コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
物語作ろ〜 ドアを閉めて〜
「凹みの連鎖」
ある日、俺は愛車のドアに小さな凹みを見つけた。どこかの駐車場で誰かにぶつけられたのか、それとも自分で気づかぬうちにやらかしたのかはわからない。でも、そんなことはどうでもいい。問題は、この凹みをどうするかだ。
ネットで調べてみると、「お湯をかけると金属が膨張して直る」と書いてある。なんて簡単なんだろう。修理屋に持っていくと金がかかるし、自分で直せるならそれに越したことはない。
さっそく台所でヤカンに水を入れ、コンロにかけた。しばらくしてグツグツと沸騰する音が聞こえる。よし、これで準備万端だ。
俺は慎重にヤカンを持ち、車の凹んだ部分に湯をかける。しかし、思いがけず手元が狂い、熱湯が自分の足にかかってしまった。
「熱っっっっ!!!」
反射的に足を蹴り上げた――その勢いのまま、俺の足は車のドアに直撃した。
「ゴンッ!!」
鈍い音が響く。まさか、と思いながらそっとドアを確認すると、そこにはさっきよりも大きくなった凹みが。
俺の心も同じように凹んだ。
結局、自分で直せないなら修理屋に頼むしかない。意を決して電話をかけると、感じの良さそうな男が「すぐに来てくれれば安く直しますよ」と言う。少し怪しいが、まあ大丈夫だろう。
だが、修理屋に行った俺はまんまと騙された。適当な理由をつけられ、ありえない額の修理費を請求されたのだ。泣く泣く支払いを終え、帰り道で俺は思った。
「こんな世界、クソくらえだ」
その瞬間、俺の中で何かが壊れた。俺は詐欺られる側から詐欺る側へと変貌したのだ。
⸻
詐欺の世界に手を染めてから数年が経った。いつの間にか俺は国際指名手配犯になり、裏社会の人間とつるむようになった。そして気づけば「地面師」という詐欺グループに所属していた。
しかし、そんな俺にも転機が訪れる。ある日、警察に目をつけられたのだ。逃げるしかなかった。車に飛び乗り、街中を爆走する。
「クソッ、こんなはずじゃ…!」
信頼していた仲間のハリソンが、俺を売った。裏切られたのだ。怒りと焦りで頭が真っ白になる。しかし、逃げなければ捕まる。
必死にハンドルを握る俺だったが、急カーブで操作を誤り、電柱に車をこすってしまった。
「……またか」
見ると、車のボディに小さな凹みができている。
俺は思った。
「お湯をかけよう」
再びヤカンに水を入れ、沸かし、凹みにかける。しかし、またしても熱湯が足にかかり、俺は悶絶した。痛みに耐えきれず跳び上がった足が、またもや車のボディに命中する。
「ゴンッ!!」
さらに大きくなる凹み。
「………。」
俺は静かに修理屋に電話をかけた。
⸻
そしてまた騙された。
もういい、全て終わりにしよう。俺は警察に今までのことをすべて話し、自首した。
しかし、ここで終わりではなかった。数年後、刑務所の鉄格子の中で俺は思った。
「どうでもいいや」
そして俺は脱獄した。