――悠人視点――
薄暗い。
天井灯は点いているはずなのに、
独房の中はどこか影に沈んでいた。
金属の壁。
冷たい床。
悠人は、膝を抱えて座っている。
手首の拘束具は外れない。
叩いても、叫んでも、返事はない。
「……誰か……」
声は、
自分の耳にしか届かなかった。
時間の感覚は、
とうに失われている。
ただ分かるのは、
艦が動いているということ。
床を伝わる振動。
遠くで響く重低音。
「……恒一……」
助けを求める名前だけが、
何度も零れ落ちる。
そのとき。
独房の扉が、低い音を立てて開いた。
逆光の中に立つ男。
長い髪。
落ち着いた佇まい。
レイブンだった。
「……あんた……」
レイブンは一歩だけ中へ入る。
「すまないが」
淡々とした声。
「また戦闘を行う」
悠人の喉が鳴る。
「……え……?」
「無事に済むかどうかは、保証できない」
言葉が、重く突き刺さる。
「俺は……関係ないだろ……!」
声が震える。
レイブンは一瞬だけ目を伏せ、言った。
「だからこそだ」
そして踵を返す。
「戦闘が終われば、また来る」
扉が閉まる。
再び、静寂。
悠人は床に崩れ落ちた。
「……生きて……」
その言葉の意味すら、
分からないまま。
⸻
――敵側・格納庫――
格納庫の端で、
レイブンは一人の一般兵を呼び止めた。
「例の薬を忘れるな」
兵は迷いを隠せず、声を落とす。
「ですが……こんなことをして、本当に大丈夫なのでしょうか?」
レイブンは立ち止まり、振り返る。
「ちょうど困っていたからな」
一拍。
「それに……」
薄く口角を上げる。
「ずっとここにいられると、
私が殺してしまいそうだからな」
兵は息を呑み、敬礼する。
「……了解しました」
レイブンは背を向け、歩き出す。
くすり、と。
薄気味悪い、静かな笑い声を残して。
《第一小隊、出撃》
黒紫のモビルスーツが、発進位置へと移動する。
戦闘が、始まろうとしていた。
⸻
――恒一視点――
この前の敵と、同じだ。
「……また、来るのか……」
黒紫のモビルスーツ。
少し前の戦闘が、脳裏をよぎる。
「ぐっ……」
底知れない力。
押し寄せるプレッシャー。
だが——
前とは、違う。
操縦桿を握る指に、迷いがない。
「このスイッチが攻撃……
ここが移動……」
分かる。
「……わかるぞ……!」
——ガンダムの動かし方が。
通信が入る。
《朝倉、聞こえるか》
神崎艦長だ。
「はい!」
《整備兵から聞いているな》
「この前と同じ武装……ですね」
《ああ。万全ではない》
《だが距離は詰まっている。残り1000を切った》
《発進後は、この艦を死守してほしい》
「……了解」
《艦も後方から全力で援護する》
指示が続く。
《戦域確認》
《支援砲撃、調整》
《近接主体で対応》
最後に。
《これを見てほしい》
表示された情報プロファイル。
「……これは……」
数分の説明。
そして理解。
《以上だ。あとは頼む》
恒一は息を吸い、
艦全体回線を開く。
「……こちら、ガンダム・シラヌイ、朝倉恒一です」
「味方基地までの距離、確認しました」
「……もう、あと少しです」
「だから……ここは、必ず守ります」
艦内に応答が返る。
《了解》
《支援継続》
《全艦、朝倉に続け》
神崎の声が重なる。
《全艦、最後まで持ちこたえる》
艦内放送。
《ガンダム・シラヌイ》
《発進シークエンスに移行》
「……了解!」
シート固定。
ハーネス締結。
《動力炉、出力安定》
《各部ロック解除》
《カタパルト、最終確認》
「……よし……」
前を見る。
「……いけぇー!!」
轟音。
白い機体が、艦を飛び出す。
ガンダム・シラヌイ、発進。
味方基地へ至る、その最後の盾として。






