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「はぁぁぁぁ~……っくしょん!!」
「ずぶ濡れのままだとまずいだろうから乾かすぞ」
「アック様がしてくださるのですか?」
「まぁな。だから、ルティ。目をつむれ」
「め、目を……!? こ、これは期待していいやつですね! 思いっきりつむらせていただきます!!」
おれもルティもずぶ濡れではあるが、メイド服エプロンのルティを乾かす方が先決だ。目をつむってもらえば事故になる心配はない。
「よし、まずは――」
火力を弱めに炎魔法を発動させて、ルティの全身を炎で包む。姿勢よくしゃがんでいるルティは一時的に熱を感じているようだ。
「あ、あれぇ? アック様、まだわたしを包んでくれない……はぅっ! こ、この暖かさ、熱さはまさにアック様の愛! 心なしか大量の汗がにじんできましたけど、まだ何かされるんですね!?」
「次に期待だ」
「分かりましたっ!」
服を乾かし終えたところで風を起こす。
しかし――
「し、しまっ!?」
「ふわわわわわ~っ!? な、何やら大胆な持ち上げなのですね! わたしをどこまで抱きあげてくれるおつもりが……ひぃえっ!? う、浮いてる……もしかしなくても、わたし浮かされているんですか!?」
「落ち着け。すぐに降ろすからそのままの姿勢でジッとしてろよ?」
「はひ~」
風魔法で一気に乾燥させるつもりが勢いあまってつむじ風を起こすなんて。少しずつ風を弱めながら、ルティを手元まで降ろさなければ。
「……何とかなったかな。ルティ、大丈夫か?」
「はわわわぁっ」
「手荒いやり方になってしまったけど乾いたようだな」
「こ、これがアック様なりの……そうなると、わたしも気合いを入れなければ!」
「とにかく下に降ろすぞ。周りを見ながら状況を確かめないと」
魔法の調節に苦労したものの、何とかなった。
「アック様はお寒くありませんか? よ、よろしければ~……」
「薄着だったからすぐ乾いた。大丈夫だぞ」
「で、ですよねぇ~でしたら、わたしは何か食べられるものを探して来ますっ!」
「待った! ここがどんな場所かも分からないのに単独で動くのは危険だ。おれと行こう」
「はいっっ!」
ルティの全身はすっかり乾き、いつもの動きを見せている。しかしどういうわけかルティの顔や肌が真っ赤に変化。本人は元気そうだからいいとしても……。
それにしてもすっかり船からはぐれてしまったな。ここから王国に向かえるかどうか心配だ。
見渡す限り海に面した半島のように思えるが、スキャンで事前に見えたのは”レイウルム”という名前だけ。乾燥した大地なのか土の地面よりも砂が入り混じっている。ラクル周辺と比べると広大な陸地が延々と続き、海は目の前に見えるだけだ。ラクルは冒険者が好む場所で森も山もあったがここでは一切見当たらない。
陸地同士は石で出来た橋で繋がれていて、橋を渡るごとにエリアの境界が異なるような場所のように見える。大地のほとんどは砂地だが、草地が所々にあるので植物が生きられない環境では無さそう。
「まずは歩くか。人の気配も魔物の気配も感じられないし、ここにいてもな」
「何だか久しぶりですねっ!」
「うん?」
「アック様とふたりだけで動くことがです」
「そういえばそうだな」
誰かと二人きりで動くことが減ったのは確かだ。だからこそ気を付けるべきだったわけだが。
「わたしは嬉しいです! アック様も嬉しいですか?」
「おれも嬉しいかな、多分」
あらたまって聞かれると答えに困るが、ルティに助けられなければ今のおれは無い。そう考えればルティと動くのは素直に嬉しいと言える。
「どこかに村か人のいるところがあるといいですね~」
「おれもスキャンしながら歩いているが、まだこれといって見当たらないな」
「わたしを頼りにしてくださいね、アック様!」
「そうだな。頼むぞ、ルティ」
「えへへ……」