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✦『体育祭の準備中、しんちゃんは距離感を間違えてくる』
体育祭まであと1週間。
放課後の体育館には、準備をする生徒たちの声が響いていた。
風間君は実行委員に選ばれ、装飾担当として大忙し。
脚立にのって横断幕を貼っていると——
「お〜い、風間君〜。落ちたら危ないゾ〜」
下からしんのすけが覗き込んでいた。
「わっ……しんちゃん……近い……」
「ん?風間君が上から落ちてきても、オレが受け止めるゾ」
「受け止められるわけないでしょ!!」
顔が赤くなる。
でも、その言葉が妙に嬉しい。
しんのすけは脚立の横に立ち、
風間君の足もとを見上げながら言った。
「よし、風間君。降りるときは手貸すから言ってね〜
転んだら“風間君の大事な顔”が傷つくと困るから」
「……大事……?」
風間君の手が止まる。
しんのすけは当たり前みたいに言う。
「うん。風間君の顔好きだゾ?」
「なっっ……!?こんな体育館で言う!?
今みんな働いてるんだよ!!?」
「だからいいの。気づかれないし〜」
(いや、こっちは気づくんだよ……!!)
風間君は胸を押さえながら横断幕を貼り終えた。
✦そして別の準備場所。
競技用の道具倉庫では、タイヤ引きのロープを整理していた。
風間君はロープをまとめているが——
しんのすけは、黙ってその背中を眺めていた。
(……集中してる時の風間君、めっちゃ好きなんだよな〜)
気づくと背後に回り、
ひょいっと風間君を後ろから抱え込むような形で覗き込む。
「わっ!?し、しんちゃん!?何してるの!」
「ロープの結び方見てる〜」
「近ッ!!もっと後ろから見なよ!!」
「え〜?風間君の匂い近くで嗅ぎたいゾ?」
「嗅がないで!!!」
風間君の耳まで真っ赤。
ロープを落としそうになる。
しんのすけは、そんな風間君の反応が面白くてたまらない。
「風間君、体育祭たのしみ〜?」
「う、うん……まぁ……」
「オレはもっと楽しみだゾ」
「なんで?」
「だって……風間君の応援するから」
「っ……!!」
風間君はロープを持ったまま固まる。
しんのすけはにこっと笑って、
風間君の肩を軽くポンと叩いた。
「リレー走るんでしょ?
風間君が走るなら、全力で応援しなきゃな〜」
「……そんなこと言われたら……
意識しちゃうじゃん……」
しんのすけは小声のその言葉をしっかり拾う。
「意識していいゾ?」
「だっ……誰が……!!」
照れながらロープを投げるように渡してくる風間君。
でも耳は真っ赤。
✦準備の終盤。
体育館の窓を閉めようとしていたとき——
風間君がバランスを崩した。
「わっ——」
ガシッ。
倒れそうになった風間君を
しんのすけが後ろから抱き止める。
「おっと〜。危なかったゾ〜」
「……っ……し、心臓止まるかと思った……」
「止まったら困るから助けたんだゾ?
風間君は、オレがずっと守るゾ」
「しんちゃん……」
(言い方、やめて……心が持たない……)
風間君は、しんのすけの腕の中でもがくように顔をそむけた。
「……体育祭、ちゃんと頑張ってよね」
小声で言うと、
「うん。風間君のためにね〜」
即答。
「違……!違う!!クラスのために!!」
「クラスより風間君〜」
「やめて!!!」
その声が体育館に響いて、
準備作業中の何人かが笑い合っていた。
——体育祭はまだ始まってすらいないのに、
ふたりの距離はもう走り始めていた。