っ……」
完全にロック。
逃げ場ゼロ。
〇〇はそのまま顔を少し近づけて、
北斗の腕に頬を寄せる。
〇〇「……いかないで……」
また寝言。
北斗「……」
さすがに言葉を失う。
北斗(どんだけ引き止めるんだよ)
でも振りほどけない。
振りほどく気も起きない。
そのまま固まってると——
さらに、
〇〇が少しだけ動く。
ぐいっと。
無意識に体を寄せて、
完全に密着。
北斗「……ちょ……」
小声。
でも届かない。
〇〇は安心したみたいに、
すっと呼吸を整える。
北斗の腕を枕みたいにしてる状態。
北斗「……はぁ」
観念したように小さく息を吐く。
もう動けない。
完全に捕まってる。
でも——
〇〇の寝顔は静かで、
無防備で、
少しだけ柔らかい。
北斗は視線を少しだけ落として、
そのまま動かずにいる。
北斗(……ほんとずるいわ)
小さく心の中で思いながら、
そのまま夜をやり過ごすしかない。
ーー
夜は静かに続いていく。
〇〇は変わらず北斗にくっついたまま、
安心しきった寝息を立てている。
北斗は動けないまま、
ただ時間が過ぎるのを待つ。
北斗「……」
視線だけ少し落とす。
近い。
近すぎる。
触れている体温が、
じわじわと意識に残る。
北斗(ほんと無理だろこれ…)
でも——
嫌じゃない。
むしろ離したくないって思ってる自分がいる。
北斗「……はぁ」
小さく息を吐いて、
ゆっくり天井に視線を戻す。
その時——
〇〇「……ん」
少しだけ動く。
北斗の腕に頬を擦り寄せるみたいに、
無意識で位置を変える。
さらに密着。
北斗「っ……」
一瞬息が止まる。
〇〇「……あったかい……」
小さな寝言。
北斗「……」
言葉が出ない。
北斗(これで平気な顔してろって方が無理だろ)
でも起こす選択肢はない。
しばらくして——
〇〇の手が、
少しだけ動く。
掴んでいたシャツから、
ゆっくりと離れていく。
北斗「……?」
一瞬、自由になる。
そのままそっと離れようと、
ほんの少し体を引く。
その瞬間——
〇〇の手が、
今度は違う場所を掴む。
北斗のTシャツの裾。
ぎゅっ。
北斗「……は?」
さっきよりもしっかり。
〇〇「……や……」
小さく眉を寄せる。
離れかけたのを感じたみたいに、
無意識で引き止める。
北斗「……おい」
小声で呼ぶ。
もちろん起きない。
でも——
〇〇はそのまま、
少しだけ顔を上げて、
北斗の胸元に額を軽く当てる。
距離、ほぼゼロ。
北斗「……っ」
完全に詰む。
北斗(……マジで勘弁してくれ)
けど、
振り払う気はもうない。
むしろ——
北斗「……」
ゆっくり、
本当にゆっくり、
〇〇が起きないように、
ほんの少しだけ体勢を整える。
自分の腕を、
〇〇が楽な位置にくるように。
無意識に。
〇〇はそれに反応するみたいに、
さらに落ち着いた呼吸になる。
完全に安心しきってる。
北斗はその様子を少しだけ見て、
北斗「……」
目を細める。
北斗(俺じゃなくてもいいのかよ)
一瞬よぎるけど——
すぐに消す。
北斗「……いや、違うか」
小さく、誰にも聞こえない声。
そのまま視線を落とす。
近くで眠る〇〇。
無防備で、
何も知らなくて、
でも——自分を頼ってる。
北斗「……」
ほんの一瞬だけ迷って、
そのまま動きを止める。
触れるか触れないかの距離で、
そっと視線を逸らす。
北斗(これ以上はダメだろ)
理性で止める。
でも離れない。
離れられない。
そのまま——
〇〇の体温を感じながら、
北斗もゆっくり目を閉じる。
ほんの少しだけ、
警戒を解いたまま。
静かな夜が、
そのまま二人を包み込んでいく。
ーー
☀️朝。
カーテンの隙間から、
やわらかい光が差し込む。
静かな部屋。
規則的な寝息。
先に目を覚ましたのは——北斗。
北斗「……ん」
ゆっくりと目を開ける。
一瞬、
状況が分からない。
ぼんやりしたまま視線を動かして——
北斗「……」
止まる。
近い。
いや、近いどころじゃない。
〇〇が、
完全にくっついたまま寝てる。
腕に頬を乗せて、
体も寄せて、
服の裾もまだ掴んでる。
北斗「……は?」
一気に意識が戻る。
北斗(……そのまま寝たのかよ俺)
記憶はある。
全部ある。
離れられなかったことも、
そのまま目を閉じたことも。
北斗「……はぁ……」
小さくため息。
でも——
視線は自然と下に落ちる。
〇〇の寝顔。
無防備で、
安心しきってて、
少しだけ距離が近いまま。
北斗(……近すぎだろ)
心の中で呟く。
でも動かない。
いや、動けない。
下手に動けば起きる。
そしてこの状況は確実に説明できない。
北斗「……」
どうするか考えながら、
そっと腕を引こうとする。
ほんの少しだけ。
その瞬間——
〇〇「……ん」
反応。
北斗「……っ」
止まる。
〇〇は目を閉じたまま、
少しだけ眉を寄せて——
ぎゅっ。
さらに強く抱き込む。
北斗の腕を、
完全にホールド。
北斗「……おい」
小声。
でも当然起きない。
〇〇「……や……」
小さな声。
まだ寝てる。
完全に無意識。
でも離す気ゼロ。
北斗「……マジかよ」
ぼそっと。
北斗(朝からこれはキツいって)
視線を逸らして、
もう一度ため息。
でも——
そのままもう一度、
ゆっくり〇〇を見る。
北斗「……」
近い。
昨日より、
冷静な分だけ余計に意識する。
触れてる距離。
体温。
柔らかさ。
北斗(……ほんと無理)
でも——
少しだけ、
ほんの少しだけだけど、
北斗の表情が緩む。
安心して寝てる顔。
完全に気を許してる状態。
北斗「……」
小さく息を吐いて、
結局、無理に離すのはやめる。
そのまま動かずにいる。
時間が少し流れて——
〇〇「……ん……」
今度は少し大きく動く。
ゆっくり目を開けかけて、
また閉じる。
北斗「……起きんのかよ」
小さく呟く。
すると——
〇〇が少しだけ顔を上げる。
まだ半分寝てる。
ぼんやりした目。
北斗と、目が合う。
〇〇「……ん……?」
数秒。
理解してない顔。
北斗「……」
無言。
〇〇「……あれ……?」
まだ状況を掴めてない。
でも——
自分が北斗にくっついてることに、
徐々に気づいていく。
手。
腕。
距離。
〇〇「……え」
固まる。
北斗「……やっと気づいたか」
低い声。
〇〇「……え、ちょ、なんで……」
完全に目が覚める。
でも体はまだくっついたまま。
