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大根のお味噌汁を飲むと、まるで猫のように、悠真くんは目を細めた。

その様子を見て、シュガーのことを思い出す。

「シュガーちゃんは部屋でお留守番ですか?」

「はい。飼い主より先に晩御飯を食べ、今は満腹で寝ていると思います」

そこで大根おろしがたっぷりかかった豚しゃぶを頬張った悠真くんは、その切れ長の瞳を輝かせた。

「……美味しい! 豚肉が柔らかい! おろしポン酢でさっぱりしているし……やばいですね。ご飯が進んでしまう」

「しらすおろしも白米によくあいますよ」

「増々やばいですね。でも明日、ジムでトレーニングするから……いいかな」

「! だ、大丈夫ですか? 私のせいで体重増えていたら、申し訳ないのですが」

すると悠真くんは「心配無用ですよ。今晩も軽くジョギングはしますから」と軽快に笑う。そして食事をしながら、モデルとして体型キープのために、どんなことをしているのか明かしてくれた。

やはり人に見られる仕事をしていると、気が抜けないのだなと、しみじみ思ってしまう。結局、コンビニで買う食事も、おにぎりやサラダなんかではなく、サラダチキンと豆腐、バナナであることも、この時の会話で分かった。

「では鈴宮さん、別腹のモンブラン、食べましょう」

「そうですね。コーヒーと紅茶、どちらにします?」

「あ、ほうじ茶はありますか?」

悠真くんによると、香ばしいほうじ茶は、モンブランで甘くなった口の中を、さっぱりさせてくれるという。よってモンブランを食べる時は、ほうじ茶は意外とおススメだと微笑んだ。

秋になるとほうじ茶を飲むことが多いので「ほうじ茶、あります!」と私は返事をして、後片付けをしながら、デザートを用意することにした。

「僕、洗い物しますよ。鈴宮さんはデザートの準備でいいですよ」

「……! ありがとうございます。ではお願いします」

面倒な洗い物を率先してやってくれるなんて。

悠真くんは出来た子だ。

この容姿とこの性格。

モテるだろうな~。

ポットの湯沸かしボタンを押し、急須と湯飲みを用意することにする。

普段、緑茶やほうじ茶を飲む時、マグカップを使っていた。

でもせっかくなのでと、流し場の上にある棚を開ける。

そこに片付けてある湯飲みを、背伸びをしてとろうとすると……。

「どれとりますか?」

洗い物の手を止め、悠真くんが手を伸ばす。

私のように背伸びをすることもなく、余裕で手が届いている。

「ではこれとこれで」

私が指で指し示すと、悠真くんが湯呑をとってくれる。

その瞬間、お互いの手と手が触れ合って、思わず心臓がドキッとしてしまう。

というか今、ものすごく悠真くんと私、距離が近いと思います……。

ドキドキしながら、急須にほうじ茶の茶葉を入れる。

「……僕は嬉しいんですけど、鈴宮さんは大丈夫ですか?」

突然そんなことを言われ、なんのことだろうと、隣にいる悠真くんの顔を、ガン見してしまう。

「彼氏でもない男子を部屋にいれ、怒られませんか、彼氏さんに」

あ、あああ、そういうことね。

「彼氏、いないので大丈夫です……という悲しい答えしかできないのですが」

「そうなのですね。……それは」「カチッ」

悠真くんの言葉と、ポットのお湯が沸いたことを知らせるスイッチの音が重なった。

「え、今、何か言いましたか?」

「いえ、大したことは言っていません。気にせず準備を進めてください」

確かにお湯が沸いたので、ほうじ茶をいれ、冷蔵庫からモンブランを取り出す。

テーブルにモンブランとスプーンを並べている間に、悠真くんは、ほうじ茶をいれた急須と湯のみを部屋に運んでくれる。

本日二度目となる「「いただきます」」をしてから、モンブランを食べ始めた。

モンブランのクリームは濃厚で、栗の味わいが強い。ほうじ茶との相性も抜群。クリームの下の大粒の栗、生クリーム、しっとりしたスポンジ、そのどれもがバランスよく、コンビニスイーツなのに、完成度はとても高かった。

