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ところ変わってヴェレスアンツ1層、ジルファートレス前。
戦闘訓練を目的とした12人の集団がファナリアからやってきた。
「楽しみだな」
「ああ、強くならねば」
2人の少し豪華な装いの男子が頷き合い、ジルファートレスの扉を開けた。その先には、おびただしい量の血がまき散らされていた。
『んなっ!?』
突然の光景に、2人は硬直。後ろの鎧を着た大人達が慌てて前に出て、警戒する。
「何事だこれは!」
「あっおい! 大丈夫かしっかりしろ! 何があった!」
近くで血を流しながら倒れている人を発見し、抱き起す。
「かっ……」
「か?」
「かわいすぎ、ムリ……がくっ」
「……は?」
全く意味の分からない言葉を発し、その者は気を失った。
男達は周囲を見渡し、さらに首を傾げる。
「どうだ?」
「分かりません。戦闘の痕跡もありません」
「毒か病の類でもなさそうですが……」
魔法で辺りを感知したが、特に異変も感じない。
「どうなさいますか、殿下」
「うむ、慎重に進むぞ」
「調べてみた方がよさそうですね」
2人の男子、サンクエット王子とミデア王子は、事件を調査する事に決めた。
この2人は先日のエルトフェリアの一件で意気投合……というよりは互いを慰め合い、連絡を取り合う仲になっていたのだ。その話を聞いたミデア王女に腐の感情が芽生えたりもしたが、まだ誰にも知られていない。
今回は諦めきれないアリエッタとニオを迎えに行くため、まずは強く頼りがいのある存在になって、振り向いてもらうという作戦を開始。その訓練として各5名の兵士を伴い、ヴェレスアンツへとやってきたのである。
周囲を警戒しながら中央へと進む王子一行。
「こ、これは……」
「なんという……」
中央ホールは、おびただしい血によって染まっていた。しかし、その血の上に立つ人々は、何かに見とれるように中央の影晶板を見ている。
数名倒れているが、誰も気にしていない。
「おいっ、これはどういう状況だ!?」
兵士の1人が近くにいる人に話を聞こうと声をかける。同時に両王子が視線の先を追い、影晶板を見た。
「あ……アリエッタ嬢!?」
「ニオ嬢!?」
映っていたのは、獣の耳と尻尾を生やしたアリエッタとニオが、楽しそうに食事をするシーンであった。
『なんで!?』
12層に辿り着き、周囲を確認した一行は……まず食事にした。
「おいしー♪」
「おいしー!」
“うまそー”
「さすがパフィよね」
というのも、時刻は既に夕方前。11層で時間がかかった事もあり、進みながら軽食しか食べていなかったのである。
長時間外で活動する事が多いシーカーとしてはありがちだが、育ち盛りのアリエッタがいる現状、そのような事はパフィが許さない。ニオの保護者になっているネフテリアも、メレイズを預かっているピアーニャも、同意見だった。
「ピアーニャ、いっぱいたべる。おおきい、なる」
「いや、わちはいいから……」
”よくないでしょ”
”一番育ってないもんな”
「うぅ……あむっ」
アリエッタに甲斐甲斐しく世話をされる師匠を見て、メレイズは頑張って笑いをこらえていた。その横で、ネフテリアが遠慮なく笑っているが。
「沢山食べるのよー。ストックも作っとくのよ」
”ラスィーテ人はずりぃなぁ”
”もうやりたい放題だな”
「後でグレッデュセントが泣きそうですね」
「そうなのよ? だったら全力でやってやるのよ」
”ひでぇ”
「こんな険しい道作っといて、謝られに現れない方が悪いのよ」
「言ってる事もやってる事もおかしいと思うけど、確かに来てくれたらそれだけで終わるものね」
話をしながらパフィはさらに料理を量産していく。そのたびに緑色の地面がえぐれ、橙色の岩が削れ、金色の雲が無くなる。そして出来上がった料理が積みあがっていく。
「あれ絶対、ここまであんまり活躍してなかったせいもあると思う」
「たしかに……」
「ほっといてなのよ。どうせ食材は無限にあるのよ。こんなリージョン作った神様なんか困らせてやればいいのよ」
”これが神殺しというやつか”
”いや神泣かせでしょ、このメンバー”
「ははは……」
困った顔で笑いながら、イディアゼッターは積まれた料理を亜空間に入れていく。
気づけば12層入り口付近の地形はボコボコになっていた。
”本当にここはラスィーテを元にした層じゃないのか?”