北斗「それこっちのセリフ」
〇〇「いや、え、違う、これ、」
混乱。
でも腕はまだ離してない。
北斗「……離せよまず」
〇〇「……あ」
やっと気づく。
ぎゅっと抱き込んでた腕。
慌てて力を緩める。
でも——
一瞬遅い。
北斗はそのまま少しだけ腕を引く。
距離がほんの少し空く。
〇〇「……ごめん」
小さく言う。
北斗「……別に」
短く返す。
でも——
ほんの少しだけ視線を逸らす。
〇〇はまだ少し顔が近いことに気づいて、
さらに固まる。
〇〇「……え、近……」
北斗「今さらかよ」
〇〇「いやいやいや無理無理」
慌てて後ろに下がろうとする——
でもシーツに引っかかってバランス崩す。
北斗「おい」
咄嗟に腕を伸ばす。
そのまま——
また距離が近づく。
〇〇「ちょっ——」
北斗「……朝からうるせぇな」
低く言うけど、
完全に余裕はない。
距離、また近い。
〇〇も固まる。
北斗も動かない。
一瞬の沈黙。
そして——
外からスマホの通知音。
ピロン。
二人同時に視線がそっちに向く。
北斗(……助かった)
小さく息を吐く。
でも——
この距離感は、
まだ終わってない。
北斗が手を伸ばして画面を見る。
北斗「……」
一瞬だけ表情が止まる。
表示された名前。
嶺亜。
〇〇「誰?」
まだ少し眠そうな声。
北斗「……嶺亜」
〇〇「え、嶺亜くん?」
少しだけ体を起こす。
自然と距離が近くなる。
北斗「……近いって」
〇〇「あ、ごめん」
でも完全には離れない。
北斗は小さく息を吐いて、そのまま通知を開く。
嶺亜「起きてますか?北斗くん」
嶺亜「〇〇ちゃん、大丈夫ですか?」
嶺亜「昨日ちょっと心配だったので」
北斗「……」
普通の内容。
でもタイミングが良すぎる。
〇〇「なんて?」
北斗「体調大丈夫かって」
〇〇「あ、そっか」
少し安心した顔。
北斗はそのまま返信を打とうとして——
ピロン。
嶺亜「無事そうでよかったです」
嶺亜「北斗くんと一緒なら安心ですね」
北斗「……」
ほんの少しだけ眉が動く。
〇〇「え、なにそれ」
少しだけ覗き込む。
北斗「……別に」
軽くスマホを傾ける。
でも〇〇はそのまま覗く。
距離、また近い。
〇〇「嶺亜くん優しいね」
自然にそう言う。
北斗「……そうか?」
〇〇「うん、最近よく連絡くれるし」
北斗「……へぇ」
短く返す。
その時——
ピロン。
嶺亜「〇〇ちゃん、ちゃんと寝れてます?」
嶺亜「無理してないですか」
〇〇「……優し」
小さく笑う。
北斗は無言。
スマホを見たまま。
北斗(……分かってて送ってきてるだろ)
〇〇「返信していい?」
北斗「……好きにすれば」
〇〇「ありがと」
北斗の手からスマホを軽く取る。
その動きも距離が近い。
〇〇はそのまま打ち始める。
〇〇「大丈夫だよ、ありがとう嶺亜くん」
〇〇「ちゃんと寝れてる」
少しだけ考えて、
〇〇「北斗もいるし安心してる」
送信。
北斗「……」
一瞬だけ視線が止まる。
ピロン。
すぐ返ってくる。
嶺亜「よかったです」
嶺亜「無理だけはしないでくださいね」
嶺亜「また連絡します」
〇〇「うん」
自然に返そうとする。
その横で——
北斗は小さく息を吐く。
北斗「……」
〇〇「?」
北斗「……いや別に」
短く言う。
でも少しだけ視線を逸らす。
〇〇は気づかない。
そのまま普通にスマホを見てる。
〇〇「嶺亜くんほんと優しいよね」
北斗「……」
少し間。
北斗「……まぁな」
低く返す。
でも——
どこか納得してない顔。
〇〇はそんなこと気にせず、
まだ少し近い距離のまま。
北斗はちらっとその距離を見る。
北斗「……」
何も言わない。
でも、
少しだけ視線が揺れる。
〇〇「……やば」
スマホの時間を見て固まる。
〇〇「今日朝から撮影だ」
北斗「……俺も」
短く返す。
一気に空気が切り替わる。
〇〇「準備しなきゃ」
ベッドから降りようとして——
一瞬だけ止まる。
さっきの距離。
少しだけ思い出す。
〇〇「……」
でもすぐに首を振る。
〇〇(気のせいでいいや)
無自覚のまま流す。
北斗「……」
その様子を横目で見る。
北斗(覚えてないのかよ)
小さく息を吐く。
〇〇はもう普通に動き出してる。
〇〇「北斗、先シャワー使っていい?」
北斗「……ああ」
〇〇「ありがと」
何もなかったみたいなテンション。
そのまま部屋を出ていく。
扉が閉まる音。
北斗「……はぁ」
一人になった瞬間、
そのままベッドに軽く倒れ込む。
北斗「……無理だろ」
小さく呟く。
腕を見る。
さっきまで〇〇が掴んでた場所。
北斗「……」
少しだけ手で押さえる。
北斗(忘れられる方がキツいんだけど)
苦笑い。
でも時間はない。
スマホを見る。
マネージャーからの連絡。
“集合時間変更なしです”
北斗「……はいはい」
体を起こす。
仕事モードに切り替える。
一方——
洗面所。
〇〇は顔を洗いながら、
ふと止まる。
〇〇「……」
一瞬だけ、
頭に浮かぶ。
近かった距離。
あったかかった感覚。
〇〇「……気のせいだよね」
小さく呟く。
でも完全には消えない。
〇〇「……」
少しだけ頬を触る。
でも——
すぐにいつもの顔に戻る。
〇〇「よし」
切り替える。
数十分後。
玄関。
〇〇「先出るね」
北斗「……ああ」
お互い準備済み。
もう完全に仕事モード。
でも——
ほんの少しだけぎこちない空気。
〇〇「今日遅くなるかも」
北斗「俺も」
短いやり取り。
〇〇「じゃあまた後で」
北斗「……気をつけろ」
〇〇「うん」
ドアを開ける。
その瞬間——
一瞬だけ目が合う。
でもすぐ逸らす。
〇〇はそのまま出ていく。
バタン。
静かになる部屋。
北斗「……」
少しだけその場に立ったまま。
北斗(……なんも変わってねぇな)
でも——
確実に何かは残ってる。
そのまま北斗も外へ。
ーーーーーーーーー
〇〇side
朝からずっとバタバタ。
移動、収録、インタビュー、撮影。
ほとんど休む時間もなくて、
気づけばもう夜。
〇〇「……はぁ」
楽屋の椅子に座って、
やっと一息つく。
時計を見る。
20:00。
〇〇「最後…CMか」
小さく呟く。
今日ラストの仕事。
リップモンスターのCM撮影。
大人っぽい雰囲気のコンセプト。
照明も落ち着いたトーンで、
少し色気のある世界観。
〇〇「……」
鏡を見る。
