テラーノベル
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暗い艦内。
照明を落とした作戦室に、
複数の立体投影が浮かび上がっていた。
宙域図。
航路。
連邦軍基地の配置。
その中央を、
赤いラインが静かに走る。
秘匿戦艦《アマノハシダテ》。
その進路だった。
「……やはり、ここを通る」
低い声。
黒い制服の男たちの中、
一歩前に立つ長身の人物。
ロングヘアを後ろで束ねた男——
レイブン。
「連邦は“休息”を選んだ。
だが、航路は限られている」
部下の一人が、
慎重に口を開く。
「例のガンダム……
撃破は可能でしょうか?」
レイブンは、
一瞬だけ目を伏せ、
すぐに首を振った。
「撃破は簡単だ。
だが、それでは意味がない」
投影が切り替わる。
白い機体。
ガンダム・シラヌイ。
「限界値に触れかけた制御反応。
あれは、まだ“途中”だ」
リミッター解除の全貌は、
敵側にも掴めていない。
だが、
“余地”があることだけは、
確信していた。
「未知の兵器ほど、
価値が高い」
さらに投影が切り替わる。
薄暗い独房。
一人の青年が、
壁にもたれて座っている。
——悠人。
部下が言い淀む。
「捕虜の扱いですが……
民間人です」
レイブンは、
映像から目を離さずに言った。
「まだ判断は早い」
そして、
淡々と続ける。
「やつも、
なんらかの方法で
使い道があるかもな」
誰も、
それ以上は何も言わなかった。
⸻
秘匿戦艦《アマノハシダテ》艦橋。
前方スクリーンには、
次の連邦軍基地までの航路が映っている。
残り距離は、
わずかだった。
神崎艦長は、
その数字を見つめ、
低く息を吐いた。
「……あともう少しで、
基地に着くというのに」
副官が応じる。
「敵反応は小規模です。
ですが、こちらの進路を
正確に読んでいます」
神崎は、
腕を組んだ。
「これは迎撃じゃない。
様子見だ」
そして、
通信を開く。
「朝倉」
⸻
恒一の部屋。
ハロは、
ベッドの上で転がっている。
「ハロ、タイクツ」
「……すぐ忙しくなる」
恒一は、
ヘルメットを手に取った。
通信が入る。
『出撃準備だ。
命令があるまで、
限界には触れるな』
『……了解』
意味は、
完全には分からない。
だが、
声の重さだけは、
確かに伝わってきた。
艦内警報が、
低く鳴り始める。
《敵機反応、接近中》
通路の照明が、
赤く切り替わる。
恒一は、
立ち上がった。
「……行ってくる」
「ハロ、マツ」
「ああ。
必ず戻る」
その言葉が、
誰に向けたものなのか。
自分でも、
分からなかった。
⸻
その頃。
敵戦艦。
発進デッキに、
量産型モビルスーツが並ぶ。
苔色の装甲。
その中で、
黒紫の機体が静かに立っていた。
レイブンは、
ヘルメットを被る。
整備士が声をかける。
「武装、確認完了。
いつでも出られます」
「……ああ」
コックピットに乗り込み、
ハッチが閉じる。
通信が入る。
「小隊、出撃準備完了」
レイブンは、
短く答えた。
「深入りはするな。
だが——」
一拍置いて、
続ける。
「ガンダムは、
逃がすな」
敵も、
味方も。
戦いは、
すでに始まっている。
そして、
誰も気づかないまま——
ひとつの戦場に、
三つの思惑が交差しようとしていた。
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