テラーノベル
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俺はあらためてその小柄な見知らぬ女の子を見た。まだ幼い感じの残る顔立ちだが、これは「美少女」と言っていい。目が大きくぱっちりしていて、細身で、肌の色はこの季節にしては小麦色に焼けている。でも何となく垢抜けないというか、田舎者っぽい雰囲気全開な感じだが。
ま、何にしろこんな可愛い女の子とお知り合いになれるのは文句なしに良いことだ。とはいえ、俺の家を探しているってどういう事だ?彼女のリュックにはこれまた時代錯誤的な大きさの名札がデカデカと縫い付けてある。それを見て俺は一瞬目を丸くした。
「アマサキ?……どこかで聞いたような姓だな」
その名札には「大西風美紅」と書いてある。絹子が目を丸くして言った。
「大西風って書いてアマサキって読むの?」
横の女の子がこっくりとうなずく。絹子が俺の顔をしげしげと眺めながら言った。
「そんな難しい漢字の読み方、なんであんたに分かるの? なんか悪い物でも食べた?」
「そう言えば、絹子、お前が家庭科で焼いたクッキー食った」
「やかましい! ああ、ごめんね。下の名前はどう読むの?」
絹子はその見知らぬ女の子に訊く。
「ミク……アマサキ・ミク」
「ふうん、ミクちゃんかあ。変わってるけど綺麗な名前だね。ああ、とにかく、こいつが、あなたが探している女の人の息子だよ」
「そうですか……ご親切にありがとうございました」
その正体不明の美少女は絹子に向かって深々と頭を下げた。絹子の方が恐縮してしまって「いえ、いいわよ、このぐらい」
そしてその謎の美少女はつかつかと俺のそばに歩み寄ったかと思ったら、いきなりアスファルトの地面の上にちょこんと正座して、両手を地面について、今度は俺に向かって深々と頭を下げた。校門のまん前で初めて会った女の子に土下座されたんだから、俺があわてたのなんの。
「お、おい、君……何を……」
彼女は頭を上げ俺の目をじっと見つめながら言った。
「あなたがあたしの『えけり』なんですね。ふつつか者ですが、これからよろしくお願いします」
俺も絹子も彼女を立たせようとする事も忘れてその場で固まってしまった。何だ!いったい何だ?今のあいさつは?そもそも「えけり」って何だ。そんな言葉聞いたこともないぞ。
俺の頭の中を過去にテレビドラマやマンガやアニメやギャルゲーで見た様々なパターンが走馬灯のように走り抜けた。
本人も知らないうちに昔親が勝手に決めた許嫁?いや待てよ、親父の隠し子って線もあるな。いや、それとも……
「あ、あのね……とにかく立って。こんなとこじゃ雄二も困るし……」
絹子に急かされて彼女はやっと立ちあがる。その時俺たちの真横に、キキーと派手なブレーキ音響かせてオンボロのセダンが止まった。ガラスが下がった運転席の窓から顔を出したのは、なんと俺の母ちゃん!
「よかった!ごめーん。空港で行き違いになっちゃったのよ!」
と叫ぶ母ちゃん。あっ!
思い出した!なんで俺があんな変わった読み方する漢字の姓をすぐに読めたのかも! 大西風でアマサキって母ちゃんの旧姓だ!
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