メイクはもうほぼ完成してる。
唇はまだ。
これから本番で塗る用。
スタッフ「〇〇さん、そろそろスタンバイお願いします」
〇〇「はい」
立ち上がる。
セットに向かう。
スタジオに入ると、
すでにもう一人、立ってる。
嶺亜。
〇〇「嶺亜くん」
自然に声をかける。
嶺亜「〇〇ちゃん、お疲れ様」
柔らかく笑う。
〇〇「お疲れさま」
距離は近すぎず遠すぎず。
でもどこか空気は柔らかい。
嶺亜「今日ずっと忙しかったんでしょ」
〇〇「うん、朝からずっと」
嶺亜「大丈夫?」
〇〇「大丈夫、これ終われば」
少し笑う。
嶺亜はその顔を見て、
嶺亜「無理しないでね」
優しく言う。
〇〇「うん、ありがと」
そのまま軽く打ち合わせ。
監督「今回は“距離感”がテーマです」
監督「近いけど触れない、みたいな」
監督「大人っぽく、余白を大事に」
〇〇「はい」
嶺亜「はい」
並んで立つ。
照明が落ちる。
静かな空気。
撮影スタート。
スタッフ「本番いきます」
カメラが回る。
〇〇はゆっくりとリップを手に取る。
鏡越し。
自分の唇に、
丁寧に塗っていく。
指先まで意識して。
ゆっくり。
静かに。
その様子を——
少し離れた位置から、
嶺亜が見てる。
カット変わり。
今度は嶺亜。
リップを手に取り、
同じように唇へ。
その横に、〇〇。
距離が近い。
でも触れない。
視線だけが一瞬交わる。
ほんの一瞬。
でもすぐ外す。
監督「いいね、その感じ」
空気が落ち着いてる。
大人っぽい。
もう一度テイク。
今度は——
二人並んで、
ほぼ同時にリップを塗るカット。
鏡越しに並ぶ。
距離、かなり近い。
〇〇「……」
集中してるはずなのに、
一瞬だけ、
朝のことがよぎる。
あの距離。
あの体温。
〇〇「……」
ほんの少しだけ動きが止まりそうになる。
嶺亜「……大丈夫?」
小さく、カメラに乗らない声。
〇〇「……うん」
すぐに戻す。
女優の顔。
スイッチが入る。
そのまま滑らかに塗り終える。
監督「カット、いいね」
一旦止まる。
スタッフが少し動き出す。
〇〇は軽く息を吐く。
嶺亜「疲れてる?」
〇〇「ちょっとだけ」
嶺亜「そりゃそうだよね」
少し間。
嶺亜が、さりげなく言う。
嶺亜「今日、北斗くんと一緒だったんだよね」
〇〇「……うん」
自然に返す。
嶺亜「そっか」
それ以上は言わない。
でも——
少しだけ視線が意味を持つ。
〇〇は気づかない。
〇〇「?」
嶺亜「いや、なんでもない」
軽く笑う。
また撮影準備の声がかかる。
スタッフ「次ラストいきます!」
〇〇「はい」
嶺亜「はい」
もう一度ポジションへ。
カメラ前。
距離はまた近い。
でも——
さっきより少しだけ、
意識してしまう。
〇〇「……」
頭のどこかに残ってる。
朝の感覚。
でも今は仕事。
プロとして。
〇〇はそのまま表情を作る。
大人っぽく、
静かに。
その隣で、
嶺亜はそれをちゃんと見てる。
何も言わずに。
ただ少しだけ、
意味のある距離で。
撮影終了。
スタッフ「お疲れさまでした!」
〇〇「お疲れさまでした」
軽く頭を下げて、
そのまま楽屋へ戻る。
ドアを閉めた瞬間——
〇〇「……はぁぁ」
一気に力が抜ける。
ソファにそのまま座り込む。
〇〇「疲れた……」
朝からのバタバタが一気に来る。
スマホを手に取って、
なんとなく画面を見る。
通知いくつか。
マネージャー、スタッフ、グループLINE。
でも——
北斗の名前はない。
〇〇「……」
一瞬だけ考える。
でもすぐに——
〇〇「まぁいっか」
あっさり。
朝のことも、
距離も、
全部流す。
完全に仕事脳に切り替わってる。
〇〇(今日忙しかったし)
それだけで終わる。
鈍感。
そのままメイクを落とそうと立ち上がる。
コンコン。
ドアがノックされる。
〇〇「はーい」
開けると——
嶺亜。
嶺亜「お疲れ様、〇〇ちゃん」
〇〇「嶺亜くん、お疲れさま」
自然に笑う。
嶺亜「ちょっといい?」
〇〇「うん、どうぞ」
そのまま中に入る。
距離は落ち着いてるけど、
空気はやわらかい。
嶺亜「今日大変だったでしょ」
〇〇「うん、めっちゃ動いた」
嶺亜「だよね」
少し笑う。
〇〇は鏡の前に座って、
メイクを落とし始める。
嶺亜はその後ろに立つ。
鏡越しに目が合う。
嶺亜「でもさ」
〇〇「ん?」
嶺亜「さっきちょっとだけ止まったよね」
〇〇「……え?」
手が止まる。
〇〇「なんのこと?」
嶺亜「リップ塗るとき」
静かに言う。
〇〇「……あー」
少し考える。
でも——
〇〇「たぶん疲れてただけ」
あっさり。
嶺亜「……ほんとに?」
〇〇「うん」
迷いゼロ。
嶺亜は少しだけ目を細める。
嶺亜「北斗くんのことじゃなくて?」
〇〇「え?」
完全にキョトン。
〇〇「なんで北斗?」
即答。
嶺亜「……」
一瞬だけ間。
嶺亜「いや、なんでもない」
軽く笑って流す。
でも目は少しだけ鋭い。
〇〇は気づかない。
そのままメイク落とし続ける。
〇〇「今日のCMいい感じだったね」
話を戻す。
嶺亜「うん、よかった」
〇〇「大人っぽいの久しぶりかも」
嶺亜「似合ってた」
〇〇「ほんと?」
嶺亜「うん」
少しだけ真っ直ぐ言う。
〇〇「ありがと」
素直に受け取る。
嶺亜はその反応を見て、
嶺亜(……やっぱ気づいてない)
心の中で思う。
完全に。
北斗の気持ちも、
自分の気持ちも。
何も。
嶺亜「……」
少しだけ視線を落としてから、
また戻す。
嶺亜「送ろうか?」
〇〇「え?」
嶺亜「帰り」
〇〇「あー大丈夫、マネさんいるし」
嶺亜「そっか」
あっさり引く。
でも——
嶺亜「じゃあまた連絡するね」
〇〇「うん、ありがと嶺亜くん」
自然に笑う。
その笑顔がまた無自覚。
嶺亜は一瞬だけ見つめて、
嶺亜「……おやすみ」
〇〇「おやすみ」
そのまま出ていく。
ドアが閉まる。
〇〇「……」
一人になる。
でも特に何も考えない。
〇〇「今日ほんと疲れた」
それだけ。
北斗のことも、
朝のことも、
完全に頭から抜けてる。
鈍感すぎるくらいに。
ーーーーー
帰りの車。
〇〇はシートに体を預けて、ぼんやり外を見る。
マネ「今日は長かったね」
〇〇「うん、さすがに疲れた」
でも頭はもうオフ。
朝のことも、撮影中の違和感も、
全部どこかに置いてきたみたいに軽い。
スマホを見る。
特に気になる通知もない。
