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第十五話「揺らいでも揺らがない気持ち」
——三週間。
その間、山本美憂は週に二回、小太郎と会っていた。
理由は、分かっている。
(……紛らわせるため)
そして——
(……ちゃんと、前に進むため)
⸻
一週目・水曜日
放課後。
「今日、どこ行く?」
「この前言ってたカフェどう?」
「いいね」
並んで歩く。
小太郎は、話しやすい。
無理に引っ張るわけでもなく、でも沈黙も気まずくならない。
⸻
「ここ、パンケーキ美味しいんだ」
「ほんと?」
「うん」
店内。
ふわっとした甘い匂い。
「山本さんって甘いの好きだよね」
「バレてる?」
「なんとなく」
笑い合う。
自然に。
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(……いい人)
改めて思う。
気遣いもできるし、話もちゃんと聞いてくれる。
楽しい。
普通に。
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「どう?」
「美味しい」
「でしょ?」
フォークを動かしながら——
ふと、思い出す。
クレープを差し出した時の佳の顔。
“あーん”を拒否したくせに、結局食べた時の反応。
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(……なんで今それ思い出すの)
目の前にいるのは小太郎なのに。
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「山本さん?」
「……あ、ごめん」
「ぼーっとしてた?」
「ちょっとね」
笑ってごまかす。
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(……ダメだ)
消えない。
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一週目・土曜日
映画館。
「これ、結構泣けるらしいよ」
「じゃあハンカチ持ってきて正解だ」
「用意いいね」
隣に座る。
暗くなる。
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映画が進む。
感動的なシーン。
涙が滲む。
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でも。
(……隣)
ふと、意識する。
(これ、佳だったら)
泣いてる自分を見て、絶対茶化してくる。
「泣いてんのかよ」とか言いながら。
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(……違う)
頭を振る。
今は違う。
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エンドロール。
「……よかったね」
「うん」
外に出る。
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「大丈夫?」
「なにが?」
「ちょっと元気なさそうだったから」
「……そんなことないよ」
小太郎は、ちゃんと気づく。
優しい。
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(……優しいのに)
胸の奥が、少し苦しくなる。
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二週目・水曜日
ゲームセンター。
「やる?」
「やる!」
UFOキャッチャー。
ぬいぐるみ。
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(……あ)
手が止まる。
同じ。
佳と取ったやつと、似てる。
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「山本さん?」
「……ううん、やろ」
無理やり笑う。
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でも。
取れた瞬間——
「これ、あげる」
「え、いいの?」
「うん」
渡しながら。
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(……違う)
あの時の“お揃い”とは。
全然違う。
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二週目・土曜日
公園。
ベンチ。
「最近さ」
「ん?」
「結構一緒にいるよね」
「……だね」
「俺さ」
少しだけ真剣な声。
「山本さんのこと、ちゃんと知りたいと思ってる」
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まっすぐな言葉。
逃げない目。
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(……いい人だ)
本当に。
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「……ありがとう」
それしか言えない。
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でも。
(……なんで)
胸が、苦しい。
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三週目・水曜日
帰り道。
並んで歩く。
夕焼け。
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「今日も楽しかった」
「うん」
「山本さんといると、落ち着く」
「……そっか」
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(……落ち着く、か)
その言葉に、違和感。
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(……違う)
佳といる時は。
落ち着くとかじゃない。
もっと、ぐちゃぐちゃで。
うるさくて。
でも——
(……それがいい)
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三週目・土曜日
カフェ。
向かい合う。
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「山本さん」
「ん?」
「俺——」
言いかけた言葉。
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その瞬間。
頭に浮かぶのは——
佳。
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笑ってる顔。
少しだるそうな声。
「また行こう」って言った時の表情。
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「……ごめん」
思わず、口から出る。
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「え?」
「……なんでもない」
慌ててごまかす。
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(……ダメだ)
はっきり分かる。
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どれだけ会っても。
どれだけ楽しくても。
どれだけいい人でも。
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(……離れない)
頭の中から。
心の中から。
⸻
(……やっぱり)
答えは、最初から決まってた。
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夜。
家。
「……ただいま」
「おかえり」
佳の声。
それだけで——
全部、埋まる。
⸻
(……ああ)
分かってしまう。
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(……やっぱり、佳がいい)
⸻
どれだけ遠ざかろうとしても。
どれだけ他を見ようとしても。
⸻
戻ってきてしまう。
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