青葉は車で帰りながら、
「木南さん、今日はありがとうございました」
と見送ってくれたあかりを思い出していた。
玄関のライトの下、微笑むあかりと日向に手を振られると、何故だか、ちょっと泣きそうになる。
だが、気になることもあった。
なんで、大吾が『大吾さん』で、俺は『木南さん』なんだっ。
そして、来斗がカンナとふたりきりだったってことは、店長あかりと大吾もふたりきりだったんじゃないかっ。
帰ったあと、気になって、あかりではなく、大吾に連絡してみたが。
『おかけになった番号は現在使われておりません』になっていて。
そういや、あいつと何年も個人的には連絡とってないなと気がついた。
親戚の集いなどにはいるので、なんとなく連絡とっている気になっていたが――。
そもそも、なんでアパートの下で工事してたら、一緒に食事しようって話になるんだ、ナンパか!?
……いや、大吾は、ナンパとかするタイプじゃないな。
なにか気になる、と思ったが。
あんまり、ゆっくり考えられなかったのは。
さっきの光景がいつまでも頭に張り付いていたからだ。
玄関の光の下で、手を振り自分を見送るあかりと日向の姿が――。
なにかもう疲れたので、あかりはその日、実家に泊まった。
寿々花さんにバレませんように、と思いながら。
そこここに寿々花さんの密偵とかいそうな気がするからな。
知り合いが貸してくれていたフィンランドの家の。
窓際に置いた小さなテーブルで、青葉と二人。
ランプの光に照らされて向かい合い、食事をしている夢を見た。
たった一週間のできごとだったんだよな。
それがこんなに人生を変えてしまうなんて。
日向が生まれたからとか言うんじゃなくて。
きっと、子どもができてなくても。
青葉さんがすべてを忘れてしまっても。
私は、あの一週間を一生忘れない――。
夢の中でそう思ったとき、窓の外にもう一人の青葉がいた。
スーツ姿だが、暑いのか、上着は脱いでシャツの袖をめくり。
孔子が狂喜しそうな腕の筋肉を出してこちらを覗く。
窓を開けて、そのもう一人の青葉―― 大吾が言った。
「一週間だったからよかったんだろ、きっと。
長く一緒にいたら飽きてたさ。
いい思い出もだけど、悪い思い出も積み重なっていくもんだからな。
俺とだったら心配いらないぞ。
そもそも、そんなに家にいないと思うから」
それもどうなんですかねーと思いながら、目を覚ました。
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