〇〇「……」
そのまま目を閉じる。
少しだけ眠る。
ーーー
夜。
北斗の家。
先に帰ってきたのは北斗。
玄関で靴を脱いで、そのままリビングへ。
北斗「……はぁ」
ソファに座る。
スマホを見る。
連絡はなし。
北斗(まぁ、そうだよな)
分かってる。
でも残ってるのは——朝のこと。
距離。
体温。
北斗「……」
小さく息を吐く。
その時、玄関の音。
ガチャ。
〇〇「ただいまー」
北斗「……おかえり」
〇〇はそのままリビングへ来て、
ソファにどさっと座る。
北斗の隣。
普通に近い距離。
〇〇「今日やばかった、ほんと忙しかった」
北斗「……」
〇〇はそのまま話し始める。
〇〇「最後CMだったんだけどさ」
北斗「……誰と」
〇〇「嶺亜くん」
あっさり。
北斗「……へぇ」
〇〇「リップのやつ。ちょっと大人っぽい感じで」
北斗「……そう」
〇〇「距離近い演出でさ」
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
〇〇は気づかない。
〇〇「でもいい感じだったよ」
普通に笑う。
北斗はその横顔を見る。
北斗(……覚えてねぇんだな)
朝のこと。
何も。
〇〇「北斗は?」
北斗「……普通」
〇〇「そっか」
興味深掘りなし。
そのまま立ち上がる。
〇〇「お腹すいた」
北斗「……さっき食えよ」
〇〇「時間なかったの」
キッチンに行く。
北斗はその背中を見る。
北斗「……」
完全に一人だけ引きずってる。
ーーー
数分後。
帰りの車で少し寝たせいか、〇〇は家に着いてからもわりと元気なまま。
キッチンで軽く何かを作って、また北斗の隣に座る。
距離は相変わらず近い。
〇〇「ねえ」
北斗「……なに」
〇〇「今日さ、嶺亜くんに送ろうかって言われた」
北斗「……断ったんだろ」
〇〇「うん、マネいるし」
北斗「……そう」
少しだけ空気が落ち着く。
でも、
〇〇「でもほんと優しいよね嶺亜くん」
北斗「……」
また止まる。
〇〇は気づかず続ける。
〇〇「最近よく連絡くれるし」
北斗「……ふーん」
それだけ返す。
低い声。
〇〇はそのまま食べ終わって、
〇〇「ごちそうさま」
立ち上がる。
北斗は何も言わない。
〇〇「先お風呂入るね」
北斗「……ああ」
普通のやり取り。
いつも通り。
何もなかったみたいに。
バスルームのドアが閉まる音。
北斗「……」
一人になる。
ソファに体を預けて、
ゆっくり息を吐く。
北斗(……ほんと何もねぇんだな)
朝のこと。
全部。
頭の中にあるのは自分だけ。
北斗「……はぁ」
スマホを見る。
開いて、閉じる。
何もせず置く。
そのまま目を閉じる。
でも——
すぐに思い出す。
近かった距離。
触れてた感覚。
北斗「……」
小さく舌打ち。
忘れられないのが自分だけなのが、
少しだけ面倒くさい。
その時、
ガチャ。
バスルームのドアが開く。
〇〇「ふー、すっきり」
髪をタオルで拭きながら出てくる。
北斗は目を開ける。
北斗「……」
一瞬だけ視線が止まる。
濡れた髪。
ラフな格好。
距離、また自然に近くなる。
〇〇「次どうぞ」
北斗「……ああ」
立ち上がる。
すれ違う瞬間、
ほんの少し距離が近い。
〇〇は気にしない。
北斗だけが少しだけ意識する。
北斗(……やめろって)
心の中で思う。
そのまま風呂へ。
〇〇はソファに座る。
スマホを見る。
通知。
嶺亜。
〇〇「……」
普通に開く。
嶺亜「ちゃんと帰れた?」
〇〇「帰れたよ」
〇〇「今お風呂入ってた」
嶺亜「よかった」
嶺亜「今日はほんとお疲れ様」
〇〇「ありがとう嶺亜くん」
やり取りは自然。
軽い。
何も考えてない。
そのまま少し続く。
〇〇「明日も早い?」
嶺亜「朝から少しだけ」
嶺亜「〇〇ちゃんは?」
〇〇「私も朝から」
嶺亜「そっか」
嶺亜「じゃあ早めに休んでね」
〇〇「うん」
〇〇「嶺亜くんもね」
やり取りが終わる。
そのままスマホを置いて、
ソファにごろんと横になる。
〇〇「……眠」
そのまま少し目を閉じる。
数分後、
北斗が戻ってくる。
髪を軽く拭きながらリビングへ。
北斗「……」
ソファを見る。
〇〇、もう寝かけてる。
北斗「……おい」
小さく呼ぶ。
〇〇「……ん」
うっすら反応。
でも起きない。
北斗「……」
少しだけ近づく。
そのまま軽く肩を揺らす。
北斗「ちゃんとベッドで寝ろ」
〇〇「……むり……」
小さく呟く。
そのまま動かない。
北斗「……はぁ」
ため息。
でもそのままにするわけにもいかない。
少しだけ迷って——
北斗「……」
手を伸ばす。
また抱き上げるか、
一瞬考える。
昨日のことが頭をよぎる。
北斗「……」
数秒止まる。
でも結局、
そっと〇〇の腕を持つ。
起こす方向に変える。
北斗「ほら、起きろ」
〇〇「……んー……」
ゆっくり目を開ける。
ぼんやりしたまま北斗を見る。
〇〇「……北斗」
北斗「起きろ」
〇〇「……ねむい」
北斗「知るか」
でも声は少し弱い。
〇〇はそのまま、
無意識で北斗の腕を掴む。
ぎゅっ。
北斗「……っ」
一瞬止まる。
〇〇「……もうちょい……」
完全に寝ぼけてる。
北斗「……離せ」
〇〇「……やだ」
即答。
北斗「……は?」
また同じ流れ。
でも今は昨日の夜じゃない。
意識がある分、
余計に厄介。
北斗「……マジでやめろって」
小さく言うけど、
手は振りほどかない。
〇〇はそのまま少しだけ寄る。
北斗の腕に頭を軽く当てる。
北斗「……」
完全に固まる。
北斗(ほんと勘弁してくれ)
でも——
やっぱり離せない。
〇〇はそのまま、
また少しだけ眠りに落ちかけてる。
北斗は天井を見る。
北斗「……」
小さく息を吐く。
また同じ距離。
でも今度は——
少しだけ違う。
意識がある分、
余計に近く感じる。
北斗はしばらく固まったまま。
腕に乗る重さと、近すぎる距離。
〇〇は半分寝てる状態で、
まだ軽く掴んでる。
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「いい加減にしろ」
低く言いながら、
そっと〇〇の手を外す。
〇〇「……ん」
少しだけ反応するけど、
完全には起きない。
北斗はそのまま少し距離を取る。
北斗「ほら、部屋戻れ」
〇〇「……やだ……」
即答。
北斗「ガキか」
〇〇「……ねむい……」
