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振り下ろされる切っ先に映る自分が、滑稽なほど間抜けな顔をしている。
あーあ、短い人生だったなぁ。
嫌だっ、こんなところで死にたくない!!
相反する2つの感情がアネモネの中で暴れた瞬間、喉に鋭い痛みと、肩に強い衝撃を覚えた。2拍置いて、自分が突き飛ばされたことを知る。
「おやおや、あなたが剣を使えるなんて聞いてませんでした」
「ああ。わざわざ間者に手の内を見せる程、俺は馬鹿じゃないからな」
キンッという剣がぶつかり合う独特の金属音と共に、そんな会話が聞こえて来た。
アネモネの視界は、大きな背中が邪魔している。それがアニスの背だと気付くのにそう時間はかからなかった。
どこに隠していたのかわからないけれど、アニスは剣を持ちティートと対峙しつつ、空いている方の腕でアネモネを庇っている。
見たままを言えば、先日、自分を馬車から突き落としたこの男は今、身を挺して自分を守ろうとしているのだ。
夢かと疑いたくなる光景だが、これは現実なのだ。
「オイ、何やってるんだ、娘っ。危ないから、引っ込んでいろっ」
転がるようにアニスの背から離れた瞬間、アネモネは怒鳴られた。
でもアネモネは謝るどころかアニスの忠告を無視して、ティートの腕を掴む。
紡織師は邪な感情だけを取り出しそれを消す能力を持っているから、ティートの素肌に触れさえすれば彼の殺意を消すことができる。だが、ティートの力は凄まじかった。
アネモネが近づいた途端、ティートは剣を持っていない方の腕を伸ばしてアネモネを吹っ飛ばす。手加減なしにそうされ、アネモネは壁に叩きつけられてしまった。
「アネモネっ、もうお前は逃げろっ」
「……アニス様こそ、逃げて」
「できるか馬鹿っ」
自分のせいで窮地に陥ってしまったというのに、アニスはなぜかアネモネの身を心配する。てんでわからない。
でも甘えるわけにはいかない。アニスは大切なお客様なのだ。何としても彼を救わないといけない。それにこの騒ぎを利用して、ティートの心の奥にある凶悪な感情を丸ごと拾い出し消し去りたい。
ソレールを嫌いじゃないといったティートは、とても辛そうだった。彼は何かに縛られている。それ故にアニスに剣を向けなくてはならないのだろう。
お仕事の対象者以外を救うなんて柄じゃないし、自分の命を危険に晒すなんて大赤字だ。
でもこれだって、師匠ならやると思った。
「ティート、殺すなら私を先に斬って」
「おや?アネモネはソレールから、アニス様に心変わりを?初心な見た目とは裏腹に、恋多き女ですね」
「いや、違うし」
アネモネは食い気味に否定した。
冗談だとわかっていても、怖気が立つ。不快でしょうがない。視界の端でアニスも心底嫌な顔をしているのが、これまた腹が立つ。
ただその怒りは力に代わり、アネモネは再び立ちあがることができた。