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「じゃあ俺、ご飯食べるので、瞬さんはゆっくりしててください」
「はい、分かりました」
俺がそう返事すると、諒真さんはキッチンへ向かった。
(ゆっくりって言われてもな…てかなんか、もう一緒に住む事になってる気が…)
ここで暮らせば水道光熱費さえ払えば快適な暮らしができる。無料でいつでも飲める血もついてくる。いい事しかない。別に俺は人と暮らすのに抵抗は無いし、諒真さんは良い人そうだから他人でありながらも一緒に住んでもいいと思えた。
そんなことを考えていると、キッチンからガチャンと何か落ちたような音がした。大丈夫だろうかと見に行くと、諒真さんは怪我した手を抑えてしゃがみこんでいた。俺は慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「やかんの蓋開けた時に怪我したとこが痛くて、反射で手離しちゃっただけです、大きな音出してすみません」
(やかん…お湯を沸かそうとしてたのか…)
「諒真さん、座っててください。俺がやりますよ」
「いいんですか?」
「はい、もちろんです。このカップラーメンで大丈夫ですかね?」
「はい、すみません。お願いします」
俺はやかんに水をつぎ、お湯を沸かした。湧いたお湯をカップ麺に入れ、携帯でタイマーをセットし、ソファーに座る諒真さんの元へ持っていく。
「はい、あとは3分待つだけです」
「ありがとうございます。助かります」
諒真さんはカップラーメンを受けとり、目の前の机の上に置いた。
「いえ、これくらい任せてください」
俺はそう言って諒真さんの横に座る。
「カップラーメン、よく食べるんですか?」
「はい、実は俺、料理苦手で…いつも失敗しちゃうので大体カップラーメンとかスーパーの惣菜とかたべてますね」
そう言って諒真さんは苦笑いした。
「そうなんですね。料理って難しいですよね」
「はい。吸血鬼に聞くのも変かもですけど、瞬さんは料理とかするんですか?」
料理か。俺は吸血鬼でありながら、意外と料理をする。食べるより作る方が好きだ。でも、食べてもらう相手もいないし、いつも自分で食べてたけど、諒真さんと暮らして、毎日諒真さんに料理を作れるのは、楽しいのかもしれない。
また新たなメリットを見つけて、俺は嬉しくなる。
「結構しますよ。食べるより作るのが好きなので、諒真さんに作ってあげたいですね」
俺が笑顔でそういうと、諒真さんはクスッと笑う。俺は疑問に思って聞く。
「俺なんか変なこと言いました?」
「いや、なんか、プロポーズされたみたいでおかしくて」
(プロポーズ…)
確かに、料理を作ってあげたいなんて、まるでこれからお嫁さんになる人みたいだ。俺はなんだか恥ずかしくなる。
「すみません。変なこと言って」
「いえ、いいんですよ。すごく嬉しいです」
諒真さんがあまりにも嬉しそうにそう言うので、俺は照れてしまう。
「全然、俺でよければいつでも作りますよ」
「ほんとですか!?」
「はい」
「じゃあ、明日から毎日お願いします!」
諒真さんは冗談っぽくそう言う。
「別にいいですよ。大したもの作れないですけど」
「え、あの、それって…」
「俺、諒真さんと一緒に住むって決めました。これからよろしくお願いします」
俺がそう言って右手を差し出すと、諒真さんは嬉しそうに俺の手を取って握手をし、とびっきりの笑顔で言った。
「よろしくお願いします」
こうして俺たちの同居生活がスタートした。
あの後色々話して、諒真さんは大学3年生で、バイトをして生活している事がわかった。俺が4つ上だから呼び捨てでいいし、タメ口でいいと言っていた。最初は敬語も混ざってしまったが、話しているうちに自然とタメ口になっていた。
そして夜、諒真は俺がベットで寝ていいと言っていたが、申し訳ないので断ってソファーで寝た。
次の日、目が覚めると、諒真が大学に行く準備をしているようだった。
俺が起き上がると、諒真は笑顔で言った。
「おはようございます」
「ん、おはよう」
「瞬さん今日お休みでしたよね?ゆっくりしててください」
「うん。ありがとう。家に服とか取りに行くから、ゆっくりは出来ないかもだけど」
「確かに、でもその服、結構似合ってますよ」
そう言って諒真は俺の着ている服を指さす。これは昨日、俺が着替えを持ってないからと貸してくれた諒真の服だ。前に大きなクマのイラストがプリントされている。なんだか少し恥ずかしい。
「そうかな?25でクマってなかなかキツくない?」
「いや全然。普通に可愛いと思います」
「可愛い?…俺って可愛いの?」
俺のその質問に諒真はふふっと笑う。
「調子乗ったな、俺」
「いや、瞬さんは可愛いですよ。クマがよく似合う」
「ねぇ、なんかいじってない?」
「いじってないですよ。普通に、似合う」
「なんかな〜…そもそもなんでこの服?」
「しょうがないじゃないですか。部屋着それか今俺が着てるのしかないんですから」
諒真が来ているのは胸元にクマのイラストがついている服だ。諒真はクマが好きらしい。
「じゃあ逆でしょ。俺がその胸元にちっちゃくついてるクマの方でしょ」
「今週はこれなんで。来週か先週だったら瞬さんがこっちでしたね」
「うわ、タイミングか~」
「はい、タイミングですね。残念でした」
そういった後、彼は部屋着を脱ぎ、Tシャツに着替えた。
「じゃあ、俺そろそろ行きます」
「朝ごはん食べたの?」
「いや、まだです。いつもコンビニで適当に買って大学で食べるんで」
「そっか。あの、明日からは俺が作るから」
「ありがとうございます。楽しみです」
そう言って諒真は嬉しそうにニコッと笑った。
「夜も作るけど、今日帰り何時になりそう?」
「今日はバイトがあるので…20時くらいですね」
「わかった。じゃあそれくらいに作るね」
「ありがとうございます」
(帰りは20時か。20時まで血飲まないのはちょっときついかも。今ちょっと飲ませてもらおうかな…)
「諒真、その…忙しいとこごめんね。血、ちょっとだけ貰っていいかな?」
「あぁ、帰り遅いですもんね。いいですよ」
そういった後、諒真は服の襟ぐりを首元が出るようにサッとずらし、襟ぐりを掴んだまま言った。
「これで飲めますかね?」
「うん。ありがとう」
俺は諒真へ近づき、首元に歯を入れた。そのままゴクゴクと血を飲み、口を離す。諒真の血はすごく美味しい。血が美味しい人は心が綺麗だとか聞いたことがある。実際吸血鬼の俺を助けてくれたわけだし、間違ってないのだろう。
「もう大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。大学、頑張ってね」
「はい、ありがとうございます。鍵、ここ置いときますね。合鍵あるんで瞬さんが持っててください。じゃあ、いってきます」
そう言って諒真は机に鍵を置いた。
「うん、わかった。いってらっしゃい」
俺がそう言って手を振ると、諒真もニコッと笑って手を振り返し、玄関へ向かい、外に出た。