テラーノベル
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それから、一ヶ月が経った。
季節は梅雨。といえども、今年は雨の日が少なく、蒸し暑い日が続いている。
私は壱月と手を繋ぐ花斗の反対の手を繋いで、実家までの道のりを歩いていた。
「セミーセミーうるさいぞー♪」
緑の多い近所の公園を抜け、そんな自作の歌を歌う花斗の隣。壱月は黙ったまま、視線をキョロキョロさせながら歩いていた。
「いたいっ!」
突然、花斗が声をあげる。
「はっ……ごめん」
「いつきーっ!」
慌てて花斗の手を離した壱月は、「はぁ」とため息をもらした。
「ママ、ばしょ、かわって」
「え?」
「いつき、おててぎゅーってした。いたかった」
ああ、そういう事か、と私は納得し、壱月と花斗の間に入って花斗と手を繋いだ。
壱月からは、ただならぬ緊張のオーラが漂っている。
私も、父にはあの日以来会っていないから、心臓がバクバクしている。けれどそれ以上に、壱月は緊張しているはずだ。
なぜなら、数日前のこと──。
その日、私は夕方になり、テレビをつけた。壱月と暮らしはじめてから見始めた、毎週末恒例のヒーローアニメを花斗と見ようと思ったのだ。
だが、映ったのはワイドショーだった。
『ショットガンマリッジって言うんですね』
どうやら授かり婚のことを、英語ではそう言うらしい。番組では、続けてその理由を解説する。
なんでも、娘を妊娠させた男に、娘の父親が拳銃を突き付けて結婚を迫ったことが起源らしい。
思わず見入ってしまうと、「はやく、チャンネルかえて」と花斗の声がする。
それと同時に、玄関からガタンという音が聞こえた。
『いつき、おかえり! はじまるよ!』
だが、リビングに入ってきた壱月の顔は青白い。そして、そんな真っ青な顔で呟いたのだ。
『ショットガン……マリッジ…………』
――あの日のことを思い出し、私はまだ青ざめている壱月に声をかける。
「流石に拳銃を突き出すなんて物騒なことはないから、大丈夫だよ」
なんて、おどけて言っても効果なし。
口に酸っぱいものでも入っているみたいな顔をした壱月は、やがて実家の玄関の前に着くと大きく息を吸い込んで、それからゆっくり吐き出した。
それがおもしろかったのか、隣で花斗が壱月の真似をする。
その間にチャイムを鳴らすと、壱月があわあわ慌てだす。
すると、真似して花斗も踊りだす。
「まだ、心の準備が!」
「あ、ごめん」
そんな会話をしていると、扉がゆっくりと開いた。
「いらっしゃい、花斗くん」
玄関を開けた母はその場でしゃがみ込むと、花斗の頭を撫でる。
花斗はくすぐったそうに目を細めると「きょうも、ひこうきあるよ」と得意気に言った。
「愛音も壱月くんもいらっしゃい、さあどうぞ」
穏やかな母の様子に、壱月は肩の力が幾分抜けたらしい。優しい顔をして、ほうと息をつく。
母に促され玄関を入っていく花斗の後を追いかけ中に入る。すると、後ろから壱月がおろおろしながら足を踏み入れる。
懐かしい雰囲気に少し戸惑っていると、花斗はさっさと靴を脱ぎ捨て、リュックを下ろして飛行機のおもちゃを取り出した。
「ほら、あった!」
「本当だねえ、飛行機だねえ」
母の相づちは優しく、花斗も笑顔になる。
しかし、その後ろで壱月はスーハーと短く深呼吸を繰り返していた。
「壱月くん、そんなに緊張しないでね。ほら、あなたたちも入って」
言われて靴を脱ぐ。それから花斗の靴も揃えいると、不意に壱月と視線がかち合った。
見慣れない、ガチガチに緊張した面持ちの壱月に思わずふっと笑ってしまう。
壱月も困惑しながらも笑みを返してくれた。
コメント
1件
壱月の緊張が手に取るように伝わってきて、こっちまでドキドキしました…!「ショットガン・マリッジ」という言葉に壱月が青ざめたシーン、重い過去を感じさせて切なかったです。花斗の無邪気さがいい緩和剤になってて、母の優しさにほっとしました。次、どうなるんだろう…