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「……なんで、キスしたの?」
「別に、なんとなく」
甘い雰囲気なんて、どこにもなかったのに。
さっき触れた唇の熱だけを残して、サクヤは何事もなかったように、私に言った。
「小春、もう2時だぞ」
スマホの光を受けて、シルバーヘアに混じったピンクのメッシュが艶やかに光る。
深夜2時。
私がいつも、彼の部屋を出る時間――。
◆◆◆
仕事上がり、スマホにメッセージが届いた。
『今から来いよ』
いつも通りの一方的な呼び出し。
深夜でも平日でも関係ない。
『コーラ買ってきて。あと腹へった』
私のことを、デリバリー代わりだと思っているんだろうか。断ろうとしたけど、タップする指は素直だ。
『わかった、買って行く』
悔しいことに、誘われて断ったことなんてない。
『ついでに、ティッシュが切れたからよろしく』
メッセージと変なスタンプが届く。
「むかつく」
言葉とは裏腹に、自宅とは反対路線に乗り込んだ。
スーパーマーケットに立ち寄ると、こだわりの強いサクヤのため、ティッシュは某ブランドの柔らかいものをカゴに入れる。
荷物を抱え、都心の一等地にあるマンションへと向かった。
「よう、遅かったな」
「私はお手伝いさんでも、マネージャーでもないからね!」
ドサッとテーブルにレジ袋を置く。
「お、カップ焼きそばじゃん。わかってるな、小春」
「少しは野菜も食べなよ。サラダ買ってきたから」
「いらね」
シャワーを浴びたようで、髪がまだ濡れている。
肩にはアニメ絵が描かれたのタオル。たぶん、趣味のクレーンゲームの景品だ。
ソファの上であぐらをかいて、コーラを飲んでいる。ファンには見せられない、すごくゆるい姿。
そう、こんなんだけど、彼はアイドル。
それも、超がつくほど売れっ子グループ、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバー。
だけど、私との出会いは子どもの頃。
私が通っていた同じダンススクールに、サクヤがやって来た。
サクヤは愛想がなかった。
レッスンが始まるまでスタジオの隅、ひとりゲームをしているような子だった。
『一緒に踊ろうよ』
気を利かせて誘うと、
『おまえヘタクソだからいい』
思い出しても腹立たしい、忘れない初対面のときのこと。でも、お互いゲーム好きだったことから、気付けば仲良くなっていた。
サクヤのダンスレベルは、大人顔負けだった。
数々のダンスコンテストで入賞し、芸能事務所からスカウトされたのも、当たり前だと思えた。
サクヤは芸能科のある高校へ進学し、段々と疎遠になった。
――2年前、ダンスのイベントで再会するまでは。
『まだ、ゲームやろうぜ』
そう言って、懐かしい笑顔を見せた。
淡い恋心は、あっという間に年月を超えてくる。本気の恋になるのに、時間なんていらなかった。