ふらっと立ち上がる。
バランス悪い。
北斗「おい」
支えようと手を伸ばすけど、
〇〇はそのまま数歩歩いて——
自分の部屋の方へ。
よろよろしながら。
北斗「……」
その背中を見る。
完全に寝ぼけてる。
ドアの前で一回止まって、
〇〇「……おやすみ……」
振り返らずに言う。
北斗「……ああ」
短く返す。
〇〇はそのまま部屋に入って、
バタン。
ドアが閉まる。
静かになるリビング。
北斗「……」
その場に立ったまま、
少しだけ力が抜ける。
北斗「……なんなんだよ」
小さく呟く。
さっきまであった体温が消えて、
急に距離が戻る。
北斗はソファに座り直す。
北斗「……」
天井を見る。
北斗(振り回されすぎだろ)
苦笑いにもならない。
でも——
完全に突き放すこともできない。
北斗「……はぁ」
長く息を吐く。
しばらくそのまま動かずにいて、
やっと立ち上がる。
北斗「寝るか……」
小さく呟いて、
自分の部屋へ向かう。
さっきまでの距離も、
会話も、
全部残ったまま。
消えないまま。
ーーー
北斗side
北斗はベッドに倒れ込む。
天井を見たまま、しばらく動かない。
今日一日のことが、
頭の中でゆっくり巡る。
朝の距離。
帰ってきてからの温度差。
〇〇の無自覚。
北斗「……」
小さく息を吐く。
その時、
スマホが震える。
ブブッ。
画面を見る。
嶺亜。
北斗「……」
少しだけ目を細める。
数秒迷って——
通話に出る。
北斗「……なんすか」
低い声。
嶺亜「もしもし、北斗くん」
落ち着いた声。
敬語。
でもどこか余裕がある。
北斗「こんな時間に」
嶺亜「すみません、少しだけ」
北斗「……」
無言。
嶺亜「〇〇ちゃん、帰りました?」
北斗「帰ってる」
短く。
嶺亜「そうですか」
一瞬の間。
嶺亜「今日一緒でしたよね、朝」
北斗「……だからなんだよ」
嶺亜「いえ」
軽く笑う気配。
嶺亜「ちゃんと守ってるんだなって思って」
北斗「……」
北斗の指が少しだけスマホを強く持つ。
北斗「当たり前だろ」
嶺亜「ですよね」
また少し間。
嶺亜「でも」
声が少しだけ変わる。
嶺亜「それだけじゃ足りないと思いますよ」
北斗「……は?」
嶺亜「守るだけじゃ、〇〇ちゃん何も気づかないですよね」
北斗「……」
言い返せない。
分かってる。
嶺亜「今日もそうでしたし」
北斗「……何が言いたい」
少し低くなる声。
嶺亜は少しだけ間を置いて、
嶺亜「僕、ちゃんと伝えます」
静かに言う。
北斗「……」
一瞬、空気が変わる。
北斗「……は?」
嶺亜「好きだって」
はっきり。
迷いなく。
北斗の表情が固まる。
北斗「……お前」
嶺亜「逃げないです」
続ける。
嶺亜「北斗くんみたいに、待つだけじゃなくて」
北斗「……」
その一言が刺さる。
嶺亜「もちろん、〇〇ちゃんがどう思うかは分からないですけど」
嶺亜「でも——」
少しだけ声が強くなる。
嶺亜「何も言わないままは嫌なんで」
北斗「……」
沈黙。
北斗の中で、
何かが揺れる。
嶺亜「北斗くんはどうします?」
静かに問いかける。
北斗「……」
答えない。
答えられない。
嶺亜「まぁ、急がなくてもいいです」
少しだけ柔らかく戻る。
でも、
嶺亜「僕は動くんで」
最後にもう一度。
はっきり。
北斗「……勝手にしろ」
低く返す。
でも余裕はない。
嶺亜「はい、失礼します」
通話が切れる。
ツー……ツー……
静かな部屋。
北斗「……」
スマホを見たまま固まる。
北斗(……マジかよ)
ベッドにそのまま落とす。
腕で目を覆う。
北斗「……はぁ」
長く息を吐く。
でも——
さっきまでとは違う。
ただの我慢じゃなくなる。
北斗「……」
ゆっくり目を開ける。
天井を見る。
北斗(……待つだけじゃ、ダメか)
小さく思う。
初めて、
“動く”ことが頭に浮かぶ。
でも——
相手は〇〇。
あの無自覚。
北斗「……めんどくせぇ」
小さく笑う。
でもその顔は、
少しだけ決まってる。
静かな夜。
でも確実に、
何かが動き始めてる。
ーーー
嶺亜side
通話を切ったあと、
嶺亜はしばらくスマホを見たまま動かない。
画面が暗くなる。
嶺亜「……」
小さく息を吐く。
部屋は静か。
さっきまでの会話を、
頭の中でなぞる。
北斗の声。
あの一瞬の沈黙。
嶺亜「……やっぱり」
小さく呟く。
気づいてる。
ずっと前から。
北斗が〇〇をどう思ってるか。
隠してるつもりでも、
全然隠れてない。
嶺亜「北斗くん、不器用すぎるでしょ」
少しだけ笑う。
でも——
そのまま表情が戻る。
嶺亜「……でも」
自分の中で整理するみたいに、
ゆっくり言葉を落とす。
嶺亜「だからって、待つ気はないけど」
ベッドに腰掛ける。
スマホを軽く回す。
〇〇とのトーク画面が開いてる。
最後の「おやすみ」。
その文字を見る。
嶺亜「……」
少しだけ目を細める。
今日の撮影。
隣に立った距離。
リップを塗る横顔。
一瞬だけ止まった動き。
嶺亜(あれ、絶対なにかあった)
確信に近い感覚。
でも——
〇〇は何も言わなかった。
嶺亜「……無自覚すぎ」
小さく笑う。
でもその笑いは優しくない。
どこか計算してる。
嶺亜「だからこそ、か」
ゆっくり立ち上がる。
鏡の前に立つ。
自分を見る。
嶺亜「……」
少しだけ髪を整える仕草。
考えてる。
次、どう動くか。
嶺亜「ちゃんと伝えるって言ったし」
さっきの言葉を思い出す。
嘘じゃない。
本気。
嶺亜「でもいきなりはダメだな」
冷静に組み立てる。
〇〇の性格。
距離感。
無自覚さ。
嶺亜「まずは……」
少しだけ口角が上がる。
嶺亜「意識させるとこから」
静かに決める。
ストレートにぶつけるだけじゃなく、
ちゃんと段階踏む。
逃げられないように。
嶺亜「……北斗くんには悪いけど」
小さく呟く。
でも迷いはない。
嶺亜「譲る気ないし」
はっきり。
そのままスマホをもう一度見る。
〇〇の名前。
全然穏やかじゃない。
静かに、
でも確実に、
動き出してる。
嶺亜は電気を消す。
暗い部屋。
目を閉じながら、
頭の中にはもう次の一手。
このままじゃ終わらせない。
ちゃんと、
奪いにいくつもりで。
ーーーーーーーーー
☀️朝。
〇〇の部屋。
カーテンの隙間から光が入ってくる。
〇〇「……ん」
布団の中で少しだけ動く。
まだ眠い。
その時、
