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✦『体育祭の告白』
◆1 リレーのスタート
体育祭当日。
空は晴れて、校庭には応援の声が響いていた。
風間君はクラス代表のリレー選手。
あの真面目な性格だから、緊張して顔がこわばっている。
「風間君〜!がんばるゾ〜!!」
しんちゃんの声だけが、いつもより届きすぎる。
「もう……聞こえてるよ……
なんであんな大声なの……恥ずかしい……」
でも、耳の先が赤い。
スタートの合図。
風間君は走る。
速い。
けれど最後の直線で——
膝がぐらっ。
「えっ……!」
しんちゃんがフェンスから身を乗り出した。
「風間君!!」
必死にバトンを渡すが、呼吸が乱れてその場にしゃがみ込む。
「だ、大丈夫……すぐ治る……から……」
「治んない顔してるゾ!」
しんちゃんは誰よりも早く駆け寄り、
風間君の背中に手を当てる。
「ほら、呼吸ゆっくり……
オレがいるから。落ち着け〜」
その声で風間君の肩の震えが止まる。
「……なんで……そんな優しいの……」
「君だからだゾ」
顔を向けられず、風間君はますます赤くなった。
◆2 借り物競争の“お題”
そして次の競技は——
しんちゃんの借り物競争。
お題カードを引くと、
しんちゃんは目を丸くした。
“好きな人”
(……決まりだゾ)
迷わず、風間君の方へ一直線。
「か、風間君〜〜!!」
「は!?なんで僕!!?」
腕を掴まれ、そのまま連行される風間君。
「お題、お題〜!」
「ど、どんなお題!?言いなさい!!」
「ゴールで言うゾ〜♪」
ゴールに着くと、
しんちゃんは堂々と掲げた。
「オレの“好きな人”〜!!」
観客「えっ」「キャー!!」
風間君「ちょっ……しんちゃん!!やめて!!」
顔どころか首まで真っ赤。
「風間君、走ったのがんばったご褒美だゾ!」
「ご褒美になってない!!」
(……けど、でも……
本気で嫌じゃない……。むしろ……)
自分の中に生まれた気持ちに気づいてしまい、
風間君は胸を押さえた。
◆3 限界の風間君
競技が終わったあと。
風間君は物陰でしゃがみ込み、顔を覆っていた。
(無理……恥ずかしすぎる……
僕、絶対冷静じゃいられない……)
すると横からひょっこり顔を出すしんちゃん。
「風間君、大丈夫か〜?」
「大丈夫じゃない!!
……なんなの今日……!なんでそんな……」
「風間君のこと好きだから〜」
「……っ!!」
風間君の心臓の音が破裂しそうになる。
「……ほんとに……やめて……
冗談じゃなかったら……困る……」
「冗談じゃないゾ?」
「っ……!!!」
顔を手で覆ったまま、震える風間君。
もう限界だ。
しんちゃんはそんな風間君の手をそっと取る。
「ちょっと来てほしいトコあるんだゾ」
風間君は抵抗せず、
引かれるままに校舎のほうへ歩いた。
◆4 告白(体育館裏トイレにて)
連れてこられたのは——
人のいない古い校舎のトイレ。
「しんちゃん……なんで、ここ……?」
「誰にも見られないほうがいいからだゾ」
しんちゃんは真正面から風間君を見つめる。
「今日、風間君見てて思った。
オレ……ちゃんと言わなきゃって」
風間君の呼吸が浅くなる。
「風間君」
しんちゃんは一歩近づく。
「オレ、風間君が好きだゾ」
風間君の目が大きく開く。
「たぶん……前から、ずっと。
幼稚園のときから。
気づいたら風間君ばっか見てたゾ」
「……なんで……今、言うの……?」
「言わないと、誰かに取られそうで怖いからだゾ」
心臓が跳ねた。
風間君は俯いたまま、
かすれる声で言う。
「……今日……僕も変だったよね……
しんちゃんの声……全部届いて……
走ってる時も……ゴールしてからも……
ずっと……しんちゃんのこと考えて……
……もう……だめかと思った……」
「風間君?」
「……僕も……」
顔を上げた風間君の目は、涙がにじんでいた。
「……僕も……しんちゃんが……好き……」
その一言で、
しんちゃんは息を呑む。
次の瞬間、
そっと風間君の手を握った。
「じゃあ……これからは手、離さないゾ」
「……うん……離さないで……」
二人の指が絡む。
体育祭の喧騒から離れた静かなトイレで、
やっとお互いの気持ちが重なった。
◆5 体育祭後、ふたりだけの帰り道
夕方。
全ての競技が終わり、学校がゆっくりと落ち着いていく。
しんちゃんと風間君は
帰り道の坂を並んで歩いていた。
手は、自然とつながったまま。
「……しんちゃん」
「ん〜?」
「今日の告白……
忘れたりしないよね……?」
「するわけないゾ。
風間君は……オレの“好きな人”なんだから」
風間君は恥ずかしくて俯くけど、
手は絶対に離さない。
「……来年の体育祭もさ……
隣にいてよね……」
「うん、もちろんだゾ」
空はオレンジ。
風間君の横顔は泣きそうで、でも笑っていた。
そして——
しんちゃんはほんの少しだけ、
風間君の手を強く握った。
「これからよろしくな、風間君」
「……うん。よろしく……しんちゃん」
ふたりの体育祭は、
誰よりも特別な一日になった。