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とにかくその女の子を車に乗せて三人で自宅のマンションへ帰った。リュックはでか過ぎて車のトランクには入りきれず、後部座席に乗せた。どうやら身の回りの物一式ってとこらしいが、普通スーツケースとかに入れてくるもんじゃないか?今の時代。
居間で三人でソファに座って、やっと母ちゃんが本題を切り出した。
「雄二、あんたに一つ謝らなきゃいけない事があるの。この子、美紅はね……あんたの実の妹なのよ」
ああ、そのパターンだったか。なるほど、突然現れた美少女が実は妹。うんうん、マンガでよくあるパターンで……って、いやそうじゃねえ!それが自分の身に起こったってのか!
「母さん、ちょっと待てよ。俺は一人っ子のはずだろ! 妹がいたなんて話、今初めて聞いたぞ」
「だからぁ。今初めて話したのよ」
母ちゃんは悪びれもせずぬけぬけとそう返しやがった。
「まあ落ち着いて。話せば長くなるんだけどね。あたしが沖縄の出身だって事は知ってるわよね?」
「ああ、それは前に何度か聞いたから」
「でね、あたしの実家の大西風という家はね、『ノロ』の血筋を引く家系なの」
また聞いた事もない単語が出て来やがった。「えけり」の次は「ノロ」?いったいどこの国の言葉だ?
「まあ、母さんがノロいのは俺も知ってるが……」
「そのノロじゃないわよ。『ノロ』というのはね、沖縄に古くから伝わる巫女みたいな物で、母親から娘へ女系で伝わる宗教的な……まあ、俗っぽく言えば霊能者ね。女に神と交信する神秘的な力がある、という言い伝えは世界中にあって、そういう能力を持った女性の事を宗教民俗学の専門用語では『シャーマン』と呼ぶの。『ノロ』は沖縄のシャーマンなわけね」
「じゃ、じゃあ、その美紅って子もその『ノロ』なのか?」
「違う……あたしはユタ」
これは美紅が突然言った。また知らない言葉が出てきた。今度はユタ?美紅が続ける。
「大西風家はノロの血筋は引いているけど、遠い昔にノロを継ぐ資格を失った。だからあたしはユタ……」
どうでもいいけど表情に乏しい子だな。しゃべり方も妙に抑揚がないし。俺は助けを求めるように母ちゃんの顔を見た。母ちゃんが説明を再開する。
「ノロというのは昔、沖縄が琉球という日本とは別の国だった時代に、琉球の王様から正式に任命される格式の高い巫女というか霊能者ね。だからノロになるには先代のノロの推薦を受けて宮廷から正式に許可をもらう必要があるの。と同時にノロは琉球王朝の宗教を司る公的な称号でもあったわけ。それに対して、ユタというのは民間で活動する霊能者で、素質があれば誰でもなれるの。ユタを名乗るには別に宮廷の許可とかは必要ない。まあ、こっち本土でいうイタコとか拝み屋みたいな物。そういう違いがあるわけ」