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「おばあちゃーん、美園さん、帰ってきたよー」


壱花は村に戻りながら、庭の水道で大根を洗っていた千代子に手を振る。


「千代子さん、久しぶりー。

いやあ、息子のところの子どもがインフルエンザでねー」

と適当なことを言いながら、美園は千代子と話していた。


千代子は嬉しそうだ。

それを見ながら冨樫が側で言ってきた。


「本当にお前のおばあさんは気づいていないのかな?

彼らがあやかしであることに」


「さあ、わかんないですけど。

楽しそうだから別にいいんじゃないですか?


……っていうか、あれっ?

社長は?」

と壱花は周りを見回した。


美園と話しながら戻ってきたので、よくわからないが。

七郎さんの家の辺りまではいたはずだが、と思いながら。




「七郎さんに接着剤借りて、美園さんの本体を引っ付けてきたのに決まってるだろ」


帰りの新幹線で倫太郎が言う。


「千代子さんと話してる途中で、美園さんが突然、パカッと割れたら困るだろうが」


ホラーですよね、それ……。


「ところで、社長。

今日の新幹線とか結構遅い時間なんですけど。


この移動中に、駄菓子屋に飛んだらどうなるんですか?」


壱花と倫太郎は沈黙する。


「……朝、誰もいない新幹線の中に戻ることになるかな」


早く此処から出なければっ、と二人は新幹線の中で急いでも仕方ないのに、鞄を抱き、まだ着かないかと腰を浮かした。




「そういえば、開いてないときの駄菓子屋ってどうなってるんですかね?」


私たちがいないとき、と無事、新幹線を降りたところで、壱花は言ってみた。


「そうだな、ちょっと気になるな」

と倫太郎が言い、三人で駄菓子屋のある場所までタクシーで行ってみた。


「まあ、そもそもたどり着けないかも」

と笑って言っていたのだが、出張で疲れていたのか、岡山あやかし探しの旅で疲れていたのか、あっさり駄菓子屋にたどり着いた。


灯りが灯っている駄菓子屋を不思議な気持ちで見つめる。


「……俺たちが此処にいるのに、誰が駄菓子屋やってんだ?」


「オーナーのおばあさんですかね?」


「がめついから、二十四時間営業してそうだな」

と言いながら、がらりと戸を開けると、店の中は真っ白になっていた。


埃があちこちに降り積もっているように見える。


「……浦島太郎か?

俺たちは百年経って、此処に戻ってきたのか?」


なんだ、この埃は、と倫太郎が壱花の横で呟いている。


「いや、社長。

百年経ったのなら、コーヒーガムが付喪神として出てきて、見つかるかもしれませんよ」

と壱花が言うと、そこから入らず倫太郎が言ってくる。


「その理論で行くなら、のしイカの付喪神とか、ミニドーナツの付喪神とか、お子様ビールの付喪神とかも出てきて、すごいことになってるはずだろうが」


そのとき、

「あ、おかえりー」

と言いながら、奥から高尾が姿を現した。


「見て見てー。

化け化けちゃんが見たがってるって言ったら、みんながケセランパサラン持ってきてくれたよー」


「多すぎですよ……」

と壱花は入り口に立ったまま苦笑いする。




どれが付喪神様にいただいたケセランパサランかわからなくなってしまった、と思いながら、壱花は店中を飛び回る大量のケセランパサランを眺めていた。


さっきから生活に疲れたサラリーマンが来るたび、

「うわっ」

と驚いては去っていく。


とんだ営業妨害だが、まあ可愛いのは可愛いな……。


明日には山にでも引き取ってもらうか、と思いながら、高尾に今回の事件の顛末てんまつを話した。


「ふうん。

おばあさんのお友だち、元気になってよかったね」

と高尾が言い、その横で冨樫が、


「物理的に強引に……」

と呟く。


「そうだ。

付喪神といえば、さっき奥の方でなにかが付喪神になってたよ」


……付喪神になってたよ!?


壱花たちは奥の座敷を振り向いた。


そちらから、ぼそぼそと誰かが話す声がもれ聞こえてくる。


「ちょうど九十九年だか、百年だか経ったみたいでさ」

と高尾が笑った。


「……コーヒーガムの精ですかね?」

と後ろを窺いつつ言う壱花に、倫太郎が、


「だったら、見つけても腐ってるだろう」

と言い、座敷に続くすりガラスの戸を開ける。


座敷に上がってみると、押入れから声が聞こえていた。


倫太郎が、そっと開けてみる。


声がはっきり聞こえ出した。


「……しとしとと雨の降る丑満時うしみつどき、寺の廊下を歩いていると、誰もいないはずの本堂から、みしりみしりと床を踏みしめ、こちらにやって来る音が……」


押入れの中、行李こうりの上にころんと置かれた一本の蝋燭ろうそくが怪談を語っていた。


高尾が後ろから笑って言ってくる。


「ああそれ、百物語で使った百本目の蝋燭みたい。


一話ずつ火を吹き消しながら語っていくと、百話目で怪異が起こるから、大抵、百話目って、やらないんだよね。


それ、使われなかったことを無念に思う百本目の蝋燭みたいだよ」


「そのとき、仏像の近くに濡れそぼった見知らぬ女が……」

とまだ蝋燭は怪談を語っている。


講談師みたいだ……と思いながら壱花はその怪談の内容に、ついケチをつけてしまう。


「いやそれ、寺に雨宿りに来た女の人なんじゃないんですか?」


倫太郎は、

「どうでもいいだろ、怪談なんて」

と言い、ぴしゃりと押入れの戸を閉める。


だが、やってきた子狸たちが勝手に押入れの戸を開けた。


「ぎゃあああああっと僧侶は悲鳴を上げて……」


その声が聞こえぬように、また倫太郎が閉める。


……もしや、嫌いなのだろうかな、怪談が。

あやかしは平気なのに、と思う壱花の前で、子狸と倫太郎の押入れの戸をめぐる攻防戦が始まった。


「やめんかーっ」

と倫太郎が騒ぐ夜。


あやかし駄菓子屋は今日も通常通り営業中――。



『参 付喪神』完



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