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「お願い?」
「ああ。霊山寺さんが夏梅の命を救うために恋人になると約束したというのは聞いてる。もし約束したことをなかったことにしたいと考えているなら、思いとどまってほしいというお願いなんだ。今回こんな騒ぎを起こしちまったけど、夏梅は根が優しくていいやつなんだ。夏梅が霊山寺さんにふさわしい男になれるように、おれも全力でサポートする。だからせめて夏休みまでは夏梅を見捨てないでやってくれないか。佐藤亮太、一生のお願いだ」
突然リョータが彼女の目の前で土下座を始めて、教室が騒然となった。彼女が自殺未遂したことになっている僕とどんな話をするのか、みな聞き耳を立てていたのだ。
「佐藤君、そういうのはやめて。私は恋人になるという約束をなかったことにしたいなんて考えてないし、そもそもいやいや約束したわけでもない。席が隣だし大中寺君がいい人なのは私もよく知ってる。実は楽しみにしてるんだよ。大中寺君が恋人として私の生活にもっと充実感を与えてくれるのを。これから大中寺君と日々をすごす中で私も成長していければいいなと願っているんだ」
誰かが拍手を始め、すぐに教室中が拍手の嵐になった。いつの間にか教壇に立っていた担任の先生まで拍手している。
鳴り止まない拍手の中、彼女が尋ねてきた。
「そういえば、さっき話があると言ってたな。何の話だ?」
「なんでもない……」
「言いたいことがあれば遠慮なく言っていいんだぞ。私たちはもう恋人同士なんだから」
彼女の言葉はクラスメートたちの琴線に触れ、そのときの彼女の笑顔は女神と呼ばれるにふさわしい気品のあるものに見えたに違いない。でも、約束をなかったことにしたいと言い出せなくなった僕の心を見透かしたように笑う彼女が、僕には心の底から悪魔に見えた。