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優美な星が見えてきた
《兵舎:司令室》
「それじゃあまずはそちらの状況を聞かせてもらいましょうかね」
アウリスが問いかける
「それじゃあ、まずは世界情勢から話そうか」
司令官が口を開く
「まずこの第一セーフハウスの位置だな、ここはスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、そしてドイツの陸海空軍がこの施設に関わっている」
「北欧三か国にドイツですか?」
アウリスが聞き返す
「あぁそうだ」
司令官は短く答えた
そして一拍
「とは言えフィンランドはハブを除いて壊滅している」
司令官は淡々と続ける
「アメリカに匹敵していたドイツもベルリンで防衛線を築いている」
少し間が空く
「……しかし潰されるのも時間の問題だろう」
「そこまでひっ迫してるんですか…」
アウリスが呟く
「だが、ひっ迫しているは間違っている」
「はい?」
「守っていた国境が消えた、ヨーロッパでは東欧諸国は壊滅、ドイツもベルリンまで押されている、だがEUも黙っているだけじゃなかった」
司令官は机の上にあるヨーロッパの地図に目を落とす
「EUは現在13のセーフハウスを中心に生存圏を維持している。敵のヘイトをセーフハウスに集めてな」
「ヘイトを集める?」
シュバルツァーが聞き返す
「そうだ、ヘイト…セーフハウスに避難民が集まるだろ?奴らは人を喰らう、数が多いところにやってくる、すぐ近くのな」
「なるほど」
「セーフハウスがあるからこそ、西ヨーロッパは奴らの脅威を知らずにのんびりとコーヒーを飲んでやがるんだ」
司令官は悪態をつく
「すまない、言い方が悪かったな」
「それは別にいいんです」
アウリスが言う
「セーフハウスか…現在と言ったことを見るに…前までは多かったんですよね?」
シュバルツァーが問う
「……そうだ、一番多かった15年前だと37のセーフハウスがあった」
「だが、今年の進行によって一気に東欧側の20個以上が崩壊した……軍属以外逃げれずにな」
司令官が答えた
「司令官さんよ…そんな事があるのか?」
シュバルツァーが聞き返す
「あったからこそ言ってるんだろう?ここで嘘をつくほどバカじゃない」
司令官はそう言いながら資料の飛行型の写真を指す
「こいつが今年出てきたことによって、全てが崩壊した。前線のセーフハウスはせいぜい対地しかできなかったからな」
「なるほど…と言うか、ここに来たときから聞きたかったんだが…奴らとか言ってるが正式名称はあるだろ?」
シュバルツァーが聞いてくる
「あぁわかった」
司令官が新しい資料を渡してくる
「N.E.C.R.O.我々はそう呼んである」
「ネクロ?」
アウリスが聞き返す
「正式名称は…」
司令官は資料に目を落とす
「Non-human Evolutionary Contagious Re-Organisms」
一拍
「非人類型・進化性感染再構築生物だ」
シュバルツァーが資料を覗き込む
「ずいぶんと大層な名前だな」
「最初はただの分類だった」
司令官は淡々と答えた
「奴らが蔓延し始めた場所から話そうか」
司令官は資料をめくる
「最初の被害者はモンゴルだった」
「モンゴル?」
アウリスが聞き返す
「そうだモンゴル全域に広がるまで、他国は知ることができなかった」
「そんな話があるわけないだろ」
シュバルツァーが吐き捨てる
「1日でモンゴル全域がネクロの巣になった、その日はモンゴル国境部の中華民国、ロシア共々、異常な電波の異常を発見した、だがそんな事が上に報告される訳がなかった」
「報告がされない?」
シュバルツァーが聞き返す
「そうだ、あそこは2038年でも上の頭は硬かったからな…」
「そうか…」
「モンゴルからの通信がなくなってから9日後にシベリアのほとんどからの通信がなくなった。
これはロシア上層部の耳に入り、偵察機も、偵察衛星も使った、その写真がこれだ」
指された写真を見ると赤いなにかが白い大地を汚しながら列をなしている
「これがネクロ?」
司令官は沈黙する
「……そうだ、これがネクロだ。コイツらは賢くて、人間が生み出した橋を、道路を歩いていたんだ。そしてこの偵察から1時間後、オムスクで会敵した」
「………」
「オムスクで会敵したロシア兵達は最後の通信で、数が多すぎる、ここももうだめだ…とな。
頭を潰さないと倒れなかったからまともな抵抗もできなかった、それでもウラル山脈で1年は耐えたんだ、たった1年だがな」
司令官は少し黙る
「お茶をだそうか…」
その言葉に、誰もすぐには返事をしなかった。
