コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
モートは、クリフタウンに聳えるホワイトグレートの麓から下山していった。そして、全速力で走っていた。赤色の魂が、聖パッセンジャービジョン大学付属古代図書館の館内に見えたからだ。
だが、当然。その魂は一つだけだったが。他には、その赤色の魂の周りには、おびただしい数の黒い色の魂がある。いや、赤色の魂へと集まっていた。モートはその人物の生命の危険と判断した。
血の雹は未だ激しく降り注いでいて、周囲からくぐもった声と灰色の魂が見える。モート自身は灰色の魂は初めて見る色ではなかった。灰色の魂は、限りなく黒に近い。あるいは、近づいている色だ。危険を意味してもいて、また、救いもあるのだろう。
モートは、それを無視して走っていた。地面の雪の凹凸は気にならない。木々も気にならない。身の凍るような極寒の強風も。急いで、逃げ出す野生の動物も。
さっきまでいたログハウスからは、聖パッセンジャービジョン大学付属古代図書館まで一直線だった。その時、館内でけたたましい悲鳴がした。モートは地を蹴って、図書館の窓まで飛翔した。
ガラス窓を通り抜けると、赤色の魂の周囲の廊下中に溢れた。ゾンビの群れに狩り込んだ。瞬時にゾンビの首を全て狩り取ると、赤色の魂の持ち主の方を向いた。
その人物とは、蹲って、この上なく青い顔を下へ向け涙を流しているヘレンだった。
「モート……アーネストが……ああ、アーネストが……」
うわごとのようにそう言い続けるヘレンは、絶えず涙を流してばかりだった。地の底から聞こえてくるかのような、呻き声や複数の引き摺るような足音からすると、この館内には、未だゾンビがうじゃうじゃと徘徊しているのだろう。
「ヘレン? 一体、どうしたんだい?」
「ああ、なんてことなの……アーネストが……アーネストが……死んでしまったの」
「なんだって?」
「でも、生きてもいるわ。きっと、私が来るのが、遅かったのが悪かったんだわ。アーネストは、私が来た時にはすでに、そこらを徘徊するゾンビの一人になってしまってたのよ」
「……ヘレン。早くここから逃げるんだ。ぼくは最後の聖痕の少女を探しに行かないといけない。それと、レメゲドンも探すよ。オーゼムが言うには、レメゲドンにはゾンビを蘇生させる魔術もあると言っているから……」
ヘレンは無言になった。それから、しばらくすると力強く涙を拭き出してから顔を上げた。
「……モート。希望はあるってことね」
「ああ」
ふと、モートはこの館内を徘徊するゾンビたちが、今までと少し違うことに気が付いた。普段の墓地や住民がゾンビアポカリプスによって、歩き出したゾンビではなく……。
と、その時。
とてつもない巨大な馬が、この館内の大階段から現れた。不思議な事に巨大な馬は大階段の壁にぶつかっているのだが、階段の壁などを擦れることも壊すこともなかった。
モートは自然に銀の大鎌を握り直した。
だが、馬に乗った黄色い騎士は、モートたちに優しい声を投げる。
「そこの黒い服の男よ。そう身構えないでほしい。もう、始まったんだよ。その時が。今やこの世界は悪霊に満ち溢れ、やがて草木も海や川も不死となるだろう。全ては生命はもう終わったんだよ」
「……いや、まだだよ」
「???」
「君に危険はないようだね。ぼくは行かないといけない」
モートはそう言い残すと、素早くガラス窓へ向かって飛び込んだ。
ヘレンは黄色い騎士に、ただ、恐怖して震えている。そんなヘレンに黄色い騎士は、また優しく言った。
「さあ、こっちへ。この大階段を降りていけば、無事に帰れるから。だけど、気を付けるんだよ。今じゃ、世界そのものが生命にとっては非常に危険なのだから」