スマホが震える。
ブブッ、ブブッ。
〇〇「……」
手探りでスマホを掴む。
画面を見る。
嶺亜くん。
〇〇「……朝から?」
少しだけ目をこすって、
そのまま通話に出る。
〇〇「……もしもし」
完全に寝起きの声。
嶺亜「おはよう、〇〇ちゃん」
落ち着いた声。
優しいトーン。
〇〇「おはよ……どうしたの?」
嶺亜「起きてるかなって思って」
〇〇「今起きた」
正直に言う。
嶺亜「そっか」
少しだけ笑う気配。
嶺亜「ごめん、起こしちゃった?」
〇〇「んーん、大丈夫」
ベッドの上で起き上がる。
髪ぼさぼさのまま。
〇〇「今日早いんだよね」
嶺亜「うん、聞いてる」
〇〇「え、なんで」
嶺亜「なんとなく」
軽く流す。
〇〇「なにそれ」
少し笑う。
まだぼんやりしてる。
嶺亜「ちゃんと寝れた?」
〇〇「まぁまぁ」
嶺亜「ほんとに?」
〇〇「ほんとに」
〇〇は適当に返す。
でも——
嶺亜「無理してない?」
少しだけ声が近くなる。
イヤホン越しでも分かるくらい。
〇〇「……してないよ」
一瞬だけ間。
嶺亜「ならいいけど」
優しい声。
静かに続ける。
嶺亜「昨日、ちょっと疲れてる顔してたから」
〇〇「……見てたの?」
思わず聞く。
嶺亜「うん」
あっさり。
〇〇「……そっか」
少しだけ意識する。
嶺亜「無理するタイプでしょ、〇〇ちゃん」
〇〇「そんなことない」
嶺亜「ある」
少しだけ笑う。
〇〇「ないって」
〇〇も軽く返す。
でも——
嶺亜「じゃあさ」
一瞬、声が落ち着く。
嶺亜「今日も頑張ると思うけど」
〇〇「うん」
嶺亜「ちゃんと自分のことも見て」
ゆっくり言う。
〇〇「……」
少しだけ言葉が止まる。
嶺亜「誰かのためじゃなくてさ」
〇〇「……」
なんか、
少しだけ胸に引っかかる。
〇〇「……うん」
小さく返す。
嶺亜「あと」
嶺亜「朝ごはんちゃんと食べて」
〇〇「え、今?」
嶺亜「うん」
〇〇「まだベッドなんだけど」
嶺亜「起きて」
〇〇「むり」
嶺亜「ダメ」
少しだけ強め。
でも優しい。
〇〇「……わかった」
なんか逆らえない。
そのまま布団から出る。
〇〇「今起きた」
嶺亜「偉い」
〇〇「子ども扱いしないで」
少し笑う。
嶺亜「してない」
でも声が少し柔らかい。
〇〇は洗面所に向かう。
鏡を見る。
寝起きの自分。
〇〇「……」
なんか、
さっきの言葉が残ってる。
嶺亜「今日も遅い?」
〇〇「たぶん」
嶺亜「そっか」
少しだけ間。
嶺亜「じゃあまた連絡する」
〇〇「うん」
でも——
切る前に、
嶺亜が少しだけ声を落とす。
嶺亜「〇〇ちゃん」
〇〇「ん?」
嶺亜「無理しすぎないで」
さっきより近い声。
優しいのに、
少しだけまっすぐ。
〇〇「……うん」
少しだけドキッとする。
嶺亜「じゃあね」
〇〇「うん、ありがと嶺亜くん」
通話が切れる。
静かになる部屋。
〇〇「……」
スマホを見たまま、
少し止まる。
〇〇「……なにこれ」
小さく呟く。
なんか、
ちょっとだけ、
さっきと違う感じ。
胸が少しだけざわつく。
でも理由は分からない。
〇〇「……まぁいっか」
いつもなら流す。
でも今回は、
ほんの少しだけ残る。
そのまま準備を始める。
でも——
ふとした瞬間に思い出すのは、
嶺亜の声。
優しくて、
ちょっと近かった感じ。
ーーー
〇〇side
朝の電話から少し経って、
嶺亜くんとの距離が、気づかないうちに少しずつ変わっていく。
きっかけはほんの小さいことばかり。
でも、それが積み重なっていく。
〇〇side
朝の電話から少し経って、
嶺亜くんとの距離が、気づかないうちに少しずつ変わっていく。
きっかけはほんの小さいことばかり。
でも、それが積み重なっていく。
ある日の朝。
現場に入る前、ロビーでぼーっとしてると、
後ろから声。
嶺亜「おはよ、〇〇ちゃん」
〇〇「おはよ嶺亜くん」
振り返ると、すぐ隣。
距離が自然に近い。
嶺亜「眠そう」
〇〇「眠い」
即答。
嶺亜は少しだけ笑って、
嶺亜「はい」
小さな紙袋を差し出す。
〇〇「なにこれ」
嶺亜「朝ごはん」
〇〇「え?」
嶺亜「食べてないでしょ」
〇〇「……なんで分かるの」
嶺亜「分かる」
当たり前みたいに言う。
〇〇「……すご」
受け取る。
中には軽く食べれるもの。
〇〇「ありがと」
嶺亜「どういたしまして」
そのまま隣に座る。
何も特別なことはしてないのに、
なんか落ち着く。
ーー
別の日。
撮影の合間。
台本を見ながら考えてると、
隣に座る気配。
嶺亜「ここさ」
〇〇「ん?」
自然に肩が触れそうな距離。
嶺亜「こういう感じの方がよくない?」
台本を指差しながら説明してくる。
〇〇「……あー、確かに」
近いのに、
嫌じゃない。
むしろ話しやすい。
嶺亜「やってみる?」
〇〇「うん」
そのまま一緒に動きを確認する。
距離はずっと近いまま。
でも不思議と気にならない。
ーー
また別の日。
帰りのエレベーター。
二人きり。
〇〇「今日長かったね」
嶺亜「長かった」
少し疲れた空気。
エレベーターが揺れて、
〇〇が少しバランス崩す。
〇〇「わ」
その瞬間、
軽く腕を掴まれる。
嶺亜「大丈夫?」
〇〇「……うん」
一瞬。
ほんの一瞬だけど、
距離が一気に近くなる。
手、まだ離れてない。
〇〇「……あ」
気づいて、
少しだけ目が合う。
嶺亜「……」
何も言わない。
でもゆっくり手を離す。
〇〇「……ありがと」
ちょっとだけ、変な感じ。
でも嫌じゃない。
夜。
LINE。
嶺亜「今日お疲れ様」
〇〇「お疲れさま」
嶺亜「ちゃんとご飯食べた?」
〇〇「食べた」
嶺亜「ほんとに?」
〇〇「ほんと」
嶺亜「怪しい」
〇〇「食べたってば」
いつものやり取り。
でも——
嶺亜「無理してないならいいけど」
〇〇「してないよ」
嶺亜「ならいい」
その一言が、
ちょっとだけ優しくて残る。
〇〇「……」
なんか、
ちょっとだけあったかい。
ーー
別の日の現場。
外ロケで少し寒い日。
〇〇「さむ…」
小さく呟くと、
すぐ横から、
嶺亜「ほら」
自分の上着を軽く肩にかけてくる。
〇〇「え、いいの?」
嶺亜「いい」
〇〇「嶺亜くん寒くない?」
嶺亜「平気」
即答。
〇〇「……ありがと」
そのまま着る。
少し大きいサイズ。
なんか、
落ち着く。
嶺亜「似合ってる」
さらっと言う。
〇〇「……そう?」