アウリスが司令官を見る。
先ほどまで淡々と資料を読み上げていたその顔には、ほんの僅かに疲労が滲んでいた。
「……お願いします」
アウリスが静かに答える。
司令官は小さく頷いた。
「そうか」
司令官は立ち上がり、部屋の隅にあるティーポットへ向かう
「ここから先は長いからな…茶菓子でも食べながら聞いてくれ、ウラルが陥落した後の話だ」
そう言いながらテーブルにティーセットを持ってくる
そしてティーポットから白い湯気をたてて紅茶がそれぞれのカップに注がれる
紅茶の落ち着く香りが部屋を包んだ
「茶菓子はなにがいい、と聞きたいとこだが…あいにくタルトしかないからな、許してくれ」
そう言いながら、人数分のカップを並べていく
「熱いから気をつけてくれ」
そう言われたものの、カップから伝わる熱は、火傷するほどではない
ただ、冷え切ったこの部屋で飲むには、ちょうどいい温度だった
アウリスはカップを持ち、紅茶の香りを楽しんだ後、口をつけた
「香りも良いし、味も良い」
だがさっきまで聞かされていたのは、国が消え、人が消え、軍隊が一年かけて食い止めたものの、それすら崩れたという話。
それなのに今、自分の目の前には湯気の立つ紅茶がある。
「……不思議ですね」
アウリスが呟く
「何がだ?」
「こういう状況なのに……ちゃんと温かいものが出てくる」
全員はカップを見る
そして司令官は少しだけ目を細め答える
「だから出したんだ」
「……?」
「冷たい話ばかりじゃ、聞く方も持たん」
そう言って、司令官は自分の紅茶に口をつける
「熱っ」
「少し熱かったな…」
司令官はそれを取り繕うように咳払いをして
「さて…」
一拍
「ウラルが落ちた後の話をしようか」
「お願いします」
シュバルツァーはタルトに手を伸ばしながら言う
「ウラルが陥落した後、EUはベルリンを最終防衛ラインとして設定した」
司令官は卓上のヨーロッパの地図をなぞる
「ここは建造順だと四つ目だが第一と名乗っている」
「四つ目?」
シュバルツァーが2個目のタルトを口に運びながら聞き返す
「最初のセーフハウスはベルリンだ、そして二つ目がポーランド、三つ目がイタリアだ、」
「そして」
司令官の指がノルウェーとスウェーデンの国境に移る
「ここが目をつけられた」
司令官は淡々と、時折紅茶を嗜みながら話をしていく
「目をつけられた?」
アウリスが問う
「そうだ、ここは重装機械歩兵も、レールガンも単段式宇宙往還機もある、軍事研究で最先端だった。だからこそだな」
「軍事研究の最先端と言うことか」
アウリスが頷く
「最先端だからこそ、アークは第Ⅰを名乗っているんだ」
司令官は資料をめくる
「ウラルが落ちた後の数年はネクロが攻めてくることがなかった」
「山脈か…」
「そうだ、山脈によって数年も来なかった、そのおかげで東欧にセーフハウスを建造できたんだ」
「そして、今年まで耐えていた。飛行型の出現でそれも崩れたがな」
「ところで…聞きたかったんだが…」
シュバルツァーは地図から視線を外し、司令官を見た
「重装機械歩兵と言うのはなんなんだ?」
「私も気になってました」
アウリスも顔を上げた
「そうか」
司令官は少しだけ笑った
「やはり聞いてくるか…」
「そりゃ、面白そうなものですからね」
シュバルツァーは笑いながら返す
「俺としては単段式宇宙往還機だがな」
アウリスはタルトに手を伸ばしながら言った
「ところで…タルトは美味いか?」
司令官が紅茶を嗜みながら聞いてくる
「えぇ、サクサクのタルト生地にチョコの定番の組み合わせ、紅茶とよく合います」
アウリスが二つ目のタルトに手を伸ばした
「気に入ってくれたようで何よりだ」
司令官はクイッと紅茶を飲み干し
「それじゃあ見に行くか?、私の権限だと重装機械歩兵しか見せれないが」
「もちろん!」
シュバルツァーは目を輝かせて答えた
司令官とアウリスは目を合わせて、苦笑した
「それじゃ第三格納庫に行こうか」
司令官はそう言いながら席を立つ
二人も紅茶を飲み干し、席を立った。
シュバルツァーはタルトを口に詰め込んで慌てて二人の後を追った
コメント
1件
読み終わりました。第6話、重厚な世界観設定がじわじわ効いてきますね。特に司令官が紅茶を淹れながら現状を淡々と説明する場面、あの「冷たい内容と温かい湯気」の対比がすごく印象的でした。「冷たい話ばかりじゃ、聞く方も持たん」という台詞、人間臭くて好きです。N.E.C.R.O.の正式名称も、設定の重みを感じさせるネーミングでした。最後に「重装機械歩兵を見に行く」で締める流れ、次への期待が高まります。
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