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『春に咲いた嘘」ー響のいる場所ー
優しい光の中で、響は座っていた。
風が静かに吹く、小さな丘の上。
そこには満開の桜の木が立っていて、花びらが舞っていた。
響はその下で、空を見上げていた。
もう、体の痛みもない。
重たかった胸の苦しみも、もう何もない。
ただ、心だけが、どこかに置いてきたものを探している。
ふと、視線を遠くに向ける。
そこに、彼女がいた。
少し大人になって、でも変わらないまっすぐな笑顔をしていた、
隣には、新しい誰かがいる。
優しくて、彼女をちゃんと支えてくれる人。
(よかった)
本当に、心の底から、そう思った。
響は、もう彼女に触れることも、声をかけることもできない。
だけど、彼女が幸せそうに笑っているなら、それだけでいい。
彼女が手を伸ばした時、ふわりと風が吹いて、桜の花びらが彼女の手に触れた。
(ちゃんと届いてる)
響は、微笑んだ。
それは、彼女が知らない、でも確かにあった、ひとつの奇跡だった。
響は、そっと目を閉じた。
あたたかな風に包まれながら、ゆっくりと溶けていく。
愛していた人の未来を、ちゃんと見届けれたこと。それが、彼にとっての救いだった。
もう何も、後悔はなかった。
桜の下。
響は静かに、空へと還っていった。
ーーありがとう。
ーー幸せになって。
最後にもう一度だけ、心の中でそう呟いて。
そして彼は、
光の中へと消えていった。