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「よっしゃ! キをとりなおして、すすむぞ!」

『おーっ!』

”ええ……”

”いいんだそれで……”


少し休んで気合十分な一行と、視聴者による困惑のコメントが大量に流れている。

準備も万端で、『雲塊シルキークレイ』の上には蔦によるドームがあり、その中に怖がって丸まっているニオを入れて周囲を固めた守りの布陣。中の様子が見えるように隙間は開けてあるので、ニオからも状況把握は出来るようになっている。

そしてアリエッタは、ミューゼに抱っこされるように蔦で括りつけられていた。


”アリエッタちゃんもドームの中に放り込んだ方がよくね?”

「それだとニオが怖がって暴走するかもしれないもの」

”ホント何でなんだろうな……”

「さぁ?」

”アリエッタちゃん顔真っ赤にしてかーわいー”

(みんなの前ではずかしいよぉ……)


実はミューゼとパフィで少しアリエッタの取り合いになったのだが、近接戦闘がメインのパフィよりも、あまり動かなくても戦力になるミューゼに預ける事になったのである。蔦の管理と周囲の警戒を兼ねて、蔦の上に腰を下ろした。もちろん蔦で自分を固定する事を忘れない。


「うぅ……」

「大丈夫大丈夫、守ってあげるからねー」

「ほにゃ」


恥ずかしがっていても、頭を撫でれば幸せそうに蕩ける。これでアリエッタの事は安心だと、ピアーニャとメレイズとパフィは配置についた。イディアゼッターは見守る為に上に浮かんでいる。


”なんかこれで完璧って顔してるけど、本当にいいのかそれで”

”大丈夫なのかなぁ……”

「なんのモンダイもないな」


視聴者が心配しているのはネフテリアの事である。


「絶対問題あると思うなぁわたくしは! なんでこんな事になってるの!?」


ネフテリアはドームから真上に伸ばした蔦によってはりつけにされていた。蔦でぐるぐるに巻かれていて、全く身動きが取れない。


「今回邪魔なんで、せめて見張りとして役に立ってもらおうかなと思ったんです」

「邪魔って……いや確かに戦えないわたくしは邪魔だけど、だったらニオと一緒にいさせてくれても……」

「だってテリア様はニオと違って暴走はしないですし」

「そーなんだけどね? なんで隠れさせてくれないのかな?」

「すぐにわかる。それじゃあいくぞ。ミューゼオラ、アンナイたのむ」

「はい」


ミューゼは抱っこしたアリエッタと一緒にミニマップを見る係。ポータルの方向を指示し、ピアーニャがその方向へと雲を進ませた。

なお、パフィが怖がって動けなくなると困るので、今回は少し遅めに飛んでいる。迎撃の経験を積むのも兼ねているので、後ろから追いつかれる前提である。


「ひぃっ!」


すぐに頭上からネフテリアの悲鳴が聞こえた。ネフテリアは現在後ろを向いている。という事は、背後から怖い顔の半透明ヴェレストが追いかけてきているという事になる。


「おししょーさま、まだ攻撃しなくていいの?」

「ネフテリアのコエがちいさいだろ? まだとおいってコトだから、コエがおおきくなったらチュウイしろ」

「なるほどわかりました! あ、こっちから2体!」

”王女様の使い方よ……”

”確かに近づけば近づくほど悲鳴もうるさくなるけどさぁ”

「ちょっと待ってわたくしの扱い酷すぎ!」


左右に展開して見張っているパフィとメレイズは、見張りと迎撃を兼ねて臨戦態勢。特にメレイズには倒せなくてもいいからしっかり守れと言い聞かせてある。


「びぃやあああああ上からああああ!!」


いきなり上から目の前に振ってきた怖い顔のヴェレストに、ネフテリアが大絶叫。


後方至近距離テリアさまうるさい! あたしがやります!」

べしっ


ミューゼは後ろを振り向き、【縫い蔓ストリングヴァイン】でヴェレストを叩き落す。

ネフテリアの絶叫みはりに手ごたえを感じたピアーニャは、安心してポータルの方向へと飛ばすのだった。


「やだあああわたくしもニオと一緒に閉じ込めてえええええ!!」


こうしてしばらくヴェレストを迎撃しながら飛び続けた。

顔のついた木から枝が伸びてきた時はパフィが切り払い、上から接近してきたヴェレストはミューゼとメレイズが叩き落として振り切り、蔓で捕まえたヴェレストをネフテリアの目の前に差し出した後にポイ捨てしたり、正面に躍り出たヴェレストはピアーニャが粉砕したりと、とにかく勢いで突き進んだのだった。


「えっと、ポータルはここでいいのか?」

「そうみたいですね」


ついにミニマップが示すポータルの場所へとやってきた……のだが、


「コイツのしたになんかみえるな」

”あっホントだ!”

”うへぇまじかよ……”

”これ逃げてたら見つからないやつじゃない!”

