ぜんっぜん眠れなかった。
あの後2人はどうしたんだろう、何してるんだろうと考えているうちに夜が明けてしまった。
目の下のくまが酷いので白粉を叩いてみたけど、隠せているかどうか。
朝餉を食べ終え重い足取りで桃園へ向かい、夜の番をしていた人と交代した。夜中酔っ払いのお世話をする方が大変だったよね、きっと。
ペチペチと頬を叩いて気合いを入れ直した。
よしっ、仕事仕事!!
「酷い顔をしておるな」
無理やり笑顔を貼り付けた矢先、ぬっと顔を出してきたのは颯懔。私とは対照的に清々しい顔をしている。
「うぅっ、分かりますか?」
「昨日は余程疲れたようだな。化粧の仕方を紅花に学んでおくといい」
「……そうします。師匠は何だか気分が良さそうですね」
「うん? 分かるか? 何百年分もの膿を出してスッキリ、とでも言えばいいのか。すごく爽快な朝だ」
「へ……へぇー。それはそれは宜しゅう御座いました」
何百年分もの膿?!
それってやっぱり昨夜、可馨としたって事だよね。紅花の言う通りトラウマの原因と向き合ったのが良かったんだな。お熱い夜を過ごしたのならこれで良かったんだ、きっと。
「いや、やはり爽快は言い過ぎだな。一番肝心なところがまだ抜けておるからな。本番はこれからだ」
「本番はこれから……?」
んんん? よく分からなくなってきたぞ。
本番はこれから……これから……
ああっ! そう言う事か!!
よりは戻したけど颯懔のアソコはまだアレで、最後まで至らなかったって事か!
「師匠、私、アソコのための仙薬作り頑張りますね」
「朝っぱらから凄いこと言うな」
「そーんりぇん様っ! 一緒に朝のお散歩しましょ?」
颯懔の両脇から仙女が2人現れた。俗世の女性に比べると仙女達は積極的だ。あからさまに冷たい態度を取られるにもかかわらず、仙女達は気にせずグイグイくる。
「断る」と言う颯懔の返答などお構い無しに、両脇から抱えられるようにして桃園の奥へと連れ去られてしまった。
モテる男は大変だ。
あんな所を可馨が見たらなんて思うことやら。
その可馨はと言うと、まだ宴の席へは来ていない。朝までイチャコラしていて疲れてるのかな。
いちいちヤらしい想像してしまう自分にうんざりする。もうやめにしよう。
だんだん日が暮れてきて辺りが薄暗くなってきた。
気がついた頃には可馨も宴席にやって来ていて、他の仙達と話をしている。少し浮かない顔をしているように見えるのはきっと颯懔のせいだ。時々可馨が視線を投げる先には、相変わらず仙女達に囲まれた颯懔がいる。
もう! 何やってるんだか!!
ハラハラ・ムカムカとしていると、交代をしてくれる夜番の人達が入ってきた。
「明明ちゃん代わるよ」
「紅花さん、今日は夜の番なんですね」
「そうなの。でもあたし、そういう生活していたから夜の方が得意だわ」
うふふっ、と艶やかに笑って交代してくれた。
「お疲れさま」
「はい、失礼します」
桃園から出ようと門の方へと歩いていると、少し離れたところから老人の声が。私の名前を呼びながら手を振っている。
「明明や、こっちにおいで」
「太上老君様」
足早に老君の方へと向かうと周りには西王母の他に東王父、太上道君、元始天尊、ほか諸々と錚々たる顔ぶれが。一気に緊張が背筋を走る。
「この子が颯懔の弟子の明明じゃ。可愛いじゃろぉ?」
他の神人全員に紹介して貰えるなんて!あまりにも恐れ多くて足が震えてきた。
太上道君がゴソゴソと、腰帯に付けていた巾着から編綴簡を取り出した。酷く使い古され手脂でツヤツヤになっているそれに、指で何やら文字を書く真似をしている。
小さな文字でびっしりと何かが書き付けられているけれど何だろう?
整えられた顎髭を撫でながら、道君がフムフムと頷きながら読んでいる。
「こら、道君よ。本人の前でそれを見るのはどうかと思うぞ」
「ほんとね。思いやりってものに欠けているわ」
東王父と西王母に窘められて、道君が「すまんすまん」と頭をかきながら編綴簡を巻き戻した。
本人の前?
「いやぁ、なに。滅多に弟子を取らないあの颯懔の弟子と聞いて気になってつい。老君の言っていた通り、なかなか見込みのある道士のようだ」
ポンポンと肩を叩かれたけど褒められてるんだよね?
話の道筋が見えなくて戸惑う私の横へ、薄紅色の服を着た男性がスっと入ってきた。
この色の服を着こなす男性なんて……。
少し見上げると長い髪を緩く後ろで束ねた中性的な美男子が、ニコリと笑いかけてきた。
「あの編綴簡に指で名を書くと、その者がこれまで行ってきた善行や悪行の数々が浮かび上がって書き連ねられるんだよ」
「えっ?」
「そこに書かれている内容と強さを見て三清は階級を決めている。そうですよね、道君様」
「おほんっ。これこれ铭轩、あんまりペラペラと我らの秘技を話すんじゃない」
「堂々と取り出して見ていた御方が言うセリフですか」
「そりゃあ、ごもっともだっ! たっはっはっ」
道君はペチンと自分のおでこを叩いている。老君もそうだけど、厳しい見かけによらずなかなかお茶目な御方だ。
「申し遅れました。僕は太上道君様の弟子で真人の铭轩。清霧山の洞主をしている。宜しくね」
「よっ、よろしくお願いします、铭轩様!」
「初々しくてかわいいねー」
ペコっと下げた頭を上げてもう一度铭轩の顔の方を見ると、少しはだけた襟の隙間から皮膚の一部が赤くなっているのが見えた。
外で飲み食いしていたから虫に刺されちゃったのかな。
「あの、余計なお世話かもしれませんが私、良い塗り薬を持ってるんです。良かったら首筋に使って下さい」
こんな事もあろうかと虫刺され用の塗り薬を携帯してきて良かった。塗り薬入れにしている二枚貝を取り出して渡そうとすると、周りに居たみんなが一斉に笑いだした。
「えっ……あの……?」
「いやだわ、铭轩。お前の様なふしだらな男、純真無垢な明明に近づかないでちょうだい」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。ほらのぅ、儂の孫弟子は可愛いじゃろ」
何で笑われてるんだろ?
この薬そんなに変なのかな。颯懔に言われた通りに作ってるし、そこまで酷い出来ではないはずなんだけど。
また訳が分からなくなってオドオドとしていると、笑いすぎて目に涙をためた铭轩が謝ってきた。
「ごめんごめん。僕、君のことすっごく気に入っちゃった。今夜僕の部屋へ来てくれたら、君にもこれと同じ跡を沢山付けてあげるよ。こんな風にね」
前かがみになった铭轩の顔が、急に首筋に近付いてきた。
「え……?」
「そこまでにして頂けませんかね、铭轩様」
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