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#恋愛
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#両片思い
当麻月菜
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「なんだ、まだ起きてたのか」
だらしなくソファに座りながら、おかえりーと間延びした声で迎えた菜穂子に、真澄は目を丸くした。
「うん、明日は休みだから」
そう言いながら、菜穂子は手に持っていたビール缶を軽く持ち上げる。
「毎回毎回、同じものを飲んで飽きないのか?」
晩酌がなければ生きていけない菜穂子と違って、真澄は酒を一滴も飲まない。だからこれは、悪意ではなく純粋な質問だ。
「全然飽きないよー。まぁ君だって、コーヒー毎日飲むでしょ?それと一緒だよー」
「なるほど。そう考えれば納得だな」
ふむ、と小さくうなずいた真澄に、菜穂子はこっちに座ってと自分が座っているソファを軽くたたく。
「悪いが、俺は晩酌には付き合えない」
「そうじゃない。ちょっと大事な話があるの」
「……この状態でか?」
遠回しに大事な話は素面の時にしろと真澄は言いたいようだが、菜穂子は気づかないふりをする。世の中には、酔ってないとできない話というのがあるのだ。
「大丈夫、酔ってないから」
「赤い顔でそう言われてもなぁ……」
ぶつくさ言いながらも、真澄はソファに座る。
三人掛けの猫足ゴージャスソファがギシッと音を立ててスプリングが揺れ、真澄の香りが菜穂子の鼻腔をくすぐる。
「あのさぁ」
「ん?……っ!」
ビール缶をローテーブルに置いた菜穂子は、体をひねって真澄を覗き込んだ。
「私、別にいいと思うだよね」
「……何が、だ?」
「25歳年下が恋愛対象なら犯罪だけど、25歳年上なら世間の目とか気にせず愛し合っちゃえばいいと思うんだよね」
言い終えて菜穂子は、本当にその通りだとつくづく思う。
「まぁ君は色々抱えるものがあるから、複雑に考えちゃうのは仕方ないと思うんだけど、やっぱ自分の気持ちは大事にしたほうがいいよ」
来年の秋に離婚した後、真澄がどうするのかはわからない。菜穂子自身も、どうなるのかわからない。でもどうせ離婚するなら、智穂と結ばれてハッピーエンドを迎えてほしい。
そうしてくれたら、失恋から自暴自棄になってしまい、勢いで結婚届を書いてしまった自分も少しは報われるというものだ。
そんな打算を読み取ってしまったのか、真澄は苦い顔をする。
「……大事な話があるからわざわざ座ってみれば、そんなことか」
「お節介だった?」
「ああ、かなりな」
「それって、智穂さんといい感じに事が進んでるってこと?」
そうだといいな、と期待を込めて菜穂子が問いかけた途端、真澄に左手を強く握られた。
「菜穂ちゃんは、俺の妻になった自覚はあるのか?」
真澄は露骨にムスッとしながら、菜穂子の薬指にはめられた指輪をそっとなぞる。
プラチナ製のシンプルデザインのそれは、真澄の左薬指にもはまっている。同じ日に、同じ時間にはめた。このリビングで。
あの時、やっと「ああ、本当に結婚しちゃったんだ」と菜穂子は実感した。
「私、ちゃんとまぁ君の奥さんになった自覚あるよ?あるから──」
「どこの世界に夫の浮気を応援する妻がいる?」
「っ……!」
ここにいる。そして、そういう前提で結婚をした。
そう言い返したかったが、切実な真澄の視線に絡めとられた菜穂子は、小さく息をのむことしかできなかった。
「……まぁ君、怒った?」
「いや、呆れただけだ」
首を横に振りながら、真澄は菜穂子の手を放す。何かを決意した顔で。
「菜穂ちゃん、この際だから俺も一つ言わせてほしい」
「うん、どうぞ」
「智穂さんと俺は、明日で24歳差になる」
キッパリと宣言した真澄は、妙にカッコいい。いや、そうじゃなくって!
「つまり、明日は……」
「まぁ……俺の……誕生日だ」
言いにくそうに答えた真澄に、菜穂子は激高する。
「ちょっと!なんでもっと早く言ってくれなかったのよ!!」
「……すまない。別に大したことじゃないと……」
「一生に一度しかない29歳の誕生日を雑に扱うなんて罰当たりな!!」
更に怒りを増す菜穂子に、もう一度真澄は「すまない」と言って深く頭を下げた。
無防備につむじを見せる真澄に、菜穂子は週末は智穂と二人っきりになる時間を作ってあげようと心に誓った。
……そのはずだったが、なぜか菜穂子は智穂と真澄の誕生日ケーキ作りをする羽目になってしまった。
平日と同じ時間に起きて外出準備をしていたのに、智穂はいつもより早い時間にマンションを訪れ「一緒にケーキを作りましょう」と誘ってきたのだ。
真澄はすでに休日出勤しており、アドリブが得意じゃない菜穂子は咄嗟に断る言い訳が思い浮かばなかった。
もたもたしているうちに智穂から予備のエプロンを手渡され、二人並んでキッチンに立つことになってしまったのは、今でも大変悔いている。
といっても菜穂子に与えられた仕事は、ホイップクリームの泡立てだけ。それ以外は智穂が出際よく準備してくれた。
──私、いる必要……あった?
まだ誤解を解いていないから、智穂がマウントを取りたくなる気持ちはわかる。でも、不必要に嫌われるのは嫌だ。
ケーキ作りは、あとは飾りつけだけ。これが終わったら、ちゃんと智穂と話をしよう。そう決めた菜穂子は、必死にホイップクリームを泡立てる。
頑張った甲斐あって、クリームはそれからすぐに、角がぴんと立つほど泡立った。
それから粗熱を取ったスポンジケーキに飾りつけをして、誕生日ケーキは完成した。プロ顔負け……とはいかないが、それでも手作りにしてはかなりの出来栄えだ。
「すごく上手にできた!菜穂子さんのおかげだわ。きっと真澄さんも喜んでくれるわね」
「……はぁ、まぁ」
智穂から満面の笑みでそう言われて返答に困った菜穂子は、洗い物に気を取られているふりをして、智穂への返答を濁すことしかできなかった。
コメント
1件
菜穂子が「夫の浮気を応援する妻」って、なんて新しいんだろうって思いました。真澄に「妻としての自覚はあるのか」と問われて「ある」と答えながらも、彼の幸せを願うその気持ち、すごく切ないし温かい。誕生日が明日だってわかって慌てる菜穂子もかわいくて、最後のケーキ作りの場面で「私、いる必要あった?」って思うところもリアルでした。この関係性、どう転ぶのかめっちゃ気になります!