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9
地下室の扉は、廊下の突き当たりにあった。
古びた木製の扉。
その上から、何重もの鉄鎖。
錆びた南京錠。
まるで“開けられないように”ではなく、“出てこないように”封じているみたいだった。
ヒロトの猫耳がぺたりと伏せる。
「……なに、あれ」
モトキも表情を消していた。
狼の本能が警告している。
危険だ、と。
地下から、微かな音が響く。
……ガリ。
何かを引っ掻くような音。
涼架の顔から血の気が引いていた。
「……ありえない」
掠れた声。
「ここは、ただの避難小屋だったはずなのに……」
モトキが涼架を見る。
「涼ちゃん、知ってるの?」
涼架はゆっくり頷いた。
「…この家、昔は施設の関係者が使ってた…」
ヒロトが息を呑む。
「逃亡用の拠点の一つ」
「じゃあ……」
「うん」
涼架の目が暗く沈む。
ドン
また音がした。
今度は少し強い。
鎖が、かちゃりと揺れる。
ヒロトが反射的に後退る。
「っ……!」
モトキはゆっくり前へ出た。
鼻を働かす。
臭いを探る。
そして。
顔をしかめた。
「……血の臭い」
涼架の背筋が凍る。
古くてかすれた鉄の匂い。
でも確かに残っている。
「涼ちゃん」
モトキの声が低くなる。
「これ、中にいる」
ヒロトの呼吸が止まりそうになる。
「う、そ……」
すると。
地下から、微かに声がした。
『……あ……』
全員が硬直する。
人の声。
若いけど。
掠れている。
『……だれ……』
ヒロトが震えた。
モトキも目を見開く。
だが。
涼架だけが動けなかった。
その声を知っている。
忘れるわけがない。
十六歳の頃。
モニター越しに、毎日聞いていた声。
『いたい』
『ころして』
『もうやだ』
涼架の唇が震える。
「……零号体」
その瞬間。
地下から、“笑い声”がした。
ぞわり、と空気が粟立つ。
低く。
壊れた笑い声。
『あは』
鎖が鳴る。
ガシャッ!!
ヒロトが悲鳴を呑み込む。
扉が、内側から歪んだ。
ありえない力。
モトキが即座に前へ出る。
「ヒロト、下がって!」
狼耳が逆立つ。
爪が伸びる。
涼架は青ざめたまま呟く。
「ダメだ……」
「涼ちゃん!」
「逃げなきゃ」
その声は、本気で怯えていた。
「アレは、モトキ達と違う……!」
ガンッ!!
再び衝撃。
南京錠に亀裂が入る。
ヒロトが震える声を漏らす。
「な、なんで生きて……」
涼架は掠れた声で答えた。
「……生かされてたんだ」
研究のために。
観察のために。
化け物として。
地下から、また声がする。
『……りょー、か』
涼架の瞳が揺れた。
呼ばれた。
名前を。
十五年前のままの声で。
『りょうかぁ』
鎖が引きちぎられる。
バキンッ!!
鉄が飛んだ。
次の瞬間。
扉が、内側から吹き飛ぶ。
轟音。
埃。
暗闇。
その奥で。
“何か”が立っていた。
人型だった。
痩せ細った裸足の少年。
長い白髪。
異様に白い肌。
そして。
頭には、獣とも違う黒い角のような突起。
腕には無数の傷。
縫合痕。
薬液の痕。
だが。
一番異様なのは目だった。
右目が、真っ赤に光っている。
少年はゆっくり首を傾げた。
骨が鳴る。
ぎし、ぎし、と。
『……みつけた』
その瞬間。
モトキの本能が叫ぶ。
逃げろ、と。
だが遅かった。
零号体が消える。
次の瞬間には。
涼架の目の前にいた。
「っ!!」
誰も反応できなかった。
速すぎる。
零号体は涼架の髪を一束掴む。
そして。
嬉しそうに笑った。
『ずっと、まってた』
コメント
2件
続きがめちゃくちゃ気になります✨ 毎回楽しみにしています✨ ありがとうございます💕
うわ、第6話めっちゃ重かった……💧 地下室の扉、鎖、そして「零号体」——涼架だけが知ってるあの声。呼ばれた瞬間の涼架の揺れ方が切なくて、読んでるこっちも息止まった。 「生かされてたんだ」って台詞、すごく刺さったよ。研究のために閉じ込められてたんだね……。 最後の『みつけた』が、めっちゃゾッとしたけど、同時に涼架への執着を感じて鳥肌立った🖤 続き、めっちゃ気になるよ……