”まさか他にも食材リージョンがあるなんてね”
「私もビックリなのよ。知らない食材も多いのよ」
12層はほぼ全てが食材で構成された層。到着した時はパフィが真っ先にラスィーテだと叫んだのだが、すぐに違うと訂正した。イディアゼッターからも、ラスィーテのように全てが食材ではないと教えられた。
「よく見ると分かるのよ。あっちの木になってるのはフライ返しで、そっちにはフライパンが沢山生えてるのよ」
「えっ、器具まで自生してるの?」
「どーゆーリージョンだ……」
ラスィーテには調理器具や食器が自然に生えるという事は無い為、パフィにはすぐに分かったという。
”このリージョンめっちゃ探したい”
”おもしろそう”
「わちもきになる」
妙な生態系の為、さっそく人気上昇する元となったリージョン。ラスィーテやクリエルテスのように、生活に直結しやすいリージョンは好かれやすいのだ。
「うーん、せっかくだから、このソウみていくか?」
「さんせーい!」
「その間にそこら中料理してやるのよ」
(パフィったら本気でグレースさんに嫌がらせする気ねぇ。まぁアリエッタちゃんを危険に晒してるし、仕方ないか)
いくらイディアゼッターがいて安全とはいえ、やはりアリエッタを怖がらせるのは容認できないパフィ。これまでは大人しかったが、自分の手で事態を変えられる可能性があるなら、動くしかない。
夜も近くなっている為、本日は12層で終わりとなる。そこで辺りを飛んで見回るピアーニャとネフテリアについて回り、そこら中調理し始めた。
「おらおらおらおらぁ~なのよ!」
「うわぁ……」
勢いよく調理するパフィの姿に、ネフテリアが引いている。
地面を練って巨大パンにしたと思ったら、木をすりおろし、肉の岩をこねて、おろしハンバーグセットを仕上げた。さらに空に浮かんでいる雲の中からフルーツを採取、その辺りに咲いている蜜入りのグラスに入れ、雲自体をクリームのようにトッピングしたフルーツポンチを作成。
食材と食器さえあれば、この手の作業はラスィーテ人にとっては一瞬で終わる作業である。今のパフィによって食材でしかなかったものは残らず刈り取られ、通り過ぎた後には美味しそうな料理しか残らない。
「……放置するんだ。まぁ食べきれないけど」
グレッデュセントの話によれば、戦闘によって破壊された地形を修復するのはグレッデュセントの役割。つまり、遅かれ早かれ修復と料理の処理の為にこの場所へとやってくるのだ。
今すぐに来るかは不明だが、どちらにしても随分な嫌がらせである。
「ん? あれがヴェレストか?」
「……サンドイッチが反復横跳びしながらこっちにくるね」
12層のヴェレストは食べ物の形状だった。一度の量は多くはないが、奇妙でしかない。その形状から何をするかの予想もしづらい。
”面白いけど真剣に考えようとすると頭おかしくなりそう”
”サンドイッチとの命を懸けた戦いが今始まる”
”やめて!”
初めて見る層。食べ物だらけの風景。1人のラスィーテ人による料理無双。神を神とも思わない所業。そして信じられないヴェレストの姿。濃過ぎるライブ内容に、視聴者は楽しそうである。
「だったらこっちはハンバーガーで対抗なのよ!」
「へ?」
パフィは地面を一瞬で練り上げ、丸いパンにした。それを上下に切り分け、『雲塊』ごとピアーニャとネフテリアを挟んだ。
ぼふっ
『ぅおえっ!?』
「【魔法の雲バーガー】おまちどうなのよ!」
「ちょっおおおおい!」
完成と共にパフィはバーガーの上に立つ。
その時サンドイッチが大きく飛びあがり、回転しながら落下してきた。バーガーから顔だけ出したピアーニャが『雲塊』を操作して回避。地面を抉りながら着地し、挟んである野菜のはみ出した部分を振ってアピールするサンドイッチと対峙する。
その時、パフィが焦りを含んだ声で呟いた。
「あ、あれは、ベーコンとサラダのサンドイッチ……なのよ」
「どーでもいいわっ!」
「強敵が現れたみたいな顔で何言ってるの!?」
”ラスィーテ人にとってはシリアスな場面なのかね?”
”さぁ……”
”あんなヴェレストがいるのか。気をつけろよパフィちゃん!”
”ここにもラスィーテ人いやがった!”
”何が凄いのか説明してくれよ!”
ラスィーテ人にしか理解できない感性が渦巻く中、三角形のサンドイッチはクルクルと回転し始めた。そのまま横倒しになり、空中を滑るように移動してバーガーへと襲い掛かった。
「ちっ、トッシンか」
つまらなそうに回避するピアーニャ。しかしパフィがナイフを縦に構えながら焦りの声をあげた。
「離れるのよ!」
「!?」
慌てて回避速度を上げ、大きく飛び退いた。が、
ギィンッ
「うおっ!」
ちゃんと離れているにも関わらず、金属音と衝撃が『雲塊』を襲った。
そしてパンズの破片が飛んでいくのを、ネフテリアは見た。
「パフィ!」
パンズから顔だけしたまま、パフィの名前を呼ぶネフテリア。上から「大丈夫なのよ」という声が聞こえ、一安心する。
「なにがあった?」
”バーガーはちゃんと離れてた筈なのに”
「カリカリベーコンなのよ」
「は?」
「カリカリベーコンがはみ出していたのよ」
『………………』
聞き返しても意味が分からないピアーニャとネフテリア、そして視聴者達。
サンドイッチが高速回転した時に、かるく焦がして固くなった薄いベーコンがはみ出し、それがパンズを斬り飛ばした。直後パフィのナイフによって弾かれたのだが、見ていてもそれを理解できた視聴者は少ない。
”さすがベーコンサラダサンドイッチ。恐ろしい事しやがる”
”頼むからラスィーテ人だけしか理解出来ない戦いしないで!?”
「未踏の12層のヴェレストだけあって、強敵なのよ」
「う、うん。そうだね……」
この層を突破する為に、ラスィーテ人は必須なのではと思い始めるネフテリアであった。