「美味しいかったです。悠真くん、ご馳走様でした!」

「これは当たりでしたね」

悠真くんも満足気だ。

「ところで鈴宮さんってお仕事、忙しいですか?」

「仕事は……日によりますね。営業企画は営業さんに連動して動くことも多いので。ただ、毎週水曜日はノー残業デイになっているので、そこはちゃんと帰ることはできますが」

「そうなのですね。……明日、水曜日ですね」

「ノー残業デイです!」

すると悠真くんは、ジャージのポケットからスマホを取り出した。

「ノー残業デイの日は、何時にお仕事が終わるのですか?」

「定時は17時半なので、この時間に終わりますね。でも自社ビルで、系列会社含め、みんな一斉にノー残業デイなので、エレベーターが混雑して大変なのです。だから10階までの会社は、非常階段で降りるように言われて……」

「そんなに人が多いんだ。……鈴宮さんは何の会社で仕事しているのですか?」

そこで私は、自分の勤務先について明かしていないことに気づいた。そこで「ちょっと待ってくださいね」と言い、名刺を取り出し、悠真くんに渡す。

「サンアップ食品、知っていますよ。この名刺は、いただいても?」

「はい、どうぞ」

悠真くんは「ありがとうございます」と言うと、渡した名刺をジャージのズボンに大切そうにしまってくれた。その様子を見ていると、なんだか自分が大切に扱われたような錯覚を覚え、なんだかドキドキしてしまう。

「ところで鈴宮さん。来週のノー残業デイは、もう予定、ありますか?」

「ないです」

「ではパウンドケーキと今日の晩御飯の御礼で、映画に招待します」

これにはもうビックリで「え!」と固まってしまう。

「ただし、その映画は僕の主演作ですが、いいですか? ……観てないですよね?」

「す、すみません! 観ていません」

すると悠真くんが爆笑した。

私は「???」と、頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになってしまう。

「観てなくて当然です。今週末から公開ですから」

「な、なるほど。……あ、でも、水曜日は割引を設定している映画館が多いですよね? しかもこの週末に公開されて、悠真くんが主演している映画なら……とても混みそうですよ?」

「大丈夫ですよ。席は僕が予約しておきますから」

悠真くんに自身の主演作を予約してもらうなんて……! なんだかシュール。

「意外かもしれませんが、自分の主演作を観るため、映画館に僕、結構足を運ぶんですよ。どんな人が見てくれているのか、観終わった後、どんな反応しているのか、観察しています」

「それは今後の参考にするためですか?」

「はい。ネットにも感想書き込まれていると思いますが、それって鑑賞直後ではないですよね。本当に見終わった直後の表情が、一番リアルな感想だと思うので」

勉強熱心だな~と思わず感動してしまった。

映画を観た後、絶賛もあれば、批判もあると思う。

批判の言葉をダイレクトに聞くなんて、普通は嫌なはず。

それを恐れず映画館に足を運ぶとは……。

「でもバレないのですか、周りの人に」

「今でも夏以外は、マスクつける人はマスクつけますよね? だからマスクつけていても悪目立ちしませんし、思いっきりオーラ消すからバレないですよ」

「なるほど」

すると。

悠真くんが突然、自身の前髪をくしゃくしゃとして、背を丸め、俯き加減になった。

そうした姿は……なんだか別人。

悠真くんではない。

ちょっと暗い感じの20代男子にしか見えない!

「どうです?」

「消えていました、オーラ。マスクもつけていませんでしたが、俯いているだけで、まさに別人でした」

「成功ですね。こんな感じにしていると、意外とバレません。それにバレたら『似ていますか? 似ているんだ。今度そっくりさんオーディション応募してみます』って答えて誤魔化します」

これにはもう、ビックリしてしまう。

無口で知られている悠真くんだけど、さすがにこの声は、彼のものとは思えない。

「確かに今の声でしたら、『あ、見た目は似ているけど、全然違った』と思うと思います」

「だから安心してください」

「分かりました」

「分かりました」と返事をしてから、ほうじ茶を口に運び、じわじわとすごい約束をしたと実感してしまう。

あの悠真くんと彼の主演作を映画館で観る……。

「じゃあ、ぼく、そろそろジョギングに行きます」

「あ、はい。モンブラン、ご馳走様でした」

「こちらこそ、美味しい晩御飯、ありがとうございます。鈴宮さんの料理、最高です。僕、大好きですよ」

ファン垂涎の笑顔を向けられ、一瞬、椅子から立ち上がれなくなってしまう。

私の手料理ごときで、こんなに喜んでくれるなんて……。

というか、料理が好き、なのだけど……。

自分に向けて大好きと言われたみたいで、本当にドキドキしてしまう。

気合いを入れ、なんとか椅子から立ち上がり、悠真くんが部屋に戻るのを見送った。

年下男子と年上男子二人はフツーの女子に夢中です

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