少しだけ照れる。
なんでか分からないけど。
ーー
また別の日。
休憩中。
〇〇がうとうとしてると、
嶺亜「寝ていいよ」
小さく言われる。
〇〇「ここで?」
嶺亜「うん」
そのまま少し横になる。
気づいたら、
頭の下に何かある。
嶺亜の腕。
〇〇「……え」
嶺亜「動くと起きるからそのままでいい」
普通のトーン。
〇〇「……」
一瞬だけ迷う。
でも——
眠気の方が勝つ。
〇〇「……ちょっとだけ」
そのまま目を閉じる。
安心する。
なんでか分からないけど。
少しずつ。
本当に少しずつ。
嶺亜くんといる時間が、
当たり前になっていく。
優しくて、
自然で、
無理がなくて。
〇〇「……」
ふとした時に思う。
一緒にいると、
なんか落ち着く。
なんか、
安心する。
でもそれが何なのかは、
まだ分からない。
ただ——
前より少しだけ、
嶺亜くんのことを考える時間が増えてる。
ーーーーー
〇〇side
その日は久しぶりに午前オフ。
〇〇はリビングに出て、まだ少し眠そうにソファに座る。
〇〇「……ねむ」
北斗「起きたのか」
〇〇「うん」
ぼんやりしたまま。
〇〇「今日なんかあったっけ」
北斗「……今日来る」
〇〇「なにが」
北斗「家具」
〇〇「……あ」
思い出す。
だいぶ前に一緒に決めたやつ。
大きいベッドとソファ。
〇〇「今日だっけ」
北斗「今日」
〇〇「忘れてた」
北斗「だろうな」
〇〇「何時くらい?」
北斗「午前中」
〇〇「じゃあ起きる」
やっと体を起こす。
数時間後、インターホン。
〇〇「きた?」
北斗「たぶんな」
業者が入ってきて搬入開始。
大きい箱がどんどん運ばれてくる。
〇〇「でか」
北斗「だから言っただろ」
〇〇「こんな大きかった?」
北斗「実物見てないからだろ」
〇〇「まぁそう」
まずはソファ。
L字型。
配置されると一気に部屋の雰囲気が変わる。
〇〇「え、いいじゃん」
テンションが少し上がる。
〇〇「座っていい?」
北斗「まだだろ」
〇〇「ちょっとだけ」
我慢できずに座る。
ふわっと沈む。
〇〇「……やば」
北斗「早いって」
〇〇「めっちゃいい」
そのまま寝転がる。
〇〇「広」
北斗はその様子を少しだけ見る。
次にベッド。
クイーンサイズ。
寝室に運ばれていく。
〇〇もついていく。
〇〇「でっか」
北斗「前の倍くらいあるな」
〇〇「こんな広かったっけ」
北斗「二人分だからな」
〇〇「……」
一瞬だけ止まる。
でもすぐに、
〇〇「まぁ広い方がいいよね」
北斗「……ああ」
設置が終わる。
綺麗に整えられたベッド。
〇〇「試していい?」
北斗「好きにしろ」
〇〇はそのままダイブ。
〇〇「やば、最高」
北斗「子どもか」
〇〇「だって気持ちいい」
そのままごろんと転がる。
〇〇「広すぎ」
笑う。
北斗はドアのところで見てる。
〇〇「ねえ北斗」
北斗「……なに」
〇〇「これさ、寝相悪くても大丈夫じゃない?」
北斗「……」
少し間。
北斗「……どうだろうな」
〇〇「いける気がする」
無邪気に言う。
北斗は少しだけ視線を逸らす。
〇〇はそのまま起き上がる。
〇〇「ソファもいいし、ベッドもいいし」
〇〇「なんかいい感じじゃない?」
北斗「……だな」
搬入が終わって、部屋は静かになる。
〇〇はまたソファに戻る。
体を預ける。
〇〇「いいねこれ」
北斗「……だな」
〇〇「なんかちょっと大人っぽくなった」
北斗「前が子どもすぎただけだろ」
〇〇「それはそう」
笑う。
その時、スマホが光る。
嶺亜くん。
〇〇は何も考えずに開く。
〇〇「……」
嶺亜「今なにしてる?」
〇〇「家いる」
〇〇「家具届いた」
送る。
嶺亜「いいね」
嶺亜「どんなの?」
〇〇「ソファとベッド」
〇〇「めっちゃでかい」
嶺亜「想像つく」
〇〇「座り心地いい」
〇〇はそのままソファに沈みながら打つ。
北斗は隣でそれをちらっと見る。
何も言わない。
でも少しだけ視線が止まる。
〇〇は気づかない。
〇〇「なんか寝そう」
嶺亜「寝たらダメでしょ」
〇〇「ちょっとだけ」
嶺亜「ダメ」
〇〇「なんで」
嶺亜「夜寝れなくなるから」
〇〇「それはそう」
少し笑う。
そのままやり取りが続く。
〇〇は完全にリラックス。
新しいソファに体を預けて、
スマホを見ながら普通に話してる。
その横で北斗は、
何も言わずに座ってる。
でも——
さっきより少しだけ、
空気が違う。
ソファに体を預けたまま、スマホをいじってると
着信。
嶺亜くん。
〇〇「……電話?」
そのまま出る。
〇〇「もしもし」
嶺亜「〇〇ちゃん、今大丈夫?」
〇〇「うん、大丈夫だよ」
横には北斗。
でも特に気にせず普通に話す。
嶺亜「今家?」
〇〇「家いる」
嶺亜「そっか」
少しだけ間。
嶺亜「今日さ、ちょっと話したいことあって」
〇〇「話?」
〇〇はソファに座り直す。
少しだけ真面目なトーンに変わる。
〇〇「なに?」
嶺亜「電話でもいいんだけど」
少し低くなる声。
嶺亜「直接の方がいいかなって」
〇〇「……?」
まだピンときてない。
嶺亜「今からそっち行ってもいい?」
〇〇「え」
一瞬止まる。
〇〇「今?」
嶺亜「うん」
〇〇は少しだけ北斗を見る。
北斗は何も言わない。
ただこっちを見てる。
〇〇「……」
少し考える。
でも深くは考えない。
〇〇「ロビーならいいよ」
嶺亜「ロビー?」
〇〇「うん、家は無理だから」
嶺亜「……そっか」
少しだけ間。
でもすぐに、
嶺亜「分かった」
嶺亜「じゃあロビーで」
〇〇「うん」
嶺亜「何分くらいで行ける?」
〇〇「10分くらい」
嶺亜「了解」
そのまま少しだけ声が柔らかくなる。
嶺亜「来てくれてありがとう」
〇〇「いや、私が行くんだけどね」
少し笑う。
嶺亜「それでも」
〇〇「なにそれ」
〇〇も軽く笑う。
嶺亜「じゃあ後で」
〇〇「うん」
通話が切れる。
静かになるリビング。
〇〇「……」
スマホを見たまま一瞬止まる。
〇〇「話ってなんだろ」
小さく呟く。
でも深くは考えない。
そのまま立ち上がる。
〇〇「ちょっと下行ってくる」
北斗に向かって言う。
北斗「……どこ」
〇〇「ロビー」
北斗「……」
一瞬の間。
〇〇「嶺亜くん来るって」
あっさり。
北斗の表情が少しだけ固まる。
北斗「……は?」
低い声。
〇〇「話あるらしい」
北斗「……今から?」
