終焉

それでは、

どうぞっ!!

ーーー

綺羅side

私も可笑しいと思った。

目の前の惨状を引き起こした本人が、私を呼んでいて。

それに私は応じてしまっている。

彼女の目に引き込まれるように私はその足を進めた。

ただ伸ばされただけのその手に触れることは、私の全てを崩してしまいそうということだけは分かっていた。

それでも、私は彼女の手を取ってしまう。

あぁ、愚かな人間だな。私。

🩵「……はは、」

彼女の手は、酷く冷たかった。

やせ細っていて、脈が直に感じられた。

🩵「さ、……お家へ帰ろうか。」

💛「……え？」

手短に彼女が呟くと、ぐ、と手を引かれた。

私はその時にバランスを崩してしまい、死体を踏むようにして彼女の胸に倒れ込んだ。

彼女の服に染み付いた血の匂いが鼻を刺す。生臭さと妙な感触に吐き気がして離れようとする。

🩵「一緒に来てくれるんでしょう？」

🩵「どうして逃げようとするの。」

暴れようとする私の腕を強く握り込む。

爪がくい込んできて、痛みを感じる。

あ、まずい。逃げないと。

本能ばかりそう感じても、体は動かなかった。

止めなく流れる冷や汗。

楽しそうに微笑む彼女。逃げ出したい自分。

もう何が何だか分からなかった。

🩵「ね？綺羅、おいで？」

低く囁かれたその声を最後に私は意識を手放した。

ーーー

目を開けると、知らない天井だった。

何処からか鼻をくすぐるいい匂いがする。身体をゆっくりと起こす。その体はいつもよりも軽く感じて、少しだけ変な気分だった。

周りを見渡すと何も無い無機質な部屋。

💛「ん、ん”……。」

私はゆっくり伸びをして、好奇心のまま匂いがする方向へと向かった。

廊下に出ると、さっきの部屋とは違う雰囲気に包まれていた。

この匂いは廊下の奥から来ているようだ。

勘と好奇心だけで辿り着いた先、何も考えずにドアを開けた。

💜「ねえ、もうちょい綺麗に処理してよ。」

💜「いつも言ってるよね。」

🩵「……、自分がやればいいじゃんか。私は知らない。」

あのお姉さんともう一人知らないお姉さんがいた。

そのリビングは至って普通なはずなのに、異様で所々に目玉が入ったホルマリン漬けの瓶や痛々しい血濡れの刃物が放置されていた。

私が震えて何も言えずに困惑していると、驚いたようにお姉さんが此方にやってきた。

🩵「起きたんだ……、ちょっと待ってて。」

💛「う、うん。」

🩵「お腹空いてるでしょ？ご飯出すからそこ、座って。」

と言って、お姉さんはダイニングテーブルを指さす。

怯えたままの私は、震える足を引きずりながらも席に着いた。

💜「ねえ、柚葉？」

💜「これが、例の子……？」

🩵「私が食材を狩ってるところを見られたの。」

🩵「でも、……ちっちゃくて可愛いでしょ。」

可愛らしい顔をしたお姉さんが、此方を見て怪奇そうに眉を顰める。

お姉さんは柚葉って言うんだ……。素敵な名前だな。

お姉さんのことを少し知れただけでも心が妙に暖かくなった。

って、何やってるの。私。ダメでしょ、油断しちゃ。相手は人殺しなんだから……。

🩵「ごめん、”普通”ので作れるのがこれしかなくて、……」

お姉さんが机の上に置いたのは、暖かそうなコンソメスープだった。

血臭さとは程遠い優しい匂いが鼻をくすぐる。

💛「わぁ、……っ。美味しそう！」

💛「ありがとう！柚葉さん！」

🩵「……ほんとっ、。綺羅の為ならいくらでも。」

柚葉さんは少しだけ戸惑いつつも、またキッチンの方へ戻っていった。

んん、凄い美味しい……！柚葉さんは料理まで上手なんだ！

にこにこしながら食べ進めていると、奥から会話が聞こえてきた。

💜「何あの反応〜、笑」

💜「柚葉”さん”も可愛いとこあんじゃん？」

🩵「もう、……うっさい、。」

🩵「桜花、早く引き取って。貴女にそんな長居される理由は無いはず。」

💜「はは、そうする。」

2人はキッチンから顔を出す。

桜花、さん？は私を見るやいなやキラキラした目でやってきた。

💜「待って、何この子。ちょー可愛いんですけど！！」

💛「はぇ、。？」

🩵「桜花。」

💜「何この子、すっごい可愛い。」

💜「ねえ、この子。柚葉、食べちゃうの？」

💜「食べないなら、私に売って！」

🩵「桜花。」

桜花さんの言葉に脳の処理が追いつかず、きょとんとしていると柚葉さんがぴしゃりと制した。

🩵「この子は、……殺さない。」

柚葉さんの声は、少しだけ震えていた。

桜花さんはつまらなそうな顔をして、私の頭を優しく撫でた。

💜「あはは、！怖がんないで！！大丈夫！」

💛「え、ぁ、……え。」

💜「綺羅ちゃんの目、綺麗だな〜。欲しい。」

本気のトーンで話してきて私は動けなくなる。

その言葉を最後に桜花さんは柚葉さんに引き摺られ追い出されていた。

🩵「ごめんね。綺羅。」

🩵「……あぁ言う子なの。許してあげて。」

柚葉さんがそう言うなら、と私はまたスープを飲んだ。

やはり、暖かい。

🩵「誰にも、言わないでね？」

すると、突然柚葉さんがこう言ってきた。

🩵「私、人しか食べれないの。」

🩵「人喰い人間なの。」

その言葉に思わずスプーンを落としてしまった。

からん、という音と共に静寂が訪れた。

NEXT？