テラーノベル
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運転席に座ったのはいつぶりだっけな、
YouTubeの撮影で運転したっきりかもしれない。
「なんか曲、かけよっか」
気まずそうな顔でパネルをタッチするあなた。スイスイと操作する手つきには慣れが見える。
俺と京本は4年前の6月18日、俺の誕生日に付き合った。まあなんだ、どっちから告白をしてとかではないけど、お互いに、お互いが周りとはなにか違った関係を感じていて、ヌルッと付き合ったような。周りから見たら気持ち悪い関係かもしれない。
たくさん出かけて、家にも行って、お互いの家に行くのがだんだん億劫になって、一緒に俺の家で住むようになって、、まあ2年ぐらい?
俺と京本は色々と正反対で、そういう所が好きだったのに、悪い所も見えてきた。
いや、悪い所というか。ただ、お互いに忙しくなって、ファンに届けるものを第1に考えようって思いが先行しすぎて、お互いのことをあまり考えれなくなって、言い合うことが増えた。大喧嘩で、ふたりで泣いて、朝目が腫れ上がっていたこともあった。リハーサルや収録に身が入らないこともあった。でもそれでも俺は好きって気持ちは変わらなかったし、こんなに心を開いて、自分を見せていいのは京本だけだと思ってた。
突然言われた「お互いのために」って言葉。
息が止まるかと思った。あなたは泣いていた。
泣くぐらい悲しいんならそんなこと言わないでくれよ。
本当に嫌だった。年甲斐もなく床に身を放り投げて駄々をこねたかった。
でも貴方のその切羽詰まった泣き顔がそうさせてはくれなかった。
いつでもファンの事を思ってるあなただから。
沢山沢山悩んで出た結果がそれなんだから。俺はもう何も言えない。
頷くしか無かった。涙をこられえられなかった。でも、最後に一つだけわがままを言った。
「1ヶ月後に、別れよう」
それから1ヶ月、1秒でも長く恋人として京本と接したくて、仕事の合間を縫って電話したり、ご飯を食べに行ったり、家で過ごしたり。
今までは小言を言っていたことも、全てがどうでもよかった。ほんの一言でもなんて事ない話をしてたかった。
でも、やっぱり時間はすぎるもんで。
家から段々京本の抜け殻が減っていっていた。抜きっぱなしの服も、信じられない量の映画のDVDも、漫画も、フィギュアも、カードも、マグカップも、歯ブラシも。
何かが無くなっていることに気づく度に涙が出た。もう終わるんだ。実感がだんだん湧いてくる。
1度、ダンボールを詰めている京本を見た。彼は泣きながら一つ一つダンボールに入れていた。
歌を口ずさんでいた。微かに聞こえた歌詞は「終わりがあるのなら始まらなきゃ良かったなんて、いじけてばかりで」
京本も、この別れを望んでいるわけじゃなかった。苦渋の決断だったんだと思う。それでもそれから目を背けず、情けなくあともう少しと悪あがきをする恋人を、自分を、このままではいけないとムチを打つように引っ越す準備をしていたんだと気づいた。
1ヶ月がすぎた日、「北斗、運転してよ。」と言われた。
最初は断った。久々の運転に大切な人を乗せる訳には行かないと。
でも、そんなことは気にしないといった様子で「いいよ、別に何が起きてももう。最後のドライブだと思って!」
と言われた。俺は車のキーをとった。
沈黙が続いた車内で、京本は音楽をかけ始めた。
かけた曲は、Gum tape。
歌が大好きな彼だから、てっきり熱唱するのかと思ったらぽつりぽつりと話し始めた。
「色んなことがあったね」
「今でも俺は北斗のことが大好きだよ」
「でも、大人として、演者として、やっぱりバランスを取らないと、何かが崩れてしまうから。」
「だから、、、、」
段々と泣き声になっていくのを聞いて、もう耐えられなかった。
運転しているのに、前がどんどん霞んでいく。俺は世界で一番大事な人を乗せているんだ。邪魔をするのはやめてほしい。
自分でもこれはずるい質問と分かりながらも、声が溢れた
「別れないと、だめなの?もう、無理なのかな」
隣から嗚咽が聞こえる。
「俺は、アイドルに夢見て、ここまで来て、必死に歌も、ダンスも、練習して、自分の理想を実現しようと、必死に食らいついてる北斗が、大好きなんだよ、だから、それを俺が邪魔するのは、俺が許せないから 」
いつもよりゆっくり、間を開けてはなすからより心にしみていく。
歌の歌詞が耳に着いた。返事をするより前に、口が歌っていた。
「僕に残された世界は温もりだけが残る部屋、独り言だけがやけに綺麗に響いている。少しずつサヨナラ、これで良かったのかな。ぼくは、、ぼくは、、、、いまでも」
2人の嗚咽は曲にかき消されてお互いに聞こえなかったはずだ。きっと。
京本を京本の実家まで送り届けて、お互いの泣きっ面を見納めして、明日からはメンバーとして、また仲良くいこうねって、笑顔で言って。
そこから先はあまり覚えていない。自分一人が乗っている車なんてどうでもよかった。
気づいたら、寝室に来ていた。
京本の匂いが一番濃く残っている。
こうやって、悔やむのも、もう今日で終わり、今日だけだから、って、自分に言い聞かせながら、京本の枕を抱いて泣いた。
翌朝、とりあえずシャワーを浴びて、朝ごはんを食べて。
でもやっぱり少しは寂しくて、もう1回寝室にむかった。
そこには温もりだけが残っていた。
コメント
1件
みぅです🥀 「大事な人を載せて」読ませていただきました…。 もう、最初から最後まで胸が締め付けられました。運転席に座る北斗くん、泣きながら荷造りする京本くん、お互いを想い合ってるのに「別れ」を選ばなきゃいけなかった理由が、アイドルとしての責任とか、相手を大切に思うからこそ…ってところが、重すぎて苦しくなりました。 特に「どうしても別れなきゃダメなの?」って問いかけと、それに対する京本くんの返し…涙腺崩壊しました。Gum tapeの歌詞が流れる演出も、切なくて美しくて。 最後の「温もりだけが残っていた」で、もう無理でした。こんなに綺麗な別れの話、久しぶりです。続き、すごく気になります…🌙
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