〇〇「うん」
〇〇はもう準備する気で動いてる。
北斗「……」
何か言いたそうにするけど、
言葉が出ない。
〇〇「すぐ戻るよ」
軽く言う。
そのまま玄関へ向かう。
北斗「……」
後ろ姿を見る。
止めない。
止められない。
ドアが閉まる。
静かになる部屋。
北斗「……はぁ」
小さく息を吐く。
タイミングが悪すぎる。
でも——
さっきの電話の感じ、
ただの話じゃないのは分かる。
北斗「……」
視線を落とす。
北斗(……行かせるのかよ)
自分で思う。
でも動かない。
動けない。
一方——
エレベーター。
〇〇はスマホを見ながらぼんやり。
〇〇「……話ってなんだろ」
少しだけ気になる。
でもそれ以上は考えない。
エレベーターが開く。
ロビーへ。
嶺亜くんが、来る。
ーーー
北斗side
ドアが閉まった音が、やけに残る。
北斗「……」
そのままリビングに立ったまま動かない。
さっきまで〇〇がいたソファ。
スマホも置きっぱなしのクッション。
空気だけ残ってる。
北斗「……はぁ」
小さく息を吐く。
嶺亜。
“話がある”
その言い方。
タイミング。
全部、分かる。
北斗(……あいつ、マジでやる気かよ)
舌打ちまではしない。
でも顔は完全に納得してない。
ソファに座る。
さっきまで〇〇が座ってた場所。
北斗「……」
無意識に触れる。
少しだけ残ってる温度。
北斗(……こんなの気にしてんの俺だけか)
苦笑いも出ない。
スマホを見る。
嶺亜との通話履歴。
昨日の夜。
あの言葉。
“僕は動くんで”
北斗「……」
スマホを軽く投げるように置く。
北斗(分かってたけどな)
いずれこうなるのは。
でも実際に動かれると——
北斗「……だる」
小さく呟く。
でもそれは逃げじゃない。
ただ、
どう動くかを考えてる顔。
北斗「……」
立ち上がる。
数歩歩いて止まる。
行くか。
行かないか。
ロビーまで降りるのは簡単。
でも——
北斗(……それは違うだろ)
自分で止める。
〇〇が選んで行った。
なら、
邪魔する理由はない。
北斗「……」
拳を軽く握る。
でもそのままほどく。
北斗(あいつがどうするかだろ)
そう思う。
でも同時に——
北斗(……取られたら終わりだろ)
現実も分かってる。
ソファに戻る。
座る。
背もたれに体を預ける。
天井を見る。
北斗「……」
時間がやけに長く感じる。
数分のはずなのに。
スマホをまた手に取る。
開く。
閉じる。
連絡はしない。
できない。
北斗(……待つしかねぇのかよ)
昨日の自分の言葉が浮かぶ。
“勝手にしろ”
ほんとに勝手にされてる。
北斗「……」
小さく笑う。
でも全然余裕ない。
視線を落とす。
玄関の方を見る。
誰もいない。
静かすぎる。
北斗(……戻ってきたら)
一瞬だけ考える。
何を言うか。
どうするか。
でも——
答えは出ない。
北斗「……めんどくせぇ」
小さく呟く。
でもその目は、
ちゃんと焦ってる。
初めて。
本気で、
取られるかもしれないって思ってる。
ーーーーーーーーー
〇〇side
エレベーターを降りてロビーへ。
少し広い空間。
静か。
〇〇はソファに座って、スマホをいじる。
〇〇「……」
“話がある”
それだけが少し引っかかってる。
でも深くは考えてない。
〇〇(仕事かな)
それくらい。
時間を確認する。
その時、
足音。
顔を上げる。
嶺亜くん。
〇〇「嶺亜くん」
軽く手を振る。
嶺亜「お待たせ」
〇〇「ううん、大丈夫」
立ち上がる。
嶺亜はそのまま近くまで来る。
いつもより少し距離が近い。
〇〇は気づかない。
〇〇「早かったね」
嶺亜「近くにいたから」
〇〇「そっか」
自然に座る。
二人並ぶ。
少しだけ間。
〇〇は普通に前を見る。
嶺亜は一瞬だけ〇〇を見る。
嶺亜「……急にごめん」
〇〇「いいよ」
〇〇「どうしたの?」
軽く聞く。
嶺亜「……」
少しだけ沈黙。
空気がいつもと違う。
〇〇「嶺亜くん?」
嶺亜「うん」
小さく返す。
嶺亜「ちゃんと話したくて」
〇〇「うん」
〇〇はまだ普通。
嶺亜「最近さ」
〇〇「うん」
嶺亜「一緒にいること多いじゃん」
〇〇「撮影とかね」
〇〇は軽く返す。
嶺亜「それだけじゃなくて」
〇〇「……?」
少しだけ視線を向ける。
嶺亜は一瞬だけ息を整えて、
嶺亜「俺さ」
〇〇「……」
その言い方に少しだけ引っかかる。
嶺亜「ただの仕事仲間って思ってない」
〇〇「……え?」
一瞬、思考が止まる。
嶺亜はそのまま、
嶺亜「〇〇ちゃんのこと」
距離がほんの少し近づく。
〇〇の呼吸が少しだけ浅くなる。
嶺亜「ちゃんと好きだよ」
はっきり。
迷いなく。
〇〇「……」
音が消える。
頭の中、真っ白。
何も出てこない。
さっきまで普通だったのに、
急に全部が変わる。
嶺亜の目が近い。
逃げ場がない。
でも怖いわけじゃない。
ただ——
理解が追いつかない。
〇〇「……え」
やっと出た声。
小さい。
でもそれ以上続かない。
嶺亜「急にごめん」
〇〇「……」
言葉が出ない。
頭の中で何かが引っかかる。
嶺亜の声。
さっきまでのやり取り。
そして——
ふと浮かぶのは、
廉。
あの時の告白。
「待つ」って言った声。
〇〇「……」
心臓が変な打ち方する。
混ざる。
今と、過去。
嶺亜の“好き”と、
廉の“好き”。
どっちもちゃんとした言葉。
でも自分は——
どっちにも返してない。
〇〇(私……)
思考が止まる。
嶺亜は待ってる。
急かさない。
ただ真っ直ぐ見てる。
〇〇「……」
視線が揺れる。
嶺亜の顔を見る。
でもすぐ逸らす。
無理。
今、何も考えられない。
嶺亜「返事は今じゃなくていい」
静かに言う。
〇〇「……」
でもそれすら入ってこない。
頭の中ぐちゃぐちゃ。
嶺亜「ただ、伝えたかっただけ」
〇〇「……」
何か言わなきゃって思うのに、
言葉が出てこない。
体も動かない。
〇〇「……ごめん」
やっと出たのはそれだけ。
理由も説明もない。
ただ出た言葉。
嶺亜「謝らなくていいよ」
優しい声。
でもその優しさも今は整理できない。
〇〇「……」
フリーズ。
完全に。
何も返せない。
何も決められない。
ただその場にいるだけ。
嶺亜を前にして、
動けなくなる。
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