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自治会の集会から帰った恵子が、沙耶にボソッと言った。
「私、翔太に疲れたわ」
恵子は、翔太と会う機会が少なかった。
美奈が実家を避けていたからだ。
たまに会う孫は「お勉強ができる良い子」だった。
ところが一緒に暮らしてみると、恐ろしいほど我儘だった。
「あのね、翔太が5才の頃だけど……」
「5年前のお話ですね」
「翔太が近所の御主人に『クソじじい』って言ったの」
「え?」
「美奈は御主人に謝るどころか、ニコニコ笑ってた」
「なぜですか?」
「子供を叱るという観念が無いの」
美奈の教育方針は[自由に好きなようにさせる]だ。
だから翔太は「ダメ」と言われたことがない。
恵子が注意すると「翔太を否定しないで!」と美奈が怒る。
「翔太が7才のとき 友達とケンカしてね。
翔太が『デブ』って言ったら、友達が『バカ』って返した。
他愛のない、子供同士の口喧嘩」
「よくありますよね」
「美奈はカンカンに怒って、相手の家に乗り込んだの」
「えっ? 家に?」
「太った子に『デブ』と言った翔太は正しいけど、
賢い翔太に『バカ』と言うのは間違っている、許せない、謝れ、って」
沙耶は言葉が出なかった。
「8才のとき、遊園地に行くから『10時に迎えに行くね』って言ったら、
『翔太と約束しないで!』って怒られたわ」
「人は約束を守ることで、成長すると思いますが」
「そうね。あのとき、この子はダメになる、と思ったの」
美奈の教育方針は「我慢」や「約束」をさせず、プレッシャーを与えず、
のびのび自由にさせることだ。
『子供をどう育てるか』は 家庭の勝手だ。好きにすればいい。
だが……、
「私、本当に疲れたわ」
恵子が疲れ切っている。
(私も疲れた)
沙耶はソファーに深く座り込んだ。
家にいることが苦痛だ。
待望のマイホームが、ストレスの場所になった。