「ポータルを守ってるみたいですね」


目の前にあるのは顔のついた巨大な枯れ木。大きさはこれまで道中で見た木の比ではなく、大きな城ほどもある。ポータルはその根元に隠されるようにチラリと見えている。

そんな巨木のヴェレストが、枝を勢いよく伸ばしてきた。


「うおぅ! エダふっといのにはやいな!」


なんなく躱すピアーニャ。どう対処するかと考えを巡らせていると、通り過ぎた枝からミシミシという音が聞こえる。


「総長! 枝に気を付けて! 枝別れしてます!」

「ん?」


ミューゼの声を聞いてそちらを見ると、太い枝の途中に小さな突起が見えた。次の瞬間、そこから細い枝がピアーニャに向かって急激に伸びた。


「させないのよ!」

スパッ


ピアーニャに届く前に、パフィが切り落とす。

すかさずミューゼが杖を当て、魔法を発動。


「【埋種葬パラルシード】! 総長離れて!」

「お、おう!」


慌ててピアーニャは枝から距離をとった。

枝からは緑の蔓が無数に生え、伸びてきた枯れ枝に纏わりついている。


「……なるほど」


枝の動向を見ていたミューゼがポツリと呟いた。


「すまんたすかった。エダはどこからでもはえるのか」

「何もない所から枝が発生するのは時間がかかるけど、発生してしまうと自由自在みたいですね」

「ギリギリでよけるのはキケンだな」

「あと、あの緑になった所から先はもう動かせなさそうですよ。制御を失ったというか……」

”えっ、ミューゼちゃん凄くね?”

”植物相手だと最強かもしれんな”

「そんなことより後ろから大量にいいいいいやああああ!!」

「おっと」


どうせ参戦出来ないからと諦めて周囲を見ていたネフテリアが、再度絶叫した。これまで追いかけてきていたヴェレストが一部追いついてきたのだ。


「テリア様! 火の魔法をあの木に撃っちゃってください! 枯れ木なんでよく燃えそうです!」

「そうかそのテがあったか!」

「縛られてるんですけど!? あっちょっと!」


後方に向かせていたネフテリアを前方に向け、魔法を強要するミューゼとピアーニャ。

半透明の人みたいなヴェレストではなく怖い顔がついただけの木なので、ネフテリアも安心して魔力を操作し始めた。


「アンタらのせいでわたくしの扱いが酷かったのよ!【爆花山ヴォルケインフラワー】!」


完全なる八つ当たりで放った大量の炎の玉は、巨大な枯れ木に全て命中。みるみるうちに燃え広がり、苦しむように木が暴れ出す。


「よし、ズラかるぞ!」

「あーっはっはっは! 思い知ったかしら?」

”やってる事は森に火を放った悪人だな”

”なんで悪い顔がそんなにしっくりくるんですかね、王女様”


暴れる枯れ木に巻き込まれないように距離をとる。周囲のヴェレストも追いかけてくるので、枯れ木の周囲を飛び回る事にした。

後方を見なくなったネフテリアは静かになったのだが、今度は代わりにパフィが絶叫している。というのも、標的がはっきりして遠距離戦に切り替えた為、パフィが戦う必要が無くなったと判断。パフィの体を『雲塊シルキークレイ』で固定して全速力で飛行を始めたのである。


「ひゃあああああああああああ!!」

「ふっふっふ、まだまだ終わらせないわよ。【照準陣スナイプデルタ】」

「なんだそのマホウ」


パフィの絶叫を浴びながら、ネフテリアが怖い顔で魔法を発動。ネフテリアの目の前に三角錐を描く淡い光が現れた。その先端は燃える枯れ木の方に向いている。


「【火の弾ファイアバレット】!」


目の前の三角錐に向かって魔法を放つと、魔法が吸収された。そして頂点が光り、対象に向けた先端がだんだんと輝きを増していく。そして1本の長い炎の弾丸が、回転しながら枯れ木へと飛んで行った。

この魔法はサイロバクラムに行ってアーマメントを見た時に閃いた魔法。放った魔法を圧縮し増幅、そして回転させながら前方へ飛ばすという、超長距離攻撃をするための補助魔法で、単体で使用しても全く意味は無いが、別の魔法と組み合わせる事が出来るのだ。

炎の弾丸は苦しむ枯れ木のヴェレストに深々と突き刺さり、激しい炎を噴き出させた。


「【火の弾ファイアバレット】!【火の弾ファイアバレット】!【火の弾ファイアバレット】!」

「え゛……」


何かが溜まっていたのか、楽しそうに増幅した【火の弾ファイアバレット】を連射するネフテリア。それを見るアリエッタは喜び、ミューゼは「よかったねー」と呑気にアリエッタを撫でている。

巨大なヴェレストはあっけなく炭になり、折れた。根本では何事も無かったかのようにポータルが輝いている。


「さぁ行きましょうか」

「はいっ!」

「お、おう……」


縛られたまま晴れやかな表情になったネフテリアに言われ、メレイズが元気よく返事。ピアーニャは他のヴェレストを振り切るように、ポータルへと向かうのだった。

蔦を解いた時、ニオが涙を流しながら気を失っていた。隣に同じく涙を流しながら倒れているパフィもいる。果たしてヴェレストが怖かったのか、速さが怖かったのか、それともネフテリアが怖かったのかは、怖くて口を閉ざした本人にしか分からない。

からふるシーカーズ

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